有り得ない偶然 SideW
-クロバヌ 外伝-




16:チェシャネコは頂点を望まない

【ShortStory】宮地さんがドルオタだとしったその後の黒子
と、微妙につながっています。
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『やぁ、ようこそアリス。なにを首をかしげてるんだい? ああ、君のようなイイコちゃんには、あいつらやオレの気持ちはよくわからないかな? そりゃぁそうだろう。この世界でふつうなことは、“お前”にとっては異常なことなんだから。
ごらん、オレたちにとってはみれば“そう考えること”こそがふつうなんだよ。
ほら、そうかんがえてみると。おかしなところなど、なにもありはしないだろう?』

チェシャネコはアリスを惑わすように、否、アリスの持つ世界観を根本から崩そうとするかのように、ニヤリと三日月上の笑みを浮かべました。

アリスが“異常”だと思うことこそが、その狂喜にみちた不思議の世界に生きる彼らにとっては“普通”で。
価値観が違うからこそ、アリスはチェシャネコとは相いれそうにないと、痛くなってきた頭痛をこらえるように目頭を押さえます。
これそが自分にとっての普通だ。この世界において、おかしいのは君の方だよ。 そう告げるチェシャネコに、アリスは「いいえ、それは間違っています」とその水色の目を向けたのです。

「あなたのやりかたは間違っています。 だってあなたはラフプレーなんかしなくても強いじゃないですか!それなのに」

まっすぐな強いまなざしに、チェシャネコは不思議な色合いの瞳をさらに細めます。

『すべての事象がきっちり正と悪でわかれているわけじゃない。 お前にとって正義でも。 ひとにとっては悪にしかみえないこともありうる。
ああ、かわいそうなアリス。お前にはとうてい理解できないことだったな。
ならばわからずとも、少しぐらい理解できるように手助けをしてやろう』
「てだすけ・・ですか?」
『そう。これはオレからの助言だ。聞いておいて損はない。きっとなにかしらの“心構え”ができるだろうさ』

どうするアリス?オレの話を聞いてみないか?

金色に近いきらめく明るい黄緑の瞳が、夜のとばりの近づく夕焼けに照らされ、暗く昏く染まっていく。
それとともにチェシャネコの目に宿る光が鈍い鋼の耀きへと変わっていくのに、アリスは無意識に短く息をのみこむ。
ごくりと思いのほか大きく響いた音に、アリスはようやく自分が緊張していたことに気付いたのです。
しかしアリスは、赤い目の時計うさぎが女王のもとへと自分を案内した時の様な状況に、 目の前の相手はただの道楽者ではない“強者”だと感じとり、 彼らの常識が理解できず首をかしげるばかりだったのを改めた。

そうしてアリスは意を固めると―――





++ side花宮成り代わり ++





ダムダムとオレンジ色のボールと地面がこすれる音が響く。
それを追いかけるように、赤色と水色がオレをとめようとコートをかける。

だけど甘い。

黒子からのばされた手を一回足を止めてくるっとまわるように身体を回転させ、右手から左手へとボールをもちかえる。 そのフェイントは予想外だったのか、驚いたように黒子が水色の目を大きくみはる。
それも想定内。

花『バックチップだけじゃだめだぞ黒子』

今回は、あのイグナイトは使用禁止のルールだ。それでどこまでやれるか。WCに向けての訓練の一環だ。

ニヤリと笑ってやれば、すぐに黒子は意識を取り戻し、「負けません」と真剣な顔で、 けれどその纏う雰囲気はどこまでも楽しげに、ドリブルをするオレの後ろをついてくる。
ゴールの前では、オレの前に立ちはだかるように、さっきのフェイントの隙に先回りしていた火神が両手を広げている。
彼から「うっし!」と意気込みが聞こえる。
ギラギラとしたあいつの赤い目も楽しげで、それにオレはフッと笑う。

楽しんでもらえたようで何よりで。

だけど!

