01 始まり |
『ああ、本当に嫌になる。ねぇ。そう思わないかい?』 『まぁまぁ、そうカリカリしないの』 『でもさ。この世界、本当に気に食わなくてね。たかがひとりの女に、世界を司る精霊も惑わされ、あげくあの女が死んだその後の未来の人間たちも惑わされた世界だよここは。 僕はね、あの女の手のひらの上で踊らされてるようで、気分がよくないんだ』 『ひとりの女・・・えーっと、ユリアだっけ?』 『そうユリア・ジュエ。本当に余計なものをこの世界に残してくれた。おかげで大地は空を浮いたまま』 椅子に深く座り、隼は大きくため息をつくと膝置きに肘をついてあごをのせる。 長い脚は威厳を示すように悠々とくまれる。 そんな隼をいたわるように、傍にいた青年が場所を移動する。 隼の手には届けられたばかりの書簡が丸っており、隼は手にした書簡へと視線をやり、次に同封されていた小さな石を掲げて、光を反射させてーーおかしそうに口端を持ち上げる。 傍に控えて紅茶を入れていた側近の青年は、「もうきげんなおったの?」と王様然とした隼の違和感のなさにおかしそうにわらう。 『予言。予言ねぇ。なんだい結局これがすべての原因じゃないか』 『たいしたものじゃないよそれは。だって予言と呼ばれるものを読まなければそれはただの石でしかないし。せめて石炭の代わりにでもなるなら利用価値はあるんだけど。ただ綺麗なだけじゃねぇ』 『そうだね。君が言う通りこれはたいしたものじゃないんだ』 頭上に掲げて見せれば、その黄緑の透き通った石は光を吸い込むようにきらきらとかがやきを増す。 譜石とよばれるそれには、予言がかかれていて、わかるものには石に刻まれた未来をよみとくことができるという。 前世を覚えている彼らだからか、この二人、やろうと思えば石にきざまれた予言とやらを“よめる”。 だが、隼も傍にいる青年もバカバカしいとそれを一蹴する。 『僕としてはこんな曖昧なものを信じる彼らの気持ちがわからないかな』 『オレも、わからないかな』 石ころにきざまれた曖昧な予言。 感覚で予言は“よむ”ものだが、一度読み上げれば石には文字としてそれが浮かび上がる。 しかし古代文字か、あるいは精霊の文字なのか、文字を“意味ある言葉”として読み上げることができる者はいない。 しかたなく予言を感じ取れる者がよみあげる。 予言師だけが予言を読めるというのは、そういう事情からだ。 だからこそ曖昧な予言だと隼は思わずにはいられない。 文字になっても特定の人間しか判断できないものなど、もはやなんの権限も持たせるべきではない。 もし読み手が私利私欲に走り適当なことを言ったとしても、それを嘘だと誰も見抜けないのだ。だまし放題である。 この黄緑の石のかけらひとつで、どれだけの人間を自由にあやつれることか。 隼はふぅーとひといきつくと、石とよく似た隣にたたずむ友人の瞳を思い出し、おかしそうにくすくすと声を漏らす。 『こんなうさんくさいものよりも、こっちには本物の予言者がいるというのにねぇ』 『なんのことかな』 『わかってるくせに』 信じるなら“そっち”だろう。 自分の友人の口から語られるのは、あいまいな予言などではではない。 彼の“長年の”経験と鋭い勘がそろっての、未来予測。ゆえに確固ったる芯がある言の葉たち。 たとえこの世界をゲームとして体験し、原作知識をしる者がいたとしても。よむひとによって変わってしまう予言や行動次第で変化しうる原作知識などよりも、それよりも遥かに信頼がおけるーー未来予知。 『さぁ、春。もう少し頑張っておくれよ』 『もう、人使いが荒いなぁ隼は』 『始がこの世界に生まれるためには必要なことだからね』 『始かぁ。・・・オレは、この世界における予言に興味はないけれど。それでもね、ゲームの詳細を知らなくとも時代が動き始めているのはわかるよ。始が生まれればこの世界は周りだすんだ』 『君がそういうのならそうなんだろうね。あ〜始に会いたい!たのしみだなぁ』 それは とある“王の間”での ーーー王と参謀との会話。 【01. はじまり】 こどものたかい笑い声が響く。 それはそれは楽しそうな子供の笑い声は、キムラスカのファブレ公爵家からきこえてくる。 声をたどっていけば、庭先でお腹を抱えて朱色の髪の幼い子供が目に涙をためてうずくまっている。 『あはっはははっはははwwwwや、やめろガ、ガイぃーーーーwwぶっふぁ!!も、もうむりぃ!!!は、腹が痛いぃwwwwww』 『いや、これはガイじゃなくてマグロだルーク』 『ガイは貴方でしょう!カイさん!!』 『あ、そうだった。うっかりうっかり。そうそうジョゼット。これマルクト土産な。