月鏡と百鬼夜行
〜異世界小旅行 妖怪編〜



字春が雲外鏡になりまして 03




「たしかに昼寝は好きだけどー」

新はゴロリと寝転がりながら大きくため息をついた。

「これはないわー」





 

【むくなるきょうふ】
 〜 side 新 〜






 

いのり いーのれよー
たなごころとじこいねがう

まーいづ まいーづー

まほろばのーうつーくーし




境内に一歩足踏み入れば、世にも珍しい天狐の歌声が穏やかに流れてくる。
ここは神に匹敵する力を持つ天狐たちの住まう月の神社。

カマイタの新は、仕事をさぼって昼寝をしていたせいで幼馴染の葵を怒らせてせてしまい、逃げるように既知の天狐にかくまってもらおうとやってきた。
新の肩の上には、いまだ妖怪になりきれていない眷属の小さなイタチが身軽な動きで、肩やあたまにのぼったりしている。
その眷属をなでつつ、新は聞こえてきた歌に首をかしげる。
今は天狐たちが力を使うような祭事はなかったはずだ。
声に力を載せ、空間にヒビカセ、台地に力をしみわたらせる。それが天狐たちのやり方だ。
げんに2つの声は合わさり、ひとつになって、まるで見事な旋律が空気にに溶けこむように広がっていく。
しかしよくよく耳を澄ませてみれば、普段なら歌と共に心に届くようなあの力強い力が彼らの声にはのっていない。これではただ歌っているだけだ。

人々が普段参拝する拝殿をこえそのさらに奥に本殿はある。
不思議に思い新は天狐たちが住処としている本殿の方へと向かった。



新「ちわー隼さん、はじ・・・は?」

建物の中には入らず、声をたどって庭から向かえば、案の定白黒二匹の天狐はいた。
新はその光景を見て思わず足を止め、口をポカーンと開けた。

その視線の先にいるのは天狐2匹。
しかしいままでにないことに、その腕には小さなこどもがだきかかえられていた。

小さな子どもを抱えて社の梅をみつめ、天狐はあやすように歌をつむぎ、あいまあいまにこどもの質問にゆったり答えては、笑うこどもを愛しげに見つめその頭を撫でている。
新は親子のように仲が良い三人の姿に驚きのあまり開いた口が塞がらないまま、あまりの状況にガン見せずにはいられない。

始「ああ、眠気が去ってしまったか」
隼「ずいぶん長く寝ていた子だから、そもそも眠気自体ないのかもね」
始「ほぉら、春。あれが梅だ」
隼「ふふ、もう春はしってるかもしれないね。でも実物を見るのは初めてでしょう」
春『はるくんはね、ずっとずっとみてたんだよ。でもねでもねこうやってさわるのははじめて。どれもしってるよ。みたことはあるよ。 でもねふれたかんかく、きこえてくる音、ぜんぶぜーぶはじめて!』

無邪気にきゃっきゃとはしゃぐこどもはとお目から見てもわかるほど楽しげで、隼と始もつられるように笑みを零している。

みためは小さな子とそれをあやしているイケメン二人の図である。
しかしそのイケメンは神をも凌駕する力を持った天狐だ。
そんな2人が、小さな子をあやしているだけでも驚きである。

――の、だが
新が驚いたのはそこではない。


天狐たちは神に匹敵する力を持つが、神ではない。それでも社の神聖な気を維持し保つことはできる。
そもそも天狐たちはこの社に住むかわりに、この社の神を信仰する者達を土地ごとまるっと守っている。

その守護のために必要な力は、信仰の中心であるこの社への祈りの力や龍脈の力を借りているため、その要である社が穢れないよう常にきをつけていた。
もちろんそれは建物だけでなく、そこに住まうものも徹底していた。
その筆頭が天狐の二人である。
隼も始も常に乱れひとつない衣類。
毛並みはつややかで、凛としたたたずまい、優雅な仕草は誰もが惹かれた。
溢れ出さんばかりの力は彼らをより一層引き立て、耀くオーラは見えなものとてひれふさんばかりだった。

天狐とはそのような生き物だ―――


と誰もが思っていた。
この瞬間までは。

なぜなら今新の目の前にいるのは、美の権化とさえいわしめた麗しい天狐たちの面影がどこにもないためだ。

どんなときでも着崩すことなく着ていた狩衣は、結び目もおかしくかけ違いがいくつもあり、シワと汚れでよれよれだ。
毛並みは最後にいつ櫛をいれたのか、ボサボサで、ふさふさだったであろう尻尾は一部毛が毟られたように無惨で、何かにしゃぶられたかのようにてかっている部分もあるほど。もはや白と黒の八本の尻尾は、神々しさのかけらさえなく、元気をなくししおれて地面にひきずられている。
その目はなんだか落ち窪み、目元には化粧とは異なる黒い隈がある。

なにがどうしてそうなった!?