花『小回りはオレのがおはこでね』

なにもスティールやティアドロップだけがオレのとくいわざではないのだ。

手を抜く気も、勝ちを譲る気もない。
たちはだかる火神を前に、後方に飛ぶようにしてシュートを

火「fade awayか!?」

――したかのようにみせかけ、これまたシュートポーズへはうつらずそのままボールはまだオレの手の中。
残念。こんな遠いところからシュートなんか打つ気はありません。 なにせ2対1ですから。オレはボールをパスする相手がいないので、失敗は許されない。なら一人で特攻するのが一番いい。
だから、今回の[フェイダウェイ ]もまたフェイク。
こうすれば火神がとっさにを防ごうと高く飛び上がるのはわかっていたこと。
そこでボールを投げずに、レッグスルー(ボールを自分の股下でバウンドさせるように、足の間を通してドリブルをする方法)でボールをにがし、 それを全力でかけて一人でキャッチして、火神をおいこすとまたドリブルを再開する。
オレが再び地上に降りてドリブルをすれば、黒子が待っていましたとばかりに地面にオレが到着するとほぼ同時に背後から手を伸ばしてくる。
おあいにく様。
お前の行動なんか、こちとら読めてんだよ。
さすがオレの《超直感》。それにしたがって人が動いているような錯覚さえ起きる。
それはまるでオレの未来イメージどおりに動くよう。 そんな彼らにさらに笑いながら、黒子と火神をもう一度追い抜き、ゴールの真下からボールを手首の動きだけでとばしてほおる。

シュッ

風を切る音がして、投げられたボールがポーンととんでいく。
そのままネットを揺らすことなく入ったボールをみて、黒子が「さすがです」と笑いパチパチと手をたたく。
汗をぬぐって、火神もやってくる。

黒「花宮さんのフォームはいつみても勘で動いてるとは思えないほど綺麗なフォームですね」
火「ぬあー!やっちまった!!なんでいつもアザナ先輩のフェイクに騙されんだ俺は!!くそぉ!次こそは抜いてやるぜ!です!」
黒「火神君・・・そもそも花宮さんから、はじめにフェイクかけるって言ってたじゃないですか。 なのにひっかかるなんて、単純すぎます! いまのは僕でもわかりましたよ!! だって花宮さんイタズラッコよろしく笑ってたじゃないですか!まさに「これからしかけます」の合図以外の何物でもないでしょうあれは。
なんで火神君は毎度毎度花宮さん相手だと真っ正直にぶつかっていくんですか!」
火「うぅぅ・・・ななんちゅうか・・・えーっと、そのだな。うん。あれだ。癖?」
黒「火神君!!」
花『まぁ、おちつけって黒子。
火神の場合アレだろ。身長がでかいから、足元はみずらいんだろうさ』

別にオレが小さいっていのうを気にしてるわけじゃないからな。
だって、オレはたぶん火神に《原作の花宮真》の話を聞かなかったら、身長が低いとか気にもしなかっただろうから。
同じ存在なのに、オレと違ってちゃんと成長することができるっていうのがうらやましく思ってさ。それ以降かな。身長を極端に気にするようになったのはさ。

だから別に馬鹿でかい火神に恨みがあるわけでも、あとであざ笑うためにフォローしたんじゃないんだよ。

火「俺に対しては異常なゲス具合なあのアザナ先輩が俺のフォローを!?」
花『ああ。はっきりいって悪かった。だってお前反応楽しんだもん』
火「“花宮”の姿で“だもん”とか・・・おぇ」

まったく、失礼だな。
まぁ、レイの反応が面白くて、どこの世界でもいじくっていたのは事実だけど。

花『こらこら。ちゃんと聞けよ火神。小さいデカイとか関係なく、周りをみろ火神。
それに伊月や黒子のいない試合にでることになったら、お前どうする気だ? 突進だけじゃぁ、この先やってけないぜ。サポートできるやつが必ずいるのは、いまだけだ。
誠凛の先輩たちが卒業したら、次の奴らが天才的な才能のないただの平凡なやつるあだけになるかもしれない。 そのときは周囲のレベルにお前は合わせないといけないんだぞ。 それにな。キセキや今の時代のバスケ部員たちの様に一芸をもった連中ばかりのやつらが、いつも相手とは限らない。 だからオレと黒子みたいな、“まわりこむ”のが得意なプレイヤーにも慣れろって言ってんだろうが。 勘と感情で動かず、しっかり目も使えよ。そのための今日のストバスだろうが』
火「勘だけで動いてるアザナ先輩に言われたくない!」
花『オレのはいいんだよ。完全野生の感覚で動いている青峰とは違って、オレは超直感をもとに計算してから動いてんだから』


それにしてもオレたち霧崎を抜いて、WCへの進出を決めたのに、まだまだ甘い。
今日は誠凛がオフだからつきあってほしいと言われ、この光影コンビについてきたのだが。きてみればやはりストバスだった。
指導しろと言われるならするが・・・

さて。どうしたものか。

本来なら相田にお伺いを立てるところだが、まぁ、別になにかを強制させたり、こいつらを強くしたいわけではないから、 相田が好まない変な癖とかは、一回ぐらいの練習ごときではつかないだろうが。
でもどうせなら、鍛えられるなら、鍛えてやりたい気持ちはあるんだよな。
まぁ、今日は遊びに来たのが最初の目的のはずだから、楽しければいいと思うわけで・・・


