外伝 ・ も し も 話
[花悲壮] → ツキウタ



【お題】 隼さんが喚んじゃった♪ A

<今回交わった世界について>
・原作よりの世界
・魔法がある世界の春に成り代わった字サイド

<表記について>
※原作寄りの世界の住人・・・「 」
※召喚された人々・・・『 』









「ふー・・・嵐にのようだったな」
「まさに"プロセラルム"ってか?(苦笑)」
「少し、つかれた」
「予想外すぎたよあの〈シュン〉は」
「そうだね。じゃぁ」

「さっそく"次の始たち"をよんでみようか!(*´▽`*)」

「「「は!?」」」



「けせらせら〜っと♪」





【喚ばれちゃったよ♪ A 春成り代わり字】





『あ、わっ!?え、うそ・・・・また』

『あ!また春さんがはまってる!!!!!!』
『ぎゃー!!!始さぁーん!!!たすけて春さんがー!』
『隼さーん!!次元の穴しめわすれてますよ!!!』
『え?僕?今日は開けてないよ?』
『ねぇ、それよりたすけて』
『前回も春さん腰まではまってませんでしたっけ?』
『太ったのか春?』
『太れたら今頃ドヤ顔してますぅ!始のバァーカ!バーカ!』
『春さん、身長だけなくお尻まで』
『だから太ってない!オレのお尻はそんなに大きくありません!最近次元の穴が小さいのがいけないんだよ!ひらくならもう少し大きめの穴にして!』

頭上にあいた穴を見上げながら、隼・陽・海・春・始は顔をひきつらせていた。

穴を覗いてもその"向こう側"は、まったくみえない。
しかし穴の中からは愉快な声が響いている。

あまりに騒がしい。あまりに聞き覚えのある声の数々である。

それに顔を引きつらせる"原作寄りメンバー"。


『あ、やだ。ちょ!?たすけて隼!しまってきた!しまってきたよ!たすけてはじめぇー!!!』
『ぎゃー!!!!隼さん早く!!!』
『ま、待って!いまなんとかあけるから!!こらえて春!』
『こ、こしがはさまって!おしりがぬけないよー!!!いたたたた!』


「「「「「・・・・・」」」」」

聞こえてくるのは、聞き覚えがありすぎる自分たちの良く知る声。
まれに自分と同じ声まで聞こえてくるほどだ。
つまりこの穴の向こうは、自分たちとはまた別の自分たちがいる世界ということだろう。

陽「お、おい、隼。どうすんだよ。向こうの[隼]にあらぬ容疑がかかってるぞ・・・」
隼「お、おやぁ(顔引きつり)」
始「笑い事じゃないだろ・・・あっちの[春]は大丈夫なのか?」
春「が、がんばってぇー!向こうの“おれ”!」(オロオロ)
隼「きっと向こうの彼らがなんとかしてくれる・・・はず」
海「はずって・・・大丈夫かそれ」
隼「僕と始がいるなら問題ないよ!」
陽「そうか?」

隼「ど、どうやら向こうの世界にも僕と始はいるうようだしね!」

そわそわするこちら側の彼ら。
そんな彼らの祈りが通じたのか、"穴の向こう"がさらに騒がしくなった後『あ』という見事なハモリとともに、穴から何かがふってきた。
それは猫のように宙でクルリと一回身体を回転させると、スタっと軽い音を立てて見事な着地を決める。

字『そうだね。あちらにも始と隼はいるよ。そういえば隼も始も"特異点"だから、いるのはめずらしいものね。
まぁ、だからといって無事に戻れるかはわからないけど』

ふふ。どうやって帰ろうかね。と、まるで何でもないことのように会話に混ざり込んできたのは、淡い黄緑のカーディガンを羽織り白いズボンをはいた[春]だった。
お尻と胴体は繋がっているので、しまろうとしている次元の穴からは無事に解放されたようである。


春「あ、体つながってる。よかったぁ〜」
始「無事、だったか」
隼「痣とかになってたらどうしよう・・・ごめんね穴の調節まちがちゃって(汗」
陽「腰ほっそ!?こっちの春さんより細くね?」
海「あ、胴体あるな」
字『あ、あまり腰とかみないでくれる?』

やってきた[春]に各々に感想を抱きながら腰を凝視するこちら側の仲間たちに、[春]はこまったような表情をうかべたあと身体をひねって身体ラインを隠そうとする。
それに苦笑を浮かべて謝るこちらの仲間たちに『しかたないなぁ』と返し、ふいにチラリと視線を上にむける。
そのまま中が見えない穴の向こう側を見たわけでもないだろうに、何かをうけとめるようにその両手を前につきだす。
瞬間、上空からドサリと黒い塊が降ってくるが、それをはじめから"わかっていたかのように"、[春]はなんなくその手でキャッチした。
彼の腕の中には、[始]がいる。

ドカ!
『うぐっ!?』

『ひぇ!?黒田に吹っ飛ばされて始さんまで!?』
『春さーん!始さんがおっこっちゃいました!キャッチしてくださーい!!!』
『つか二人とも無事かよ!?』

穴の中から[始]のうめき声やら、むこうの慌てた仲間たちの声が聞こえてくる。
だが、[始]はすでにこちらにいる。
つまりこの世界に声が届くまでに少しだけタイムラグがあるということ。
げんに、ほんのちょっとの時間差をおいて悲鳴がきこえてくることから、それは確定であろう。

しかし、なぜ[春]は[始]が落ちてくるとわかったのか。
それを問う者はおらず、『おーい』と呼びかける声が穴から聞こえてきて、笑顔のまま[春]が『大丈夫だよ〜』とこたえる。

字『平行世界につながってたよ![始]も無事だよ』

海『すぐに声が聞こえたってことは、"向こう側"まではそれほど距離はないってことか。 ・・・よし!ちょい縄用意してくれ。俺が向こうに行って、あいつら回収してくるわ』
駆『さすがみんなの兄貴!カッコイイ!』
隼『よろしくね海。僕はこの穴を維持するので精いっぱいだから後は頼んだよ』
郁『もってきましたー!縄梯子が倉庫にありましたよ!10メートルくらいはあるかなぁっておもうんですけど』

