外伝 ・ も し も 話
[花悲壮] → ツキウタ



【SS-15】 むかしのこと

<詳細設定>
【弥生字】
・本名《字》
・魔法のある世界の春成り代わり主
・二つ前の前世【復活】より超直感引継ぎ
・一つ前の世界は【黒バヌ】の花宮成り代わり
・魔力豊富な世界で、生まれつき魔力0体質
・だれも本名を呼べないので、むかしは《花》と呼ばれていた
・芸名『春』
・前世から変わらず、見えてはいけないものが視える
・世界に嫌われてるのでよく死にかける
・始の魔力で生かされてる
・始は充電器か空気という認識

※『09話 過去編』番外編









こないだ話していた過去のこと。
今日はそれについてちょっと語ろうかな。







【重ね模様の春の日々】
 〜 side 春成り代わりな字 〜








君にだから言えるけど。

みんなには、秘密にしてね。
だって人の苦労話なんて聞いてもいい気分にはならないでしょう?
だから詳しいこと、語る必要はないかなぁって思ていてね。

まぁまぁ。
そうだね、とりあえずこどもたちには黙っていてくれるかな?

うん、ありがとう。


じゃぁ、まずはオレのこと。
オレはちょっとこの世界の異物に近いらしくてね。それはもうはしっているよね?

ごめんごめんww
じゃぁ、始との物語でもきいてもらおうかな。
何度も言うけど、君が思うほどいい話でも笑えるものでもないよ?


そう。なら、聞いてもらおうかな。



『そうだねぇ、オレと始の出逢いって聞いてる?』

そうそう。それね(笑)
バスケットのパス練習のときに失敗しちゃって、おもいいきり隣のコートの始にぶっとんでいったんだ、それ。

オレが始にはじめて声をかけたのは、その小学校の体育の授業がきっかけだったかな。

もちろん、始めのことは入学したころから知ってたよ。
だって目立つんだもん始。

なにをしてもなんでもそつなくこなしてしまう。しかも人望はあるし、容姿もいい。まさにパーフェクトだよ!って、みんなが言ってたからね。
オレはそう思わないのかって?
思う思わない以前に、誰が美形で誰が美人とかよくわかんない。
人間みんな同じに見えてるしね。

始の容姿がいいのかはわからないけど、やたら眩しいオーラ放ってる子がいるのはしってたよ。
それに、そのころは眼鏡をしていなかったから、さえぎるものがなくて、それはもう世界がまぶしく見えていたんだ。

とはいえ、あの頃の始は、笑っていても楽しそうじゃなかったかな。
まるで完璧に作られた綺麗なだけの人形みたいで。

え?いまの始からは信じられないって?

・・・うん、まぁそうだろうね。

なにがわるかったのかな。オレと過ごすうちに、なぜか始に「笑い上戸」と「ツッコミ属性」ってのがついちゃって。
オレがする行動すべてに、激しいツッコミをいれてくるようになって、そのうちもう一緒に楽しんでしまえとばかりにふざけるようになってね。
その頃には、睦月と霜月という御家柄交流があったらしい隼も加わってね。
「たのしいことはないかな〜」と思っていたらしい隼と笑い上戸の愉快な始が出会ったものだからさぁ大変。とめるひとがいなくてねぇ。
時空に穴をあけるのは序の口。巧妙ないたずらを仕掛けては優雅に笑う・・・なぁ〜んてよく見る光景になっちゃったね。





* * * * *
 




いまだから言うけど・・・
始と会った当時のオレは、こんなに長く生きられるとは思ってなかった。

『どうしてって言われても困るかな(苦笑)
・・いろいろ、あったんだよ』

始と出会う前までのオレはね、けっこうな頻度で寝たきりで、あまり長い時間動いてられなくてね。

ああ、ほら。そんな悲しそうな顔しないでよ。
いまは元気だよ!
やりたかったバスケもできる。歌って踊れるおにいさんにもなれた。

これもぜーんぶ!!