そう叫ばんばかりの天狐たちの有様だったが、隼と始二人の顔に生気が感じられる笑い声もなんだか空回りしてるのを目撃した新は言葉を飲み込み口篭る。
とにもかくにも天狐2人からは、とてつもない疲労感がハンパなくにじみでていた。

思わず新の顔がひきつったのはいうまでもない。


春『ねぇあれ!あれなぁに?あ!あっちできれいなおとがする!あっちもいきたいー!』

無邪気にキャッキャッとはしゃぐ子供というのはかわいいが、それを抱き上げる天狐たちの幸薄加減といったら。
もはや笑顔がなにかおかしい。

しかも1番の問題はその腕の中の子供で・・・・


新「・・・なんですその馬鹿でかい、力の塊のようなこどもは」


新のつぶやきにようやく気づいたとばかりに天狐たちがふりかえる。
みたことない顔だ。なんて揶揄える雰囲気ではない。

始「雲外鏡だな…たぶん」
隼「たぶんつくも神だとは思うんだけどねぇ」

新「いやいやいや!それどうみてもお二人以上の“力”持ってますよ!ぜったいつくも神の領域じゃないですから」

春『父様母様ぁーはるくんね、あれ!あれ!!」
隼「隼と始だよ。春」
春『しゅーとはじー?う?』

新「父?母?・・・・・え?」
始「・・・俺と隼の子(視線をそらし)」

新「始さんが冗談を!?っていうか、なんでそんな死んだような目でいうんですか!!」
始「冗談だったらどんなに楽か・・・はぁー」
新「ため息がクソ重いっ!大丈夫ですか始さぁ〜ん。ん?冗談じゃない・・だとぉ!?っていうことは隼さん、ついに始さん襲ったんですか?」
隼「春。あれじゃなくてその子はカマイタチ。新っていうんだよ。
で、新。こどものまえで変なこと言うのやめてくれるかなぁ。春が変な単語を話し始めたらどうしてくれるの。
たしかにこの子は僕と始の子ではあるんだけどね・・・・はぁー」
新「え!?隼さんまでため息とか・・えぇ〜その子供、本当になんなんですかぁ」
隼「なんというかね。うん。いやぁ〜その・・・ははは、つくも神ではあるんだよ。ただちょっと環境が特殊だったというか」
始「俺たちが使っていた鏡に魂が宿ってしまったんだ。俺達の力を吸って顕現した」
新「・・・・・・神をも凌駕する力を持つとされる天狐二人の気を何年も浴びてればそうなりますよ」

隼「まぁそういうわけで、年月が経ちすぎて眠っていた鏡のつくも神が、天狐二人が愛用した結果、僕らの気をためこんで妖怪化したというか神化したというか、ついに顕現したかというか。思えば、もはや生まれながらに神だったというか・・・」
始「もとから魂が宿っていたほうの“付喪神”なんだよこいつは」
隼「そうそう。そりゃぁ、生まれながらに神格あるよね〜って思うよねwww」

うまれながら?

新「なんかまずいもんが宿っていた鏡なんですか?」
隼始「「黙秘」」

新「あ、はい。まずいもんだったんですねー(遠い目)」

もはや、その疲れ切った顔からは「きくな」とありありとかかれていた。
言葉より目がすべてを語っていた。


春と名付けられた幼い姿の雲外鏡を抱き上げながら隼が、ボサボサの神を揺らして首をコテンとかしげた。
春はその拍子に揺れた隼の髪をキラキラした眼差しで見つめると、もみじのような小さな手を伸ばしくいくいと引っ張っている。

隼「はぁーる。めっ!教えたでしょう。髪の毛はおもちゃじゃないんだよ」
春『きれいだった!』
始「なんでも口にいれるな」

新「あーこどもにあるあるなやつ」

天狐たちがボロボロだったのはこの子供が原因なのだろう。

隼「千里眼みたいな能力があるみたいでね、この子顕現する前からずっといろんなものを見てたらしいんだ。今は目の前のものしか見えないんだけどね」
新「あーじゃぁ、鏡だから動けなくて“視たこと”はあるけど、“音”はきこえていなかった。しかもみてただけだから実物をしらなくて、それで触感を楽しんでる・・・そんな感じっすかね?」
隼「大正解。とはいえ、手じゃなく、口でためすから困ってて」

春『う?あっりゃらー』
隼「あーよしよし。そうそう、その子は新だよー。で、どうしたらいいと思う新?」

白天狐は真顔だった。

新「えーそれを俺にきくとかー」

隼「いやぁ、だってこの子、僕たちの力を吸収しては神気に変換してるし・・・現在進行形でいまも」
新「ん?変換って、そもそも隼さんと始さんって神様じゃ?」
隼「神に近い存在であって神ではないねぇ。僕らはただ力の強いあやかしさ。だからと言ってはあれだけど、僕たちは神気なんてものは持ち合わせてないよ」
始「自然界の力を司っているぶん、自然現象そのものである神には近しいが、それだけだ。
だがこいつは違う。はじめから神だ」
新「そういえば、"宿ってた方"って言ってましたもんねー。えー、宿ってたの神様だったんすかー・・・えぇー(遠い目)そういえば神様っていうのは全体的に神聖なもので、地上の瘴気や邪気に弱いと聞いたんですが」
隼「鏡に憑いた時点で、生まれなおしたような感じだったらしいよ。だから大丈夫・・・みたい?」

