外伝 ・ も し も 話
[花悲壮] → ツキウタ



【お題】 隼さんが喚んじゃった♪ C上

<今回交わった世界について>
・原作よりの世界
・字春と魂だけ入れ替わった獄族の〈はる〉のいる世界

<表記について>
※原作寄りの世界の住人・・・「 」
※召喚された人々・・・『 』

とにかく!洋服にこだわったので見てほしい!
洋服の詳細については、もうしわけないぐらいわざと文章を細かく!かつ長く書いています><
後編も洋服に注目してくれ!(笑)






『お前たちの願いはなんだ?俺たちの世界を壊してまで望むものか?』


それは心の臓をそのまま凍りつかせるのではないかと思うほどに、鋭く冷めた声だった。
ごっそりと表情の抜け落ちた“はじめ”の目は、もはや自分たちを仲間とはとらえておらず、むしろ憎き親の仇かはたまた敵を前にしたような激情の炎が静かにゆらめている。
その敵意しかない冷め切った眼差しで、淡々と事務的なことを聞くように紡がれた言葉に、隼は冷汗がおちるのを止められない。
眠ったまま目覚めない相方を守るようにかかえる“はじめ”は、あきらかに怒っている。
その彼が唯一ヒントのようにこぼした“単語”。
それの意味は――



その世界は、“願い”が現実となる。
そのしばりをうみだしのは、ひとりの男だった。

0(はじまり)の名をもつ男は、己の‥いな、人類の悲願をとげしもの。
彼は[世界の大いなる意思]のもとへ到達し、“始まりの力”を願った。
けれど[世界]は彼に“終わりの力”を与えた。


そうして世界に[世界]の“こ”らが生まれた。


一番最初の“こ”らは、欲深き咎人たち。
[世界]の怒りにふれた彼らは永劫の罰をうけ――そして[世界]の最初の“こ”となった。
力と永遠の命を望んだ人類に与えられたのは、死のない命。それに嘆き悲しんだのは、“だれ”だったか。

二番目の“こ”らは、愛情を守るための鍵。
彼らは[世界]の慈悲の心そのものなり。
愛しさゆえに、“こ”らは光のない世界に絶望す。

三番目の“こ”らは、剣にして盾。
彼らは[世界]にかわって“心”を守る無情なる盾。
彼らは怒りを糧に剣となり、慈愛を殺すものを葬るが役目。

四番目の“こ”らは、なんでもないもの。
一番目の残り滓に力が憑りつき形を得たもの。
[世界]はそれには興味を持たなかった。


悲しみ、愛情、怒り、無情。[世界]がこどもたちにわけあたえたそれは、証。
その魂を[世界]がにぎっているという印。

しかしそのうちの一つが、いま“ここ”にあった。

『世界の鍵まで望んでなにを願う?』

それは、その存在一つで世界の再生も滅びも司る――“鍵”。



隼は、今度こそ冗談やうっかりではすまないものを呼び出したのを自覚していた。
きっと“鍵”を守る“盾”が、今頃は守る存在ではなく敵を切り倒すための“剣”となって、こちらへ向かっていることだろう。
やがてくるだろう何かの存在を感じつつ、隼はこちらの始を振り返り、己の世界には手を出されないようにと気を引き締めた。







【喚ばれちゃったよ♪ C 太極伝奇〈はる〉】







それは両儀の壊れた世界、月野国にて。


両儀が壊れあとは崩壊だけを待つ世界で、範囲はまだまだ狭いが“花”がひらき、氷と暗闇に満ちた世界に暖かな春の風をふかせた。

その芽はまだ世界中に根付かせるには儚く、とても小さなものであった。
そのため、誰もがあたたかくその花が育つのをゆっくりと優しく見守っていた。

『はるくん!はるくん!お花さんはね!こうやってふわーってさかすんだよ!』

擬音や謎の感覚で、力の使い方を〈はる〉に指導しているのは、〈はる〉と属性が同じ系統である〈藤村まもる〉だ。
彼もまた獄族で、月野国が生まれるよりも前から長くある藤と、小さな郷を守るためにうまれた第二世代である。
〈まもる〉は花を咲かせることにたけているため、“春”を司る〈はる〉とは相性がよく、〈はる〉は獄族としての力の使い方を彼から学んでいるところだ。

契約者を得たことで力も精神面でも安定しだした〈はる〉だったが、獄族本来の力はほぼ枯渇状態であった。
そのため月野国にきて、はじめに花を咲かす練習を始めたのだ。

それは“願い”の成就のための、第二世代の獄族として本来の力を取り戻すための第一歩。


彼ら第二世代の獄族は、ほかのどの獄族とも違う。
第二世代は、必ず記憶を持って生まれる。
その“記憶”とは、己の業にかかわるもので、それは太陽のあった時代の[世界]の記憶である。直接見て知ったのではなく、“世界が滅びる前の記憶”を生まれたときから持っているのだ。それが第二世代がきわめて特殊な獄族といわれるゆえんでもある。

そしてもう一つ。第二世代が特殊と言われるゆえんは、彼らの魂を形成する“核”である。

本来人も獄族も背負う業は“己の願いに準ずるもの”である。
しかし第二世代だけは異なるのだ。彼らの背負う業は、第三者の誰かが強く強く願った“願い事”だ。
つまり他者の“願い”を核に、彼らは顕現しているのだ。
第二世代の獄族だけが[世界]によって形を得て作られた存在であるのだ。

彼らが背負う業にして、核であるその“願い”は、たいがいは名にあらわれる。

例えば〈はる〉の場合は、そのまんま“春という季節があった時代を取り戻したい”“春をみたい”“春の温かさをもう一度”“花咲く春という季節を”そんな“春”をもとめる願いの集合体が獄族の〈はる〉だ。