マグロだ』 『私じゃなくて料理長に渡してください!!!』 『まぐwwヒィーwwwwwwwww』 笑い転げる子供の正面には、とてもいい笑顔の金髪の青年がいる。その手には、片手でおさまらないほど大きな魚を手にかかげている。 マグロと言われた魚は、おおよそ青年と同じぐらいの巨大な姿をしており、獲れたてなのかビッチビッチと体をくねらせている。 いきがイイコト。 マグロはガイと呼ばれた青年の腕から逃れようと右に左にビチビチとはねる。しかし強靭なガイの腕から逃れることはできず、かわりに青年の横に立っていた髭面の男の顔面をねらったように立派な尾びれでバッシン!バシン!と激しく往復びんたしている。 たまに「ぉふっ!」「ぶべっ!」という悲鳴が聞こえてくるが、相手は野生の魚。やめろといって魚が暴れるのをやめるはずもない。 そんなガイ(+マグロ)と髭男の背後では、金髪の女騎士が顔を引きつらせ若干引き気味で、助けを求めるように料理長の名を叫んでいる。 涙をこぼしながら腹を抱えて転げまわっているのが、まだ10歳になったばかりのこの公爵家の一人息子であるルーク・フォン・ファブレだ。 その正面にてマグロをさわやかな笑顔でかかげているのが、ファブレ公爵付き使用人をしているガイ・セシル。 その横になぜかいるローレライ教団の騎士、ヴァン・グランツ。まだ若いのに、もはや老け顔、髭だるまである。その顔はマグロのせいで悲しくはれ上がっていて見るも無残である。 そんなガイとヴァンの背後では、ガイのイトコである女騎士ジョゼット・セシルが、イトコの奇行をなんとかしようとビッチビッチ!とはねるマグロに手を伸ばそうとしてはその手をひっこめをくりかえしている。 このメンバー愉快なことをしているが、実は全員が訳ありである。 まずルークは、半年ほど前に誘拐され記憶を失い、髪も目の色も実験の影響で淡くなってしまった。 ちなみにそれ以降、情緒が急激に育ったのかそれともガイが笑わせるせいか、やたらとよく笑うようになった。 むしろ記憶をなくしたからか、以降スポンジのごとく知識と品位を習得し、人目がないときは以前より子供らしくクルクル表情をかえ、逆に公の場や人目があるときはこどもらしからぬほどに見事なふるまいをしてみせるようになった。 王者のような威厳と優雅さ、知性を秘めたまっすぐな力強い眼差し、凛と伸びた背筋同様美しくその立ち居振る舞いは人目をひき、記憶喪失後のルークはまさに別人だった。いい方に。 誘拐の影響?外見の色以外何もない。むしろキムラスカにとっていいことずくめだったがなにか? そんな彼のあだ名はなぜか「はじめ」という。 そしてニコッニコッ笑顔の金髪の青年は、本名をガイラルディア・ガラン・ガルディオス。略してガイ。ガルディオス伯爵家の跡取り息子である。 伯爵家の息子がなぜ使用人としてファブレ邸にいるかというと、彼が5歳の誕生日にホド戦争が勃発。ガルディオス家はファブレ公爵率いるキムラスカ軍によって滅亡に追い込まれたが、それから2年後、ガイみずからファブレ邸をおとずれたのだ。なお、その二年の間は、放浪の旅をして領民をさがしていたというから驚きである。 クリムゾン自身もガイの事情は承知していて、彼が屋敷を訪れた際に「自分を恨め」とガイに告げたが、ガイは笑顔であっさり「そんなつもりははたからない」と切り捨てた。かわりに領民の生き残りを探す手伝いと戦後の支援をもとめた。クリムゾンははじめにあっけにとられたが、目の前のまだ7歳の子供がしっかりと己の立場をわきまえていることをおもいしり、相手を伯爵家の息子として交渉に応じた。以降、ガイは拠点をファブレ邸とし、戦争難民への支援を行うようになる。ファブレ邸に彼がにいる言い訳として、クリムゾンが用意したのが使用人という立場である。なお、「ガルディオス」の名を利用されないため、表向きはセシルで名乗らせたのはクリムゾンからのアドバイスである。 そうしてガイは伯爵家の息子として、領地を失い散り散りとなった民をさがしつづけた。 まだ十にもみたない子供が己がやるべきことをしっかりと理解し、かつそれを行動で起こしたのだ。それだけでもとんでもないことであろう。 そんな大人じみた子供となった理由としては、ガイには前世の記憶とよばれるものがあり、ホド戦争のときにはすでに子供らしからぬほどに落ち着きと思考力を持っていた。 そんなガイだったが、当時の彼の外見はまだまだ庇護のいる子供。領民を探し出したとしても彼らを援助することも復興することさえままならない状況だった。ゆえに彼は、様々なつてをへてファブレ公爵に交渉を持ち掛けたのだ。 