字『あ、タテ穴注意だよ!距離はそのくらいあれば足りると思う!
それとそっちからだとすぐに声が聞こえたって言うけど、こっちからはかなり音が遅れてきてる。
物理的な距離とは別に空間にズレがあるんだと思う』

隼『了解、春』
海『梯子なげるから穴から少し離れろよ』

“今度の彼ら”は、先程来た〈真逆の彼ら〉とも一味も違っていて、すべてにおいて冷静で、とても手慣れた感があった。
どうやら“今度の彼ら”の世界は、こちらと同じように隼がいて、さらにこちらと同じく不思議なことをしでかしまくっているのだろう。
それも、頻度よく。
それほどまでに、“彼ら”の行動はスムーズで、かつ指示が的確だった。

不可思議なことをしでかすのは、何処の世界の隼でもかわらないらしい。
思わず始、陽、海、春が、自分たちの隼をみた。
「てへペロ☆」とこちらの隼がごまかした。
"やらかしている"自覚はあるようだ。しかしそこに反省はない。


それから間もなく、ジャララと穴から縄梯子がおりてくる。
しかし縄梯子の距離はあと6mはかくやというところでとぎれ、地面にまでは届かない。
むしろここはマンションの一室であるはずなのに、なぜ隼の部屋だけ吹き抜けのように天井が高いのか・・・それはをつっこむものはいない。

『よっ、と』

縄梯子をゆらしておりてきたのは[海]だったが、予想よりも高い地面との差をみて顔をしかめるも、軽い掛け声とともに飛び降りてくる。

海『っ!こんな距離でもけっこう足に来るなぁ・・・はは。こりゃぁ、[駆]たちに迎えに来させなくて正解だな』
春『予想より空間のねじれが酷いね。こんなに距離が悪とは思わなかった』

海『お、二人とも無事だったか・・・それにしても、凄い格好だな[始]は。怪我は・・・なさそうだな。
に、してもよくあの高さから落ちて無事だったな[春]は。足、いたくね?』
字『・・・慣れだねぇ(遠い目)』
海『あー・・うちの[隼]が巻き込んでいつもわるいな』
字『いいよ。無事だったんだし』

字『それにしても、あそこまであがるには、椅子か脚立でも借りないと無理そうだね』
海『いがいと距離があったんだな。でも[春]が目測まちがうって珍しいよな』
字『うーん。仮説としては、時空のゆがみの精で距離がおかしくなっている。あるいは時空のつながりが解かれ始めていて、次元と次元に徐々に距離ができはじめている。かだね』
海『なるほどな。[春]の予想、というか勘だとどんな感じだ?』
字『前者だね。距離はきっとあってるんだよ。でもここと向こうの間のにあるゆがみのせいで、予想より上下の距離ができてしまった――かんじかな』
海『なら、もうすこしこっちにいても大丈夫なんだな』
字『隼が二人いる時点で、時空は安定してるよ。隼という道が出来上がってるから。
・・・たぶんそのおかげで、隣通しで隣接してる次元が離れてしまうなんてことも、帰れなくなることもないはずだよ』
海『そっかー。そりゃぁよかった。
まぁ、どちらにせよ、年少組じゃぁ帰れなかったってのは間違いないな。梯子との距離がやばいしなぁこれw』
字『そのための[海]でしょ』
海『まぁなwwwそうだ。どうせなら俺が肩車でお前を上へ持ち上げるか(ニヤ)
ただし![春]限定な♪[始]は嫌だ。重いだろこいつ』
字『・・・あ、ああ。うん。オレ限定・・・そう・・(泣きそうな目)・・・やっぱり太ろう』
海『無意味だからやめとけってwww』
字『体重測定ではちゃんと表示されるんですぅー!』
海『ほらなww無意味だって』

ぞくにいうお姫様抱っこの状態でむこうの[始]を抱きかかえたままの[春]が、ぷぅっと頬を膨らまして、意味深にニヤニヤしている[海]に抗議をしている。

体重がなんだろう?と、こちらの春は首をかしげている。
なぜかこちら側の仲間たちの視線が自分の腰に向けられていて、春は居心地が悪そうに視線を逸らす。

隼「春、太るの?」
春「は?」
始「ただでさえ(さっきの〈シュン〉は論外として)お前はよく食べるんだ。それ以上肉をつけるのはアイドルしてどうなんだ春?」
陽「春さん、いまだってスマートだって。なにもふとらなくたって」
春「はぁ!?ちょっと始に陽まで!?なんなの!?」

隼「次から別世界から誰か呼ぶときは“春”を指定してよぶようにするよ。なんだか春が一番世界ごとに違うようだから」

春「よばなくていいから!」

さっきから違う世界の“俺”による俺の被害が酷い。

ホロリと涙した春に、そっと陽がティッシュを手渡したのだった。


春を慰めていた陽が、まだよくわからないことで言い争いをしている別の世界の参謀ズをみやる。
そこで[春]が腕に抱えたままの[始]が、口を手でおさえ、うつむいたまま無言なことに思い当る。
よくよくみればその肩は微かに震えていて――

それに気づいた陽が不安そうに口を開く。

陽「え、えーっと、あのさ。そっちの[始]さんは、その大丈夫・・っすか?その、さっきからずっと震えってっけど」

陽の言葉で、全員の視線が[始]にむけられる。
[春]の腕の中で震える姿は、とても普段のリーダーたる威厳のある姿ではなく、弱よわしげでさえある。
その普段と様子の違う姿に、彼にそんな姿をさらさせてしまった元凶であるこちらのメンバーがはっとした表情を見せる。

隼「ごめん、[始]・・・」
海「さすがの始とおなじ存在でも10メートルの高さから落下したらそりゃぁびびるわなぁ」
春「じゅ!?・・・・・」
始「十メートル・・・以上はあったようだしな」
隼「はっ!?そんな高さから!?大丈夫かい[始]!!怪我は!?僕が穴を開いたばかりに!!ごめんよぉー!!!!![始]ぇ〜!しっかり!!!」

海『あ、いやぁ〜これは"そう"いうんじゃ』


『ぶ』
「「「ん?」」」





ぶっふぁwww!!