この世界で唯一“春”を取り戻すことができる存在でもある。

その身を形成する“願い”の成就は、第二世代の心次第。彼らが真に取り戻したいとさえ願えば、すぐにでも世界に“春”を再びとりもどせる。
[世界]に願うのだ。そうすれば、第二世代の獄族の“声”は[世界]に届き、“春”はもどってくる。



そもそもこの世界に最初に生まれた獄族は、元はただの人間であった。
力を望みすぎた人間たちが、世界の両儀を壊すほどの実験を行い、結果として望む以上の力をあたえられ異形の姿へと変化し、不老不死という永劫の枷を付けられた。
その存在が第一世代、はじまりの獄族である。

第二世代というのは、生き残った人間たちやはじまりの獄族の願望をもとに、[世界]が人間はまだ生きる価値があるかないかを見極めるために作られた存在だ。
人類への裁きをその後の彼らの行動ではかろうと、[世界]の大いなる意思により第二世代の獄族はつくられた。

ゆえに、第二世代の獄族たちの声だけは[世界]に届くのだ。

もしも第二世代が世界に絶望したままだったら。
もしも第二世代が全員ひとに狩られてしまったら。
もしも第二世代が全員死んでしまったら。

[世界]はそのときこそ人類を許さず、世界からひとは消えるだろう。
次は、咎人も救済も生き残りも何も残らずに。



[世界]は常に第二世代のこらの声で、人のありようを判断している。

ここで〈はる〉が「もう人の子を許してあげてほしい」と心から願えば、それは[世界]に届き、きっと人はゆるされる。
はじまりの獄族にかけられた不老不死という永劫の刑罰もおわり、すべてが許されることだろう。

“願い”の名を持つ第二世代こそ人々の希望。世界を救済する唯一の手だて。
第二世代が“願い”を成就していけば、両儀はもどってくる。
だからこそ、第二世代が、世界の愛し子や、両儀の鍵とよばれるのである。


しかし〈はる〉にはいま[世界]に“声”を届かせるほどの力がない。
両儀を戻すにしても、“春”を呼び戻すにしても。彼がその力をふるうほどの全てが整っていなかった。


少し前まで〈はる〉は、眠っていた。
夢の中では、光あふれる世界で、太陽の下を歩きながら――。

現実は生を望まず、生きることに疲れきっていたため、世界に太陽が戻る前に眠ってしまっていたのだ。

そのまま眠り続けていたり死んでしまっていたら、この世界には二度と“春”はもどってこなかった。
それが無意識にでもわかっているから、死ではなく眠るという選択を〈はる〉は行い、愛し子たる〈はる〉の肉体を保つために、最近まで別の存在が、その身体を動かしていた。だが、当然ながらそれではだめなのだ。
[世界]にとっての愛し子は、「代理の春」ではない。本物の〈はる〉だ。


その〈はる〉が目覚めたのは、まだ半年もたっていないほど本当に最近のことだ。
目覚めた〈はる〉は、魂の著しい損傷をおっており、肉体精神共に弱りはてていた。
ここまでもったのは、〈はる〉を支える契約者との出会いがあったからだ。


そのような事情から今の段階で〈はる〉は、本来使えるはずの“願いを叶える力”をうまく振るうことができないでいた。

第二世代の獄族は、生まれながらにおのれが役割と名を知っている。それは彼らを形成する“願い”がそのまま彼らの力であるためだ。

しかし〈はる〉は一度名をうしなっている。
それは「代理の春」が起きている間におきた事件が原因で、名が分からないほど記憶が混濁し、魂は摩耗してしまった。これにより〈はる〉は著しく本来の力を失ってしまったのだ。
そのため、この世界に“春”という季節を取り戻すことはまだできてないない。
ならばまずはゆっくり静養し、存在のゆらぎを落ち着かせ、できることから始めよう。と、周囲の仲間たちが彼に「小さなこと」をすすめた。

まずは精神的に〈はる〉に元気になってもらおうと、王族たちが〈はる〉をつれて買い物に出かけたり町を案内したりした。
最初はそうやって人間の生活に慣れさせることからはじめ、〈はる〉が王族の庇護下にある証として〈あおい〉が衣服を一式プレゼントした。

