字春が魔族になりまして 06 |
『え?春さ・・』 『あ、は、は』 『春しまいわすれてるよ?』 『みた?』 こくりと頷く二人に春が頭を抱えた。 どうしようと固まる第7セフィラNetzach(ネツァク/勝利)の三人に、隼がうすらと目を細める。 『ふふ。こうなってはしかたないねぇ。ねぇ、君たち――』 その後。 春の屋敷にとんでもない絶叫が、二つばかり響いたのだった。 【06. ばれてしまってはしょうがない】 〜 side 春に成り代わった字 〜 英『春くん、お願いだから“今回”のような失敗だけはしないでね。本当にお願いだから!』 字『あ、あれはその隼しかいなくてつい。だって肩が凝って』 剣『だぁー!!!ついでも窮屈でもだめ!やめろ!まじでやめろください!俺の心臓が持たないから!!』 英『うんうん!本当に!もう勘弁してね!!あと僕たちの前以外では、絶対ばれないようにして!羽出し禁止!!ダメ!隼くんがいてももう気を抜いちゃダメ!特に始くんの前では余計にダメ!!よくいままで始くんをごまかせていたなと思うと・・・・なんて恐ろしい!絶対やめて!ね!』 字『英知さんも剣介君も顔がこわいよ?(視線そらし)』 『『怖くもなる!!!』』 春。もとい前世もち転生者な〈字〉ことオレです。 今回何を怒られているかというと、前回のお風呂事件でいろいろばれてしまったその件に関してだ。 オレのことと隼のことで、今《勝利》属性の仲間にめちゃくちゃ怒られている。 なにがあったかというと。 あの泡事件のとき、たまたまオレに用があってやってきた魔族の英知と天族の剣介が、泡の発生源を追って風呂場まで乗り込んできたのだ。 * * * * * モコモコと“はね”の洗いっこをしているうちに、広い浴室を覆いつくした泡は配管を詰まらせ、泡はそれ以上流れなくなった。 結果としてあふれた泡はそのまま窓から外へ流れでていき―― 『げ、どうなってんだよこれ?!』 『ちょ!?なにこれ!!なにこれぇ!!!!ハッ!春くんは!?春くんどこぉ〜!春君無事かい!?大変だよー!!!おーい春くん!?庭が泡で!!!』 『英知さん待って!この泡まず発生源を確認いきましょう!』 『そうだった!剣介君ちょっと飛んでいこう!これはまずいよ!』 遠くに聞こえた声に、浴室で泡を発生させていた元凶である隼と春は思わず顔をみあわせた。 『やばいよ廊下が!これ修理代どうすれば!春くんこまるんじゃ!?』 『むしろ春さんちの植物に悪影響だろ!・・・あ!みて!泡はこっちまで続いてる』 遠くから聞こえる声と共に二つの羽音が廊下に響く。 近づいてくるそれに 『・・・こっち、くるんじゃないあの子たち?』 『ファッ!?』 隼の言葉に春はシュッ!と“はね”をしまい、その衝撃にさらに泡が外へと飛んでいく。それにわたわたする春をおかしそうにながめながら、 何も隠す必要がない隼は、羽をしまう事もせず余裕のていで鼻歌を歌いながら湯船へと移動し、ほぉーと息をつく。 春はというとわたわた隠ぺい工作に忙しい。伸びてしまった髪の毛はしょうがないとあきらめ、“しっかり角がある”のを泡の向こうに見える鏡で確認し、耳も魔族に見えるよう幻術をかけていく。 ちょうど偽装が終わったタイミングで、扉がありそうな泡の山から人の気配が響く。 『原因は風呂場か!うぉりゃー!!!』 『うわぁ〜なにこの泡の量!?』 ガララ!と大きな音を立てて引き戸がひらかれ、慌てたように春の部下にあたる魔族と天族の青年が飛び込んでくる。 隼に続いて湯船に飛び込んだ春は、泡に突っ込むようにして入ってきた二人に、さもなにもありませんとばかりに「そんなに慌てなくても」と笑顔を張り付け彼らをむかえた。 ただしその笑顔は完全に引きつっている。 『『だれ!?』』 『・・・えっと、そんなに驚かなくても。あ!あの春・・です』 『『春さん(くん)!?』』 『え、だって・・・そ、その髪・・・』 『その髪の毛がのびちゃってるけどこれはちょっとわけがあって』 『え?