せめてただ一人となった領主として、散り散りになった民の安否をしりたい。彼らの生活を守りたい。 その心意気をうけ、クリムゾンは誠意をもって応じた。ホドの住民がみつかりしだいその保護と安全を約束したのだ。 実のところ、すでにファブレ邸には騎士として入り込んでいたジョゼットがいた。とうぜんクリムゾンは彼女がホドの生き残りであると見抜いていた。そのため彼女にできるだけ早く武勲をあげさせ、地位を確立させるべくおのれの護衛騎士として傍に控えさせていた。しかしそれでは性別の都合上不倫のうたがいをかけられ公爵もジョゼットも都合が悪くなる可能性が出てくると判断したガイが、すぐさまジョゼトと立ち位置を交換することを申し出た。 結果、ジョゼットは本来ガイがつく予定であったルークの使用人という立場を与えられた。幼いルークの指導係と護衛騎士の任をジョゼットはこころよくひきうけ、ガイがファブレ公爵の護衛にあたることとなった。 しかしこのガイ。とても自由人だった。 ファブレ公爵への宣言通り、あくまで自分の領民をさがすべくすぐ旅に出てしまうのだ。ファブレ邸は拠点でしかないようで、そのためガイはほとんど公爵家にいない。 もはや旅が本業と言わんばかりにいない。領民探しや、公爵の護衛や使用人などといった役職に首をかしげたくなるほどだ。 だが彼は仕事はきっちり行う人間であった。そのため、旅先からおかしな土産とともに、各地の情報を収集して戻ってくる。護衛騎士ではなくもはや諜報員ではないか?とジョゼットもクリムゾンも問われれば頷いてしまう始末。 いわく、「俺は年長で白の参謀だからな♪俺がちゃんとしないとな」と、自分がガイではなく「かい」と認識しているガイラルディアはニカッと笑っていったのだ。 そしてジョゼット。彼女はガイのイトコにあたり、戦後知り合いが誰もいないなか、ひとりでキムラスカを訪れた。 せめて自分を知る生きている者はいないかという願い。そして恨みを晴らすためーーーなんてことはなく、領地復興のためでもなければ、ホドを滅ぼした本人であるクリムゾンを憎んでのこともない。なぜ敵国であるはずのキムラスカに当時の彼女が行ったかというと、近かったからだ。なによりホドはまくると領だが、ガイの母親ユージェニー・セシル・ガルディオスは、キムラスカの貴族・セシル家の出身だ。ホドのシグムント・バザン・ガルディオス伯爵に嫁ぎマルクトの民なった。 ホドのガイラルディアがイトコであるのは理解していたが、ジョゼットはあくまでキムラスカの民であった。 なにより幼い自分の体力ではマルクトまで行けやしないし、言ったところで何ができるわけでもない。そう判断し、彼女はキムラスカでまず上り詰めることを決めたのだ。 ファブレ公爵はユージェニー・セシルをしっていた。 かつ話せばわかる人間でもあり、ただやみくもに戦をしていたわけではない。 幼いジョゼット・セシルが彼のもとを訪ねた時、あっさりユージェニーの関係者であり、ホドの領主のイトコだと見抜いたほど。 彼女の生きるために強くなりたいという熱い思いと、その身柄の安全を守るために、クリムゾンは彼女に己のもとで騎士になる道をすすめた。 当然真面目なジョゼットは恩を返すべく、励みに励んだ。 そうして女だてらめきめきと腕をあげ騎士としての力を見せつけ、ついには公爵の護衛にまでのしあがった。 まぁ、ガイがやってきたことにより、あっさりルーク付きにかわるのだが。 ジョゼットは10歳までのツンツンした濃い赤毛の頃のルークも面倒を見ていた。 だが、当然のように専門の分野はそれ相応の偉そうな家庭教師がでしゃばり、ジョゼットを追い払ってしまった。 そのため赤毛のルークの傍付きでありながら、あまり彼女がルークにものを教える機会はなかった。 しかしまだ甘えたい盛りの子供であったルークは、家庭教師たちのきつい監視の目もかいくぐってはよくジョゼットに話をせがんだ。 そんな感じで、そこそこ公爵子息と護衛騎士としての関係は悪いものではなかった。 変わったのは誘拐事件が原因である。 誘拐事件を経てからは、“変わってしまったということになっているルーク”が、コテンパンに家庭教師を言いくるめてしまったのだ。 さらには武術をやらせれば今までよりも隙なく、かつ優雅にこなしてみせる。 「こうあるべき!」「ああしろこうしろ」とおしつけがましかった家庭教師たちを知力、論、技でもってたたきのめしてしまったため、家庭教師たちは怒り心頭ときには涙して館を去っていった。 結果ジョゼットだけが一人“ルーク”の傍に残る形となり、ジョゼットが一般教育から武術にいたるすべてを一人で教える羽目となった。 