 仕立てられたそれは、元のベースのデザインや色は変わらず、しかしすべてが豪華に変わっていた。
 たとえば腰布だと、紫一色だった布には、王家を示す三日月と〈あおい〉のシンボルであるヒバリの柄が一面に入ったエキゾチック風なこったデザインとなっている。重そうな見た目のからは信じられないぐらい軽く、防御にも秀でているとか。王家の印を服に入れ込むことで、王家の庇護下にあることをしめし、身の安全の保障をしているが、当然そこまで〈はる〉に教えてはいない。とにかく利便性さえも備えていることは間違いがない。
 上着には、肩から袖裾にかけて銀糸で藤の花の模様が刺繍され、その銀の糸には、花にかかわる属性を持つ獄族〈まもる〉と〈こうき〉という二人から「もう寂しい思いをしませんように」とたっぷりの加護がこめられている。
 〈はる〉が始と出会う前まで身に着けていた紺色の帽子は、とある事件によりなくしてしまっていた。それを聞きこの国の王族たちが新調しようとしたが、「太陽をもっと浴びていたいからもういらない」と〈はる〉が断った。
なお、ここで契約者の〈睦月はじめ〉が、こういうときこそ買ってあげるべきではないのかとおもうだろうが、思い出してほしい。彼の家は究極の貧乏にして、一族全員術や研究に金を使いまくる浪費家でもあるのを。つまり護符やら術やらはなんとか自力で付与することができるが、よい生地で帽子を新調するなどという貯金てき概念は彼らにはなかったのである。
 そしてかわりとばかりに、薄く向こう側が透けて見えるほどのストールのような羽織を王族と他超フレンドリー獄族たち合作により作られた。 契約者ができたことで光に強くなったとはいえ、何千年と太陽を浴びたことのない箱入り息子同然の〈はる〉だ。太陽の強さに肌がまだ慣れないからという理由で、あついときは頭からかぶって日よけに。寒い時は肩にかけるようにと贈られた。
しかも第二世代の獄族の新たな同胞の発見なんて何百年ぶりの吉報か。これにはひきこもりにひきこもっていた第一世代の獄族もうかれて王城にかけつけてくるほどだった。
つまりそれら王族やら旧世代の獄族たちが、初孫へのプレゼントを贈るときのテンションで、ここぞとばかりにセンスを発揮してつくられたストールはもはや国宝級のしろものとなっていた。
はためには白のように見えるのだが、光を取りこむとうっすらと黄緑がかってみえる。そのストールはかかげれば透けて見えるのに、羽織っている本人のもとには強い光が届かない仕組みだ。これは、織り方そのものが術式をえがいており、光をさえぎる効果が施されている。そのためこの光をさえぎる術は、布が裂けて術式が途切れるまで永遠と効果的面である。しかも完成した布に自動再生機能と自動汚れよけ機能の術式がほどこされたため、年月による停年劣化の心配もなければ、そんじょそこらのことでは光の術が消滅することはない。
なお、その布の表面には一つの物語が刺繍されている。それは白い光沢のある糸で桜と鶯の絵が刺繍され、“春”の物語が描かれている。
これは、〈はる〉の事情をきいたこの国のたぐいまれなる術者たちが『人側代表』として、季節の“春”らしいあたたかな気持ちでいれますようにと、もう「怖い思いをしないように」と、人族最大の加護の術が一針一針想いとともにぬわれている。
 それにくわえて、「はるに服をあげるなら僕だって!!!」と、どこからきいてきたのか大陸にいた〈しゅん〉が、半透明な白い見事な織物を送り付けてきた。その布自体になにかしらの効果や加護があるのかもしれないが、そうでなくとも獄族の中で一番に力が強いと言われる〈しゅん〉の気配がべったりのそれを身にまとって小物がちかよるはずもない。ただの織物はすでに見事な厄除けの役割もになっていた。

つまりいまの〈はる〉の衣服には、すべてに愛情と加護がたっぷりこめられており、すべてが〈はる〉を想って作られている温かい気持ちの結晶なのだ。
「はるくんは幸せになる権利がある!」「どうかはるさんが幸せになれますように」そういったみんなの願いが込められたのそれ。加護のこと、柄に込められた意味、布に織り込まれ刺繍にも施された数々の術のこと。その意味をわざわざ作成者のだれひとりとして教えることはなかったが、それでも〈はる〉の中に優しい気持ちは届き、その心の中のしこりがまた一つほぐれたのだった。


そうして月野王国で時を過ごした〈はる〉は、次は己の力と向き合うことにしたのだ。

それが“植物を咲かすこと”だ。

その指導員として選ばれたのは、〈はる〉と最も近しい“願い(属性)”をもつ第二世代の獄族だ。
藤の咲き続ける村の守護を“願われた”花を咲かす力を持つーー〈藤村まもる〉であった。

だが、この〈まもる〉。教え方がなんともいいがたい。感覚をそのまま言葉で言うのである。しょせん、擬音のオンパレードである。
おかげで〈まもる〉の言葉に一つひとつ解説を入れてくれる者が必要となった。その役目は、〈まもる〉を守るために生まれた第三世代の〈衛藤こうき〉が行っている。
〈はる〉と〈まもる〉の側にて、呆れたようにため息をついては、〈まもる〉のいいたいことを誰にでもわかりやすく翻訳してくれる金髪で見目が美しい獄族こそ〈こうき〉だ。

現在〈こうき〉の契約者は〈りょーた〉。〈まもる〉の契約者は〈けんすけ〉という。

どの世代であろうとも獄族に寿命はないため、契約者がいない期間もある。そのなかにあって「月野国の第二世代の獄族たち」は、基本的に契約者する者が多い。
“土地の守護”や“一族の繁栄”などの限定された場所での願いをたくされたものは、その土地を離れることがないためだ。

核たる“願い”が、“そこにあるものの継続”であるならば、第二世代はそのままその土地に根付く。
“そこにあるもの”とは、すなわち土地であったり、土地に生きる物たちのことであったり、限定したなにか(例えば血統や藤…等)である。

人間たちは獄族を置いて逝ってしまう。そうして代を重ねていくが、寿命のない獄族たちはともに逝くことはかなわないため、その一族を、ときには核の対象となるものをまもりつづける。
第二世代は“世界に引き継がれる願い”をその身に核として持っているため、他の獄族とは違い契約者をもつパターンが多いという。
引き継がる物や者、血、命・・・それを守り続ける。
それは子へ未来を託した先人たちの想いをその子孫へ引き継がせるためでもある。
伝えるは万を生きる獄族の役目。伝えるために守り続けるのだ。


別の大陸で、ひたすらに孤独であった〈はる〉は、この国にきて「土地に根付く獄族」というのを始めてしった。そのときは獄族たちの表情の違い、風習の違いに驚き目を丸くしていた。

衛『はるくんはね。たくさんたくさん俺たちをしって!それで元気になって、幸せがいっぱい溢れだしたら、それであったかい春を呼んでね』

〈まもる〉は戸惑う〈はる〉の目の前でたくさんの花を咲かせて見せ、〈こうき〉がそれをせっせと集めて花冠を作り上げる。
あふれる花に〈けんすけ〉が追加の花冠を楽し気に作り、術にたけた〈りょーた〉が〈こうき〉から渡された冠にまじないをかける。

