も し も 話
[花悲壮] → ツ*キウタ



字春が魔族になりまして 04

 


ここがだれかの夢の中だとしても

どうか
健やかに・・・
どうか すこやかにあれ

そう“誰か”の願いを込めて“樹”は植えられた。

苗はやがて育ち、芽を出し、葉を茂らせ巨大な大樹となることだろう。
そう願った小さな小さな種(命)だったが――



『え!?ちょ!ちょっと待って!?その成長速度は何!?いやぁぁぁぁぁぁあああ!!!!』





 

【04. 植物系能力者ではありません!】





 

葵『うわ〜!本当に木漏れ日とか凄い綺麗。これ春さんの采配で植えられてるんだよね』
新『蔦と、緑と花。天界と一瞬間違えそうだな・・・・』
葵『まぁ、この魔界ではちょっと場違いだけど、綺麗だよね。光がさしてないのが信じられないぐらい』
新『なんで春さんって天族じゃなく魔族なんだろうな』

葵は新とつれだって、とある悪魔のもとを訪れていた。
書類を届けるためである。
その悪魔のことを葵はとても尊敬していた。

大きくて立派な角があって、背中には鳥とは異なる凶悪な黒い羽をもつ。
地上の人からは、悪魔と呼ばれ恐れられる種族。

けれど葵がこれから訪ねようとしているそのひとは、誰よりも優しいひとだ。
傍にいると温かくて、優しい気持ちにしてくれる。
そんな穏やかなひと。


だから植物たちが彼に従うのだ。

葵は、否、多くの者がそう信じて疑わない。
かのひとは、とても植物に愛された魔族。
植物に愛されているがゆえに、それを操ることが許された存在と。


葵『わー。相変わらず春さんのおうちは緑がきれいだね』
新『だな。なにをどうしたらこうなるのかぜひともコツを聞いてみたい』
葵『まぁ、春さんほど植物に愛されてないと、天使でも無理じゃないかな?』
新『うちで花を育てたんだが・・・結果は、まぁ、聞いてくれるな』
葵『あ、ああ。あれね。あの・・あの吸血植物。あれ、本当は春さんをまねて育ててたんだ』
新『言うな』


葵『たいがい春さんが昼寝してるとこは、っと。あ、いたいた。やっぱりお昼寝中だったみたいだね』

葵『あんなとこまで、みどりでカーテンをつくるとかセンスいいなぁ』
新『あそこまでいくのはあれだし、書類は執務室の机上でいいかな』
葵『だね。せっかく寝てるし、起こさず行こうか』

春の館は、大きな白い館だ。
彼の寝室や執務室にも植物がおかれていて、常に優しい空気を放っている。
館よりも平い庭は、もはや庭園とよべるほどで、執務室から見える一番大きな木は春のお気に入りだ。
その枝の上で、春はよく寝ていることが多い。
枝には何本もの蔦植物が垂れ下がり、枝の上で眠っている春の日差しよけになっている。

そんな彼を執務室から遠めに発見した葵と新は、見てるだけでも癒されるそれに笑みを浮かべて、そっとその場を後にした。


二人がさったあと、眠っていた人物が目をあける。

字『センスがいい、ねぇ・・・・・』

ねむたげに緑の目がしばたかれる。

うっそりとその目が細められ、憂いげなため息がその唇からこぼれ落ちる。

だが、しかし、それは本日何度目かのため息で、本人としては『もうかんべんしてくれ〜』とばかりに憂鬱な、心の声が漏れ出たものだ。
けれど身動き一つせず、また困ったようにため息が漏れたあと、その目はだるげに閉ざされる。





始『なんだ。お前はまた仕事したくない病か。お前は隼か』

春がしばらくそのまま木の上で転がっていると、ふいにバサリと翼が風を切る音とともに声が降ってくる。
目を開ければ、目の前には六翼の羽根をちょうどしまうところだったようで、一人の魔族がいた。
それをうらやましげに見つめ、春はまた溜息を吐く。

字『仕事したくないって言っても、この世界では人間のように細かい作業もないし楽な仕事しかないから魔族生活はとても快適だよ。快適だから、今すぐでもたまっていく一方の仕事に手をつけたくてしょうがないんだ。なんだけどねぇ〜』
始『なら仕事しろよ』
字『じゃぁ、さ』




字『たーすーけーろぉー』




よくよくみると、春を陽射しから守っていた――ようにみえた蔦は、そのまま春に巻き付いている。
春が手を動かそうとすれば、蔦は動き、さらに量を増して春をがんじがらめにしている。

それに気づき始が声をあげて笑い始める。

始『おまwwまたかよwwww』
字『誰も近づいてきてくれないせいで助けも呼べなかったんだ。
むしろこの庭にも館にもこんなに植物なんか植えた覚えないよ!木は植えたけど、他は知らん!!
いつのまにかそこら中から植物が生えて!!!ぐぅ!!!おのれ草ぁぁ!!・・・・・がくり。もうオレは力尽きた。
始、いますぐ助けて〜。ヘルプ。めちゃくちゃヘルプだよ。いますぐここから出して』

創造の力を持つ始によって、植物を消滅させ、ようやく始に救出された春は涙目だ。

字『ありがとう。オレの除草剤のキミよ』
始『どんな二つ名だ。そんな通りないらん』

字『ああ、それにしても酷い目にあった。ねぇ、どうして葵くんも新も助けてくれないんだろう』

世界中のみんなが勘違いしている気がすると、春は哀愁を漂わせて視線を遠くへ向けている。

実際のところ、彼には植物をどうこうする能力は一切と言っていいほど持ち合わせてはいないのが事実だ。
けれど彼が歩いた後には、植物が成長し、花を咲かす。
これは彼が能力を使っているのではなく、どうも彼は植物に好かれるオーラを放っているらしく、というか彼が放つオーラを植物が吸い取って増殖するらしく、春は常に植物にその身を狙われているといっても過言ではない。