黒「そうか!そうだったんですね!」

この後はどうするかと考えていたら、ふいに黒子が目を輝かせて、オレの手を握ってきた。
なんなんだと首をかしげて様子を窺えば――

黒「さすが花宮さんです!そうやって巨人兵どもを駆逐するめの作戦をねっていたんですね!これなら僕でもよりミスディレを生かせそうです」
花『ん?なんのことだ?』
黒「今回のは巨人を駆逐するためにわざわざ僕にご教授してくれるための作戦だったんですね!」

なにかをどうか勘違いしたのか、嬉しそうな黒子が、笑顔で火神に「火神君は実験台になってくださいね」と笑って告げている。

そこでようやく言葉の意味を理解し、オレはニィっと口端をもちあげて笑う。なかなか面白そうなことを言ってくれる。
「はぁ!?いみわかんねぇよ」と若干いらっとしたような表情の火神にご愁傷さまと内心わびてから、オレは黒子の言葉に今回はのってみることにした。

花『そのとおり。さすがオレの心の友!よくわかったな! そうなんだよなー最近のバスケ部員はみんなばかでけぇ。それを逆手に利用させてもらって、相手の死角を狙うんだ黒子!オレたち160cm代の特典は小回りが利くこと! これを利用しない手はない!
そうしてどんどん試合で“オレたち”(ちっさくないよ平均だよ連合軍)の有能さを見せつけるんだ!』
黒「はい!花宮さん!!」

花『よし!なら巨人VS日本男子平均身長連合軍ってことで』

火「げ。黒子と先輩が組むのかよ。ふたりがそろうとねっちこいからいやだ」
黒「何を言ってるんです!さぁ火神君!これからは“僕たち”の時代です!二人で頑張りましょう! そのためには・・・ねぇ。 ほら火神君しっかり僕らが強くなるために実験いえ失礼、言葉を間違えてしまいました。 練習です! これからは緑間君の様に人事を尽くす時代です!練習にはげまなくてはいけません!さぁ、やりましょう!じっけ・・・練習を始めましょう火神君!」
火「“僕たちの時代”ってそれ絶対“光と影”の時代って意味じゃないだろ!!身長160cm代の時代って言ってるよな!?」
黒「え?なにを言ってるんですか火神クン(真顔)」


そうこうしているうちに、なんだか誠凛の光影コンビのテンションがあがってきたらしく、しだいに言い合いは喧嘩のようなものになっていた。
仲良きことはなんとやら。
だけどそのノリのよい言い合いのせいで、オレはただいまボッチである。
休むにはちょうどいいので、ベンチに座ってお茶とか飲んでたけど。
なかなか二人の会話は終わらない。
つまらん。
転がっていたボールを拾って、クルクル手の上で回すもあきてきた。
それでもなお、黒子と火神はなにか言い合っていて。
そもそも何を言い争っているんだ二人は。
最初はオレの話だったよな?え?なに。いまはマジバのメニューについて?
バニラシェイクとチーズバーガーどっちがいいかだって?どうでもよくね?
そこはコーヒーと、チョコパイとポテトだろ。
決して自分の意見を言うつもりはない(巻き込まれたくないから)。

まだまだ二人の不思議な言い争いはつづいていて、逆にヒートアップしているのに呆れ、手持無沙汰になったのでボールをいじくってあそぶ。
そのままなんとなくポイとばかりにボールをなげれば、ビックリするほど綺麗にゴールにはいってしまった。
オレ、いまベンチに座っているというてきとうさなのに。

ゴールリングにあたる音で、火神達がこちらに気付いて振り返る。

ああ、見事に入ったな。
オレもびっくりだよ。

花『・・・うわー今のなに!?見事に真ん中に入ったぞ!なにあの奇跡!!この体勢で入るとかおかしくね!?』
火「先輩ぃ〜・・・自分でやっといてなんで驚いてるんですか!!こういうときは練習の成果だくらい胸張って言えばいいじゃないですか!」
花『いや、今のは何も考えずただこう投げたら入るかも〜てきな・・・すみませんでした何も考えてませんでした』

火黒「「勘か!?」」

そうだよ。そのとおりだよ。
そこからは火神と黒子の矛先がこちらに向き、そんなチートはずるいとか、いろいろ説教を食らった。


火「そういえば・・・アザナ先輩って。なんで霧崎に入ったんですか?」

霧崎第一って頭いい進学校ですよねと言われ、思わず渋面顔をしてしまったオレは悪くない。

火「基本勉強嫌いで、頭はよくないっていつも言ってますよね? それでなんで霧崎に入ったというか、はいれたのか不思議で」
花『たしかに勘ですべてをこなすバカだという自覚があるが。
なんでって・・・なぁ』