春『オレには・・まもるくんや“花”さんのように、花を咲かす力は・・・』

衛『ある!あるよ、はるくん。だって君はそんなにもあったかい!ねっ!こうくんもそう思うよね』
昂『ああ。そうだなまもる』

春『でも』

昂『はるさんだってできるようになります。まずは“春”っていう現象に近いから物から知っていけばいいと思いますよ』
剣『そうそ♪それにうちのまもるができてるんだ。はるさんならすぐにでもできるって!』

春『けんすけくんまで』

涼『できた!はい!』

春『これは?』
涼『しばらくの間だけだけどね、光に当たって花の色がかわるから。これでもみて元気出して。
はるさんはさ、きっと真面目過ぎ。うちのまもるの能天気さをみならったほうがいいと思うんだよね』
衛『えへへ!りょーくんにほめられた』
涼『いや、ほめてないからね』
衛『ほらほら、はるくんみて!光でキラキラして綺麗だよ!りょーくんはとっても手先が器用だからね!(エッヘン)』
涼『なんでまもるがむねをはるの』
衛『だってりょーくんの術はとっても!こう!胸がふわぁ〜!!!!って!ポカポカあったかくなるんからね!』

渡された花冠は、光にかざしてみれば、言われた通りれぞれの花が光を吸収しては違う色に変化を繰り返す。
触れてみれば、〈まもる〉の言っていたこともなるほどとばかりにしっくりくる。胸がホッコリする優しい感情が伝わってくるのだ。
それに〈はる〉は不思議そうに胸を触りながら首をかしげ、その様子に気付いた〈こうき〉がふわりと笑みを見せる。

昂『はるさん、“春のようなあたたかさ”というのは、いま、はるさんが感じている“あったかい”って気持ちと同じなんです』
春『あったかい、きもち?』
昂『ええ。それが“春”です』

この国には短いが“春”という期間がまだ存在しているのだ。
それをしっているからこそ、四人はニコニコと笑う。そんな彼らにかこまれ、陽射しよけに頭からかぶっていたうすいストールの上に花冠を置かれる。
〈まもる〉がさらに花を生み出し、他の者が作業を続け、キラキラした花が増えていく。

自分の頭には目の前のこのキラキラしたものと同じものがのっていて、目の前のキラキラは「綺麗」だけではないものを自分の中に与えてくれる。
「これが・・・」と自分の中に浸透するような暖かな気持ちに胸をおさえ、ポカポカした感覚をもっと感じようと目を閉じる。
自分のなかにある“春”をさがそうと暖かなものを追っていけばーー

ふいに周囲から「わぁ!」と驚きいたような歓声が上がる。

パチリと目を開けば、先程とは打って変わって〈はる〉や〈まもる〉たちを囲むように、直径2mほどだが地面が見事な草と花でおおわれていた。
パチリパチリと不思議そうに瞬きをしてもかわらない。

衛『やったねはるくん!』
剣『さっそくできるなんてさすが!』

その小さな花畑はどうやら〈はる〉が起こした“奇跡”らしい。

いままでできなかったそれに、本当に自分がやったのかと、信じられないとばかりに戸惑っていた〈はる〉だったが、四人に誉められ四人だきつかれてもみくしゃにされているうちに、己でも“なにかができることがある”のだと笑みを返した。



『お!やってるな』

五人で花をめでて互いに互いを飾りあっていると、〈朏ゆづる〉が〈あおい〉をともなってやってきた。
よぉ!と手をあげられたので、嬉しそうに〈はる〉と〈まもる〉が笑顔で手を振り返す。
〈こうき〉はペコリとおじぎをし、人間である〈りょーた〉と〈けんすけ〉だけがビシリとかたまって背筋をのばす。

さすがにどれだけ王族がフレンドリーであれ、身分差というものがあった。
〈ゆづる〉は月野国の存続させたいという“願い”から生まれた第二世代の獄族であり、長くこの国を王族に仕えることで見守ってきた存在だ。その横にいるのは、れっきとした現在の王族がひとり。
そうなれば平民でしかない〈りょーた〉と〈けんすけ〉は、さすがに落ち着かないというのもしかたがない。
そんな二人に〈アオイ〉が苦笑し、獄族たちから離すと、「いい加減慣れてくれないかな」と話しかける。
〈あおい〉の雰囲気と話術で次第に肩から力がぬけてくると、〈りょーた〉と〈けんすけ〉も先程作っていた花冠をかかげて、話題はそちらにうつり三人の話は盛り上がっていく。
のこりの花冠は〈あおい〉の頭に添えられる。

〈はる〉は〈ゆづる〉の服裾を引っ張り、自分が咲かせた花をみせる。

その拍子にふわりと白い衣が光を反射して一瞬、春のような黄緑に変わる。
本人は暑さでばてないですむとただただ嬉しそうにそれをかぶっているが、色が変わるのも効能もすべては技術の粋をきわめた一品ゆえである。

薄い衣はまるでベールのようで、その上に髪留めのように花冠が載っていることで動き回ろうと衣がずれることはない。ベールをおさえこむ花冠は、生花でありながらキラキラと光で色を変える。ゆえに花の匂いに誘われて蝶までやってくるほどだ。
無自覚であろうが〈はる〉の無邪気な笑顔とそれらがあいまって、“春の化身”とはこういうのをいうのだろうなと〈ゆづる〉の表情が緩む。
〈ゆづる〉はそんな〈はる〉をみて、あとでこの衣装の大半を作った自分の国の暴走老人たち(死ぬ気が全くないピンピンしている第一世代の獄族たちのこと)に褒美をあたえようと心の中で誓った。