始「正確にはその神としての性質を持ったまま、雲外鏡っという妖に変じた状態みたいだな。妖とはいえこいつはもはや神鏡の部類だ」
新「…神鏡」
隼「まぁ、天狐がいるなんて知りもしない人間たちからはここの神様が宿るためのご神体としてまつられていた鏡だし」

そこで隼が始をチラリと見やれば、意を理解したように始が頷く。
ここから先は先程黙秘したことに関わることなのだろう。
先程説明を渋ったのはなんだったのか。「聞かれたくなかった」というのではないだろう。「説明が大変なため省いた」と表現するのが近いだろうか。

こどもを抱きしめたまま隼が、春の顔を新に向けさせる。
なにかいたずらをたくらむようなちょっとばかりよい笑顔を浮かべている。

隼「ねぇ、春。君は月と太陽どっちを模した鏡だい?新に教えてあげてよ」

春『いいよー!さいしょはね。まんまるお日様〜だって。春くんね、お日様なんだよぉ〜。あ、でもね、いまは雲間から見えたお月さまみたいって雲外鏡っていわれてるの』
新「まって。今なんて!?はぁ!?太陽って!・・・なんでそんなことに。雲外鏡って満月でしょうに」
始「雲外鏡となる前にもう神が宿っていたんだ。まぁ当時は自我がおぼろで顕現できるような状態ではなかったようだがな」
隼「春の話を聞いた限りだと、かなり前から魂自体は宿っていて、太陽信仰の中心にいたみたい。だから太陽神の一面が春にはある。だけどいまは雲外鏡として満月を模していると思われてるから、月の力も併せ持つ――そういう状況みたい」
新「プラスでお二人の力も吸ってると、なにそのヤバイの。まぁ、でもそれで納得しました。そのお二人を超えるような力を持っていそうなのも」

なんだか意識が遠のきそうな凄い話を聞かされた気がすると、新は隼の腕の中で好き勝手にいろんなものに興味を向けてバタバタしている子供を見つめた。


その鏡は、天狐たちが天狐となるよりも遥か古より存在していた鏡だった。

始まりは太陽の欠片として、太陽神を祀る人間たちによって祀られたこの世に最初に生まれた鏡。
時がたち、別の宗教がこの地にはいってきたころ、自然信仰は禁忌とされ、追われた人間たちは鏡をひそかに持ち出し隠した。
しかし太陽をあがめることをやめなかった彼らは、別の神をあがめる者たちにばれないようにと夜ひそかに鏡のもとを訪れるようになった。
太陽の化身として存在していた鏡だったが、さらに長い時をたつにつれ人々は鏡の逸話を忘れていった。
やがて夜に訪問するのだからと、鏡は太陽ではなく月を模しているのだと思われるようになった。
以降、鏡はその台座の形もあわさり、雲間から除く満月をモチーフとしてつくられたのだと思われるようになった。
後に鏡は、その姿形と月の信仰対象という縁とから、この月の加護多い月野神社に奉納された。

しかし己を太陽の化身として扱われていた鏡は、太陽をあがめる声をいまだにききとっていた。
神の力は信仰心とはよくいったもので、その雲外鏡は月の力ももちあわせもちつつも太陽の力もいまだ持ち続けていた。否、人々の太陽を問う尊ぶその声は今もなお鏡に力を与え続けているのだ。


隼「ーーと、いうわけだよ。本当に困っちゃうよね」
新「う、雲外鏡とはいったい」
始「それな」

始さん、あなたキャラをどこへ置いてきたんですか?
ボサボサの髪に、へにょんと下方へかたむいている始の三角耳。隼の腕から落っこちそうなってその恐怖からかビエー!と泣き始めた春を慌てて受取りつつ、隈の酷い顔で無理やり笑みを浮かべて「こっちみろはるーほらわらえー」と棒読みで笑っている始に、新はちょっと泣いた。
始さんのキャラが・・・思わず浮かんだそんな言葉は口には出せなかった。

