字春がウサギになりまして 01 |
ごきげんよう“しゅん”。 ふふ、こんにちわ“シュン”。 そちらはどうだい“僕”? 国としての情勢は、まぁ上々かな。問題は王様周辺の仕事量の大さかな。もう少し人員を確保したいよ。そっちは? 僕のほうもね“そっちの僕”とかわらずってところかな。少し王を決めるのが遅すぎたとは思ってはいるけど。こればかりはねぇ。 王が生まれてなかったんだから仕方ないよ。 そうだねぇ。 ひとの成長速度は遅く、寿命も短い――とはいえ、動物の中では長生きな方だよ。 “そっち”はどう?まだもつ? 持たせてみせるよ。だから“僕”もできるだけいそいでくれるかな。 「まかせてよ“オレ”」 ところで。ねぇ、“しゅん”。君、なんだかおかしくないかい?昨日の報告、あれはなに?なんで鍋の具材について永遠とかたるんだい? 昨日・・・・きのうは、そう、あれは今日のよるご・・・・ ブツッ ・・・え。ブツリって。“僕”?おーい、“僕”?ちょっと“僕”ってば!ねぇ“僕”!?しっかりしてよ“しゅん”――“春”!? 【うさぎ王国へ行きまして、鏡にとびこみました】 〜 side 春に成り代わった字の世界 〜 なんだか不思議な夢をみた。 白い兎耳のはえた隼が、物凄い焦った顔で、ワタフタと「夜ご飯がなんなの!?」と叫んでいる。そんな夢だ。 たぶん共有ルームで、大学の課題を仕上げている最中に・・・そのまま寝てしまった気がする。 うとうとして、気づいたら、ふわりと温かいものをかけられる感覚がして、あたたいなーとか。でもまだ寝るわけにはとか。いろいろ格闘したけど、布団のぬくもりにはかなわなくて、そのまま――― だけど目が覚めたら、アンティーク風な家具などで揃えられた綺麗な部屋にいた。 誘拐? それとも隼のいたずらだろうか? これは夢か?――否。超直感が現実を告げている。 はっきり言って、部屋全体の雰囲気とか、家具とか小物さえ全部好みだったので、この部屋の主とはお友達になりたいと思ってしまった。 その部屋のテーブルに腕枕で寝ていたらしい。 夢という可能性は、感覚的に違うとわかる。 なら、ここは撮影現場だっただろうか。 まさかドッキリ!?いやいや、こんな謎の企画の予定はなかったはずだから、隼の不思議な部屋を模様替えでもしたのかもしれない。 だとしたら、天井の高さと、窓の大きさとか、やっぱりおかしい。 間取りからしておかしいから普通は別の場所と考えるべきなんだろうけど、だからこそ隼の部屋じゃないかと思ってしまうのだ。 ・・・なんだかそれが正解なような気がしてきた。 字『あれ?』 ふと、目の前に飛び込んできたものに首をかしげる。 目に留まったのは鏡だ。 周囲を見渡して、すぐ真横の壁に、大きめの鏡があった。 そこには今の自分の等身大がすべて映しこまれている。 淡い色のくせっけな髪、ひょっこりとゆれる3本のアホ毛。 濃いのか薄いのかいつもよくわからない緑の目。 目元に黒子が一つ。 鏡には、見覚えがありすぎる特徴の人物が映っていた。 なにげなくピースをしてみても。鏡の中の自分らしき眼鏡の青年も同じポーズをとる。 なんとなく眼鏡をはずしてみる。 アッカンベーもしてみる。 案の定、鏡の中の青年からは、同じ行動を返される。 やはり鏡に映っているのが、自分なのか。 そこには机から顔を上げた状態のオレが映っている・・・んだけど、洋服はレースがいたるところについたちょとこじゃれたスーツだし、紺のシャツ、首元にチェッカーボード・チェックのリボン。 さっきまでのオレの私服なんか、最近お気に入りのやつで、だけどみんなに色がどぎつすぎて目の毒だとか変だとかいっぱい言われちゃったけど着心地がとってもいい恋からもらったピンクの芋ジャージなのに。 しかも鏡の中の自分には頭から黒いウサギの耳が生えていた。椅子に座ったお尻にももっさりんとした黒いウサギの毛のボンボン・・・いやシッポだろうなあれ。がついていた。 鏡にウサギ耳が映る位置――自分の頭上のそれを触ってみても、ふっさり。あとゾクッってした。 触感がしっかりあった。 ひっぱれば長い耳が目の前までくる。 やだ、これ生えてる。 