朏『ああ、きれいだな』
春『そうでしょう!朏さん!みてください!オレにもできました!』
衛『俺が教えました!(ドヤ)』
昂『まもる・・おまえ』

朏『はは。俺が言いたかったのはちょっと違うが、まぁいい。
相変わらずだなぁお前たち。
さぁて、はる。そろそろ王宮に戻ってくれるか?お前の相方が研究室に籠って出てこなくてなぁ』

「よくできました」と言うように、〈ゆづる〉は花冠をよけ〈はる〉の頭をわしわしなでる。
っと、そこで〈ゆづる〉の言葉に〈まもる〉と〈こうき〉の顔が引きつった。

衛『ひぇ〜。本当に”あの睦月”の家と契約したんだ、はるくん。あの家じゃぁ大変でしょ!頑張ってね!!』
昂『あの睦月と契約をしたなんて!?貴族なのに術の研究の方が好きすぎて、金を家の補修に当てるぐらいなら研究費に使う!!って初代が宣言して以降、本気で家の修復をしていないせいでほぼ幽霊屋敷のようになり果ててるあの屋敷にすんでる“あの睦月”となんて』
朏『あの家は今・・・はじめが頑張って床の貼り直しを計画してる。相方に見栄を張りたいなんて、術以外に興味を持つ人間が睦月に現れるだけいい傾向じゃないか。これで貯金という概念をあの一族が覚えてくれればいいんだが・・・はぁー、まず無理だな』

昂『あれほど貯金をしろと言っているのに・・・もしかして、はじめさんがはるさんと出会わなければ、睦月家の床もあのままだったのでは?そういえば睦月の床が抜ける前だったのはいつだったか。そうだ。あれはまだ二代目が生きてる頃に最初の穴が開いたような。初代の時にはよく穴が開かなかったものだね。初代・・・あれだ王族誘拐事件・・・ああ、思い出しても頭が痛い』
衛『しっかりこーくん!目が死にかけてる!!!』

朏『月野国トップクラスの貴族で、見た目がとんでもなく整ってるくせに、昔からやつらは術と研究以外には興味がないからなぁ。今じゃぁ魔窟だ。
いつかは睦月が貴族階級を捨てるかもしれないとは思ったし、いつか王族誘拐ぐらいするんじゃぁないかともおもったが、建国して直ぐにやらかされるとはこちらも思ってなかった』
衛『( ゚ー゚)ウ ( 。_。)ン( ゚ー゚)ウ ( 。_。)ンあれはない』

春『な、なにしたの睦月って』

朏『実はな、睦月の家ってのは、この国のなかではやっかいな立場なんだよ。
この国では階級が高いやつらと階級が低いやつらが争い起こしかねないんだ。だが睦月家は、今その中立にいる。
なにせ階級は高いのに、暮らしぶりは階級が低いものと同じだからな。
しかもやつら自分の好きなことしかないし。あげくすぐ研究だ興味のあるもののみにつっぱしる。で、金が常になく貧乏暮らしをしてる。けど王族なみに発言権がちゃっかりあるのであつかいにこまってるんだよ俺たちは』

春『かいきゅう?は、よくわからないけど・・・えっと、あ、でも床に穴があいていたりあの家は汚いんだってのはあらたに教えてもらったから知ってるよ。あ、えっと・・・つまりそれって、睦月の人たちが掃除できないたちなのは月野国建国当初からってこと?』

衛『なんかいろいろ違う気がするけど!間違ってない!もうそれでいいよはるくんは!』
朏『むしろ睦月の認識、もうそれでいいわ。やつらは掃除ができない一族。たまに国に富みをもたらす。もうその程度の認識でいい。その程度であってほしい!!』
昂『彼らを政に関わらせたのが一番間違ってたは、よーく身に染みて理解している』
朏『うちのあおいのでたらめな術よりやべぇわ』
衛『うんうん。だって睦月家って、お隣のドーナツ屋より稼ぎがないって』
朏『そういいながら、ある日突然。国を揺るがすレベルの突拍子もない術や機械を作り出すから怖い。しかもしってるか?あの隣のドーナツ屋。もとネタを提供したの睦月家だとよ。いわく、菓子のレシピは交換条件だったらしい。睦月の出した条件というのが最悪でなぁ、なんと術式や札を書くための紙が欲しいから「広告の裏紙をくれ」という条件ときた。どんだけお前ら金ないんだと言いたくてしょうがなかったよ俺は』
衛『わぉ』
昂『まもる、いますぐ郷に帰ろう。なんか歴代睦月家の“異業”の数々を思い出しそうだから、今すぐ帰ろう』
朏『あ、ついでにあおいもつれってくれ。睦月のやつらは珍しいもんや術に興味津々でなー。うちのあおいをすぐつかまえようとするからたちがわるい』
衛『あのひとたち、王族とか関係ないからねぇ(遠い目)』

春『ごめん。えっと、もう一度きくけど。その・・・歴代睦月のイギョウって・・・睦月ってなにしたの?』

衛『え。それきいちゃう!?』
朏『存在していた第一世代から第三世代までの獄族がとめるのも聞かず、国の立て直しを図りますと言ったそのすぐ後には重要役職をおりたのさ。
はっきりいって睦月というのはもともと王家の血を継ぐ王族にならぶ名家で、王位継承権ももっていた大貴族だ。だが、やつらなまじ実力だけはあってなぁ。没落したくせに完全には貴族階級から排除されず、研究成果を次々に発表していくしだいだ。だから貴族なのに貧乏で、平民と同じ生活をしているのに、それでもいまだ貴族なんだよ奴らは。
っで、その階級を放棄するような宣言をしたとき、退職金と抜かして王族を誘拐したんだよぉっ!!!』