以降、“笑い上戸のルーク”を母親のように怒り、なだめ、ときには料理をふるまう努力家の彼女は、“ルーク”とガイからは「あおい」とよばれている。 最後にヴァン。 なぜいるか不明である。 っと、いうのもこの男、ルーク誘拐事件の時、ルークを救出したと“いうことになっている”のだ。 そもそも本物のルークはいまだみつかっていない。 だというのに、なぜヴァンがみつけたということになっているかというと、公爵たちが子供と面会する前「子供は別人で人違いだ」と世間に公表するより早く、とめるまもなく気づいたら噂は広まっていたのだ。“誘拐された公爵家の一人息子をヴァンが救った”と。 おかしいだろう?いつ、世間にルークが攫われたと公表したのだ。戦争中にそんな「上位貴族が誘拐された」など、そのような隙を見せるはずもない。しかし噂は下町から広まっていて、ガイひきいる情報部隊によればすでにマルクトとダアトにもひろまっているという。 頭をかかえた公爵のもとに、原因である髭男はやってきた。 その男、いけしゃぁしゃぁと、“ルークらしい子供”をつれて下町から、民に手をフリフリしつつ「ルーク様をお助けしたのは私だ」と凱旋したようなのだ。 おかげで城下では、ヴァンは英雄あつかい。 だが、考えても見てほしい。ファブレ公爵らキムラスカ陣からすれば、誘拐事件を黙秘りに捜査していた。黙秘りにだ。意味はわかるだろうか。だというのに、なんでダアトのまったく関係のなかった男がここでしゃしゃりでてくるのか。しかもなぜ誘拐事件があったことを知っているのか。これはもはや、犯人の一味だとキムラスカ側がすぐに疑いをかけたのもおかしくないだろう。 ヴァンという男、怪しかった。とにかく怪しすぎた。 何度も言うが、参謀にして武将であり智将クリムゾン率いる部隊がくまなくさがしたのだ。国の頭脳と言わしめる男がひそかに徹底的にだ。 つまりコーラル城のなかだけにとどまらず、各地の怪しげな場所は徹底して探したのだ。 コーラル城とはかつてはファブレ家の別荘だった城である。前の戦争で戦線が迫ってきたため放棄された場所だ。 その探した後から、探したはずの同じ場所で意識のないルークを見つけたとか。だから、なんで部外者が今は使われていないとはいえ、よそ様の領地の、よそさまの別荘に勝手にはいりこんでいるのか。 そうしてヴァンという男は、色が薄くなった記憶喪失の赤毛の子供を連れ帰ってきたアホである。 髪の色も違くて記憶をもない、もはや別人だろうそれ。とは、ヴァン以外の総意である。どう考えてもヴァンが自分のいいようにキムラスカを操るために、姿を似せた別の子供を用意したとしか思えない。 もう一度言うが、キムラスカからすると何度もコーラル城の内部はさがしているのだ。今は使われていないような場所は徹底しているので、コーラル城は誘拐犯の根城にはもってつけだろうと、何度も何度も念入りに探した場所の一つなのだ。 で、ファブレの騎士たちがなめるように探したときには侵入者の痕跡さえなく、ほこりまみれで何も無かったのだ。だというのに、ヴァンはほかを探すでもなくまっすぐコーラル城へむかい、そこに賊がいた痕跡があり、人の気配がしたが自分が行ったらいなくなっていてルークがいた。 とかなんとか。 矛盾しかない。 怪しい。怪しすぎる。 かりに赤毛のこどもが本物のルークだったとしても、その言い訳だと「誘拐犯本人だからこそ、攫われた子供の行方を知っていた」としか思えない。トンチにしても酷い。本人のあのキラキラした笑顔は、自分の策が完璧だと思い込んでいる自意識過剰のそれである。いやいや、どう考えても穴だらけの穴しかない策だから!と本人がいなくなった後ツッコミをいれたのはガイである。 もしやヴァンは「自分は最高の策略家」で「なんて頭がいいんだろう」とでも思い込んででもいるのだろうか。策というには低レベルすぎるほど幼稚である。言い訳けをするにしても程があるというもの。このいかにも嘘っぽいこれらの流れを、当時のヴァンはドヤ顔でそれは堂々として告げたのだ。民衆を巻き込んで。 ヴァンと“色素の薄い子供”の経緯は推測でしかないが、どこぞで誘拐したこどもを適当な誰かに任せていて、コーラル城で子供を受け取ったのか。 そもそもコーラル城に足を踏み入れてさえいないのかもしれない。子供の引き渡しなど城じゃなくともどこでもできるのだから。 あるいは受取というパターンではなく、自分で隠した場所にヴァンが直接こどもをつれだした。という可能性もあり得る。 まぁ、はっきりいうと“色素の薄めの子供”をいかようにしてファブレ邸までつれてきたかはどうでもいいことだ。 問題はヴァンの行動である。 