『始のおかげ!!』





* * * * *
 




始と会う前のオレは、はっきり言って自分の存在を保つのでさえギリギリだったんだ。

知ってのとおり、ロジャーさんと切り離されればオレは死ぬ。
まぁ、簡単に言うとオレの魂が独立して動いてるのがロジャーさん。オレの魂=ロジャーってことなんだけど。
そこが問題。いつもなら指輪みたいなかたちで、オレの側にロジャーさんがいるんだけど、それさえ叶わなかったんだ。
むしろ少しでもオレがなにかしようとすると、ごっそりなにかしらのエネルギーをもっていかれるようだったよ。 魔力がないオレからとれるものっていったら生命力ぐらいだろうから、あれはたぶんそういったものだね。

当時、ロジャーを具現化しようものなら、あっという間にロジャーさんの存在そのものが消滅しかけるしまつ。
魔力がゼロという体質では、ロジャーを生かすだけの力がオレにはなかった。

当然、死にたくなかった。

必至でロジャーを自分の中におしこめて、ロジャーをこの世界にとどめ、世界から消されないようにしてた。
それだけでも本当に精一杯だったんだ。

魂が傷つけば、意識を保つことは難しい。
魂が破損すれば存在が削れたということ。つまり周囲の人間からオレという存在、記憶が消えていくんだ。

痛みに苦しみながら、それを見てるしかできなくて。
どれだけ手を伸ばしても、零れ落ちてしまったものを拾いなおすことはできなくて、目の前にいた友人が突然知らないものを見る目で見下してくるのは、あまり何度も体験したいものじゃないよね。

魂の破損。
それを無理やりつなぎとめる行為は、やはり無償ではなくて・・・ そのせいで、ある程度回復するまでは、寝たきりだったり、反動が体のどこかにきて動かなかったり、痛みが出たり。そんな障害が出ることもあった。

魂をこの世界に存在させる。
“生きる”ということを維持するだけで、すぐに限界を超えてしまう。
息をするのもつらかった。体はいつもだるくて、走るという行為さえすぐに息切れを起こす。
よく倒れたよ。
そのたびに、次に意識が戻ることなくそのまま世界から消されてしまって、目覚めないんじゃないか。とも・・・何度も何度も思った。

この世界はむかしから魔力の存在が認識されていたから、そういう関係の医者もいるし、薬もあった。
医者から、魔力を補助する薬を渡された。
それでも、オレの魔力減少率には追いつけるものではなくて。

できるだけ魔力を減らさないためには、オレは動かないことがベストだった。
体を動かすだけの魔力がないんだから当然だよね。
だからね、本当は運動とかも厳禁だったんだ。
激しい動きはそのぶんよけいに体力やらエネルギー消費するから、魔力もその分消費する。そうなると魂の維持ができなくなるからってね。
おかげでいつも体育の授業は不参加。
でもたまにどうしようもなくなって、親には内緒でみんなに混ざって遊んでた。

そんなときに始と会ったんだ。

いやぁ〜はずかしいことに、あのパスのあと、「やべぇ〜やっちゃったよww」と申し訳なく思って笑ってたら、みごとに倒れたよね。
しかもその後も何度かやりすぎて意識がぶっ飛んでどこかで地面とキスしてるときばっか、タイミングよく始がくるわけ。
そうやって拾われるたびに、ちょっとだけど身体が軽くなるような、少し楽になるのに気付いた。
なんでだろうなと思ってた。
そのときにはまだ理由がわからなくて、むしろ理由を考えるようなゆとりがオレにはなかったんだよね。

小学校に入ってからの何度目かの意識喪失事件で、オレが倒れていた現場に、これまたたまたま通りかかった始が遭遇したんだ。
肩をかしてくれて、そのまま保健室に連れてかれて、そこで「死んでるかと思っていつも肝を冷やす」と言われてね。
そのあと始のやつなんて言ったと思う?
始はさ、「いつもおれのいく先々で倒れるな!運ぶのが面倒だ!もういっそ側にいてやる!」という見事な始節をきかせて、啖呵をきり。本当に側にいてくれるようになったんだよね。笑っちゃうよね。