視線を下げて洋服見れば、鏡に映っていたのとまったく同じ衣装のようなそれ。 そしてお尻へ視線を向ければ、ふんわりもさもさ。シッポだった。 黒いウサギ耳に、黒いシッポかぁ。 うん、これってあれだよね。 花『黒田に呪われたぁ〜!!あの兎、いつか食す!(処す)』 きっと黒田の呪いに違いない。 だってオレがあんなにモフリたいってお願いしたのにさせてくれないから無理やり捕獲したことあったし、この間もくさかったから無理やりお風呂に入れたし。 オレの育ててる植物のプランターの中身食べたから捕獲したし。 さっきだって、恋がにんじんあげすぎてたからうばいとったばっかりだし。 なんだ。やっぱり全部黒田のせいか。 じゃぁ、この部屋はいったい? 「・・・春?」 ふいにコンコンというノックとともにガチャリと扉がひらき、そこには黒いウサギ耳の始がいた。 格好は今の俺と同じようで、もっとフリルが多い西洋の貴族みたいな服だった。 うん。納得したよ。 字『・・・・・・かわいそうに始まで黒田の呪いをうけるなんて』 みんな黒田に呪われてるんだね。 涙をのんでいたところで、始の耳がピクリと動き、不思議そうに「くろだ・・って誰だ」と告げた。 まさか黒田の存在を忘れるほどだったなんて、これも黒田の呪いか。 ・・・。 ん? つか、まて自分。 呪いだと?オレ、術とかうけつけない体質なんだけど。 あれ?これもしかして呪いじゃないとか?あっれぇ?じゃぁ、なんでオレここにいるんだろう。 ん〜夢、じゃぁないのは、超直感が現実っていってる気がするから間違いないんだけどなぁ。 ま、いっか。 あ、いまチラっと映像がながれてきた。 あーなるほど。そういうことね。 これはオレにとっては夢ではなく現実。 だけどこの世界を“管理する者たち”にとっては、現実じゃないらしい。 この世界のオレからすると夢で、“隼”がみてる夢の一部。 今ここにオレがいるのも。すべて。 だれかの夢みたい。 っと、いうわけで、呆然としている始にニッコリと笑う。 字『兎の始さん、オレ、こっちのオレと入れ替わっちゃったみたい。しばらくよろしくね』 そのままウサギな始に近寄り、ぎゅうっと手を握る。 始の両手を包み込むように握って、ニッコリ。 字『一緒に鏡の中に飛び込んでください』 始「はぁ!?」 * * * * * 字「ふふ。懐かしい感じがするけど・・・君はだれかな?」 ニコニコと、首をかしげる春にギョッとする。 共有ルームでうたた寝をしていた春に、下のこどもたちが気を利かせて毛布を掛けていた。 それからしばらくして起きた春は、周囲を見て首を傾げた後、目の前の存在を見て、さらに首を傾げた。 字「ねぇ、ここはどこかな?」 恋『は、はるさん?』 字「ん?おやぁ、いつのまに部屋替えしたのかな?あはは。いや〜太陽がまぶしいね。 お、あの四角い建物は何かな。あんなにたくさん建物を建てるなら声をかけてよ。予算無視にしてもこれはひどいよ? あはwwwうふふ。どうしたのみんな? そういえば鍋はどうしたのかな? 鍋・・・・そうだ。隼に今日の夜ご飯の作り方を教えなきゃね♪」 最初はいつものボケか冗談だと思っていたが、どうも様子がおかしい。 あとやたらとニコニコしていて、なんだか以上にテンションが高い。 くわしく話を聞くと、その回答はほとんど「しらないなぁ」「覚えてないよ」とニコニコするばかり。 すわ、記憶喪失か!?っと疑うも、周囲の人間の名前は当てて見せる。 字「それで君はだれかなぁ?」 ただし、“目の前”の相手のことだけが分からないようで―― うふふと笑いながら、不思議そうに首をかしげるのだ。 それをみたグラビとプロセラのメンバー全員の動きが固まる。 陽『春さんから限定的な記憶が吹っ飛んでるぞ!!』 駆『は、春さんが春さんが記憶喪失だとぉ!?』 海『つか、おい始!また春におかしな知識刷り込んだんじゃないだろうな!?』 郁『なんにせよ春さんが現状記憶喪失っぽいってのは間違いないですよね?隼さんでも始さんのいたずらでもないとしたら何でしょう?』 新『寝て起きただけで記憶喪失。・・・はっ!?これはもう・・・睡眠学習による洗脳としか!!原因が思いつかない』 葵『洗脳って・・・それもう犯人がひとりしか浮かばないよ新』 恋『そうですよ始さん!