これ、本当のこと言ってもいいんだろうか。
一番目は口に出せるようなことではないが、二番目の理由としては――

花『学校が家に近かったからだな。
あとは両親が学費だすからいけいけと歓声をあげたから』

ああ、でもやっぱり一番目の理由が一番重要だよな。

花『オレがあそこを選んだ最大のきめてはアレだ。秘蔵のレシピだ』
火「あーなんかわかったきがする。っで、なんのレシピがあったんです? 」
黒「レシピ?」
花『そう。たまたま見学会のときにやってた芋煮会の美味さにつられて』
黒「え。芋のためだけにあの難関な霧崎に行ったんですか!?」
花『ああ、なんたってめっちゃくちゃうまかったんだ。 でもあれは伝統の味だって、聞いても先生たちおしえてくれなくて。 レシピは門外不出って言われたから』

だから霧崎に入ったのだ。
どうだ。ろくな理由じゃないだろう。
きかなかった方がよかっただろう――そう問えば、呆れたような視線を向けられた。
そのあと黒子と火神は顔を見合わせると視線だけで会話をこなし

火「それで霧崎はいろうとするあんた頭おかしい!・・・です」
黒「それで霧崎に入れちゃう頭のレベルもおかしいです!!」

怒られた。

花『勘でテキトーにやったらうかった。ごめん』
火黒「「全人類の受験生に謝れ!!!!」」
花『いや、だからごめんと謝ってんだろ』

悪いとは思っているんだ。
でも受かってしまったものはしかたないだろうが。
それに入学後もしっかり授業についていけてるんだから、脳みそスカーンなオレにしてはよくやっていると誉めてほしいぐらいだ。


黒「はぁー。理由はよぉーくわかりました。
バスケをやろうと思って、入ったわけじゃなかったんですね」
花『バスケ?』
黒「花宮さんならキセキをたおしたいから、キセキが入ってこなそうな場所を選んだのかと。 だってあなたは、僕たちと戦って、なお、キセキに勝 つことを最後まで諦めないでくれた唯一の人だから。 貴方だけはキセキと戦っても、バスケを諦めなかったから」

真摯な黒子の瞳に、思わず笑いが込み上げる。
そこまでオレは実直ではないんだが。

花『フハッ。かいかぶりすぎだろ。
そこまでバスケにまじめで熱心だったら、今頃オレは強豪校にはいってたぜ』
火「それもそうすね。
たしか霧崎って、アザナ先輩の代から強豪って呼ばれるようになったんすよね?そこそこ強かったのは確かだけど」
黒「では霧崎は強豪ではなかったんですか。さすがは五将の二つ名持ちですね。そんな高校をのし上がらせるなんて。監督を兼任するだけはあります」
花『ほめすぎ。なんなの黒子。お前、オレのこと好きだろ』
黒「いえ。共感しているのは身長と本の趣味だけです」
火「でた。黒子論。あんたらの友情関係っておかしいと思うぜ。です。
でも本当に先輩すごい!です、よ。二つ名持ちだし監督だし!霧崎第一は現にWC予選まで来てるぜ、ますし」
花『それは、オレが五将であることと、監督であることも関係ないさ。 ようはやる気のちがいだ。 オレという二つ名持ちがいるから、うちの学校の士気があがったんじゃない。 やり方を、バスケへの姿勢というか、考え方を変えさせただけだ。
いつも言ってんだろ。オレは「優勝を目指しているわけじゃない」と』

オレがあいつらを指導したから?そうだとしてもそこに二つ名は関係ない。

黒「そういえば」
火「です」

試合でオレが言ったことを思い出したのだろう。
どうして?と問うてくる二組の目に、ふっと笑い返す。

どうしてもこうしても。
オレたちは、ただバスケをしたいだけだ。

花『ウチは勝ち負けに強くこだわるのをやめたんだよ。
それに人がつけた価値感や呼び名に、オレは興味はないからな。 ないというより、オレには人間の感性とやらがあまり理解できないといったほうがただしいか。 理解できていたら、もしオレが本当に優勝することを望んでいたのなら…今吉先輩みたいに、“勝つためのバスケ”をしただろうさ』

だってそうだろう。
勝つ――その手段のひとつが、強豪と呼ばれる学校に行くこと。

オレがいったのは、ただの進学校。霧崎第一。
去年までそこはそこそこ強いだけの、強豪と呼ぶには遠い学校だったのだから。

花『本当に望んでいたのなら、強豪校に行った。
桐皇のようにあそこまで名が知られている場所だと、キセキが入ってくる確率もあった。
今吉さんのように、“勝つため”なら、そのキセキの世代さえ駒として使う。
ああいう特出した個人プレーを認めてしまうひとは、はっきりいって、怖い。
オレが、アノヒトのことを苦手だと思うのは、“勝つため”なら計算もチームプレーもすててでも挑んでくるから。
《超直感》と計算のうえで成り立っているオレの戦略さえ、あのひとはを“勝つため”ならば、すべてを捨て、味方の計算をくるわすぐらいしてくる。 あの妖怪にとっては、味方さえもあのひとの“勝つため”の駒になってしまう。 頭脳派のオレたち霧崎には、部が悪い。ああいうのは“チームを自分のためにいかす戦術”を得意とするから、 キセキの世代とてあのひとを優勝へとつれていくための駒となりえてしまう』