春『えっと・・・たいしょくきん?おうぞくって・・・なにがだめなんですか?』

衛『あ、そっか。まだはるくんは人間のことはあまりしらないか。王族や貴族ってのはね、えーっと人間の中で偉いひとのことだよ』
朏『まぁ、ほかの大陸はしらんがこの月野国では、たぐいまれなる魔力を持ったものがえらばれる。
それほど力がなくてはこの国に貼られた結界さえ維持できない。当然、それだけの力があるから第二世代である俺とも契約が可能なわけだ。
それは血に脈々と引き継がれる。ただ研究狂いの当時の睦月当主が、そこに目を付けた。王族の神秘に挑むぞー!とノリノリで当時の王の妹君をさらって。あげく妹君がそれはもう筋肉モリモリゴリゴリの武闘家で。睦月の術VS筋肉と気合で術を弾き飛ばすなんてことがおきて・・・・まぁ、つまるところ、姫様が睦月の巨大な術をあちこちにぶっとばすので、国が一時期大災害の後のようになったという・・・・当然姫様は自力で誘拐犯のもとから帰還された。睦月の当主をぼこぼこにされていた。はぁ〜・・思い出したくもない黒歴史だ。国が滅びるかと思った』
衛『あのときはねぇ・・・復旧にすごく苦労したよね〜(遠い目)』
昂『国中のあらゆる属性の獄族が駆り出されての都の復興作業は地獄だった』

春『なんかすごいね・・・もりもりごりごりはこわいのかぁ。そっかぁ〜』

『『『もうそれでいいと思う』』』

春『なるほどぉー』


衛『はっはっはぁ〜・・・うん。やばい話はもうやめよう!』
朏『睦月に関してはどんどんでるしなー』
衛『だよね!ほら!あおいくん!けんくん!りょーくん!帰るよぉ!』












 ―――ねぇ、×××× はまだかい?





春『え?』

風に乗って聞こえたソレに〈はる〉は一瞬足を止める。

朏『どうしたはる?はじめが待ってるぞ』
春『いま声が』
衛『声?』
春『なんでもないです!待ってください!!』

慌てて〈ゆづる〉たちを追いかけた〈はる〉の腕に、しゅるりとみえない“糸”がまきついた。





* * * * *
 




ぶえっくしょん!!

隼「うううぅぅ、よーうぅ・・・・ティッシュ」
陽「うわっ!きたね!!おいぃーーーーー隼!お前、いいかげんにしろよ」
隼「ずびぃ・・・あ・・鼻が」
陽「ほれよ!あーさみぃ!はやくかえるぞ!!」

吐く息が白くなるなか、クシャミに続いて鼻水をだしてガタガタと震えている隼に手元のポケットティッシュをなげつけ陽は、今にも雪が降りそうな真っ白な曇天をみあげる。

陽「お得意の“おまじない”はどうしたんだよ隼?」
隼「む゛り゛ぃだね゛ぇ゛ぇ・・・・くっしゅ!・・・ズビ・・・魔力が安定しなくて・・ヘックショイ!!いまなにかしたら地球がパッカーンしちゃいそう」
陽「よし隼。お前は何もするな!」

チーン!と鼻をかみ、寒さで鼻を真っ赤にした隼が、今月は駆のお当番月だとわけのわからないセリフを吐く。

隼「ああ、春が恋しい。春待ち息吹は君恋し〜♪」
陽「それは三月組の歌だ」
隼「僕の歌は寒い」
陽「やめろぉ!そういうこというから今一瞬なんかふぶいたぞ!!あーくそ!雪まで降ってきた!!」

隼「へっくし!ううう・・・本当に今年は寒いぃ。
せめて葵君がいればあったかいホットミルクをくれるはず!せめて新がいればそのおっさんギャグで僕に笑いをくれるはず!春がいればほっこりするし一緒にあったかくなる方法を考えてくれるはず!!ああ、早く春がこないかなぁ〜。

春よ〜来い♪ 早く来い♪
あるきはじめたぁ しゅんちゃんが〜♪
赤いお鼻で さむがって〜♪
おうちに帰りたいと震えてるぅ〜♪」

陽「だぁ!!!だかっらやめろっ!!それメロディー的に『はるよこい』だろ。《あるきはじめたみぃちゃんが》が、なんで《しゅんちゃん》になるんだ!なんで《赤い鼻緒の じょじょはいて》が《赤いお鼻で さむがって》になる!?有名な民謡がおかしなことになってるだろうが!!あとむやみに春組をよばない!」
隼「だってぇ。グラビの春組って存在だけでもほっこりしない?」
陽「ホッカイロかってやるからがまんしろ!」
隼「うんうん。そうだねぇ、寮に還ったらホットな紅茶もほしぃなぁ」
陽「こたつにひをいれろ!」