始『あハハハハ!ははあははっはははははははははははwwwwwwwwwwwwひぃ〜〜〜〜wwwwww春じゃなくてwwwwwwwww春が姫抱きとかwwwwwwwwwwwふぁー!!あははははははははっはっはあはははははははは!!!!!wwwwwwwwwwwwwwwwww』


そのままもう我慢の限界とばかりに突然吹き出し、そのまま激しく笑い始める[始]に、こちら側のメンバーたちはポーカンとするしかない。
もはや奇声にさえ聞こえるレベルの品のない笑い声をきいて、“向こう側”の参謀ズが、あきれはてたような表情を浮かべる。

陽「えっと、どういうこと?」
海「おいおい、それが始だって?」
春「え?始ってあんなに笑うの?というか、笑い方すご・・・」

海『通常運転だ』
字『・・・お恥ずかしいことに、怖くて震えてたんじゃなくて、笑いをこらえてただけだからきにしなくていいよ。いつものことだから』
海『うちではお姫様抱っこをされるのは[春]でな。 うちの[春]はあまり力がないから』
字『よけいなこといわないでよ[海]。今抱っこできてるのに!』
海『普段はできないだろ。っと、まぁ、そういうわけでなwwwふだんうちでは[春]が誰かをお姫様だっこすることなんかないからな・・・・・すまん、そこがツボにきたみたいで[始]のやつがうるさいよな。けたたましくてわるいなぁ〜』

ヒーwwwwアハハハハハハハハハwwwww  そんな愉快な笑い声をBGMに、その場になんともいえない空気が流れたのだった。

ただひとり、こちらの世界の始がとてもいたたまれないとばかりの顔をして、眉間の皺を増やしていたのは・・・・言うまでもないだろう。


隼『はっ!なんだか向こう側でとても楽しそうな気配が!僕も行きたい!始だけずるーい!!!』

恋『ちょ!隼さんまでいっちゃだめ!!!』
駆『やめてー!愉快犯二人と天然ボケのポヤポヤ一人とか!海さんの苦労が増えるでしょうが!!』
涙『隼、おちついて』
陽『この愉快犯がぁ!!!おい!隼をとらえろ!!絶対向こう側にいかすなよ!』
『『『おー!!!!』』』
隼『いやーだー!僕も行きたーい!!!僕もあっちの自分と始に会いたいよ!!あわよくば僕も春にだっこしてもらいたい!はるぅー!春の抱っこ!!!』
陽『却下に決まってるだろうが!!!』
新『最期が本音?』
葵『そういうのは春さんたちが無事に戻ってきたあとにしてください!』
夜『たしかに春さんに抱っこしてもらうなんてないですね。普段は逆ですからねぇ(苦笑)・・・レア、だね』
隼『そうだよ!レアだよ!春にだっこ・・・春をじゃなくて!』
夜『レア・・・』
涙『だっこ・・・イイな。僕も』
郁『まって!だめだよ涙!!どんなにうらやましくても隼さんも涙も乗り込もうとしないで!帰ってからにしようよ!』
隼『なら僕が一番だよ』
涙『二番』
駆『俺三番!』
新『四とくれば俺様サンジョー!』
夜『えっと・・・あ、あの俺も!』
陽『夜まで!?』
夜『だって陽!!あの春さんにだよ!?春さんがだっこしてくれるなんて!!いままでにないよ!』
陽『う・・・そ、そういわれると』
葵『いい加減にしてっ!!!みんな、いまはそういう話じゃないでしょ!』


海『大人気だな[春]』
字『う、うーん・・・・・腕が疲れるのはいやだなぁ』

こちらにおちたそれは壮絶な[始]の笑い声が、“向こう側”まで届いたのだろう。
ワクワクした表情をみせているだろう隼の「いざ冒険へいかん!」とばかりの愉快な声と、いまにも列を作って順番待ちをしていそうなテンションの高い会話が穴から声が響いてきた。

梯子がとびでている穴を見上げながら、[始]の声が響き続ける中――
ふと[海]があることに気付き顔をひきつらせた。
そのまま恐れるように、[春]から一歩距離を置く。

どうかしたのかと訊ねようとした陽をそばにいた隼がとっさにその口をふさぎ、視線だけで会話を成り立たせた始と隼が席を立つ。 始は不思議そうにしている春を連れ、隼は陽と海を手招きし。
5人が壁際に避難し、[海]がさらに距離を置いたところで。

“その変化”は目に見えるように変わり始めた。

腕の中の[始]が笑うたびに[春]の表情が形容しがたい形に変わっているのだ。

字『[始]、ねぇ、[始]さん・・オレいつも言ってるよね?人前でははしたないまねしないのって』
始『これははしたない行動ではない!(キリッ) 笑いの衝動を俺におこさせるお前が悪い・・・・・・ぷぷぷっ wwwwwwいや、だって[春]にだっこされるとかwwwwwwwwwwwwぶっふぁぁwwwwwwプリンセスにプリンセスホールドwww姫抱っこされるとかwwwwwwwぁあはははははははは』
字『・・・・・・』

[春]は最初、困ったように苦笑を浮かべていた。
次に[始]の笑い声があがったとき、[春]の笑顔はビキリとひきつった。
次の笑い声で、上がっていた[春]の口角が下がり、口はへの字に。
その次の笑い声で、[春]の顔はくしゃりと歪み、なんだか泣きそうな顔になった。
そのままじっと目でなにかを訴えていたが。
しまいに眉間にはこれでもかとばかりに皺がぎゅっとよった。
泣く――誰もがそう思ったとき、さらに笑い声が響き、そこから[春]は明かな不満をあらわにしはじめた。

[海]がため息をついて、じっとなにかをこらえるように我慢している様子の[春]に一つの指示をだす。

海『はぁ〜・・・おい[春]。かまわん。もういっそ、床にたたきおとせ』
始『ファーwwwwwww』
字『・・・・・』

ムスっとしたまま[春]が問答無用で、そのままパッっと手を離す。
しかし会話を聞いていた[始]は笑いつつも華麗にスタッと着地をきめる。その様に、[春]はぷぅーっと頬膨らましてそっぽを向いてしまう。