今吉さんの場合は、キセキと呼ばれるあいつらの理不尽の暴力に勝つために、あのひとはプレーの仕方を変えた。
中学のようなチームの連係を重視したプレーを捨て、あの人に勝利を与えるため、 青峰が一人プレーできるようなチーム編成に変えた。
青峰がひとりで暴走するための場を整えるのが、今の桐皇の、そして今吉さんのプレー。
あのひとが、「自分らたちチームが勝つ」とは言わず、「青峰が絶対勝つ」と言うのはそのせい。
勝つのは全員じゃない。“個”だから。

花『だからと言って・・・あのひと、いつも言葉やわらかで笑ってるから勘違いされやすいけど、悪いひとじゃぁないぜ』

勝ちたい。
その気持ちが今吉さんはこちらが呆れる程強いんだ。

花『勝てば官軍とはよくったものだ。
本当にそう思ってるなら、今吉さんなら上手くラフプレーのひとつやふたつやってるだろうさ。
けどそうしないってことは、ちゃんとした試合で勝ちたいんだ』

勝ちたい。
勝てば官軍とあのひとの口から言わしめすほどには。

花『「何をしてでもいい」と口にしてしまう、それ程までにあのひとは勝利したいんだよ』

キセキとの試合で諦めないでいたのは、オレじゃない。
むしろ未だ闘志を燃やし続けているのは、今吉さんの方だ。
あのひとはそうみさせないだけで、今も圧倒的な敵に挑み続けてる。
おいつきたがってる。
“あの高み”へ。

高みにいるその敵に勝つには、自分一人の力だけではどうしようもない、届かない。そう今吉さんはいつしか理解してしまった。

花『だから敵の主力を内に取り組んでも…そういう道をあのひとは選んでしまった。


だから今の桐皇は勝つ事に貪欲だ。
今吉さんがいるからよけいに。


花『本当に勝ちたいなら。それこそオレも霧崎の奴らも、そんな今吉さんのいる学校を一も二もなく選んだろうさ。
霧崎第一のやつらの頭脳があれば、桐皇だって余裕だろうに。あいつらはそれをしなかった。
それがオレたち霧崎の答え』

まぁ、霧崎じゃないといけない事情があればまた別だが。


黒「霧崎はともかく、花宮さんはどうしてです?」
花『オレはあのひとのためにバスケしたいわけでも、あのひとの駒になりたいわけでもなかったからな。
しいていうなら、あのひとねちっこいから一緒の学校なんてこりごりだったんだよ。
それで中学の時に、オレの中から桐皇って選択肢は一番最初に消えたな』
火「なんで桐皇が選択肢から消えたとして、他の学校に行かなかったんだ?バスケは?」

花『だーかーら、何度も言うが、オレの目的は芋煮のレシピだったんだよ。
まぁ“仮定”の話でいいのなら。
もしも、オレがバスケをしたくて高校を探していたとする。
さぁ、どの強豪校に入ろうか。その場合、洛山も候補に挙がるだろ?あそこは強豪校だからな。
桐皇とちがって、あそこなら必ず勝てる』

チームの結束も何もなく、勝つというその意義だけを求めるのならば、たしかに洛山にいけばいい。

花『無冠の三人組がいい例だけど。
人とは違いぬきんでた奴らってのは、とびぬけすぎてるがゆえに、他の奴らに合わせるのが苦手なのさ。
難しいんだよ。
なんで自分は力があるのに周囲に合わせなくちゃいけないんだと思うから。
逆に自分と同レベルでないやつとくむと、均衡が釣り合わなくて、強い奴はチームに合わせてレベルをさげなければいけない。
それって才能を伸ばしたいと思うやつや、自分の力の力量を理解してるやつらにはけっこうきついことなんだろうな。
力のない奴にあわせるか。力のない奴が強くなるのをまつか』

オレ自信は、周囲に後者だと思われてるらしい。
だけどそういう理由で霧崎のやつらとバスケをしているわけじゃない。


この話はキセキの世代がいい例で、力ある者は必ずどちらかを選ばくてはいけなくなる。
だからキセキの世代は個人プレーをしてしまう。
いや、せざるをえないんだ。

花『でも・・・洛山がとった手段は、そのどちらでもなくかった』

力がないなら切り捨てる。 かわりに力のある奴だけを集めた。 そのぬきんでた奴らだけでチームを作る。
そうすれば力ある者が弱い奴らにひきづられレベルをさげることはない。力は保持したまま。