さっさと自首してください!けっこう春さんの記憶がぶっとんじゃった後ですけど・・・いまなら、たぶん。きっと・・・間に合うはずです!』 陽『うわー・・・春さんが記憶喪失とか』 涙『ついに・・・記憶からも排除したいレベルで嫌われちゃったか』 隼『も〜う、始が春をいじめすぎるから』 始『お前らの言い方だと、俺が春に嫌がらせをしたあげく、ショックを受けた春のなかから俺のことが全部すっぽぬけたかのようにしか聞こえないんだが』 隼『ちがうの?』 始『違うにきまってるだろ』 始『忘れられたのは俺じゃないぞ』 隼『はははwwwそれはわかっているけどね』 夜『あ、あの春さん!俺のことはおぼえてますか!?』 字「えっと・・・・夜?で、いいのかな?あとどうして白のメンバーまでここに?あれれ?隼ってば待ちきれなくてきちゃった感じ?やだなぁ〜wwwオレ、ちゃんとあと少しぐらい二つの均衡をたもつことぐらいできるよ。うん。もたせる自信あったのに〜」 隼『なんだか酔っ払いを相手にしているような気分だねぇ。 ふふ、“そっちの春”はお仕事頑張ってるんだねぇ』 字「そうなの!聞いてよ隼!始がね!始が!むちゃばかりするから、この間オレの部屋の書類がなぜか天井までついにとうちゃくしちゃって・・・ 今日で5徹めくらい?あれ?そういえばオレは最後に寝たのはいつだったっけ?」 涙『・・・やっぱし始が原因じゃん』 郁『春さん、寝てください!(うるる)』 恋『これ、深夜テンションか』 駆『はーじーめーさん(じとめ)。どうしてくれるんですか、春さんおかしくなっちゃってますよ!』 始『おい、こら!そこ!!! ひとつ、言わせてもらうが。 お前ら、俺がまるで犯人で、こいつに催眠術でもかけてこいつの記憶をうばったみたいな状況にしてるが。違うからな!』 字「え!?オレ催眠術かけられたの!?」 始『ちがう!!!』 恋『え、ちがうんですか』 涙『始ならそれぐらいできると思ってた』 駆『同じく』 始『はー・・・・。 そもそも春が“黒田”の記憶を失おうがたいしたことないだろ! ほらみろ。あの逃げに逃げまどっていた黒田がいまでは春にべったりなついて抱っこをねだったあげく、頭まで撫でさせてるんだぞ!』 むしろイイコトだろうがと指摘をしてやる。 ちなみに春が“忘れた存在ひとつ分”とは、始のことではなく、“黒田”のことである。 春が目覚めた時、巨大兎の黒田は彼の正面のテーブルにドンとのっていた。 そうして寝起きの春が一番最初に目にしたのは、黒田の顔。 それに春は首をかしげたのだ。笑いながら。 記憶喪失の春をみて、黒田はなぜか嬉しそうで、そのまま春に抱き着き(突然のことと勢いと重すぎて春は押し倒されていた)、春の顔をペロペロ甘えるようになめまくり、 とまどいながらもくすぐったそうに笑う春に頭を撫でてもらってさらにうれしそうにしていた。 そして春が怒らないのをいいことに、「撫でろ」とさらに強要している。現在進行形で。 あの“黒田が”である。 あの犬猿の仲とさえいえた春に。黒田が。である。 天変地異の前触れかと思うような現象だ。 だがそれもすぐに隼の笑い声で現実に引き戻される。 隼『さすがは黒田だねぇ。野生の本能かな?ふふ、さぁ、みんな。おふざけはこの辺で終わりにしよう』 始『これの原因はお前か隼。今度はまたなにをやらかしたんだお前は』 隼『ひどいなぁ始は。今回も僕じゃないよ。これは向こう側の春とこっちの春が一緒にみている夢のようなものだよ』 字「え?」 隼『ふふ。大丈夫だよ。これは君たち二人の春がみている夢。すぐに夢は覚める。ちゃんともどれるよ』 字「んんん?ああ、そういえば、君は“オレ”じゃぁないようだね」 隼『僕は君じゃないよ春』 字「なるほど。ここは別の世界か。 ならみたことがない・・・そのクロダって生き物がいるのも当然だね」 駆『突然の納得!!』 恋『え!?なんか納得しちゃっていいんですか春さん!?』 字「理由は・・・勘?」 陽『でた。春さんの超直感!』 新『それが一番こわいやつ』 字「ああ、“こっち”のオレもしっかり【字】が転生した子だね。まぁ、それはいいや。 