えぇぇ!?は、春くん?本当に春くん?髪がずいぶんとのび・・・って、えΣ(゚Д゚)』 『おやおや、どうやらあまりの泡の量に驚かせてしまったようだね。僕の羽がごめんよ』 『あ、隼さんまでいたの。泡で見えなかった・・・・・・って!ちが!!それ!』 『それ?あ!この泡!?あのごめんね、泡だらけにしちゃって。しょ、処理はあとでなんとかするから!そ、その、今回のことは見逃してほしいかなぁって・・・あの?』 『は、は、は・・が・・・』 『うん?歯は言われる前にちゃんと磨いたよぉー。いつも言うけどね、そこまでオレはボケてません!』 ボケテないんですーとぷぅっと頬を膨らましてプリプリしている春に対して答える者はいない。 なぜなら天族の青年も魔族の青年に続き何かに気付いたようで、驚きのあまりか口をひらいたまま固まっているためだ。 その横で角が立派な魔族の青年が、泡まみれの浴室の中をみて口をわなわなさせ、言葉にするのも無理。指をさすのがやっととばかりに震えている。 『あ』 そこで英知と剣介の指し示す先をなにげなく視線で追った隼が、自分の横で首をかしげつつ湯船につかっている春を見て、納得したような表情を浮かべる。 いまだわけがわからないというように頭上に疑問符を浮かべている友人にため息をつき、隼はその肩にそっと手を置いた。 『春、肝心な“はね”をしまい忘れてるよ』 その背からは、先程慌ててしまった白い翼はたしかにみあたらないが、他に黒い翼と“蝶のような大きな翅”が、水をはねながらキラキラと輝く泡の向こうに見え隠れしている。 『!?』 言われて、確認するようにそぉーっと視線を自分の背中に向けた春が声にならない悲鳴を上げ、その衝撃で幻術が解け、“立派だった角が花びらを散らすようにふわりとかき消え”、さらには耳が再び“もと”の鳥の翼のようなそれに戻りパサリと広がってしまう。 さすがに音までした変化は自分でも気づいたのだろう。 慌てて口を押えるが、そんなところを抑えたところで、変化はしてしまった後である。むしろ耳を押さえろ。 春が恐る恐るとばかりに侵入者たちを見やれば、彼らの視線はバッチリと自分だけを見ている。 どうしようと固まる三人に、隼がばれてしまってはしょうがないとばかりに笑みを深くした。 『ふふ。こうなってはしかたないねぇ。ねぇ、君たち――』 "共犯者"になる覚悟はできているよね?そう告げた隼から語られた話に、剣介と英知の絶叫が屋敷に響いたのだった。 * * * * * ――っと、このようなことがあり、結局のところ剣介と英知を“協力者”という立場にすることでおさまった。 『オレは、実は魔族じゃないんだぁ☆』 『僕の羽根は本当は黒かったんだよ☆』 地球で今はやりの「てへぺろっ☆」というのを隼と一緒になってやってみたところ、剣介と英知の「はぁっぁぁぁっぁ?!」という絶叫が上がったのは・・・・しょうがない。 それからお風呂場での泡についてもう一度謝罪し、オレの"はね"をすべてを見せたところ、説教を食らう羽目となった。 それが冒頭のアレである。 そして今、魔族ではないオレが"魔族のふり"をするに至った事情をもっと詳しく話せと問い詰められているところだ。 それを話すには、オレが転生者であり、前世があることを話さなくてはいけない。 というか、もはやその前世についてから語る必要がある。 もちろんこれはオレだけのことではなく、“はね”を交換した隼にも関係がある。 実は“前世もち”なのは、オレだけではないのだ。 現在一番若いとされる天族の隼こそ、もう一人の“前世もち”であり、かつこの世界においては最古の生命ともいえるのである。 * * * * * オレは11翼(5対)の白くばかでかい翼を持ち、黒い大きな蝶の翅。計12翼(6対)をもつ――"管理するもの"だった。 実は、隼も似たような存在で、前回の彼は"世界"の守護者であった。 かくいうオレもそのひとり。 