洛山は同等の力を持ったものがあつまるから、自分の力をおしみなくはっきできる。
また部内において、互いに張り合うことができる競争相手がいるから、自分自身もまだまだ伸びることできる。

花『だから洛山は強い』

それがキセキや無冠レベルの強さを個人が持ってしまったやつらの集まりなら、なおさら洛山のありかたに共感してしまう。
だからあそこには無冠が三人もいるんだ。

強いから、あいつらは必ず勝てる。
ただそこにバスケを楽しみたいとか、絆とか。そういう気持ちが平衡で保てるかは保証しない。

花『あの学校はいくらでもなんどでも勝つだろうさ』

ただし、無冠やキセキ以外のやつの名は ――でてこなくなるだろう。
洛山では、個ではなく、学校というくくりだけが有名になっていく。


本当に努力をして、自分自身の力で上を目指すなら。


花『秀徳がお勧めかな。
あそこは才能や力、うわべだけをみてあつまるわけじゃない。
清志たちのように努力をしたものが力をつけのしあがっていく。そうして力をつけていったものがいるから、強豪と呼ばれるようになった場所だから。
緑間はいい選択をしたと思うよ。
あの子には、あそこがちょうどいい。努力を惜しまない緑間にはそれ相応のものが返ってくるだろう』

っで。オレのことだけど。
オレはさ。バスケとか、勝ちたいとか、力があるとかそういうの除外視して、学校を選んだからね。

花『オレは根本的になにかがぬきんでているといわれるなら勘ぐらいでね。
キセキとはちがってひとりじゃぁ、上にもどこにもいけねぇからな。だからオレはチームワークを大事にする』
火「なら誠凛に来ればよかったのに。
あ、誠凛にはバスケ部はなかったからか?」
花『誠凛はいわずもがな。
オレにはあいつらみたいな熱血な心はなくてねぇ。
チームワークが大好きな奴が行けばいいさ。性格もまっすぐ。熱い心を忘れないような奴がな。
しかもチームの団結力が固く強いからといって、全てがいたたしいわけじゃない。
そのチームワークが固いがゆえに、“それ以外”のかたにはめられない。
他の奴と組めば嫌でもわかるだろうさ。
お前らも誠凛以外の奴らと一度チーム組んでみるとわかると思うぜ。“やりづらさ”ってのを。
まぁ、誠凛ってのは、そういうの気にせずど根性魂で突き進むんだろうけどさ。そうやって優勝を目指せば、選手どもはのびるわな』

誠凛高校は、優勝が無理でも。それでもバスケをしたいと思う奴には大いに向いているんだろう。
きっとそういう学校だ。

花『とはいえ、誠凛でいうなら、オレが入学する年、つまり木吉の代だ 。あのときには、バスケ部なんてなかったけどな』

むしろ木吉と同じ学校というだけで入るもんかと強く思ったがな。


木吉は――
木吉がバスケ部のない場所を選んだのは、はたして0から作り上げたかったからなのか。
本当はバスケをやめたかったのかもしれないな。
あるいは続けたかったけどそこ以外の高校にいく選択肢がなかったかのか。

あいつのことなんか興味もないから、どちらでもいいが。


花『まぁ、お前らはそうして、オレたち霧崎を負かしたんだ。優勝まで行けるならいってこいよ』


黒「でもあなたはそれを望んでない。優勝は誰しもが望むものでしょう?なぜですか?」
花『上から見上げた世界は格別だ。だなんてよくいうよな』
黒「花宮さん?」


花『空の上は寒いのさ。そう、息もできないぐらい、な』


火「息ってどこまで空の上の話ですか?あんたが宇宙好きなのは知ってますけど。たしかに成層圏に行ったら息できないのは当然じゃ・・・」
花『たとえ話しさ。
お前らが今目指すあのいただきは、誰をも孤独にさせる。 そして頂点という名はそこからさきずっとまとわりつく。 結果を残せ。 結果が出なければ、周囲はあいそをつかす。
その周囲の視線、言葉・・・期待という重圧にやがてつぶされ、頂点に立っている者はなにもかも楽しくなくなる。
一番上というのは、そんな場所だ。
フハッ。前らもせいぜい気をつけろよ。
登りつめた後は落ちるだけだ。
もしお前たちがたどりついたとして。周囲に、言葉に、己の感情に、振り回されないようにな』