おんぶに抱っこに、たかいたかいをいくどかして、ようやく春が泣き止んだ頃、先程よりもはるかに疲れた顔で始が新の傍にやってくる。

始「このぐらいで驚かれてはこまる」
新「なんだかききたくないような・・・」

まだ続きがあるのかよ!と内心思った新だった。
当然口にはしないが。

始「お前が一目見て春の力が強すぎると判断したのは分かってるが、実際これで封印状態だ」
新「ん?」
隼「あまりに強すぎる力を持って生まれちゃったから、結界が壊れそうになってね。
僕たちであれやこれやためして、ようやくここまで力を抑えることに成功したんだけど。その影響で今度は知能指数がさがちゃって。昼夜問わずおきだして遊びだすわ。うっかり段差から落ちそうになったのをみたときは、春の本体が割れるんじゃないかとひやひやして。で、かまってあげないと今度は夜泣きが酷くて・・・ああ、世の中の母親って本当にすごかったんだね・・・始、僕もうなんか幻覚が見えそうだよ」
始「まだ踏ん張れ隼。
聞いて驚けよ新。"神"の力の源って何かわかるか?信仰心だ。そしてこの社のご神体は春だ。つまり―――」


「「この社に人が訪れる限り、春の力は増大していく」」


新「はぁぁぁぁ!?・・・なんですその化け物ぐあいは」
隼「そう思うよね」
始「はぁ〜・・・」

始「何度も言うが、こいつは雲外鏡として顕現しているが本体は神鏡だ。しかも神がついているほうの“憑くも”だ。つまり神だ。信仰が力となるんだ。ゆえに、こいつの本来の力はこんなもんじゃない」
隼「昼間は太陽の光、夜は月の光を蓄えてるような子だからね〜。ほーんと、僕らてきにはもうお手上げで」
新「え、それ大丈夫なんですか?」
隼「もう少し常識つければ春も自分でいろいろ制御できるようになると思うんだけどね、いまはちょっと。ああ、でも力が強すぎて春自身が力に飲まれることも、力が暴走することもないから安心していいよ」
始「本体は俺達よりも古くからある鏡だ。春の溜めた力が本体を覆っているから、力が多すぎて本体が壊れるということもないからそこは心配ない」

新「太陽光、月光、天狐の力、人間の信仰心ーーどんだけのもん日々吸収してるんだそのチッコイ身体で。え、こわっ」

始「今はまだいい。俺達でもおさえることはできる。だが、俺達の傍にいればさらに力を蓄えて、とんでもないものになるのは間違いない」
新「いまも十分おかしいでーす」
始「だな」


「「で、どうしたらいいと思う新?」」


新「?なぜ、それを俺にきく?子育て経験ゼロの俺にきかないでくださいよー」
隼「まぁ、そう言わずに。もうちょいこの子について聞いて言ってよ」
始「相談に乗ってくれ」
新「えーー」

春『かかさま、ととさま。ありゃ、ありゃらの肩のうえのなぁに?』
始「始と隼と呼べとあれほど・・・あー、春。ア・ラ・タな。俺たちの友人だ。あとお前が今手を伸ばしてるのは新の眷属のイタチだ。どっちも食べるなよ」

新「・・・・さっきからきになってたんですけどー、どっちが父でどっちが母で?」
始「しるか」
隼「残念ながら春に聞いても首をかしげるばかりでね。僕たちもその辺はさっぱりなんだ」

春『う?ありゃ?あらー!』
新「あ、ちょ!?眷属ちゃんのシッポが!?あ、まった。それは俺の笠〜!あー・・・・・・・・よだれでべたべたにぃ・・・」
隼「春!それは食べ物じゃないから!ぺっ!しなさい!!食べちゃだめ!」
始「アッラーって神、外の国にいなかったか?」


それから件のお子様から「あらーなぁに?たべう?」「いやいや!あの子は僕らの友達でカマイタチだよ〜」「友達は口に入れてはダメです」などなどのやりとりがあり、地面におろせば春はハイハイで動きひらひら揺れるものが気になるようで新の袴をガブガブかじり、眷属のイタチくんのシッポがあの紅葉のような手でにぎられおもちゃにされたのだった。



隼「はい、新」
新「え?」

ふいに腕の中でうつらうつらとようやく船をこぎ始めた春をあやしていた隼が、はい!といい笑顔で新たに春を抱っこさせる。

子供特有の「あれはなに?」「なんで?」責めが終わり、遊び疲れたのか春がようやく大人しくなってきたことで、赤子の世話に慣れていない三人でテンヤワンヤしていたのもひと段落ついたかという頃だった。

天狐たちはなぜかいい笑顔だ。
そして突然「ねぇ、しってる?」と彼らは別世界について語り始めた。

隼「知ってるかい?多層世界の白天狐と黒天狐の僕らはね。それはもうたぁぁぁぷりと寝てるんだよ。平和に、それはもう平和にね!!!で、力が貯まりすぎて言霊強くなっちゃって喋れないときもあるんだって」
始「つまり寝不足経験なしか?え、夜泣きとかないのか。交代してくれ・・・ああ、本気でかわってほしいものだ。そうだ、結界を強化しよう。俺達の安眠の為に!!!!」

始は一人舞台のようにどことなく演技過剰とばかりの大げさな仕草でリアクションをみせつつ、様子がおかしいままガシリと新の肩をつかんだ。


夜泣きと、「遊んで」攻撃と、興味深々なお年頃ゆえのなんでもかんでも口に入れたがる春に振り回され、ここしばらく寝る暇もなくあやすので必死だった天狐たちは疲れすぎていた。