雪が強くなる中、ダンダンと要求が増えてくる隼の手を引っ張って陽がかけだした。

っが、しかし。
その隼の足がピタリととまる。

陽「おいぃー隼!」
隼「まずい」
陽「隼?」

隼「ちょっと、なにか・・・」

とてもまずいものが近づいてくる。

そんな感覚に見舞われ、隼の顔からは寒さとは別に地に血のけがひいていく。

真っ青になって立ちつくす隼に、本格的に風邪でも引いたかとせかして寮にもどろうしたが。
クイっと隼がその陽の服引っ張ってとめる。

隼「ごめん、もう・・」



―――間に合わない。



その小さな振るえる声にともに、隼のすぐ背後で突如空間がグワリ!とひらきすべてを吸い込みそうな真っ暗なその中から、一つの人影が飛び出してきた。


『っ!殿下っ!朏さま!!』

飛び出てきた存在はすぐに左右を見渡し傍に自分たち以外がいないのを確認すると激しく舌打ちし、腕に抱えていた存在に視線をやる。

『はる、はる・・・息は、あるか』

転がり出てきたのは、独特な衣装を着た始と意識のない春の二人だ。

2人の着ている物には見覚えがある。
あれはたしか太極伝記というイベントで自分たちがきた衣装だ。
ならば、札を髪につけている春は人ではなく獄族だろう。

始だって着ているものが“衣装”とは少し違う。
全体が赤一色ではなく、部分部分にさし色として別の布が使われている。腰から下の部分的な箇所には何枚もの布がつかわれており、撮影の時よりひらひらした布がおおい。こちらの世界でいう夏の着物のように薄手の赤い生地は、絹か何かで織られたのか品がよく、その下の濃い色の着物がうっすらとみえる。帯などは金縁ではなく沢山の色と柄が入り、四隅にキラキラした金属の飾りがゆれている。“衣装の帯”はのっぺりとした黒い生地がつかわれていたのだが、あちらの始の帯はとてもこっていて、はためには無地のように見えるが角度を変えるとわかる。一面に“同色の”糸で見事な幾何学模様が刺繍され、光の加減によってそれが浮き出て見えるのだ。

むこうの春も始も自分たちが撮影で使った物よりはるかに豪華絢爛と言ったいでたちである。

春の方も、撮影と同じようで違う。
まずあちらの春は帽子をかぶっていない。かわりに不思議な光り方をする花の髪留めでベールをとめている。そのベールがずれて契約の証の札がみえたのだ。
服装だって、デザインは同じだが色や柄もところどころ違う。
ベールのことだけでなく、顔にうっすらと蔦模様のような痣があり、“わけあり”なのがわかる。
服の上着には銀糸で花と蔦の模様が施され、藤の花が描かれている。
ほかにもあちこちとんでもないレベルの加護やら術がかけられており、春の服だけで堅牢な砦に匹敵するであろう凄さだ。
撮影では柄がどこにも入っていない衣装であったが、春の腰布には何かを主張するように月とヒバリの柄が覆っている。こちらの“衣装”では黄色い布をリボン結びにして帯にまいていたが、あちらの春は柔らかく透け感のある玉虫色の布で二重にまき、しめている。帯につけられた飾りが雪の結晶であるため、なんとなくあの帯は向こうの〈しゅん〉が用意していそうだ。

この衣装の違いからしてわかりきったことだが、あちらは自分が知る太極伝奇の設定に“酷似”した別の世界観なのだ。 けっして舞台や演出ではない。向こうの世界で彼らはあの姿で生きて生活しているからこそ、あちらで暮らすのに適した風に衣服はかわるのだ。
つまり撮影衣装に酷似した服に身にまとう彼らは、本当に「太極伝奇の世界」の住人なのだろう。


始は意識のない春を抱えなおし、片手をなんとかあけると小さく開かれた口元に手を当て、つぎには力のない春の腕を持ち上げて耳にあて心音脈を確認する。そんな一連の確認を済ませ、向こう側の始の顔から若干の緊張がほぐれる。ほっと一息ついたあと、春のベールをきっちりなおしてから始は顔をあげた。
チラリと周囲を一瞥し、さらに眉をひそめた始は険しい目で隼と海をみやる。

『“アイドル”をしているお前らがなんのようだ?』

ああ、やはり。
やはり彼らは別世界の存在なのだと実感した。

隼は青い顔をしたままだったが、ちらりと陽をみて首を横に振る。
陽もその様子に、目の前の相手が自分たちの知るこの世界の黒年長でない事を瞬時に悟り、顔をひきつらせた。

「君たちは僕らを知っているのかい?」
『服に見覚えがる。俺が知っている彼らと同じことをしているのなら、少しならお前たちのこともわかる』
「たしかに僕たちはアイドルをしている。そして君たとちは始めて会うよ。よく"世界が違う"とわかったね」
『"あちらの俺たち"なら気づくからな』
「そう・・・悪いけど、詳しく話すにもここじゃぁなんだから。ついてきてもらえるかい?」
『わかった』





* * * * *
 




それは〈はる〉たちが王宮にもどったときにおきた。

花がひとひら目の前をひらひらと落ちていく。
それをのんびりと眺めていれば、クィっと何かに引っ張られた感覚に〈はる〉は足を止めた。

春『だぁれ?』


ヨ バ レ テ イ ル。


魂が何かに呼応するように、呼ばれた気がして振り返ってみてもそこには誰もいない。
この世界に溶け込んだ《数多の人々の祈りの声》とは別のもの。
けれど確実に、“よばれている”気がした。
誰かはわからない。
ただ―――

始『どうしたはる?』
春『とても“懐かしい声”が・・・』

なつかしい声が“はる”を呼ぶ。

それは暖かな季節をもとめる声。
それはとても懐かしい、この世界の人が忘れてしまったはずの感情。
どこか遠い・・・古い古いきおくの中で聞こえていた声。


それは四季にあふれた世界で、温かい季節を待ち望み、尊ぶ声。


それがいま、自分に来てほしいと呼びかけてくる。
けれどそれはまちがい。

だってこの願いは、この世界とは"異なる世界"のだれかのこえ。どこかの世界の人々がその世界に願った祈りの声。
それが、この世界にあふれる《祈りの声》とむすびついてしまっただけ。

春『だめだよ。オレは君の四季じゃないから』

自分をつれていこうとするその“コエ”に、〈はる〉は「迷子はお帰り」とばかりにふわりと微笑む。

この世界で祈りや願いは《力》となる。
過去の人々の「季節の春を求める」その願望はすでにこの世界に巨大な力として存在している。
そんな大きなものに混ざってしまったら、この小さな「春よ来い」という願いはひきづられ、願った者ものみこまれてしまう。

