も し も 話
[花悲壮] → ツ*キウタ



字春が魔族になりまして 02

 


心を揺らすと、存在が不安定にする。
それはすなわち寿命を短くする。

セフィロト(生命の樹)のこどもたちはそう教わっている。


それはなぜか?


『フハッ。なぁに、簡単なことさ。
生命の神が、私利私欲でひとつばかり世界を滅ぼしてしまったがためさ。
それを神の子らは本能で理解している。だから、心を揺らすことを恐れているのさ』


な、わけねぇーだろ。
そもそもこの世界の住人は、“疑問”をもたないがゆえに、心が揺れにくいのだ。

けれど。
いまのたとえ話が、それが嘘だとしても。はたまた今のが本当のことであったとしても。
この世界の誰も気にはしないのだろう。

この世界の住人は、答えを知らずともなにも疑問に思わず、誰も“世界”の真実をしろうとさえしないのだ。


それこそが、この世界が“誰かによって作られた世界”――神の箱庭である証拠だというのに・・・。





 

【02. 真実の断片と探求の王】
 〜 side 春成り代わり字 〜






 

字『ジャーン!春さんだよ』

なんてな。

オレの名前は《字》という。
転生者である。
だけどこの世界では、生まれると同時に神より名前をたまるため、その魂の名はしまい、いまは“春”と名乗っている。


転生を繰り返していると、いろんなことがある。
なにせ、オレの前世は犬で鹿だ。
正確には、狼で大神アマテラスだった。その後に、角が立派な鹿科の生き物に成り代わった。
そこからすったもんだの末に、さらに転生を果たしたわけだ。

この世界で時間の進みは遅い。
人間の時間で換算すると、オレでさえかなり長く生きている。
時間感覚が人間のそれとは違うので、うっかり昼寝していると人間の文明が一個滅んでいたりするほどだ。

眠る習慣はあまりこの世界にはないが、オレは昼寝が好きだ。
その夢のなかでオレは、いろんなものになった。

たとえば、鹿の後に今の世界に転生しなかったらどうなっていただろうか?別の世界に生まれてオレはなにをしていただろうか。
そんなことを考えながら昼寝をすれば・・・・
長い、長い夢を、みる。

夢の中ではいろんな世界を旅した。
いろんな者と出会い、いろんな世界に生きた。そうして夢の中で一生を迎えることも何度もあった。

真選組の副長であったり、ポケモンのトレーナーだったり、妖怪になったり、電子精霊になったり、 忍者になったり、浅利マフィアの暗殺部隊ボスをやったり・・・・高校でバスケをやって無冠の五将なんて言われたり。

字『ふふ。おかしいねぇ〜あれは全部・・夢。夢なのに、夢なのになぁ』

現実身をともなって、まるでそこにいままで自分がいたような――そんな錯覚を引き起こす。

この世界に人間はいない。
この世界にいるのは、魔族と天族だけ。

人間は、天族たちが管理する〈世界〉のなかにしかいない。

だから、オレがマフィアになるようなことも、高校生をやったり、忍者になるようなこともないのだ。



今世のオレの名前は、春。
なんと神様からもらった名前だ。
この世界には、人はいないが、神というものが実在する。

すごいよね。

いや〜、それにしても世界って面白い。
オレはいろんな世界を転生してきたけど、平行世界がのぞける世界って始めてだよ。
隼っていう天使が、じっくりと時間をかけて育ててる〈世界〉が地球なんだけど、オレたちは仕事の役割的に、その地球とは別の並行世界の地球のことも覗き見ることができるみたい。

言い忘れてたね。
この世界では、オレは魔族だ。

天族と魔族っていう二種類しか、この世界にはいません。
なぜならここは高次元空間。簡単にいうなれば、〈世界〉を管理するための特別な種族がいる世界ってわけ。正確には“その種族しかいない世界”とも言い換えられるね。
人間はこの世界に到達することも入ってくることも不可能。たとえこれてもそれはもう人間ではなくただのエネルギー体となってしまった――人間のなれの果てだろう。


この世界では生命の神が生命の樹となり、その花から天族魔族が生まれ、その葉がいとし子たちの羽根となった――といわれている。

字『ふふ。なら、どうして神様は樹に姿を変えてしまったのか。
むしろなぜ姿を変える必要があったのか。必要だったなら、その原因は何か?
その後の神様はどうしたのか。
――残念、そこのところは誰も知らないんだよね。
おかしなことに、その“なぜ”に対して、この世界の住人は疑問にさえ持たない。それはなぜか?』

それこそ、おかしな話だと思うんだけどねぇ。

字『簡単なことさ。この世界はその神様が作った世界。当然“管理された世界”だ。
世界を管理してるのは、なにもオレ達天族魔族だけではないということさ。
だから、誰も“しらないこと”を疑問に思わない。ここは神の作った箱庭だから、そういう生き物しかこの世界にはいないんだ』

それを知っているオレはなにかって?
なぁーに、ただの魔族ですよ。
ただちょっといろんな世界を転生しまくっただけの、術やウィルスなんか一切きかないっていう特異体質のね。

つまり神様によってこの世界全体にかけられた“創造主に疑問を持つな”という暗示さえオレには効果がなかったわけだ。


だからオレは疑問に思う。
誰もが疑問に思わないことを。



疑問とは、あいまいなこと。
探究とは、追究していくこと。
それらは真実への道しるべ。

知識を求め続けるのと、同義。


ゆえに。
今のこの世界で、ひとはオレを―――“探求の王” と呼ぶ。



そんなオレだからこそ、“だれもしらないこと”をしっていてもおかしくはないだろう?





字『なぁ〜んてね』





 




 


隼『おやおや春。ずいぶん悪い顔をしているよ?』

字『あ、隼!あいかわらずいっぱい服着てるね!布を一枚恵んではくれないかな?』
隼『君は本当に寒がりだねぇ。
今度から僕は君のその寒がり対策用に黒い布を調達した方がいいかな』
字『白くてもオレはいいよ?』

隼『なんにせよ・・・・ねぇ、春。僕は昨日も君に僕のストールをあげた気がするんだけど、それはどうしたのかな?』
字『ああ、あれ。・・・本当にごめん。ちょぉーっとひっかけてやぶけちゃって』

隼『・・・そっかぁ。君、また蔦に絡まったんだね』

字『なんとか始が救出してくれたけど、そのときやぶれちゃってね。自力で脱出しようとしたから、よけい無残なことになっちゃって。本当にごめん。
いいかげん“理解”の能力者以外の理解レベルあげよう。本当にマジで。 そうじゃないとおかしな勘違いが蔓延してる気がするよ、この箱庭で』

隼『君が植物を操る能力者って勘違いかい?それは難しいね』

隼『それより君の衣装を毎回決めてるっていう部下の子に、服の変更を頼んでみたらどうかな?』
字『それがさー、うちの“勝利”の子たち、徹底的で。オレの格好にストールはダメだっていうんだよ。空飛ぶとき寒いじゃん!!風が隙間からビューってくるのにダメダシだよ!!風邪ひいちゃうよ!ひかないけど』

隼『なんでも詳しい“探求の王”である君が、そんな寒さ対策さえしらないんて』
字『しってるけどさせてもらえないんだって!』


字『あとオレは“探究者”ではないよ隼(クスクス)』

隼『うん。僕は“しっている”よ。君が“真実を追い続ける者”ではなく“真実を識る者”であることを』

字『ふふ、秘密だよ』
隼『もちろん。だから春、“僕の秘密”も黙っていてね』
字『当然』

隼『そうだね。なにせ――』





『『僕(オレ)たちは、世界創造の共犯者だ』』








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