えーと、詳しく語ると、オレとむこうの隼は同一存在ってやつで、感覚的にいつも必ずつながってるんだよ。それがないから異世界かなぁ〜って」 恋『あ!もしかして双子ですか!』 字「あ、人間でいうならそれそれ。すっごい近い!」 始『人間で、いうなら・・だと?』 隼『ふふ。これはこれは、ずいぶんおもしろそうな展開じゃないか。どうやら君は人間ではないのかな?』 字「オレは“シュン”の欠片がひとつ――“春”。表の[世界]だよ。 いうなれば[世界]の端末の片割れってやつでね。 あれ?おかしいなぁ。オレが[世界]なのに、なんで人間の振りして、いつのまにか人間の国の政務に携わってるんだろう? オレが人間の仕事するっておかしいな。人間の文化とか放置していて、みていただけのはずなんだけど。 人間の仕事しなくていいはずなのに、オレなにしてんだろう。なんでオレ毎日書類と格闘してるんだっけ?オレ[世界]なのに・・・・(遠い目)」 陽『向こうの春さんは人間でないだけでもびっくりだってのに・・・むしろなんか病んでないか?大丈夫か?』 葵『これが噂の、ワーカーホリック』 涙『春は、妖精さん?』 郁『それはちょっと違うんじゃないかなぁ〜(苦笑)』 字「妖精じゃなくて、世界そのものの意志の末端端末ですorz」 涙『春、お疲れ様』 字「やだこの子かわいい!ほしい!お持ち帰り許可を魔王!」 隼『だーめ。それは僕のいとし子だよ』 新『そもそも話を聞いてると、春さんがこのテンションなのって、向こうの始さんが原因みたいじゃないですか。始さーん、どう責任とるんです?』 葵『始さん、春さんに優しくしてあげてください!』 始『お前らなぁ・・・。そういうのは向こうの俺に言え。 あとそこの別人の春。お前もだ。期待のまなざしで俺を見るな』 字「オシゴトツライデス王サマ。オレ、ホントウハ宰相ジャナインデス。王サマ休ンデ。国ノ復興トカチョトダケデイイカラ忘レテ休ンデクダサイ。オレニ休暇ヲ・・・_(:3」∠)_」 駆『あ、春さん泣きながらたおれちゃいましたよ。甘いもの食べたら元気出ますよ』 葵『あ。あっちの始さん王様なんですね〜』 新『らしいというかなんというか』 恋『向こうの始さんも・・・なんだか。その、仕事中毒?っぽい感じが・・・こっちの愉快な始さんと違いすぎる!?』 海『はぁー・・原因わかった。どうやら向こうの始が仕事マンすぎて、休みを取らず働きまくり、周囲にもその影響が出てるんだな』 隼『それで“僕の欠片”なのにやる気にあふれたワーカーホリックな“春”ができちゃったんだね。わーすごいや始』 始『俺をみるな』 隼『さて、ずいぶん春も落ち着いたようだから、少し君の世界のことを教えてもらってもいいかな? 違う世界と言うのに興味があってね(*´▽`*)』 字「隼がいるならいいかな。 まず、世界は表と裏に分かれている。 あの世界はなんども再生を繰り返いしていてね、元は猿が祖の人間がいたんだけど彼らは自滅して滅んでしまった。 次に生まれたのが“ひと”。 その祖はウサギという生き物で、彼らは進化の過程で二足歩行を覚え、いまの君たちのような姿になっていった。それがいま世界に生きる“ひと”だ。 だから君たちのような丸くてつるっとした耳はみたことがないけど、長くて立派な耳と尻尾があるんだ』 始『ウサギ・・・それなら。その黒くてでかいのがウサギという生き物だぞ春。なまえが黒田なんだ』 字「え!?このデブリンとしたのが!?ああ、そっか。本来のウサギってこういう姿だったね。オレたちの世界ではもうこの姿のウサギはいなくて、どうりで懐かしいシルエットだなぁと思ったわけだね」 葵『ウサギ・・あ!だから黒田がそんなになついてるのか!』 新『同族だから?』 夜『ウサギが祖って、すごくかわいい種族ですね』 字「かわいいかはともかく、オレの管轄である表の世界は、黒い耳の種族が。 裏の世界には、見事な白い耳の種族がいる。 困ったことにひとはいつの時代も争いが絶えなくてね。今回もまた種が滅びるまで戦争をするのかと思ってたんだけど。 まぁ、ここ数代はいい具合に王が生まれてね。ひとはようやく戦争をやめ、歩き出したところ。それが裏も表も変わらない現状かな。 