ヴァンの幼稚な作戦は穴だらけで、自分が英雄あつかいされたかったのか、それともキムラスカにとりいるための自作自演か、なんにせよ、お前が犯人以外のなんだっていうんだぁ!!!!と、誰もが思っていた。そもそも、その子供はどこからどう見ても別人だろうが。 結論からして、体の弱いシュザンヌ夫人は、怒りに血圧が上がりすぎたおれた。 当時はすでにルークつきだったジョゼットは、可憐な笑顔をたたえ、怒りマークをうかべてーー今にも髭の髭を狩ろうとしていたほど。 ヴァンは何を勘違いしたのかジョゼットの笑みにドヤ顔をさらにつよめ、自分がいかに勇敢にルークを救い出したかを彼女に語っていた。 ジョゼットはキレていたのであって、けっしてヴァンを尊敬して憧れたわけでもなければ色目を使ったわけでもない。彼女が自分に気があるとおもったのは、ヴァンの勘違いのなせる業である。 なお、いまだにヴァンの髭が無事なのは、ガイとクリムゾンが「奴がなにをたくらんでいるかわかるまでは泳がせる」と言ってジョゼットをなだめたためである。 ジョゼットはあのままヴァンの首ごと髭を狩るつもりだったのだろう。 その時、記憶喪失だといわれ連れてこられた“色素の薄めのこども”はというと、状況を把握してないはずだが影で笑いをこらえて震えていた。 このこども、とんでもなく笑いの沸点が低い。 はっきり言おう。 この国、ファブレ公爵家の一人息子が攫われて以降、キムラスカは“以前”よりも、まったくもって「予言」と「ローラレイ教団」を信じなくなった。 これもあれもすべてヴァン・グランツのせいであるが、当の本人だけが全く気付いていない。 じわりじわりとキムラスカが教団への寄付をあの手この手と言いわけをつけ、遠回しに減らしていることさえ・・・・気づいてなどいないのだろう。 なお、モースがキムラスカに入り浸っていると周囲は思っているようだが、勘違いである。 あんな予言妄信者に王が従うはずもなく、モースによってキムラスカの王族が洗脳されているーーということもない。 なぜならモースがわざわざキムラスカにきているのは、キムラスカ側が呼びつけているからだ。 その事実をご存知だろうか? なぜって、ヴァンがやらかすたびに請求書や抗議文を送っては、弁明したかったらそちらが足を運べ。そうしたらいいわけぐらい聞いてやる――っとばかりに、キムラスカ勢が激しくあおっているのだ。 なお、金の力だけでのし上がったようなモースは、あっさりキムラスカの策略にはまり、文書を送るたびに怒り心頭で本当にやってくるのだ。 モースは面白いぐらいあっさりあおり言葉にくいつてくるので、公的な手段で抗議するなんてことはせず、ご本人自らキムラスカに抗議をしにやってくる。 だが、忘れてはいけない。ダアトからキムラスカにくるだけでも実際旅費は莫大な費用が掛かる。 とはいえ、キムラスカからするとそれこそが狙いであるのだが。 キムラスカがねらっているのは、ダアトそのものの失脚だ。 なぜならダアトは「予言だから」と言い訳すれば何をしてもいいと思っているふしがある。おかげで政治のなんたるかをしりもしないくせに不必要な口出しをしてくるは、「中立でいてやってるんだぞ」「それは予言にかかれれている」「両国の仲を取り持ってやってるんだぞ」とばかりに寄付金と称して金を巻き上げられて不愉快極まれり状態だったのだ。 キムラスカはこれに対して、常日頃からいかに金を取り返し、相手を排除するかを考えていた。 そこへヴァン誘拐を防いだ英雄節である。 ありもしない恩義を返せとばかりにやってきて我がもの顔で居座るヴァンをみて、ニヤリと笑ったのは誰だったか。 ヴァンを土台として、キムラスカはダアトへ政治的外交的な攻撃を仕掛けることをきめた。 そもそもはヴァンが悪いのである。 ヴァンが下町の民に情報を流したことで、ヴァンは英雄。ルークは誘拐にあった。ファブレ邸には隙があった。などといううわさが流れてしまっている。 つまりは、ヴァンによって、ヴァンを庇護するための外堀が埋められているのだ。ならば、と、その外堀とやらを利用してやろうと思いついたのは、ガイ&記憶喪失で連れてこられたルークである。この二人がタックを組んで、ダアトが被害にあわないはずはない。 なにせたかが一度の功績で英雄気取りのヴァンは、我が物顔でキムラスカにくるのだ。 そのつど、礼儀がなってないわ、王族を呼び捨てにするわ、ああだコウだとetcetc・・・。 ヴァンが“キムラスカに見せた隙”は数知れず。 それをすべてダアトに告訴状としてキムラスカは訴えた。 なお、これだけのことをしでかしているのだと下町に噂を広めているので、ヴァンが作った下町の住民からの憧憬や支持率はもはやない。