二人は決めたのだ。
新を巻き込むことを。


始「というわけで、後は頼んだ新」

新「へ?」
隼「この子生まれたてで、しかも好奇心旺盛で!!なんでもすぐに口に入れちゃうから本当に気を付けてね!」
新「いや、それはもう十分体験したから身にしみてよくわかるけど・・・ぅん?」
始「こいつが"春"以外の名を名乗ろうとしたら、すぐに口をふさいで「春」って名前を連呼しろ。本当は聞かないのがベストだ。だが幼児退行してる春がしでかさないとも構わない。いいな新!絶対こいつを春以外の名前で呼ぶなよ」
新「え?」
隼「あと“目”を合わせちゃだめだよ」
始「至近距離で抱っこするならこの布を使え。この布は霊布だ。結界そのものの役割をもつ。それを春の頭にかぶせておけ。いいか。その下の目を直視するな。いちおうとはいえこいつは雲外鏡だ。こいつに“みえないもの”はない」
隼「“視られたく”なければ気を付けることだよ」
新「はい?」
始「ああ、了承してくれて感謝する!」
隼「大丈夫!結界は強化されてるから!うんうん、ほんの数十年、いや百年ぐらいきっと平気だよ、うん」
新「え、俺了承なんかしてな」
新「そうだな。新ならまかせられる」

新「いや、だから。なにを・・・え?ってぇ!?ええぇぇぇぇちょっとぉ!!?」



「「じゃぁ、おやすみ」」


始はまるで雲か宙の銀河を紡いだようなふわりとした白い布をどこからとも取り出すと、春の頭にバッサとかけ、そのまま涎を垂らしている春を新にぎゅうぎゅうとおしつける。
そのまま怒涛の勢いで二人はまくしたてると、急げ急げ!とばかりに走るような速さで歩いて奥の殿へ向かってしまう。

新「え、ちょとま・・・あーいっちゃった」

手を伸ばしたが、そこにはすでに天狐たちの姿はなく、奥の方からドタドタドタという足音が遠ざかっていくのだけが聞こえた。
ポツーンと残されたのは、新とベールをかぶった小さな子供のみ。
ぐーと気持ちよさそうにいい笑顔で寝ている子供は、その手に新の眷属のイタチを大切そうに抱き締め、派手な涎は新の肩を盛大に濡らした。



新「えぇ〜・・どうしろと」





天狐は眠る。

ねむる。
ねむる。
その眠りは、天下泰平のための眠り。
次に天狐が目覚めるは、人の世に乱れありしとき。

天狐は眠る。
眠りにつく。

本来とはことなり、疲労と、育児ノイローゼと睡眠不足がたたって・・・。


隼「ふふ…この時のためにね。ふかふかの布団用意したんだよ」
始「流石だな。今の俺たちならオヤスミ3分で夢の中にいけるな」

結界がどこよりも厳重にはられた奥の間では、布団が二枚ひかれており、掛布団の代わりの着物なんてものではなくそれはそれは天狐のシッポのようにふっくらした二枚の掛け布団がじゅんびしてあった。
ごそごそと中に潜り込んだ二匹が、分どころか秒で寝てしまったのはいたしかたないことであろう。





* * * * *





スッカリ静かになった社に、本当に彼らは寝にいったのだなと、新はため息をついて「どうしたものかな」と頭をかく。
子供の世話などしたことがないし、ましてや誰かに頼ってもいいものか。その場合はこのこどもを社から外に抱いても大丈夫なのか。とか、いろいろ聞き忘れた。

新「寝るってまさか、さっき言っていた並行世界の天狐たちみたいに数十年単位とかじゃぁないよな?」

さすがにそんなに長くこどもの面倒を見るなんて芸当できそういない。
こどもとて、父母と呼んでる二人がいないのなんてすぐに気付き泣き出しかねない。

幼馴染にSOSを求めるにも、手が埋まっている。使いに出したい眷属くんは・・・・
こどもの手の中。完全にあきらめきって人形のようにこどもに好き勝手されている。

うん。だめだこりゃ。

とりあえず爆睡中のこどもの相手をしばらくするしかないようだ。
あまりに周囲の気苦労を感じさせない幸せそうな寝顔に、もちのようなほっぺをつつけば、ムニムニとこどもの口が動く。なにか物を食べている夢でも見ているようだ。

『しっぽぉ・・・まず』
「うちの子くっとる夢かい!?」
「きゅぅ〜」

イタチくんが目を潤ませてないていた。
あとでシッポと言わず全体洗ってやるからな!