始『あぶないだろ[春]・・・・・プwwwwwwww春が二人とかwwwwwwwwwwwwwww』
字『・・・・・フンッ!』
海『ここに[隼]がいなくてマジでよかったわ。笑い声の二重奏がとか、勘弁してほしいわ・・・』

[春]に文句を言おうとして顔をあげた[始]だったが、顔をあげればこちらの世界のメンバーたちが壁際に避難している。
春をかばうように一番壁際に彼を押しやり、始と海が前にでている。
目を真ん丸にした春が、始の背後からひょっこりのぞいて呆然としている。
あきれたような顔をしている陽と、なにか考えをごとをしているのか真面目くさった顔の隼がいる。
そんな彼らを目にしたとたん、なにがツボにはいったのか、今度は地面にころがって[始]が盛大に笑い始めるほど。

あまりに転げまわるものだから、先程までこちらの仲間たちが座っていたソファに何度か激突している。

逃げて正解である。
[春]からのやつあたりも、[始]からの余波も味わいたくない。二次被害は避けたい。

始『wwwwwwwwwwwwwwwww』

陽「耳がぁ!!!耳がぁー!!!!orz さっききた“逆”の〈シュン〉は活発って意味で騒がしかったが、こっちの[始さん]は耳に喧しいー!!まじうっさい!!!」
春「あれが、あれが始・・・はじめがわら・・・」
始「さっきの〈ハル〉は空を飛ぶし、この[俺]はどうかしてるし・・・・おい、春しっかりしろ。意識飛ばすなよ」
隼「うん!大丈夫だった。まだいくらでも録れるよ!」
海「おまぇ・・・なに真面目な顔をしてるかと思いきや。それかよ!?そのボイスレコーダーの調子を確かめてたんかい!まだ使うのか」
隼「これはこれで貴重だもの!!!」

それが笑い上戸の[始]であろうと、隼はなにもかわらなかった。
先程はなにを真剣な顔をしているのかと思いきや、[始]の声を録音するためだったようで、いまではとてもいい笑顔でレコーダー片手に[始]の横に腰を下ろしている。

[始]がその様にうけたのか、隼をみてさらに腹を抱えて爆笑している。
本気で床を転げながら笑っている。
それでも止まる気配はなく、むしろ笑いに拍車がかかっている。

隼「ああもう!いい!見境なく笑い転げる始もいい!なんて新鮮!」
始「録るな。といいたいところだが、映像がないだけましか」
字『ねぇ・・そんなの録ってどうするの?』
隼「よくぞきいてくれました!着メロにするよ!!」
字『こっちの隼は、ずいぶんと悪趣味だね』
海『だなぁ』
字『耳が痛いだけじゃない?』
隼「そんなことはないよ!そっちの[僕]がどうかはしらないけど、僕は自他ともに認める始クラスタというやつでね!始の声だけでも大好きなんだ!」
陽「ちなみにその証拠として、この隣の寝室には、始さんのグッズが見事に飾られてる」
始『かざるとかwwwwあは、アハハハハははははははははははアハハハハっ(゚∀゚)アヒャwwwwwwwwwwwwwwwwww』
字『うるさい[始]!』
海『・・・いまのどこに笑いのツボがあった?』
海「あれは、ハジメクラスタと呼ばれている」
海『そこはうちの[隼]も同じだな。ただうちのリーダーズは二人そろって愉快犯だ。 イタズラをしかけては[春]と[葵]をきれさせてる・・・主に[始]が』
字『うちの[始]は、笑点とお笑い番組に全力投球して命をかけるレベルの笑い上戸なんだ。 [隼]と[始]がこうなったきっかけは、そもそもオレが原因なんだけど・・・気付いたらこんな性格に育っちゃって。最近ではもう抑えが効かなくて、度が過ぎて笑いの沸点が低いのが悩みどころ』

隼が面白そうにつついいたことで、さらにゲラゲラと笑っている[始]をみる[春]の目はそれはもう冷め切っていた。
[海]と海と春がなぐさめるようにそんな[春]の頭をヨシヨシと撫でている。
やつあたりとばかりに、[春]は春にだきついたあと始をみて顔をしかめた。
その目が暗に「おまえも内心笑ってるんだろう」と言わんげである。

始「・・・・春だけでなく俺にまで風評被害が」
春「もう別の世界から誰かをつれてくるのやめよう。ね、そうしよう隼!」

隼「こんなにレアな始の数々を撮らないチャンスはないよ!!!さっきの〈ハジメ〉には「お前が大切だ」ってセリフを言ってもらったし!永久保存だよね!!!」

これを着信メロディーにするんだと笑顔の隼は、早速録音した[始]の笑い声という奇声の編集を登録している。
そんな絶好調の隼の言葉に反応したのは[春]だ。
春になぐさめられて満足したのか、ふいに[春]がチラリと“ソファ”のほうをみやり、その目を細める。
[彼ら]とはまた別の世界の〈シュン〉と〈ハジメ〉がいた場所を見やる[春]の目は、まるで“すべてを見通す”かのようだ。


字『・・・そう。“きた”んだね』


隼「ただしくは僕が“喚んでしまった”んだ」
字『オレたちの前にきたのは、別の世界のオレたちだね』
隼「きみにはなにがみえているのかな?」
字『べつに、誰がいたとか何をしたとかはしらないよ。 ただ“懐かしい魂”の・・・オーラとでもいうのかな。そういう残り香みたいなものが“視えた”だけだよ』
隼「それは十分凄いことだよ。
そうなんだ。実は少し前に、君たちとは違う別の世界の僕たちがここにいてね」


字『魂の絆は、血で結ばれた術式よりも――強く、はるかに太い縁となる』


字『オレは君たちが最初によんだ〈彼ら〉のうちの、一人と縁を結んでいる。ゆえに、今回はオレが呼ばれた。 次があるのなら、また魂の縁がむすびついた“だれ”かだよ』
隼「そこまでわかるんだね」
字『ふふ。勘だけはいいんだよ』