地味〜にひそかに着実に、底辺までその人気が下がっている。 そんなこんなでもはや策略家しかいないファブレ邸を筆頭に、キムラスカはてはじめに、予言をやたら告げに来る男――モースを狙った。 この策は意外なほどスムーズに進み、ヴァンの失態を餌にモースが責任とれるのか?どうよ?と煽れば、予想よりもとても素晴らしい食いつきを見せた。 そうやってモースをキムラスカにたびたびこさせることでダアトに金を使わせて、財政面の方からじわりじわりと破綻させようという魂胆だ。 キムラスカは、ヴァンやモースの言動でささいなことでもダアトに抗議文章と慰謝料や請求書を送り付けた。 そしてモースを煽る。モースがキムラスカに入り浸る。 そうやってダアトの運営状態がままならないほどに金銭的にも困窮した状況に陥れる。そうなれば信者たちからまた金を巻き上げようとするだろうが、これにより信者から教団の信頼を失わせ、さらには教団の機能を低下させるのが目的だ。 導師イオンが病に倒れて性格が変わってから、政治的な駆け引きがやりやすくなった。と、キムラスカ上層部が攻めの態勢に入ったのである。 これがルーク誘拐と、キムラスカにモースが無駄に訪れている真相だったりする。 さて。 それぞれの思惑が交錯するなか、なぜ、彼らが日本人らしいもう一つの名を綽名として持つかという点について話そう。 笑い上戸の方のルーク、爽やか旅少年ガイ、真面目な女騎士ジョゼット。この三人はしょせん前世とよばれる記憶を持っていた。 笑ルークに関しては、彼が本当に本物のルークであるならば、誘拐の影響で髪や目の色素が薄くなったあげく今世の記憶を忘れた代わりに前世の記憶を思い出してしまったパターンだろう。 まぁ、確実にルークとは別人であろうことから、彼が「はじめ」であった記憶もまた、ただの前世ととらえてもいいだろう。 その前世で、笑ルークは「始」。ガイは「海」。ジョゼットは「葵」。そう呼ばれていた。前世の彼らは仲間であり、歌を歌い踊り、人々に笑顔を届ける仕事ーーアイドルをしていた。 何かの小説であるような、転生仲間は直感でわかる。っということはなく、ガイをみたジョゼットが「うちのイトコの爽やかさ具合が海さんみたいなんだけど」とつぶやいたのが最初の切っ掛けとなった。 次に、笑ルーク。髭によって連れてこられ意識のなかった彼が目を覚ました直後、見舞いに来ていたナタリア姫をみて「春、おまえはいつアホ毛をなくしたんだ」とねぼけつつつぶやきナタリアの髪をなでたことで、傍にいたジョゼットが笑ルークの正体を察した。 ひとまず記憶喪失の子供がファブレにひきとられたあとのことをのべるなら、まずルークである。本物の方だ。どうやら本当に髭は誘拐犯だったらしく、本物のルークはダアトにとらわれている・・・否、ダアトにて喜々として働かされているらしい。 喜々ってなんだ?とその報告を受けたファブレ邸の住人は思った。 その頃、ルークの代わりに連れてこられた「はじめ」と呼ばれる子供は、この世界とは別の人間の記憶しかないため、彼には一から王位を継ぐためにあたり何が必要か(これは前世の彼の立場上はじめから理解していた)、ルークの立場とはなにか。この世界の常識から帝王学まで、様々な知識をジョゼット監修のもと指導をうけ、いまでは一人前のこの世界の貴族らしさを身につけていた。なお、子供らしさは教え忘れた。 「はじめ」に前世の昔馴染みとしょっぱなから勘違いされたナタリア姫は、その後妹のようにかわいがられては、ふんわりした髪をよくなでられるようになった。それはもう甘ったるい笑顔付きで。 結果、ナタリア姫はすっかり「はじめ」の影響を受けて、案の定彼色に染まっていた。 まず勉強嫌いだった彼女だが、ルークをみていたジョゼットならばと教えを乞うようになった。 ジョゼットの教え方がよかったのか、同性ゆえか、話したいことを気兼ねなく語れることもよかったのか、王者然としたルーク(はじめ)の傍にいたことも功をそうし、ナタリアはメキメキと才能を開花させた。 ナタリア姫は、品格知性共に王女らしいふるまいを身につけていく。 いつしか父親に政治経済や人の在り方を学び、王や大臣たちの話し合いの時には見学という形で部屋の隅に座っていることが多くなった。 なお、ナタリア姫は自分が父王の実の子でないかもしれないという不安をジョゼットにひそやかに相談したところ、諜報にたけていたガイがその真実をさがしだてきた。 己が王族でないという確信と確固たる証拠を得たあと、なんだかんだの末ナタリアはそれを受入れた。 そうして王族でない己の役割がなにかをナタリアはもとめた。 