火黒「「・・・・・・」」



黒「花宮さんは・・・それで、優勝とは縁の遠い霧崎を選んだんですか?」

しつこいなぁ。
ああ、まぁ、お前らも呆然と立ち尽くしてないで、座れよ。ベンチ空いてるし。
あ、これ飲み物な。

花『優勝はしたい。勝ちたい。そういう目標はたしかにある。
けど、残念だな黒子君。
オレたちはそんな勝ち負けという結果を望んでるんじゃないんだよ』
黒「じゃぁ、なんなんです?」

この寒空の下、体を冷やさないよう。体に負担をかけないようにと、持ってきた水筒を手渡す。冷たすぎないそれは、若干さましてあるが温かい湯気があふれでている。
その温もりに顔を緩める二人をみやりながら、オレはオレのバスケについて言葉を紡ぐ。

花『 “楽しいバスケ”』

こどもたちが、オレとは違い一度しかない人生を、一度しかない高校生活を、心から楽しめるように。
楽しかったと後で笑って思い返せる場所であるように。

花『オレたちが望んでるのは、優劣じゃない』
黒「!?」
花『オレはさ、もともと勝利とかだれが優れてるすぐれてないとかに執着はなくてね。さっきも言ったように芋のレシピ目当てに霧崎に入ったぐらいだしな。 残念ながら秘蔵のレシピなんてものはなく、ただ毎回適当にみんなが詰め込んでいたための言い訳だったと、はいったあとに知らされたが。
そこにたまたまバスケ部があったから、だからこのまま続けてみようかなって、バスケ部に入ったにすぎない。
お前らが知りたかったオレの真実なんて本当はそんなもんだぞ』

オレの言葉に、ねっからのバスケ少年たちは戸惑っているようだった。
火神はオレがどんな奴かわかっているせいか、しばらくしたら、「そういえば」と言って、ひとり頷いていた。

オレは転生者。
もう何十回と生まれては死んでというサイクルを繰り返している。
それゆえどんなやつでも、みんな、幼い子どもに見えてしまう。

オレのポリシーとしては、小さな子供は無理をせず大人に頼ればいいと思うのだ。
そして大人は子供の見本になるべき存在。 こどもの笑顔を守るための存在だと思っている。

これはオレのエゴに過ぎない、むしろ偽善そのものかもしれないけど。
だからこそ、こどもたちには、ただ一度の時を笑っていてほしいんだ。


花『バスケに関して言うとさ。霧崎のやつらは、みな凡人なんだよ。
頭の良さはともかく、オレたちはキセキにつりあう力を個人では、持ってないんだ。 だからチームを磨くしか、圧倒的力の前には勝てない。だからこそ霧崎はチームワークで挑む。
だけどな。どんなにチームワークを磨いてもキセキのような、無冠のような、あそこまで特出した強さはないから、優勝は無理かもしれない。
ならば ――そう考えたみんなの答えはひとつだったよ。
心からバスケを楽しもう。
勝てたら、それはいい思い出になる。なればいいな。なれたら、それはそれで思い出が追加される。最高の記憶として。
けれどオレたちの目標は、そんな人の優劣じゃないんだ。
オレたちの学校はさ、もともと進学校だ。部活に時間はあまりとれない。たぶん他の学校より、勉強に多くの時間を割かなければいけないんだろうな。
ただ、そんな勉強だけの中にも息抜きになるものを。楽しみを見つけたかった。学生生活を楽しみたかった。
だから、勝利のためだけにバスケをしたくない。
無理やりやって、バスケ(部活)を苦痛だと感じたくない。やっていてよかった。楽しかった。そういう気持ちを残しておきたいから、バスケをしてんだよ。

――ああ、言葉が悪いか』



花『そういうバスケをしようと ――あいつらの気持ちを誘導したのは、オレだ』



本当は優勝したいよ。
でもうちの連中は、みんな頭がいいから。
その頭で、自分たちの力量を理解してしまったから。
すべてを諦めてしまった。
勝てないと思い込んでしまった。
それじゃぁ、オレが、いやだったんだ。
だからあいつらの感情の向ける方向性をかえさせ、もう一度バスケをしたいと思うようにさせた。
その結果が“あれ”。

