字春と零が獄族になりまして |
CM撮影のための衣装合わせ、なのに気づいたら雪と夜の世界にいた。 その世界でオレは獄族という種族で。 長く長く生きて、気づけば仲間の獄族が周囲から一人もいなくなっていた。 寂しいという想いが通じたのか、再び世界に新たな獄族が生まれようとしていた。 それは雲一つない澄んだ夜、雪原でのこと―― 【02 あんたは笑ってろ】 〜side 獄族になった字春〜 入れ替わってから気が遠くなるほどの時間が流れた。 もうオレは、少しばかり気が狂っているのかもしれない。 まぁ、気が狂っているなんて、転生するたびにいつもそうだから、いまの状態は結局のところ通常と同じ・・・なのかも。 心の支えは、こちらの〈はる〉と入れ替わってからもなお、かすかながら“始”の力を感じ続けること。 半分になったロジャーを通して伝わる“向こう側”とのつながりと、いまだ色あせることなくある“弥生字”の記憶。 ここが自分の世界でないからか、それとも魂が“むこう”にもあるからか、記憶力の悪いはずの自分がなにひとつわすれていない。 そんな幸せな思い出たち。 いつか“戻る”。自分の記憶の中だけの仲間たちに、誓う。 ある日、いつもどおり月灯かりをたよりにさんぽをしていれば、ふいに誰かに呼ばれたような気がしてソチラにむかう。 月が細いおかげで、星がきれいな夜。 日照時間が短いから、気温はあまり上がらないこの世界では、雪が年中残っているところもざらにある。 そんな一面銀色の世界を雪にあしあとをのこしながら歩く。 さくさくさくぎゅぎゅと鳴る音が楽しくて、鼻歌まで歌いながら雪原をすすむ。 何かに呼ばれてる気がする方向へどんどん進めば、周囲の空気の感覚がいつもと違うことに気づく。 空気に満ちる“陰”の気配が、歓喜に震えているようだ。 それにさそわれるように周囲の木々がさわさわと梢の音を鈴のように奏でている。 雪原の中心に、“ソレ”はいた。 字『ふはっ。ずいぶんかわいらしい姿だね』 雪の中、産声のように“陰の力”が白い粉雪を舞う風を生む。 風がやむと、さきほどまで存在していなかったものがそこにはできあがっていた。 雪のような塊がもぞりと動く。 空に舞った花のような雪がその誕生を喜ぶように、その“かたまり”の周りをキラキラと月明りを反射して降り注ぐ。 オレは生まれながらにかなりの数珠飾りを首から下げている《ソレ》へそっと両手を伸ばす。 新しい命の誕生だ。 生まれたての人間であるなら《ソレ》はいささか大きすぎる。 だが獄族に、人間のような“赤ん坊”の期間はない。 獄族もまた普通のの獣と同じ。生まれて、目を開けた瞬間から、彼らはもう自分の足で動かねばならない。 だからこそ、生まれたての獄族は、すでに自分の足で立つぐらいの大きさで目覚めるのだ。 抱き上げた《ソレ》は、雪のなかでうまれたくせに、他の生き物と同じようにとても暖かい。 おだやかな寝息を立てているが、そろそろ目を開けるだろう。 目がひらいた瞬間から、この子はもう一人前。 この新しい命が、すぐに自我を目覚めさせる。 ああ、ほら・・・・・目がひらく。 パチリと淡い黄緑の瞳がこちらをみた。 それに、笑い返す。 字『“この世界では”はじめまして――――“ ” 』 |