答えは大臣たちがあっさり語った。求められるのは王家の血を継ぐ存在。本当の王家の血を継ぐ子供、すなわちルークとのこどもを産むことだけだ。そう言われたという。貴族たちの陰口から理解したのか、直接言われたのかは、ナタリア自信が口を閉ざしたためしるよしもない。 しかしナタリアは必死に考えた末に自ら結論を出し、その段階で王位継承権を放棄しルーク(はじめ)にゆずった。 なお、このお姫様が慕うルーク(はじめ)の趣味は、愉快な天然ボケを作り上げること。すなわち洗脳である。 前世の友人である弥生春。もとい、「花」もまた、始によっておかしな知識を植え付けられ天然ボケとかした。 つまりは、ちょっとばかりずれた姫様が誕生したわけである。 王位継承権を放棄後のナタリアは、全力投球で政治ーーーではなく、武芸に力を注いだ。 なぜそちらに走った!?とキムラスカの貴族たちを震撼させた珍事は、「王族だからと自分の身ひとつまもれずして民がすくえましょうか」という真摯なナタリアの言葉により打ち負かされた。 だが、ちょっとまってほしい。護身術にしては本格的すぎるサバイバル技術は何に使うのか!? ジョゼットのイトコであることからもわかるとおり武芸にもひいでたガイに師事をあおいだ結果、そのガイの放浪癖にふりまわされ各地を渡りあるき、野性を得たナタリアは、もはや向かうところ敵なし。武人たる実父の血をかいまみせた。 これには智将といわれたクリムゾンもおてあげだった。 お転婆姫から戦女神のごとき武人姫とかしたナタリアに、もちろん笑いのツボが浅いルーク(はじめ)は爆笑した。 本人には気づかれることなく笑いつつもその成長を優しく見守り、あおり、更に高みを目指すよう促した。 もはやキムラスカでは、毛色が違うからとナタリア姫を下に見る者はいなくなったといっていいだろう。 * * * * * 時は流れ、ルーク(はじめ)が17歳になったころ。 キムラスカ最強の砦たるナタリア姫が、たまたま不在(という名のガイの放浪癖がうつったお忍びの旅)だったその日、事件は起こる。 出禁にしても適当なことを言ってファブレ邸に侵入してくるヴァンに、強引さで侵入を許してしまった門番や兵士たちが首になるのはやるせないというかそう簡単に腕利きの人材を切り捨てざるをえなくなる事態に頭を抱えたクリムゾンが、ヴァンの訪問というか存在そのものを無視するようにファブレ邸で通知を出したのはいつのことだったか。 もちろんヴァンの奇行はすべてガイという笑顔の監視が逐一報告が上がっている。 あまやかしたわけでもないが、やはり意味が解らずなぜかいるーー飽きもせず、なぜかファブレ邸にいるヴァンが、「自分はルーク様の剣の稽古に来ている」と謎の宣言をして、ファブレ邸を訪れていた。 まぁ、そのぶんキムラスカはダアトに面と向かって抗議文と金の請求ができるのだが。 さて、当然必要がないといってもヴァンが信じるはずもなく、勝手にルークに稽古をつけようとやってくる。 ルーク(はじめ)は、セシルイトコズ+ナタリアというトリプルコンビとともに術や剣技を学んでいたこと、前世からの経験がゆえに、17歳ともなればもはや手練れ。一人前の武人としてその腕を磨き上げていた。 はっきりいうと、大振りな隙しかないヴァンと相手をすれば、一撃で倒せるほどの腕前だった。 ちなみに一番ルーク(はじめ)の強い部分は握力である。あの怪力で頭をわしづかまれると、兜もへこむ。 なにせ11歳のころには、ヴァンに本気で来いと言われ、手合わせの際に勝っている。 小柄な身体を利用してあっさり懐に入りそのまま木刀をのど元に突き付ければ、ヴァンは笑いながら「まぐれにしてはよくやったぞ。だが脇があまいな」とルークが勝ったのを信じなかった。 瞬間、ルーク(はじめ)のなかでヴァンは「洗脳しがいのないおもしろさのかけらもない価値のない人間」と底辺まで評価が下がった。 以降ルーク(はじめ)は、いつも剣の稽古とやらで負けている。 なぜならば勝手にファブレ邸に侵入して勝手に稽古をつけてる(きになっている)ヴァンに、やる気がおきるはずもなく、もはや感情一つ動かさない表情のままルーク(はじめ)は、相手に会わせた剣術でわざと負けてやるのだ。 たしかにヴァンとルークの手合わせは、正しく稽古であった。 ただしルーク(はじめ)によるヴァンへの指導という形で。 まぁ、教えてると思っている子供が手を抜いて指導碁のように剣技も誘導していたとはしるよしもなし、“自分に勝てたことがない子供”とルークを認識しているヴァンからすれば、相手に指導されているなどおもいもよらないのだろう。 