彼いわく、「前世が“大神”だったからいけないんだね・・・・つらい」とのこと。

その意味を正しく理解する者はいない。彼自身が転生者であることや前世があることなど、自分のことを深く語らないためでもある。
もちろんその言葉を小耳にはさんだ者は、その音のインだけしかわからず、言葉に込められた意味を理解するすべはない。 そのため音から「オオカミ」を「狼」と誤字変換してしまう。
転生者である春こと字(アザナ)は、たしかに狼の姿をした大神であったため、まちがってはいない。
間違ってはいないが。
前世が狼だったから、野生の彼は森に愛されていた。だから今は植物たちが狼たる彼に加護を与えている――という、おかしな勘違いが生まれていたりするのは大問題であった。
当然、始もそれを信じている。

正しい詳細を述べるならば、狼だったが森に愛されウンヌンは関係ない。
それに彼のオーラが植物たちの栄養源にされているわけでもない。
ましてや春に植物を操る能力などないし、植物たちから愛されているわけでも、加護を与えられているわけでもない。
彼は前世の大神としてのエネルギーが残っているに過ぎない。そのあふれ出る神力によって彼が触れた範囲に大神の力が流れ込んで活気づくのだ。問題は、そのまま活性化した植物たちが今度は、春から生命エネルギーだか魔力だかを吸い取ってさらに増殖することである。

字『魔族になってから力の制御ができないっというか、あふれてるみたいで。そのせいで植物が過剰反応する!もうやだ!!いつかオレ、植物に取り殺されそう!!』
始『前世が狼だったか?ただの獣から、こうやって人の姿になったんだ。そ りゃぁ、普通にこの姿で生まれた俺達よりお前の方がさぞ力の使い方やらは難しいだろうさ。まぁ、元気出せ』
字『たしかに前世は獣姿だったけど!!違うんだって!いや、説明とかなんかもうどうしようもないぐらい意味をなさないのはわかってるけど。
うう・・・・元気とか出ないよ。もうオレの元気は持ってかれた後だ。
ああ、もう!またまきついてきた!!!どうやったらこの植物の暴走とめられるの!助けて始!じょそーざーい!!!』
始『切った傍からまた生えてるだとぉ!?おい、春。お前のその前世からの力って制御できないのか?この世界のものじゃないその力に関しては、さすがの俺も隼もまったく感じないから手を出せないんだが・・・・・おい。俺まで蔦が巻きついてるんだが』
字『なんか転生したら力が増えてたんだよ!!前世の力はそのままに魔族の力が追加されてて!!!ああああぁぁ!!ご、ごめん始!今日は一緒に、つか・・まって・・・・(ーー;)』
始『!?気を抜くな!お、おい!はるーーーーーーー!!!!』

わさわさわさわさわさ・・・

足を完全に蔦で拘束された春が、バタリと倒れた瞬間、そのままいっきに草花が急成長をはじめ、春の横にいた始までその魔の手は襲い掛かった。
始が能力で消すよりも早く、植物は一気に増殖し、そのまま二人を飲み込んでしまった。





 




始『・・・・・ひどい目にあった』
字『始が来るまでに時間がかなりたっていて、そろそろ魔力が枯渇しかかってたんだ。おかげで力も入らなくて。 前世の力の暴走とか、魔力の流出も自分じゃぁとめられなくなっていて。抑えるものも抑えきれなくて・・・あんなことに』
始『愚痴るよりも先に、そういう重要なことをはじめに言え』

こうして天族も魔族をも魅了する癒しの館こと、屋敷の中では、春は植物によってに癒される―――のではなく、植物によってつかまって日々団子にされているのだった。

今日もまた春と植物の格闘は続く。
そして植物と春との勘違いもまた、とどまることをしらず広がっていくのだった。





* * * * *
 




『―――カミサマはその巨大な力で一つの樹を生み出しました。
万物の命と死をつかさどるその力を内包したそれはやがて生命の樹(セフィロト)とよばれるよになりました。
樹はやがて、葉に命を与え、花に肉体を与え、天族と魔族という二つの種族を作りました』


隼『だから僕たちの核は、肉体の方ではなく先に生まれた葉である翼の方なんだよね。
これはこの世界に生まれた者たちが誰でも知っている事実』

隼『ところで、ねぇ、春。聞いていたかい?僕は“知識”の伝道師として、これをこれからこどもたちにきかせにいくんだけど。 劇にしたいんだよね。ほら、言葉で教えるより、おしばいとかで物として見せた方が覚えが早いっていうじゃない?それでどうせだから君の植物でこう生命の樹の演出をしたいと思うんだけど。ねぇねぇ!いい案だと思わないかい?』
字『そういうのは植物につかまって身動きができないで苦しんでいる友人を前にしてする話じゃないよねぇ!?』
隼『ああ、今日は可憐な藤の花が満開だねぇ』
字『伝道師なら創世秘話じゃなくて!オレの勘違いをただす知識をばらまいて!!!!!』
隼『まぁまぁww今日の植物は吸引系植物じゃないから、魔力の流出もそれほどないでしょう?それに、ほら僕ってば箸より重い物もったことないし☆テヘッ』
字『テヘじゃなーい!!!!』


隼『う、うん、ごめん。だって目の前でハサミがボロボロになったのを見ちゃうとね・・・』
字『わかるけど!わかるけどぉ!!!』



隼『・・・・始、よんでくる』



字『はやくしてー!!!!』

字『ん?あ!ぎゃー!!!!!!しま!しまる!!!!・・・う』
隼『!?』








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