というか、オレが《隼》をつくった。 無限大に広がる無の空間にして、高次元意識体たちが誕生する場所。 そこで生まれたオレは、始めから翼が大漁でもっさりしていた。 その空間では、数多の神々がそれぞれの多種多様な姿をとり、役割をこなしていた。 オレのように翼を持つ者もいれば、その翼を頭から生やした者もいる。顔が鰐のような者もいた。 髪の毛が蛇であったり、体が水のような液体でできている者もいる。その場所にいる者たちに種族などなく、定まった外見的特徴さえなく、能力や役割に応じて生まれながらに姿かたちが違う。 オレは、地球を中心とした世界軸の管理を任されていた。 あるとき、ふと一人で世界を造っているのにあき、管理を手伝ってもらうべく《隼》という存在を作り上げた。 《隼》は一番最初に生まれた命。だから誰よりも早く空かける鳥――すべての先駆け。そういう意味でハヤブサという字をあてがい“シュン”と名付けた。 まずオレと《隼》の仕事内容について語ろう。 オレが任された場所は、何もない暗闇だけが広がっていた。 正確には暗闇ではなく、そのすべてが世界の源となる原子の集合体。それが集まりすぎて黒く見える空間だ。 人がどれほど頑張ろうと認知さえできない大きさの屑がそこにはあふれていて、集まりすぎて色が真っ黒にみえていたとう感じ。 人間からの視点で言うなら、その“黒”こそが宇宙である。 そこから最初に作り上げた命は、原子の塊でしかなかった。 まず黒いものを練って固まらせ、オレと形を似せようと足と手のある人型にすることにした。そうして人型の人形のようなものを作った。 そのヒトガタはオレの予想よりもはるかに多くの“原子の力”を取り込んでおり、背からあふれ出たそれは綺麗な黒い翼となった。 ヒトガタは見ているうちに成長を始じめ、爪ができ、髪がのび、服を自分で構築しあらかた人間のような形になるとようやく目を開けた。 爪も瞳も髪も服も翼もすべてが宇宙そのもののように黒かった。 原子の粒を練ったのだから当然だ。 その塊である人形だった者は、すでに魂の宿った生き物になっていた。 その黒い髪は光も何もないこの空間でさえ、キラキラと輝く。それは彼の髪を構築する原子のなかで星々が誕生し始めていたためだ。 この空間自体は原始の海に過ぎないが、ここでようやく宇宙がうまれた。ヒトガタのその子自身が一つの銀河系否宇宙そのものであった。 やがて彼の髪の中にきらめきが増え、たくさんの銀河が彼の中から生まれ、彼の中から"外"へと溶けだしていき、オレの空間にはたくさんの銀河や宇宙が新たに生まれていった。 彼の中から原子がほぼ外へと解放されたころには、彼の髪は白へと変わり瞳は黒からオレのものを継いでいるらしくオレに近い淡い黄緑になっていた。 人間でいうならば、赤ん坊から10歳くらいの子供まで《隼》が成長したころだろうか。 彼は管理する世界の中に、たくさんの命を注ぎ込み、ひときわ輝く青い星を生み出した。 っが、しかし。 オレは生み出した命を大切にしていたんだけど、運命の女神が「なんてことをしてくれたのよ!まためんどくさい仕事を増やしてくれて!!なんでこんなに面倒な生き物を大量生産するのよ!!」と癇癪を起して文句を言ってきた(とはいえオレが世界を作るたびにそうなので、毎度のことだ)ので、それに迎え撃つべく、作りたての世界を《隼》にまかせ運命の女神の喧嘩を買うべくオレは立ち上がった。 『今度という今度はあんたの作る虫けらなんかしるわけないでしょ!!あんたんところの猿なんていつもいっつも!私に無理難題言ってくるのよ!!!こないだ輪廻の輪に流したたやつなんか好きかって言って!!!死んだんだから能力よこせとかうるさいのよ!!私が殺したとかしまいに言ってくるし!有り得ないわ!私がゴミくずにかかわるとかあるわけないでしょ!お前の死なんかに関わっちゃいないわよ!!妄想も甚だしいわ!!というわけで、その新しい世界をよこしなさい!