そんなだからヴァンは、ルーク(はじめ)には「あいつだめだ。何年たっても自分の悪い癖一つ治せしやしない」とまで言われるのである。 その日もヴァンはファブレ邸に無理押しいり、歓迎もしていないのにファブレ公爵のもとに「導師が行方不明だからルークに剣の稽古をつけにきた」とかわけわからんことを言うなり、庭先で素敵に美味しくバーベキューをしようとして楽し気に串を持ってジョゼットが切る肉を待っていたルーク(はじめ)に「さぁ、剣をとれ」と言った。 まず一言いいたいのが、自分の国(?)の一番トップが行方不明になったことをそうホイホイ他国の上役に話していいのかということだ。この案件は、情報漏洩の疑いありとすみやかにダアトに報告されることだろう。 そして行方不明なら探しに行けよと思うのに、なぜかどうでもいいよその国の貴族の子供の剣の稽古をしようとしている点。 はっきりいってわけがわからなすぎる。 肉を刺すための串を奪われ「そんなものはおいておけ」と言われたルーク(はじめ)は、地面に落とされた串をみて静かにキレた。 串に刺したばかりだった肉は土で汚れ、足元も気にもしないヴァンに踏みつぶされて食べれる状態ではない。 ヴァンが乱入してきたことで、こぼれたタレは地面に染み込んでしまっている。 キムラスカは岩場にできた上へ延びる国。自給自足をするにはとても難しい立地である。 それをナタリアがガイとともに土地に赴き実際に調査を行い、ルーク(はじめ)が前世の知恵をつかい農業プラントを作成し、水路の基盤を立ててようやく近年牧場を開拓するまでにこぎつけたのだ。彼らが食べようとしていた肉は、まさにその試作第一号であり、焼き肉のたれはリンゴや新築された農業施設でとれた玉ねぎをつかった。これもまた際どい環境でも耐えうる品種改良品である。 今日は試作品たちの進行状況確認のためのバーベキューだった。 その努力の結晶を「そんなもの」として捨てるなんて。 「いいかげん、堪忍袋の緒も限界だ」 「なんだルーク。やる気になったか」 「あとその言葉遣いもなってないな!」 ボキリボキリと拳を音を立ててほぐし、ユラリユラリと体を揺らしたルーク(はじめ)が、珍しくやる気と勘違いした笑顔のヴァンにむかい(譜術をまとった)その拳をふるおうとした瞬間ーー 〜〜♪〜〜〜♪ 「なんだ!?子守歌?」 突如屋敷内から響いてきた子守歌のようなそれに、ルーク(はじめ)はさっと警戒態勢に入り、傍に落ちていた串を手にした。 「これは譜歌!?」 「ペール!しってるのかこれの正体を!?」 「眠りの術です!はやく!はやくおにげください!!」 庭仕事をしていた老人ペールが慌てて駆けつけてきて、ルーク(はじめ)とジョゼットをかばおうとするが、それよりも早くにぐらつく脳に膝をついてしまう。 「ジョゼット!ルーク様!敵襲です!!!」 「ル、ルーク様!お逃げください!」 響き渡る眠りの旋律から逃れようとしたのだろう。館の中から足を赤い血で染めた騎士が二人飛び出してくる。 互いに眠りから無理やり意識を引き戻そうとしたのだろう、己で傷つけた怪我は痛々しい。 しかし旋律はどんどん強くなるばかりで、兵士たちもやがて眠りについてしまい、しまいにはジョゼットまで地面に膝をついてしまう。 「ジョゼット!」 「くっ・・・は、はじめさん・・・どうかお逃げくだ」 ルーク(はじめ)がジョゼットにかけよろうとしたとき、館の屋根・・・・屋根!?から、人影が飛び降りてきた。 館の内門のほうから聞こえてきた旋律だったが、わざわざ屋根に登ったらしい。思わずジョゼットを支えながらルーク(はじめ)はあまりの異常さに呆然としてしまう。 だが敵は考えるためのゆとりさえ与えずーー その茶色い塊は「裏切者ヴァンデスデルカ!!覚悟しなさい!」と声をあげてヴァンに襲い掛かった。 敵はルークにゆとりさえあたえず、さらなる混沌を投げ込んだのだった。 ルーク(はじめ)の頭の中は「まてまてまて!!!なんでここで髭を襲うんだよ!!」と、普段はよすぎる脳の回転が困惑し一周したあげく思考を完全に停止していた。 そして襲撃者の攻撃をはじいたヴァンが腕を振ったそのひと振りで襲撃者の身体はあっけなくふっとび、飛ばされた茶色の物体は勢いよくルーク(はじめ)たちのもとへむかってきた。 響け・・・ ローレライの意思よ 届け・・・ ひらくのだ! そんな謎の声と共に、ルーク(はじめ)と襲撃者の身体がぶつかり――――― 二人の悲鳴と共にその場が光にあふれる。 とある属性を持つ同じ波長の術者同士にみれる共鳴現象がおきたのだ。 そして光が就職した後、そこにはルーク(はじめ)と襲撃者の姿は忽然と消えていた。 |