「優勝なんて目指していない」と言うのだ。

彼らは諦めることをやめた。
かわりに楽しむことをやめなかった。

オレのひきいる霧崎第一は、そういう場所。


花『もちろん。オレだって“優勝したくない”なんて、そこまで悟ってるわけじゃない。優勝したら、もちろんうれしいけどな』


けれどそのさらに先を目指すのはきっと大変だろうな。
その一歩を踏み出す心がない。
オレたちはその先の一部を垣間見てしまったから、それ以上を踏み込めないのだ。


“その場所”はとても危険。

幅は小さくてたくさんの人は乗れない。
なのにとても高い場所にあるんだ。
そして多くの者が憧れ、望む場所でもある。

そのぶん競争率も高いから、蹴落とされないように気を付けて。

頂点という場所は、さぞ風が強いのだろう。
周囲の嫉妬や恨みごとというような嫌な風は、頂点にばかり集中して吹きあれる。
風はさぞ強く当たることだろう。
高すぎて・・・下からの戯言に、息がしづらくなるかもしれない。
狭い場所だからバランスを崩すことがないといい。でないと、みんなでせっかく築いた絆という土台が崩れてしまうかもしれないから。
上から落ちてしまったら、地面にたたきつけられて怪我をしてしまうよ。
下が針の山だったら死んでしまうしね。

ああ、それに ――上にいるがゆえに、今度は下の方が見えなくなってしまうかもしれない。


だから念を押すのだ。


頂点を目指し、近しい場所にいる君たちに。


花『上についたら、周囲の言葉に惑わされるな』


自分を強くもて。
けれど強く自分を保ちすぎたあげく、傲慢になってしまっては意味がない。

傷ついても立ち上がれるように。

だけど心が傷ついたまま立ってしまってはいけないよ。
きちんと癒してから立ち上がろう。


心が砕けないように。
心がつながっていられるように。

すぐに倒れてしまう砂の城でないことを祈ろう。





花『お前たちの立っている場所は、とても不安定で危険な場所だ。

だから ―――』



これはオレからの最後の助言。

高みを目指す君たちへ。
諦めることをしない君たちに。



花『無理はするな』



おまえらにはもう頑張れという言葉は不釣り合いだろう。
少しでもいい。
ちょっと周りを見るゆとりを持つことを薦める。





――さぁさ、ティータイムはいかがだろうか。





少しだけ君たちの声を聞かせてくれ。

ここはどこかの頂ではなく、お菓子とお茶と聞く耳しかない ――ただの休憩所だ。
好きなだけ休んで、取りこぼした酸素をたらふく吸い込んでいくといい。
怪我をしたのなら、治るまでゆっくりしていくといい。
高山病になる前に、戻っておいで。

そのためにオレはいる。

子供たちを見送ろう。
こどもたちを受け入れよう。








だから言ってるだろう?

――“オレ” は優勝なんか目指していないのだと。





 


:: オマケ ::

そのティーパーティーの真の主催者は 報酬はいらないと笑う
もうもらっていると言って その場を提供してくれる
迷い込んだ水色のこどもに 手を差し伸べて温かいお茶を進める

それはきっと愉快な笑みを浮かべるチェシャネコひきる霧の国の住民たち全員が同じ
彼らはみな パーティーの仕掛け人に違いない


チェシャネコは 言う
自分は公爵夫人に飼われたただの猫だからと
飼い猫はペットだ

そもそも君らと立っている土俵が違うのだ と――


誠凛のジャージを着た白い赤目のうさぎじゃない
力にのまれた青い光でもない
泣き虫なアリスでもない
塗れた体を乾かそうとコーカス・レースに参加していた緑の鳥でもない
下にいるがために上を見上げ続ける細目眼鏡のいもむしでもない
模倣ばかりしているジャックじゃない
上に従うトランプの兵たちではない

下をかえりみるのを忘れてしまった孤独な女王ではないから


チェシャネコは 自分を不快にさせないでくれと笑う
いがみ合う姿より 自分と同じように日向ぼっこをしよう
自分の気分がいいように
子供たちの苦痛の顔を見ると自分の気分は不快になるから

笑っていろよと


チェシャネコは 今日も今日とて頂点を望まない





* * *





花『道を示す手伝いぐらいはしてやるぜ?』
黒「花宮さんって変な人ですね」
火「“アザナ”って生き物らしいし」
黒「道って・・・。まぁ、花宮さんならそうですよね。 なんたって、こうやってバスケの助言がほしいといえば、警戒心もなくホイホイついてきて、そのまま敵のはずの僕たちに見事な指導をしてくれるぐらいですしねぇ。
ねぇ、花宮さん。敵に塩を送るという言葉を知っていますか?」
花『別にお前たちがさらに強くなろうと気にしてないが?
オレとバスケすることで、それで楽しいと思ってくれるなら本望だ』



黒「・・・花宮さん」

花『ん?』
黒「このお茶、すごくおいしいです」

まるでこのカップのお茶は、精神安定座のようだ。
周りからの期待に、流行る気持ちに。
WCという目標のために、進みすぎ、みだれかけた歩調を戻すように・・・。

黒「そんな僕たちに花宮さんは、休憩しようと声をかけてくれた。
今日は、僕たちのために、ありがとうございます」

花『フハッ!だから買いかぶりすぎだっての』





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