隼「君は・・・そうか!?驚いた。そっちの[春]は“視える”からその・・・」
字『それ以上は、ダメ。言わないでね』
隼「あ、ああ。ああ、そうだね。これはよけいだったね。無粋な話はやめておこう。ごめんね」


隼「――話を戻すけど。その話を聞く限り、そっちの[春]は、“目がいい”んだね」
海『意味深ないいまわしだなww』
字『まちがってはいないでしょ』

隼「とても綺麗な、“目”だ」

春「あ!ほんとだ。今気づいたけどそっちの[俺]は、目の色が濃いんだね」
隼「濃いというか、深い森のようだよ」
始「ほんとうだな。うちの春はもっと淡いが。そっちの[春]の目は、綺麗だ。見ていると忘れられなくなる。というか、なんだか吸い込まれそうだな」
陽「ヒュー。さすが始さんwww[別世界の春さん]を口説いてどうするんですかw」
字『くどかれたのオレ?』
陽「う・・・なんか純粋なオーラというか眼差しが痛い」
海『ははwwうちの[春]は純粋というかちょっと抜けてるwww[始]がおかしな洗脳してるからネジがかなり吹っ飛んでるだw』
陽「それ、笑う事?」
海『もはや上書き不可能なレベルで洗脳され済みだ(真顔)。つーわけでな、いまさら余分なことを教える方が面倒なんだよ』
春「Σ(゚Д゚)」
始「やっぱりどこの世界も“春”が一番ヤバイな」
字『同じ存在とはいえ、“始”に綺麗とか言われたのは、はじめてかな?意味が分からない』
海『あー、そりゃぁそうだろう。お前らは互いを空気扱いしすぎ』

始『ふっ。綺麗だよはぁーる』

ふいに[始]が起き上がるなり、[春]の肩に腕を回してそのまま背後からだきつくようにして、[春]の耳元で、それは聞いている方がゾクリとくるほどに甘くささやいてみせた。
しかし[春]はというと「耳はやめて中耳炎になりそうで怖いから」とそれはもうあっさり、周囲がびっくりするほどなんでもないことのようにかわしてしまう。
そこに照れも恥じらいも焦りも何もない。
もともと互いにそれが冗談であるとわかっている。むしろ[始]はただのノリと勢いだ。さすが愉快犯。
この場にいるものでは本人以外しるよしもないが、[春]は綺麗という感覚がいまいちわかっていない。
だからこそ、二人はその後も何事もなかったようにいつも通りの態度だった。
若干、こちら側のメンバー全員が顔を真っ赤にしていたが、[別世界の3人]は気にした様子もない。

始『はぁーる』
字『こらこら、くすぐったいから』

[始]は背後から抱き着いたままに、耳元はやめろといわれたので、それもそうだなぁ〜とばかりに、今度は[春]の肩に顔をうずめている。
当の[春]はというと、髪の毛がくすぐったいと笑っている。
毛づくろいはいらないよ。というおかしな単語はきにしてはいけない。
[海]もこれといってじゃれあっている二人を止める気配さえない。

そしてなんだか距離が近い。
もはやお互いの目など見えないだろうレベルには、[向こう側の黒年長 二人]の距離感が異常だった。 どこかしらが互いに触れてるのが当たり前とばかりの空気は、間にはいりがたいほど、甘く色っぽくともどちらともとれる。
思わず誰かが「なんだこれ?」「砂吐きそー」「二人は付き合ってるの?」と心の声が漏れ出してしまったほど。
恋人だろう!というツッコミに、[始]と[春]は意味が解らないとばかりに、心の底から不思議なものを見るかのような視線をこちらの住人たちに向ける。
「そうじゃないが、あの二人の距離感は普段はもっと近いからな」と苦笑を浮かべているのは[海]のみ。
こちらの黒年長二人など、居心地が悪そうに視線を逸らす始末だ。

「「「「なんか色々ちがう!!!」」」」

春「もっと近いってなに!?やめてぇ!!」
陽「アレハネコアレハネコ猫が二匹じゃれてるだけアレハネコアレハ・・・・・」

字始『『?』』

隼「わぁー!僕もほっぺすりすりしたーい!始の、[始]のほっぺぇ〜!!!」
始『なんかお前とは嫌だ』
隼「はじめぇ〜」(チラッ)
始「・・・・こっちをみるな(遠い目)」
海「なんで[春]はいいんだ?」
始『いいというか。そもそもいいも悪いもないだろ?』
春『そうだね。特別なことは何もしてないしねぇ。よくラキバやるよね?それと一緒だよね?』
始『なにも変わったことはしてないだろ?』

陽「ソレ、ラキバチガウ」
海「うーん(苦笑)十分かわったことを見せつけられているような」
春「うんうん!今も二人の間に距離がないし!!!」
始「俺たちはしないようなことを今の短い間にけっこうしてるぞ二人とも」

この世界の住人たちの悲鳴がしばらく続いたのだった。

字『どうかしたのかなあっち?』
始『さぁ?』


字『それより頭ぼさぼさだよ[始]。地面に転がるのもほどほどにね。あんまり笑ってると腹筋われちゃうよ』
始『ブッフォwwwwwwwwwwwふっきwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
海『なぁ、[春]。腹筋はわれていいものじゃないか?』
字『ん?それもそうか』

おかしすぎて腹筋が割れる〜と苦しんでいる[始]に、おいうちをかけるような[春]の言葉。
そのせいでようやく復帰した[始]が再び撃沈している。
もはや地面にうずくまってって痙攣しているレベルだ。
苦しいwと言いつつも、それでも[始]の笑いは止まらない。

[海]はそんな[始]を慣れた様子で立ち上がらせると、そのまま猫をつまむように[春]の前へひきずってつきだした。
[海]に離された手のせいで、[始]はその場に尻もちをつく形になる。