あれからひと月ほどたったが、天狐たちは起きてこない。
春をだっこしていれば入り口まではいけることが分かったのでお二人の部屋を覗き見たが、それそれは幸せそうに寝ていた。
あ、だめだこれ起こしづらいやつ。
察した俺は大人しく引き下がり、まぁ春とののんびりした社暮らしをしていた。

いまだに俺はアッラーである。なぁ、俺はただの昼寝好きなカマイタチであって、よその国の神様じゃぁないんだけど。
まぁ、いっか。

「あー・・葵のやついまごろなにしてるんだろうなー」

まだ、あいつに謝ってない。
たしかに昼寝は好きだし、もはや生き甲斐のような物だけど。
あのとき仕事を忘れてまで昼寝をしてしまったのはたしかに俺で、喧嘩してもどうせすぐ仲直りするに決まってるからと・・・そのまま出てきてしまった。
まさか天狐の社に拘束されるとは。
しかも理由が子守とか。

ここ最近で慣れたため息を新は吐き出した。おかげで傍にいた湯飲みの妖に茶を進められてしまう始末。

新は最近ではすっかり春の世話に慣れてしまった。
春も天狐たちがつかれてるのが分かるのか、二人の寝室で寂しそうに丸まっていたりと、意外と大人しい。
たまに大泣きをする事があっても自己完結するようで、ある程度好きに泣かせておくと泣き止む。表情を見ているとわかるがこれが普通の赤子でないのは明白だった。
泣き止むのも何かきっかけがあって、というよりは、自分の中でたくさんのことを考えて考えて“理解した”から泣き止んだ感じなのだ。新がのぞきこめば綺麗な緑の瞳には、自分よりもはるかな年月を感じるほど。この目の色が光を浴びた木々の若葉のそのものであるなら、そこに宿る叡智の輝きは木の年輪のような物だろう。
それに夜になればこの社に仕える小さな付喪神やあやかしたちが、手伝ってくれるので何とかなっている。
問題はなかった。自分の世話をしようとしてくれる子らを問答無用で食べようとしなければだが。
あやしていてわかったことだが、春はあの白いベールをかぶせていてもその力をある程度発揮できるようだった。

「確かにこれはやばいな」

千里眼と隼は言っていた。
そのとおり、その本体に遠くにあるものを見ることができた。
そして新が見てきた限り、ベールをとってしまえば“視る”能力は上がり、“うつしとる”ことができるようになる。
つまり、自分の鏡の中に“映した”ものをそのまま自分の中に“移し”こんでしまうのだ。
これを「パックン」と命名した。
なぜって本人が「パクってしちゃった」って、ものを鏡の中に取り込んだときに言ったからだ。
もはやあの行為を“移し込む”ではなく、“たべた”と表現するようになったのは仕方がないだろう。
天狐たちが寝る前に“なんでも口に入れる”や“食べる”と表現していたのはこのせかいと、新が思わずと美味し目をしたのは言うまでもない。
なお、世話をしてくれているあやかしたちがあまり表立って出てこないのは、力が弱すぎるため夜しか出ないのをぬきにして、これが原因である。
すでに何匹のあやかしが春にパックンされたことか。
新が世話をしはじめ当初は「はやく吐き出せ!」とあせったが、今取り込んだものを出せとせかしても『う?』と春は首をかしげただけだった。
つまり春はしょせん“うつすもの”であるため、“うつしこむ”のは無意識にでもできるのだが、“取り出す”ことはできなかった。
いちおう春の鏡の中に取り込んだものは、鏡のなかで無事らしい。
鏡の中は時間がたたないから風化もしなければ生ものは腐らないそうだ。
最近では新もパックンされるものがふえても焦ることはなくなった。
ただこの社で働いている小さき者たちが減るのはいたたまれないので、彼らにもあまり春の前に姿を見せないようにはつげてある。
なお、すでに春のパックンのそのせいで、社のめぼしい調度品がほとんどなくなりかけているのは困りものである。


「ふわ〜。あーねむい。いつになったら始さんたち起きるんだか」

もちほっぺをつつきながら、しびれた片腕を無視して子供をだっこしていた新は、暇そうに人間が用意したお神酒を肴に月を見上げていた。
今日はすべてのあやかしの力があがる満月。
新の中にも湧き上がるような力が浸透していくのを感じ、寝ているのがもったいなく思えて酒をもって縁側に出ていた。
眠る前の天狐たちは、力が枯渇していたようにも感じる程披露していたが、最近の寝姿を見るにずいぶんと生気が戻ってきたように思う。
そろそろ社から出ていきたいところだが、寝ている天狐たちの間で寂しそうに「はるくんはひとりでもだいじょーぶ」といって見送ろうとする子供を見てしまっては新には見捨てておくことは到底出来やしなかった。
このまま自分がいなくなれば理知的な子供は自分の立場を理解したうえで大人しくし続け、やがては感情まで殺してしまうのではないかとさえ思えた。
だから新はいまだ社を出ることができずにいた。