それから始が側にいると、魂を維持するのが楽になるって判明したんだ。
どうやら始の人外じみたありあまるほどの魔力が、からっぽのオレの中にひびいて、魔力補助の錠剤飲むよりはるかにオレのなかに魔力がはいってくるようだってわかった。
相変わらず普通の人みたいに魔力を自分で作ることも、それをためることも、自分から取り入れることもできない。
ただ体の中に流すだけ。
それだけでも、全然違ったね。

始にふれると生命力をもらえる。
命があふれてくる感じがとても暖かった。

オレてきには、体の中に血液が流れていくように、酸素がいきわたるように、すがすがしい気持ちなんだけど。
とうの始からすると、別に分け与えてる感じもなければ、なにかが減ってく感じもな〜んにもないんだって。
たぶん始がもつ“魔力”はとっても大きいんだろうね。
オレはその器からあふれた余波をあびて生きてる。


でもずっと始と一緒に過ごせるわけじゃない。
それこそ最初は気分がいいからと体育の授業なんかにも調子こいてでたら、数日意識不明とかね。
ためておくことができないから、始が傍にいる時しか魔力が体に入らないって気づいたのも倒れた後。
始の家族にも事情を説明して、家族ぐるみでいろいろ試行錯誤して、できるだけ始の傍にいるようにした。
それでもやっぱり長くはたもたなくて、学校も休みがちだったよね。
オレの家族はいつも不安そうで、目を真っ赤にさせて・・・心配かけさせちゃったよね。

身長もちょこっとのびはじめて、中学生になったくらいのとき、遊びで伊達眼鏡をかけたら眩しかった世界が落ち着いて見えた。
すっかり忘れていたけど、オーラとかって人工物越しに見ると見えなくなるんだよね。
そこからは眼鏡をかけるようになったよ。

それから少しして、はじめて隼と直接会う機会がおとずれた。
隼のことは愉快なやつってことで、始からはきいていたし、オレも電話や手紙のやりとりはしていたから知ってた。
もはや幼馴染その2っていってもいいかんじだったかな。
ただオレの体調のことと、隼の家が京都にあったせいで、直接は会えたのはそれがはじめてだったんだ。

そこで魔力にくわしい隼にも協力してもらって、三人で一生懸命考えたよ。
オレも死に物狂いでいろんなことを試した。
本当に何度か死にそうになったけど、二人が一生懸命引き留めてくれてなんとか今があるって感じかな。

中学の終わりぐらいに、ようやくロジャーさんを表に出し続けておくことに成功した。
そこからはロジャーさんを端末として、魔力を受け取ることができるようになって・・・。

ふふ。この後はもうわかるよね。

ようやくオレは自分だけの足で、始が傍にいなくても走ったり動いたりできるようになったんだ。
もう一日一日がすごい楽しかったよね。
高校の時は動けるってのがすごい嬉しすぎて、勢いのままにバスケ部に入部しちゃったからね。
睦月の人やうちの家族にめちゃくちゃ心配されたけど。

いまなんか激しいダンスしても平気だし、あのとき死ぬ思いしたけど、始たちとがんばってよかったなぁって本当に思うよ。

ただ、これの難点は、始の体調不良とリンクしちゃうこと。
始の魔力が乱れると、ロジャーさんへの魔力共有が不安定になるから、すごいそわそわしちゃう。

オレによく徹夜はするなって始は言うけど、始も無茶はしないでほしいな。だってオレが死んじゃうから。





まぁ、オレの話はだいたいこんな感じかな。

ロジャーさんを始につねにくっつけているのは、オレの魂を常に始の魔力で生かしてもらっているということ。
つまり――

『オレ、始が死なない限り死なないの(笑)――ってことかな』








だからね




『一緒に長生きしようね。ね、始』








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