しりもちをついた[始]の頭でも撫でようとしたのか、[春]が両手をそっと伸ばす。

始『白い』
字『え・・・わ!?』

笑いを抑え込んだ[始]が、顔をあげ[春]の顔を見て顔をしかめる。
[始]は伸ばされた[春]の両手を当たり前のようにつかみ、ひきよせれば、ひっぱられたことでバランスをくずした[春]がひざをつく。
それにより尻もちをついたままの[始]と[春]の視線が同じ高さとなる。

字『なぁに[始]?白いって』
始『顔色が悪い』
字『・・・・そんなことは』
始『却下だ』

そのまま近い距離にあった[春]の頭を押さえるようにして、[始]は額と額をくっつける。
額から伝わってくるのは、冷え性とはどこか違う冷たさ。それに背筋が凍りそうになる。
冷えて若干青白い顔をした[春]に、[始]の眉間に更に深いしわが刻まれる。
[始]はくっつけていた額を離すと、かわりとばかりにその冷たい[春]の手をとってもちあげ、祈るようにその手を己の額にくっつけ目を閉じる。
それにつられるように[春]が目を閉じる。

それはまるで神聖な儀式のようだった。

陽「・・・なんか・・“この黒年長”ヤバイ。いろんな意味で。つか、すっげー色っぽいんですけどぉ!?え?これ俺どうすればいいの!?むしろここから逃げていい?」
始「さっききた〈俺達〉とは、またちがうな」
隼「・・・」
海「あー・・うん。なんだろうな・・・目のやり場に困るというか(苦笑)」
陽「やっぱり向こうの[春さん]たち、つきあってるんじゃ」
春「俺、あそこまでハジメにベタベタして、ないよね?」
始「お前はおちつけ」

その様子を見ている者たちの“目”には、とくに何の変化も映らない。
しかし不思議なことに、しばらくするとほんの少し[春]の顔に朱がさす。
そこまできて隼が何かに気づいたように顔をハッ!?とさせる。

隼「これは!?魔力のやりとりをしてるのかい君たち!」

海「は?何言ってんだ隼?」
春「魔力って・・・隼が使ってる不思議な力のことかな?」
陽「オカルトは隼だけでいい」

隼の目以外には、その光景はまったく感じることも見ることもできない。
驚きに目を見張る隼から視線を向けられ[海]が、それを肯定する。

海『俺たちの世界はたぶんこの世界よりはるかに魔力にあふれた世界なんだろうさ。なにせ[隼]以外の普通のやつらでさえ、健康診断で必ず魔力測定をうけるしな。 ちなみにうちの[始]は、測定メーターを毎年ぶっ壊している。記録はいまだ更新中という驚異の魔力保持者だ。
それに“魔力とか視えない”俺でさえ、二人の間で交わされてる“なにか”があるのはなんとなくわかるしな』

隼「[春]のは・・・“そういうこと”か」
海『あー、いろいろ察したなら、だまっといてくれよ隼』
隼「さっきも[春]に釘を刺されたばかりだよ。もちろん。言わないとも」


しばらくして、[始]の手がおろされ、それを合図にひらかれた紫が[春]をとらえる。
[春]もゆっくりと目を開けている。
どこか眠たそうな緑の目は、紫を視界にとらえるとゆるりと細まり柔らかに弧を描く。

始『大丈夫か?』

あったかいなぁと小さな声が漏れるが、[始]の問いへの返答はない。

字『そろそろ・・』
始『わかってる』
字『・・帰えろう?』
始『そうだな』

“忘れられたくないから”と、羨望するように頭上の穴を見上げて言う[春]に、[始]が[海]へ視線を向けれる。
承知とばかりに[海]がうなずく。

海『[春]、薬はいるか?』
字『そこまでじゃない』
始『戻ったら[隼]に補助してもらえ。なにがあるかわかったもんじゃないからな』

[始]はにぎっていた[春]の手をそのまま[海]へ手渡すと、戸惑いを隠せないこちらの仲間たちを一瞥し、「そんなわけだから」と前置きをして帰る手伝いを頼みこむ。
力仕事は自分の出番とばかりに颯爽と[始]は、脚立を取りに行く陽の後を追った。


隼「ひきとめるみたいになっちゃってごめんね」
字『気にしなくていいよ。オレが早く帰りたいだけだから。それに笑い続けてたうちの[始]がわるいから』
海「ああ。あの[始]の笑いっぷりには驚いた」
字『だからあまり笑うなって言ってるんだけどねぇ。それと――』

字『同じ時空に、同一存在がいるのはよくないからね。オレたちは誰かさんとは違って、このまま帰らせてもらうとするよ』

隼「さすがだね。“わかる”の?」
字『ここまでべったり残滓が残ってるからには、長居したのは明白だよね』
隼「おやおや。君はずいぶんと向こうの僕と相性がよさそうだwww――君は“予言者”だね?」
字『なんのことかな。
そういう“役割”てきなものは、うちの世界にはないんだけどね』

字『ふふ。そうだねぇ、たまには言葉遊びもいいかな。
いまだけ君のいう予言者になってあげる。・・・一つだけ、言葉をあげる。本当は予言じゃないよ。これはあくまでオレの勘――“次の子”は、オレではない別の誰かと縁をつないだ誰か。 その子はひどく純粋だ。こわがらせないであげてね』

隼「もう、笑ってごまかしてるくせに、ちゃんと“教えて”くれるんだから。そういう君のこと、きらいじゃないよ」
字『オレもどんな世界の君であろうと、"隼"のこと嫌いになんかならないよ』


字『でもね。今回のは、ちょっとおふざけがすぎるよ隼。
たとえそれが平行世界(異世界)だとしても。
平行世界の自分であろうと、未来の自分だろうが、過去の自分だろうが。自分が自分であることには変わらない。
ましてや、“それ”が睦月始と霜月隼であるなら、よけいに。
だからね。もうだめだよ?これ以上はこの世界の“場”が乱れてしまう。それはさすがに、ね、まずい・・・と思うでしょ?』