ふくふくと気持ちよさそうな寝息を立てているこどもをおろしポンポンとその背を撫でながら打掛をかけてやる。その横で新は一人月見酒としゃれこむ。
自分のためだけではなく、この子供のためにも早く天狐たちが目が覚めないかと願いながら。

『だいじょうぶ』

ふいにふわりと優しい声が響く。
聞いたことがないはずなのにとてもなじんだような、耳をとおってそのまま心の中まで浸透していきそうな穏やかな低い声。
新が驚いてそちらをみやれば、いつのまにか傍らに春の鏡を抱いた見知らぬ青年がたたずんでいた。

『大丈夫。時がくれば隼も始も目を覚ますよ』
「えっと、どちら様で?」
『うん?春さんだよ?』
「!?春ってさっきの・・・そういえばいつのまに」

気が付けば横にいた子供の姿はなくなっていた。
かわりとばかりに春がしていたベールをかぶった浅葱袴姿の青年がニコニコしている。

青年から感じる気配は春と同じもの。
やはりこの青年が“春”なのだと新はすぐに察した。

子供姿であふれ出ていた力は、青年自身が操っているのかとてもおさえられ、青年の実力がおおいかくされてしまうほど。逆に、それだけ力が強いあやかしなのだろうことはすぐにわかる。

「どうしたー?大きくなって」
『新と、お話がしたくて』
「俺でいいんだ?」
『新に、きいてもらいたくて』
「そっかー」

春と名乗った青年は、先程までこどもの姿だった雲外鏡本人であった。
彼は満月の力を借りて、本来の姿を一時取り戻したのだという。

本来の春はこんな芋立派な青年の姿で、立ち上がっても新よりも身長が高いのではと、新はふむと考え込む。
一気に成長してしまった春。これはいままでどおり呼び捨てでいいものか?と新が悩んでいる間に、「隣いいかな」と青年は丸い本体の鏡をを大事そうに抱えたままきいてくる。
新はそれにひとまず余計なことは後で考えることに決めて、いつもの子供相手にするように「ほーら、こい」と軽い調子で自分の横に座れと、ポンポンと横をたたく。
そうすると何が嬉しいのかパァーッと花が開くような笑顔を浮かべて腰を下ろす。
姿が変わっても態度を変えなかったのが嬉しかったのだろうかと、新は座ってもなお自分より視線が上にある春の頭をぽんぽんと撫でた。
もはや育児経験ゆえの癖である。
春が嫌がらないのでこの対応が正解なのだろうと新が思ったところで、ベールの下から「俺の取り扱い説明をきいてほしい」と言われ、思わず真顔でその頭をたたいた。

なんでそうなる?
なんでその単語をチョイスした?
小さな姿の時にさえみせた思慮深さというか理知的な感じとか、頭の良さはどこにいった?
あ、始さんと隼さんの影響ですね。
まったくあの二人は、育児疲れにもほどがあるだろう。春が変な単語を覚えてますよ!

脳内のボロボロの天狐たちにツッコミをいれつつ新は深ーくため息をついた。
目の前の青年は、天狐たちよりもはるかに長く世に“あった”鏡だという。
けれど付喪神として顕現したのはつい最近。天狐たちがかの鏡を使うことによって明確な自我と姿を得た。
つまりでかい図体のわりに、これで生まれたてのお子様なのだ。

「トリセツなんて言葉どこで学んだんだか」
『父様と母様がくれたカラクリについてたよ』
「まじかー。ところでどっちが父でどっちが母?」
『うん?そこは特に考えてなかったなぁ。どっちも親だよね。だって二人がいないとオレはこうして形をつくることができなかったし』
「・・・そっかー。うん、そっかー。じゃぁさ、そのうち名前で呼んであげると喜ぶとおもうぞー」
『そう、なのかな?』
「そうそう。始さんは泣くほど喜ぶし、たぶん二人から隈が減るよ」
『わかった!』