今すぐ初期化してやるわ!!!』 『あ゛あ゛?てめぇがいつも仕事をほっぽらかすから人類は身勝手愉快に進化するだろうが!つか、しわ寄せがこっちに来てんだよ!バァァーーーカ!!運命の女神らしくきちんと運命の采配しろよ!!おまえがだらけてるからいくつ世界が壊れたと思ってるんだ!』 『もっと脳のない世界を作りなさいって言ってんのよ!!このアホ毛が!!!』 『てめぇの常識押し付けんじゃねぇ!!オレの髪の毛よりてめぇの方がすげーうねってるだろうが!!!髪の毛だけじゃあきたらず脳みそまで水でできてんのかよこの水道水たれながし女が!!元栓閉めろ!!』 『魂を洗浄して輪廻の輪に流すのが私の仕事よ!!!私の髪は水じゃなくて運命の流れを左右するための“流れ”を生むのよ!!元栓なんかあるわけないでしょ!!元栓閉めさせるなら空間を司るガス野郎に言いなさいよね!!この羽根お化けがっ!!』 『オレの羽だってなぁ好きでつけてんじゃねぇよ!こんな重いもんいらねぇよ!!世界の原子かき混ぜるのに必要があるからついてるだけだ!文句あるならオレを創ったもっと上に言え!!!』 『羽で通せんぼとか何様なのよ!通しなさい!その世界を衰退させてやる!!邪魔よ!この羽毛やろう!!!』 『てめぇは世界を壊すことじゃなく生かすための仕事しろよ!頭の中ババロアか!!』 『ババロアってなによ!!』 『異世界の菓子だ!フハッ!甘くてとろけたおまえにはぴったりだろうさ!』 『もーうっ!!!!少し見ない間に言葉が汚くなって!どんな世界を覗いてたか知らないけど口が過ぎるわよクソガキが!!』 『お前も十分口が悪いだろうがこのくそババァ!!!!』 『んまぁ!!!なんてこと!このゲスが!』 『ふん!ゲスけっこう!別世界のオレにはまさにそれこそ誉め言葉!で、仕事しろいい加減に』 『うるさーい!!いいからそこをどきなさい!新しい世界とやらを調教しなおしてやるわ!これ以上文明を築かせてなるものか!脳みそところてんの世界にしてやるわ!!!』 『させるかっ!』 っと、まぁ。こう、いつものとおり言い争いをしては、お互いの髪の毛を引っ張ったり翼をむしったり・・・・。 せっかく作った世界を壊されてなるものかと、オレの管理区内や《隼》の傍に行かせてたまるかと、めっちゃ奮闘した。 喧嘩はまぁ、気が済むまでぎゃーぎゃーやって、ひきわけってことで、なんとか運命の女神を追い払うことに成功した。 ぶっちゃけ《隼》を造っておいてよかった。って、その時ほど強く思ったことはなかった。 おかげで運命の女神とやりあっている間もちゃんと世界を育て、まもっていけたんだからな。 だが、この世界も運命の女神に嫌われてしまった時点で、加護がない世界になるのはこれで確定してしまった。 再戦を挑まれないうちに、世界の調整をさらに強化する必要がありそうだ。 なにせ運命の女神が運命を放棄した世界はどう転がるかわからない。 そうこうしてるうちに、時はあっという間に流れた。 《隼》は人間で言うなら17歳くらいの青年ほどの姿に成長した。 そのころの《隼》は不備なく仕事をこなし、優しく愛おしそうに自分が作り出した世界の数々を見守っていた。 地球一つにさえ、いくつもの並行世界がある。 それさえも彼はその"世界を見守る"能力で、自分の世界ともに見守り、育てつづけた。 まぁ、新たな問題が発生するわけだが―― * * * * * 『《隼》が泣くんだよ。さびしいって』 『だってひとりぼっちでさびしくて。他の世界にも“僕”がいるんだけど、“始”っていう対がいて――でも当時の僕には《生命の神》以外は誰もいなくてね』 『で、つい』 『『つい?』』 『あまりに《隼》が泣くから、世界を壊して作り直すことにした』 『『・・・・・・』』 『で、そのころオレも管理が面倒になっていて。自立型の管理システムがほしいなぁと、オレは眠ることにした』 『・・・・つっこみたいところはいろいろあるんだけど。