隼「ごめんごめん。少しなら大丈夫かなっておもってね」
海『というか、隼。そもそも呼びつけること自体が間違いだからな。面白半分でよそ様の子をよびつけんじゃない。世界がパッカーンしてもしらないぞ』
隼「そこは手加減していたさ」
海「パッカーン!?うちの隼がわるかった!!すまない[そっちの俺達]!」
海『いやいや俺たちじゃなくて、この世界がやばいことになるんじゃないかってほうの心配だからな!?俺たちがしてるのは!』
始「そういえば俺と隼は、力が強すぎて、他の世界ではどちらかが欠けるか、ふたりともいない世界の方が多いんだったか」
隼「そのとおりだよ始」

春「えっと、魔力とかはよくわからないけど。大丈夫?」

字『うん。あったかくて、ほっとしたら、ちょっと眠くなってきただけだよ』
海『その“眠く”が俺的にはこわいんだがな』
字『ただ[始]の体温があったかくてね』
海『まさかお前・・徹夜とかしてないよな?あのわけわからんハイテンションでそのままとかやめてくれよ』
字『いやいや、本当になんでもないって。徹夜なんかしてないし!』
始「そっちの[春]も深夜テンションはヤバイのか」
春「始っ!?」
始「とつぜんカバディはじめたりなんてこともあったよな」
春「やめて!言わないで!!」
字『・・・・・オレ、そういうことしたかな?』
海『してたな。酷い時は夜中に突然全員たたき起こして、なぜかケーキのお城を作るんだ!って言いながら菓子作りを始めたり』
春「お菓子作れるの?!」
字『あ、うん。料理は得意だよ』
始「うちはだめだ。なんか不器用でなー」
春「わるかったね!」


そんな何気ない会話をしているうちに、大きい脚立をもった陽と[始]が戻ってくる。
二人の海が、それなら大丈夫だなと頷いている。
まったく同じ仕草で同じタイミングで同じことを言うので、おもわずと互いに顔を見合わせた後に笑っていた。

海『この調子だと、脚立だけじゃ距離が足りないか。しょうがない。一度梯子にとびついて・・・一回ごとに上で引きあげてもらうしかないか』
始『ああ、かなり距離があるから仕方ないだろ』
海『じゃぁ、ちょっくら俺がまず登って、そのへんのことつたえてくっから・・・・梯子よりロープだな』
字『ふふ、きをつけてね』
海『おう!まかせとけって』

一番背の高い海でも脚立をくみ上げても梯子に手が届くかどうかがぎりぎりだ。
あしをひっかけるどころか、ジャンプして梯子に手を伸ばし、あとは腕の力で下半身をひっぱり、揺れる縄梯子をのぼるしかない。

できるよー。と宣言する者。
できない。と早々に諦めていてやる気のない者――まぁ、結論として、いけそうな気がするということで[海]が脚立の上に立った。

「よっ♪」と軽い調子で腕力だけで縄梯子に上半身をもちあげた[海]に、その場の全員から拍手が起こる。
海ってば猿みた〜いと笑う声に、うるさいとさわやかに返し、やはりこれまたスルスルと上へとのぼっていく。

隼「やっぱり猿みたいだね」
字『縄梯子って、上下で押さえがないとすごいバランス悪いと思うんだけど・・・さすが[海]だね』
春「そうだね・・・・・お、俺は遠慮したいかなぁ〜(視線そらし)」

ここでも世界の違いが出ているらしい。
春は高所がだめだ。
[春]はそのくらいのことでは怖がらない。むしろ彼が怖がる場所は全く別のところにある。

隼がやはり“弥生春”が一番顕著に違いが出ると、おかしそうに笑った。


傍で[春]が、『そうかもしれないね』と小さく頷いた。
誰にも聞かれたくないようなその小さなつぶやきに気づいたのは、横にいた[始]だけだ。



『おーい!ふたりいっぺんにひきあげるからな!』

ジャラジャラと縄梯子がひきあげられ、上からは聞き覚えのある声が降ってくる。
それに[始]がこたえ、レスキュー隊の一日体験が役に立ったなと不敵に笑った。
[春]が遠い目をして「いま、オレの体重抜かしたよね?」とどこか不満げだ。

隼「あまりたのしめなかったよね。ごめんね」
春『ふふ。十分楽しかったよ?』
始『もうむやみやたらと“よぶ”なよ』
隼「うん!きをつけるよ。今日はありがとう」

そういえばお茶さえ出していなかったなと海の言葉に、そういえばと全員が賛同する。
食事を一緒に楽しもうにも“彼らとは別の世界”の住人らと大量に食べてしまったあとだ。
あの多量の食事量を思い出したのあか、数人が口元を抑え、胃をおさえ顔色を悪くさせる。
その意味を理解したように、[春]がクスクスと声をだす。

字『オレたちが来る前に来た子は、ずいぶんと食べたようだね』
春「それはもう!」
陽「思い出しただけでむねやけが・・・うっ」

字『ああ、“あの子”はそういう子だからねぇ。魂が染まっているから、生まれなおしても――よく食べるんだろうね』

[春]の意味深な言葉に、こちらの仲間たちが色々とツッコミ、問い返すが、[春]は訳知り顎で微笑むだけ。
そんな謎めいた言葉や態度さえいつものことだといわんばかりに、あっさりスルーして[始]は自分と[春]の身体にロープをテキパキとくくりつけていく。
とちゅうでロープがほどけないように、ほどけない結び方もバッチリだ。
その手慣れた仕草から、本当に一日レスキュー隊体験をしてきたのだとわかる。


そろそろいくか。

そのとき、[春]が待ったをかける。
最期だから、聞いておきたいことがあるのだとあしをとめる。


字『ひとつだけいいかな?』


[春]が振り向いたのは、春へだった。
「え」と驚き目を見開き瞬きを繰り返す春に、[春]は「わかりきってはいるんだけど、これだけ確認させてね」と同じ顔をした“自分”のふわふわした頭をそっとなでる。




字『そこの“オレ”の名前は、“弥生春”でいいのかな?』




春「え、うん。そうだけど」
始『!?それは本名か?!』
春「う、うん。俺にはこれ以外に名前はないけど」

字『そっか』

驚いた表情を見せたのは[春]ではなく[始]の方だ。
その[始]が何かを言いたげに[春]をみるが、[春]は「確認したかったのはそれだけ」と笑うと、「君は走り続けてね」そう春の頭をもう一度撫で、彼に背を向ける。
ロープでつながった[始]が慌ててその後を追う。