あと、夜。オレたちの間ではね、耳が長くてピンとしてるのは、かっこいいことなんだよ」 夜『かわいいなんてすみません(汗』 字「ふふ、いいよいいよ。大丈夫。夜はいいこだね〜」 恋『あ、なんかわかったかもー。白い種族って、こっちのProcellarumのメンバーは白い耳っぽそうwww』 駆『じゃぁ、俺たちSIX GRAVITYは黒だね!』 隼『ふむふむ。もしかしてそっちの白の王様は、海かな』 字「正解。だって君は[世界]だよ。オレや君では、“王”にはなりえない。あ、隼の対はうちの始だけどね」 隼『本当かい。やったね始!僕ら対の存在だって』 始『王様とか(ムス)・・・ああ、じゃぁ王子は葵か(ニヤリ)』 葵『え?えぇ!?なんですかそれ!』 新『なんかすごいイメージがつく。じゃぁ、俺は皇子付きの護衛ってことで』 字「ことで。というか、そのまんまだけどね(苦笑)」 隼『あと春。ひとつだけお願い。僕たちに丁寧語も遠慮も不要だよ。どうせこの世界の僕たちは、王でもその臣下でも、世界の調停者でも、なんでもないからね〜。 僕らは12人で大切な仲間さ』 春「ふふ、了解。少しの間だろうけど、よろしくね」 * * * * * 始『―――とはいったものの、もう戻ってきたのかお前』 字『ただいま〜。いや〜、始も隼もすごいヒラヒラのかっこうしてたよ』 恋『うさ耳とか魔法とかがすごいねーって話じゃないの!?』 陽『恋。もう春さんに何か期待するのやめるんだ。諦めろ』 字『それにしても向こうには“うさぎ”って動物がいないみたいなんだ。黒田のいない世界・・・ごめんちょっと幸せでした』 始『そういうことを満面の笑顔で言うから、お前黒田に嫌われんだよ』 隼『ははは。楽しかったならいいんじゃないかなぁ』 隼『あの、さ―――春』 字『ん?』 隼『あっちの僕は・・・いや、やっぱりなんでもない。ねぇ――』 隼『良い“夢”は、みれた?』 字『そうだね。バッチリだよ隼。むしろ、ありがとう。オレを“呼んで”くれて』 隼『んん?僕は何もしてないけどね』 始『おい、隼。やっぱりお前か仕掛け人は!』 隼『僕じゃないって。本当だよ始。ちょっと春も何とか言ってやってよ!』 字『「僕らは表と裏。どちらかが消えることはあってはならい。だけど裏の世界に寿命が来ていてね」・・・ってことで救難信号を“向こうの隼”から受けたらしいよ。向こうの春が』 始『やっぱりお前か!寮の迷惑になることはやめろといつも言ってるだろうが』 隼『ちが(汗)それ違う世界の僕だよ!はるぅ〜!!!!』 字『オレ、“夢”を夢だけで終わらせるのって嫌いなんだよね。フハッ。がんばれ隼〜』 隼『まって始!アイアンクローは!それだけは!!!!あたたたたたたたた!!!!!!』 * * * * * ―――世界は裏表。 僕らは二つでひとつ。 けれど“君”が生まれるのは、あまりに遅すぎた。 白い王様は、千の時を待ち続けた。 待って、待って、待ち続け。そうしてやってきた黒い君。 裏側の世界には、魔王の命の時間がこぼれだし、世界の寿命がせまっていました。 崩壊まじかの裏側の白い国。 救う手立てはただ一つ。 さぁ、この手をとって。 字『時間がないので黒の王様、一気に白の国にのりこみますよ!!!』 始「はぁ!??ちょ・・・待て!おい!!!春っーー!!!!?」 字『おしい!春違い!ハッピーエンドのような暖かな“春”を告げにきました春告げ鳥の方の春さんです!ウサギな春はお休み中さ! ごめんね兎の始、春の中身が別のオレで! じゃぁ、このまま“夢”を叶えにいっくよー!』 始「おい、意味が・・って、まてぇぃ!!それは鏡だぁ!!・・・」 字『さぁ、いい“夢”に、なりますよに!せーーの!』 にぎった手を離すまいと力をさらに入れ、始の腕をつかんで一緒に、部屋の中に大鏡に突進するように走り込む。 ぶつかる!という慌てふためく始の声が聞こえたが、たぶん!きっと!!大丈夫!でおしきる。 始「やめろ春!!!」 字『たぶん!いける!!!』 始「たぶんとか!!!!!!!っ!?」 騒ぐ始をひっぱって、そのまま鏡に飛び込んだ。 とぷん――― 鏡は水面のような波紋を残して、二人の姿を飲み込んだ。 |