寝るのと自動化がどう関係あるの?(顔ひきつり)』 『ありまくる。なぜなら夢の中にその機能を作ることにしたんだからな』 『ゆめ・・・』 『まず自動化をするために、オレがいままで持っていた能力を自分の中から分離することにした。 その力でできたのが、ぞくにいう〔生命の樹(セフィロト)〕だ。 これを夢のなかに植えた。 この〔生命の樹〕は“管理能力”をもつ。ゆえに、〔樹〕じたいが自律的に効率の良い方法として、今まで《隼》とオレだけで管理していたものを部類分けし、さぼりがちな女神の分も世界が回るように仁会戦力という手段を選んだ。 〔樹〕は戦力をつくるため、まず箱庭を夢の中につくりだし、そうして箱庭の住人として、否世界の管理者として天族と魔族を生み出した。 つまりこの【オリジン】と呼ばれる世界は、実際はオレの夢の中ってことだ』 『ゆ、ゆめ・・・この世界が夢の中・・・(遠い目)』 『・・・(´ω`)』 『もう。二人とも寝ないでよ。まだ話は終わってないよ』 『寝てはいないよ、うん。いや?まって俺いま寝てる?あはは。そっかこれは夢だね、うん』 『英知さんしっかりしてって!現実をみろって!ん?現実・・・ゲンジツッテナンダッケ?』 『剣介くーん!しっかり!』 『『そっかぁ俺たち夢の住人だった・・・(´▽`)』』 『なんだかわからないけど続けるよ』 《隼》が視たという世界の流れの中に、《隼の対》がいる世界がいくつかあったらしい。 あまたの世界のすべてに二人がいたわけではないけれど。 世界が《隼の対》を生み出すのは、"力"のバランスを調整しようとして生み出しているようだった。 新しく作られていく世界の中に“彼ら”を投入するのは、意外と難しいんだ。 なぜなら《隼》やその〈対である存在〉は、存在そのものが大きすぎるためだ。二人は魂というのかな。そのエネルギーの内包量が違う。なにせ《隼》は人ではなく、それを管理する側だから当然だろう。 だからどちらかが、あるいは両方がいない世界っていうのもある。 《隼》と〈対の存在〉が一緒にいるということは、それだけ“力”に左右されない世界。または二人がいてちょうどよい均衡が保てる世界どちらかだけだ。 力が強すぎる影響で、世界そのものが狂ってしまうことがままあるのだ。 “管理されている造られたただの世界”にとっては、二人一緒に同じ空間にいるのは難しいといったのは、そういう理由だ。 《隼の対》たる彼は、《隼》が人型の生き物の中に混ざっているときに多く生まれている。 ちょうどいいことに、【オリジン】のなかで新に生まれ始めた小さき管理者たちは、オレという大本の影響で基本的に羽がある人型をしている。 今回の目的は、《隼の対》を【オリジン】の中に生み出すことだ。 『“管理されてる世界”では二人一緒にいさせるのは難しい。だけど、オレの夢の中であれば、オレも夢の世界も“管理する側”の力にあふれた世界だ。 ならば《隼》を世界の中にいれても〈その対〉をいれても、きっと均衡を保ったままいける』 つまり、箱庭(オリジン)の中に《隼》をいれれば、必然的にその巨大な力を支える《対なる存在》が生まれるに違いないと思ったわけだ。 《隼》がもうひとりにならないように。 そのために《隼》を転生させることにした。 まず《隼》の力を少しだけ〔樹〕に注ぎ、その力に呼応して〔樹〕が《対なる存在》を造るのを待った。 《隼の対》は"はじまり"に近しい存在として、生まれることは明白。 そうすると彼は《隼》に最も近い存在ということになる――司る力はたぶん“創造”だ。そうなると、彼がまとうは原子の色。つまり黒だ。 箱庭にて黒い羽を持って生まれるのは魔族というあつかいだったから、《隼の対》が魔族として生まれるのは決まりきっていた。 〈始〉が魔族として生まれるのは必然。 次に行ったのは、《隼》を箱庭におろしてやること。 天族には魔族のように角はない。原子――すなわち創造の力を持たないために、彼らは色がない。