またね〜と笑顔で手を振る“別世界の彼ら”が、穴の中へと引き上げられ完全にこちらからは見えなくなる間際――


隼「[春]!忘れないから!!
[始]、きみの笑い声は永久保存版だよ!!!!!」


始『ふぁーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
字『ちょ!?ロープで宙づりの状態で笑わないで!!!!!!!!!!!』

なんだかとても賑やかな声が穴のなかから響いたのだった。

字『おち!?おちちゃうからゆらさないで[始]!!!』
始『安心wwwしろwwwおちても別の世界に戻るだけだwwwwww』
字『ちょ!?わっ!?やめ!!!!!!やだ!ちょっとやめて!もー!!!ひとりでも死ぬ気でおうちかえるーーーー!』
始『笑い死ぬwwwwwwwwww』
字『いまのはギャグじゃないから!!おもしろくないから!ってぇ!?や!ゆーらーすーなぁっ!さすがにロープほどけそうだからやめてよ!!!!』
始『安心しろwwwほどけないはずの結び目・・・のハズだww』
字『ハズとか!?おちるときは[始]もまきこんでやるぅ!!!』
始『ことわる!wwwwひとりでおちてろwwwwwww』
字『[海]ぃーーーー!!!!たすけて!!!!!』




「「「・・・・」」」




陽「・・・・隼、おまえぇあのタイミングでなに愉快なこと言ってんだよ」
隼「だって永久保存にするのは本当だし!」
海「言うタイミングをもう少し考えような」

春「はじめぇ・・・」
始「そんな目で俺をみるな。しないからな」

海「あ、うん。まぁー、うちの始がああも愉快なことをしつつ、あんなとんでもない奇声をあげるとか。しないのは分かってるがなぁ」
陽「世界の違いってすげー」

隼「そうだね」


――“世界の違い”は、“ああ”も顕著だ。


隼「残酷だよね」

始「ん?」
隼「いや、なんでもないよ。ただ・・・」
春「ただ?」

隼「あんな高いところで、ロープ一本でつるされた状態で、おもいっきしロープをゆすられるなんて。なんて残酷なことをするんだろうとね。これが高所恐怖症の人だったらと考えたら」

春「ヒィー!?」

春「じ、じめん。地面どこ!?お、おれは・・・(ガクガク・・・フルフル)」
始「春、ここが地面だ。安心しろ」
春「高いのこわいよー(涙)」
陽「むこうの[始]さんの鬼畜っぷりを改めて実感したわー」
海「これが世界の違いか」
始「いたずら好きって言葉だけですむのかあれは」
春「始のあくまぁー!!(プルプルプル・・・)」
始「だから“あっちの俺”は俺じゃないと・・・はぁー」





 




 




 




【後日談】

[あは、アハハハハははははははははははアハハハハっ(゚∀゚)アヒャあは、アハハハハははははははははははアハハハハっ(゚∀゚)ア]


隼「あ。大からだー。もしもーし」

駆「ふぁ!?な、なんですか!?え!?いまのなに!?」
夜「え?電話?いまの隼さんのスマホからきこえたけど、電話?え?始さんの声じゃ・・・え?」
春「ああ、いまの[始]の“あれ”かぁ(苦笑)」
恋「え、あの声…始さん?い、いわれてみれば!?Σ(・∀・;)」
郁「!?なに!?え?始さん?いまのが?え?ええぇ?」
涙「びっくりした」
夜「いまの、なに?」


始「・・・・・おい、隼(怒)」

新「大変だ!始さんがオコだ!みなのものにげろー!」
葵「え・・いまの、えぇ?うそ・・始さん、あんな風に笑うんですか」
始「俺じゃない」


陽「げっ。隼のやつ、まじであの笑い声を着信音にしてやがる」



「「「「いまのが着信音だとぉ!?」」」」





 




 




 




 




未来ヘ 走り つづけろ――



「ほんとうにね――世界はなんて残酷で、堅物なのだろうね」

“視える”こと、“わかる”こと――未来さえも見渡す[あちらの春]は、きっと“予言者”という役割を世界より与えられたがゆえに、 その代償として魔力を持たないのだ。
今回のことでよくわかったが、魔力のあふれた世界でそれがない[彼]はあちらではさぞ生きづらいだろう。
むしろ今あの瞬間を生きていたことが自体が不思議なくらい希薄な存在だった。
生を感じず、死のにおいをまとわりつかせていた[彼]は、きっと長くは生きれない。
[海]も薬がどうと告げていた。
だから別れ際に、もう一人の自分に「走り続けろ」と伝えのだろう。
こちらの春には、せめて自分の分も未来を生きてほしいと。
それだけでもう彼の残された時間がいかに短いか理解できるようだ。

きっと[むこうの彼]は、もう長くはないに違いない。

「願わずにはいられないね。僕はProcellarumだけでなく春だって大切なんだ」

たとえ別の世界の“春”だとしても。
その生を想い、願うことはいけないことか?

「どうか・・・」

この先の彼の未来が明るい物でありますように。

彼の短い生が
 笑顔でありますように――

そう、願わずにはいられない。















『ん?いや、オレ今、百十三歳だけど?』

『どうした“花”?』
『いや、なんかいまオレ死亡説がどこかで流れたような気がしてね。それにしてもお互い長生きしたよね〜。
[始]と寿命を一蓮托生している身としてはありがたいけどね。
それにしても[始]ってば、ここまで本当に健康優良児なんだから』
『あと十年ぐらいは生きれそうだな俺も』
『お互い皺皺だけど元気だよね〜。オレ、しわくちゃなおじいちゃんになるまで生きたのはじめて〜』
『よし。このまま生きてギネスの記録でも更新するかw』
『この年になってもまだいたずら心は健在とか、やめて・・・さすがにオレたちおじいちゃんだからね!』
『wwwww』


どこかで誰かが思うより、“彼ら”の人生は短くないらしい(笑)



追記:別の世界では、睦月始によって長寿ギネスは更新された。





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