いまならほどける。

道はむこうだよ。
そう〈はる〉がしるべを示そうとしたところで


始『はるっ!!』


ただの“コエ”だったものが突如存在の強さを増し、あまたの糸の束となって〈はる〉の身体に絡みつく。
この世界にあふれる願いの力と、どこかの世界でつぶやかれた小さな願いがからまり、因果が結び付いてしまったのだ。

さすがに変質し存在感を増した"ソレ”に気付いたのか、〈ゆづる〉たちの側にいた〈はじめ〉が顔色を変えかけつけてくる。

春『はじめ!みかづきさん!あおいくん!』

朏『おらぁ!!うちの末っ子から離れろ!!!』
葵『はるさん!!』
始『殿下!おさがりください!!』

身動きできない〈はる〉にかわり、あわてて〈はじめ〉たちがかけつけてくる。
宙からのびる糸をとっさに〈ゆづる〉が刀で断ち切り、くずれかけた〈はる〉の身体をいち早く駆け寄った〈あおい〉がだきとめる。
その〈あおい〉ごと、〈はる〉の周囲に光の陣が囲む。

葵『大丈夫ですかはるさん』
春『あ、ありがとうあおいくん』
葵『はじめさんの結界もあるし、もう大丈夫ですよ』
春『うん』

朏『それにしてもいまのはいったい』

あれは自分を呼ぶ声。それにこの世界に染み込んだ“願い”ひきづられたもの。

そこまで考えたところで、〈はる〉がハッと顔をあげる。

春『逃げて!まだ終わってない!!』

〈はる〉が〈あおい〉を突き飛ばすようにその腕を話したとたん。パリン!と大きな音を立てて結界が崩れ、あの糸のようなものがどこからともなくあふれ出しーー
視界を黒く覆っていく。
傍に今誰がいるのか、どれほどそばにいるか。だれがどういう状況化も判断できないほどの糸の嵐。

それは希う“願い”への人々の想いが大きすぎたがゆえ、“願い”がべつのものに憑りつき、力の塊となってしまったもの。
“春を求める”願いは、そのまま執拗なまでに〈はる〉をおいかける。

武器を手にした〈あおい〉や〈ゆづる〉が、糸をバッサバッサときっていくが、投げ年蓄積した思いは切れてもきれてもどこからともなくわいてくる。
ましてや糸の形をしていてもこれは誰かの“願い”の残滓。
物理的な攻撃は意味をなさなかった。

春『どうにしかしないと!どうにか・・・これはオレの業』

“願い”が実態を得たそれは、周囲へ黒い風のように威嚇をするが、〈はる〉を包み込もうと、否のみ込もうとするそれは酷く優しい。
まるで柔らかな羽毛の翼に抱き込まれるようで。

それほどまでに世界は、人は、“春”を渇望していたのか。


朏「あおい!!いそいで国中の第二、第三世代どもを喚べ!!第一世代の爺どもには、身を隠すように言え!!俺だけじゃぁ、おさえきれん!季節が逆転しちまう!!!
はるを連れてかれたら世界が荒れるぞ!」

朏「チィ!!はるっ!おい睦月おまえもいってこい!!!」
始「はい!!」






始「はる!はる!!!」


遠くで、慌てる〈ゆづる〉と〈あおい〉の気配がする。
近くて遠い場所で、〈はじめ〉が何かを言ってる気がする。

あまたの“声”のせいで意識がおしつぶされそうで、ふわりふわりと自分の意志とは関係なく身体が動く。

グィっと引っ張られる感覚。
ぎゅうっと身体がなにかに包まれる感覚。
これは“願い”の糸のせい?


ああ、そうだね。
いかないと。
よばれている。

よんでいるのはだれ?


ああ、そんなにひっぱらなくても。
いたい。
いたいいたいいたい・・・。

大丈夫。そっちにいくからーーーーあれ?



そっちって・・・どこ?






世界から引き剥がされるーーその感覚に目眩がした。

少し前〈はる〉は別の世界の自分とりんくしたことがあった。あのときはあまりの孤独に魂が共鳴し入れ替った。
でもそれは必要なことだった。
自分たちには入れ替わる必要があった。互いの心を守るためだったのだと今ならわかる。

しかし“これ”は魂が共鳴して、入替ったときとはあきらかにちがう。

孤独から解放され
契約者もえて
獄族としての自分をとりもどした。

そのせいか前より[世界]という存在を自分のことのように近くに感じるようになっていた。

〈ゆづる〉の核は、「国の継続」。それが要となっているからか国のことは繋がっている感覚があるという。
そうやって第二世代として願いを叶え役割を自覚したからか、世界と繋がりを持ってしまったからーーー

世界がオレを手放す気がないのがわかってしまう。

べつのどこかに引っ張られる感覚があるのに、それをとめようと[世界]がオレの魂を掴んで離さないのだ。
あまりに強い力で双方からひっぱられるものだから、魂が裂けてしまいそうな痛みに悲鳴が出るどころか声さえ出せず、身体もピクリとも動かない。
もはや意識もはっきりせず。

光で身体の一部が物理的に消されるあれよりもタチが悪い。
だってこの痛みは、身体の痛みではなく魂の痛みだ。

痛みと闇に囚われる寸前。

ふわりとあたたかい気配に包まれたのを感じた。
それにほっとしてオレはそのまま意識を手放した。



ブツリと世界が黒く染まった。





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服の描写が細かくてすみません!
今後の展開に必要でわざと、衣服だけ、これでもかというぐらい念入りに、細かくかいています(笑)
とにかくこまかく衣類の細部をかいて、次につなげたいので、主に服に力を注ぎまくったおはなしでした( ´艸`)










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