核たる〈葉〉が白なのはそういう理由だ。 だから“そのときの姿”のままでも隼を箱庭に送り込んだとしても、姿的には問題はなかった。 問題は力だ。その巨大すぎる力のせいで、今のままの《隼》を箱庭にいれると、箱庭が内側から圧迫されて壊れてしまう。 さらには〈始〉は六つの翼をもっていると情報が入っていたので、《隼》から“管理する力”を極限まで抜き取り、〈始〉の対らしくするために《隼》にオレの六枚翼をあげることにした。それは始がもつ翼の数の分。 そうして《隼》を天族に見せかける準備を終えたあと、箱庭の輪廻の輪に彼を入れ込むことに成功した。 彼を転生させるとき、《隼》と交換した服装と翼に関してだけど、それは《隼》がその身に宿していた原子の力――“黒色のもの”だ。黒を纏っていては天族と偽れないから返却してもらったことで、隼のなかから“創造の力”がぬけおち髪も服もすべて白になった。 力や原子とは、これはもともと《隼》を造る前はオレが持っていたものだ。オレからしたら、力が還元されるという形で、手元に戻ってきた感じだな。 《隼》が隼として転生準備に入っている間――正確にはオレが与えた六枚の羽に隼がなれるまでの間だ――で、対である始を見ておく必要があった。 隼が生まれる前に消滅されては困るからな。 そんなわけで、オレは《隼》から受け取った破片をもとに、【オリジン】のなかにひとつヒトガタを送り込んだ。 それは原子の力だけで作っているためやはり黒い。 服も翼も《隼》が持っていたものをそのまま付けたせいというのもある。 『あ、実は監視だけじゃなくてね、暇だったっていうのもあるんだ。 ほら、本体のオレは箱庭の外で眠ったままなんだけど。世界の運営がセフィロトのおかげで自動で行われるよになったからね。それでみてるだけなのも暇でね。転生してみるのもいいかもしれないって、思ったのもあるんだ。この辺は本当に誰にも言わないでね!秘密だよ!』 『『・・・・・・』』 そうして黒いヒトガタに、オレの意識の一部を憑依させた。 それの名は“シュン”。もうわかると思うけど、“春”とかいてシュン。字は違うが、同じインをふむ。 《隼》の黒い部分の片鱗からつくられたそれは、魔族となった。 『もうわかると思うけど、それが今君たちの目の前にいる“オレ”ね。まぁ、いうなればセフィロトは生命の神の力そのもの。春という魔族のオレは、生命の神の分身みたいなものかな』 〔生命の樹(セフィロト)〕から生まれたわけではないから、角はない。耳だって本体のそれと同じ。 違う部分だけを幻術でごまかし、魔族の振りをしていた。 『天族や魔族の寿命って、対がいないと数千年ぐらいでしょ。でもオレ、“春”は、始と同じぐらい長く生きている。 どうしてかって思ったことはない?そこで周囲の子たちが考えたのは、「どうやら春には生まれながらに対がいたようだ」そう考えたわけだ。生まれたときからいたので、実際に相手が傍にいなくとも春の寿命は長くて当然。ってね。 最初に「春は対がいる」そう噂を流したら、あっという間にみんな信じちゃったよ。 まぁ、実際は“春”に寿命はないんだけどね。だって魔族じゃぁないもの“オレ”(笑)』 【オリジン】の基準として、なぜ天族だけに〈世界〉を与えられるか。 生まれながらに宝石を抱いて生まれるのは天族だけであり、その宝石こそ〈世界〉であり、〈世界〉を育める ――そういわれて、贔屓だと思ったことはないかい? いいや、これは贔屓ではない。 『始を見ているとわかるとおもうけど』 魔族は黒。すなわち"原子"を体内に内包している。 つまり"造り出す"のが得意なんだ。かわりに育てるのは苦手だけどね。 逆に天族は"造り出す"ための力を持たない代わりに、育てるのが得意なんだ。 ん? ああ、気づいちゃった? “どちら”でもないオレがいつももっているこの"宝石"も――実は〈世界〉だよ。 ただし 『これは壊れてしまった"以前"の〈世界〉だ』 |