なんだろうこの可愛いの。
姿と言動があってない。
やっぱり生まれたてなんだろうなぁと、頭をよしよしとした新だった。


「それで、どうしたん?」
『今日は満月だから』

一次的に力が強くなっているだけ。この姿の時も幼い時も人格が変わるわけではないこと。記憶もしっかりあるが、身体に口調やげんどうがひっぱられるのだという。

ベールの下の瞳はやはり幼い姿の時と同じ色をしているのだろうか。
みることはかなわないが、新は春のためにお茶を用意してやる。

春が言うにはこうだ。

新とも長く一緒にいたいから。
だから話をしたかったという。


『みんながオレのことを凄いものみたいに言うけど。オレはね、ただの鏡なんだよ。
自分から動くことはかなわず、ただ“うつす”のみ』
「うん」

『みんなが恐れるのはオレ自身ではなく、オレの能力』

問題はーー“うつす”範囲。


姿を
心の内を
真実を

理の内にあるもの
理から外れたもの

望まないものさえも


『そう――』

すべてをうつす

それは目の前になくとも
この場にないものでさえも

言葉のとおりすべてを“うつす”。

うつす――映す。写す。移す。寫す・・・・


『それが神鏡の“雲外鏡の付喪神”だ』


すべてとは理に準ずる。
それらが“視える”ということは、真名でさえ見透かしてしまうのだ。

真名とは魂の名。
存在を表す根源だ。 もし真名が知られてしまえば、それは命を握られたのと同じこと。

ゆえに人もあやかしも雲外鏡を求め、同時にその存在を畏怖する。

『この衣は、信仰心と祈りの声を織ったもの。
衣からは常にたくさんの“声”がきこえるから、耳をふさがなくても、余計なことは聞こえない。
信仰心は絶え間なく尽きることがないもの。ゆえに衣は常に“感情”で満ちている。それが見えすぎるオレの視野をさえぎる。
これがないと、オレは“そういったもの”を際限なくうつしてしまう―――みないようにしたいんだ』

出会ったその瞬間から、心を見られたらどう思う?
悪気がなくとも、もし真名をみてしまったら?
そのせいで無意志に相手を縛ってしまったら?

『そのとき、オレはどうしたらいいかきっとわからなくなる。
だってしりたくて見たわけじゃないのに。しってしまったら・・・』

それでも
どうすることもできないから

『これをとらないで』

目を閉じ、耳もふさぐ。

真実をベールで覆い隠す。
そのことばどおり、真実というかたまりである彼自身をかくすのだろう。

それは“雲外鏡”という業を生まれ持った彼のさだめだ。

『オレ、始たちと過ごして、楽しいって思えて。
眠ってる間みたいにひとりは・・・もう嫌だって思えて。
新とももっと話したい。一緒に居たい。
みんなに嫌われるのも、オレのせいで争いがおこるようなことも嫌だ。
だれかに傍にいてほしい。でもね、そばにいるひとには笑っていてほしいんだ』

必死な春の様子に、新はその儚いつくも神という身には重すぎる宿命にわずかばかりの憐れみをおぼえ、彼の手を取り頷いた。

「だいじょーぶ。この新さんにまっかせなさい!傍にいるよー。眷属くんもいっしょなー」
「きゅ!」

『ありがとう、新』

こうしてトリセツをしっかり聞いた新は、その日は日が昇るまで春と縁側で月見を楽しんだ。





「―――って、言ってたのに。あー、まじでない。これはないわー」

『う?』

すでに春は小さな姿に戻って数日。
新は満月によって今まで以上に力をため込んだお子様に手を焼いていた。
このお子様、今までよりも活発化したのだ。
ハイハイなんか上手くできずいつもころころしていたのに、いまでは見事な四足歩行ハイハイができる。
つまり、満月以降やたら動き回るようになったのだ。

「このベールって特別製って言ってたのに!妖力かなにかで作ってまとってるとか。 たとえば絶対内側が見えないアニメの女性のスカートの中みたいに動いたぐらいじゃぁ中が宇宙空間で見えないとか、脱げないって思うじゃん。 そんじょそこらのことではぬげないと思うって。 それが・・・・寝返りうったぐらいで外れるとか・・・想定外。ないわー。 自分でとったあげく暴走するとか。これはないわー(遠い目)」

『きゃぁ♪うーうー♪』
「あーはいはい。かわいく笑ってもダメですよ春さん。あんたいまなに“食った”んですかぁー」

ついに自分の眷属がペロリとパックんされてしまったその日。
わきの下に手を入れこどもすがたの春を持ち上げ、たかいたかいをしつつ、動かない表情に疲労感を纏わせた新が、すっかり物がなくて綺麗になってしまった社の庭を見て顔をひきつらせた。

「まずい。このままだと結界内が丸裸に」

せめて格の高いあやかしや神のだれかが来訪してこないかと、新は春を抱っこしたままそわそわと周囲を見渡すが、都合よくそんな大妖が社を訪れることは当然ない。

「だれかー。祝い事以外でも社にきてくれ・・・“目”があったもんぜんぶ“移し”こんでるやばい幼児がいるんですが。あー、もうどうしろと」

『あらたー!』
「おお!?春さんがついに俺の名をよべるように・・・・あ」

「やべ」

名を呼ばれたことが嬉しくてそちらを見てーー。
みてしまった。

“目”があった。
綺麗な綺麗な緑の目が自分を認識し、ちらりとみた床に置いてあった鏡にも自分の姿が映っているのを見て・・・



新は気付けば新は白い空間にいた。

「やばい。くわれた」



ベールは風でもふっとぶレベルに軽く、あの子供はとても活動的に動くようになっていて。
つまり一瞬の隙にベールがとれていたのだ。
あれほどトリセツで言われたのにもかかわらずにだ。
せっかく春の傍にいると約束したのに、なんたることか。

「あー・・・なんというか。すまん葵、始さん、隼さん。新、戦線離脱でーす」

どうしようもないと、新はあくびを一つして、昼寝を始めたのだった。










『・・・・アラ・・タ?』








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