有り得ない偶然 SideW
-クロバヌ 外伝-




14:御猫様はひなたぼっこがお好き


僕らに残された時間は残りわずか。

すがる思いで、次の扉を開いた。
そうして、僕たちはようやく手がかりを見つけた。

僕らがどれだけ探しても見つからなかったあれのありかを知っていると、そのひとは言う。
そしてあれを持っている人物の居所にも心当たりがあるという。

これは千載一遇のチャンス。きっとこれを逃したら、僕たちが制限内にあれをみつけることはできないだろう。

これで最後だったから。
僕らにはどうしてもあれが必要だった。
見つけられなければ、多くの者たちのいままでの苦労が一気に水の泡と化す。それすなわち、敗北だ。

知っている。そう告げられた言葉に、僕たちはわき目もふらず、藁にもすがる思いで彼に協力を求めた。




++ sideとある会計 ++





僕は霧崎第一高等学校、二年。
今期生徒会の会計だ。
名前は特出すべき点はないと思うので省略させていただく。

僕を含めた生徒会役員たちは、現在、必死に探している物がある。
それを持ったまま生徒会長が行方不明になってしまったのだ。

生徒会長の名は、花宮字。

この後行われる会議で使う資料を、花宮がすべて持っているのだ。
昨日までには資料をまとめておくと言って彼が持ち帰ったのはいいのだが、それが一番必要な今日に限って、花宮が見つからないときている。

花宮らしくないことに、放送で呼びかけてもウンともスンとも返答がない。
彼を見たという目撃情報さえ出てこない。
まぁ、それにもいたしかたないことだとは思う。あの花宮字だ。ただでさえ神出鬼没で、行動理念がよくわからない謎の生き物なのだから。僕たち一般人である生徒会役員が血眼になって探しても、規格外生物である花宮をみつけだせるとは思ってはいなかった。

役員「本当に花宮会長はどこにいったんでしょう?」
役員「ああ、もう!あと20分しかないわよ」
会計「まいったなぁ」

時計を見れば、会議開始までもう残りはあと20分ほど。
時間はない。
このままでは資料なしで会議が始まってしまう。
その前までには探し出さなければいけない。
議会用の書類をまるっと持ったまま行方不明になった花宮字を――。

いっそ、会長が見つからなくても構わない。
書類だ。
書類さえ間に合えば、PTAのうるさい親どもを抑え込むことができるはずなのだ。
そうすれば、あの議題は可決されるのだから。


もしかするとあの花宮のことだ。会議があるのも忘れているのかもしれない。
それともうさばらしに部活に出ているのかもしれない。そうなると体育館にいたせいで、放送が聞こえなかったという可能性もある。
しかしそこにも花宮はいなかった。

そこで我々生徒会役員たちではどうしようもなくなり、花宮と同じ部活の部員に声をかけてみることにした。
どこの教室にも花宮はおらず、彼の所在を知る者はいなかった。
もうお手あげだと、ぐったりしかけたところで、僕たちは花宮の同じ部活の人間、山崎弘と出会い、彼が心当たりがあると言ったときには、それはもう歓喜乱舞した。

そうして僕らは、山崎に花宮捜索の応援を要請したのだった。


っが、しかし。

山崎「すいません用務員さん」
用務「はいはーい。おや、君は」
山崎「毎度のことなんですけど、ダンボールっていまどうしました?」
用務「ああ、それなら――」

なぜか山崎は、用務員のご老人とダンボールについて語っている。

なぜだ。
なぜこうなった?

山崎いわく、花宮は書類などは引き出しではなく、ロッカーのなかにいれているとのこと。
けれどそこからだすためにはやはり花宮が持っている鍵が必要で。
やはり花宮自身を探す必要があるということだった。

だが、なぜか山崎は花宮の行方ではなく、ダンボールの行方をきいていた。
彼はいったい何をしているんだ。

こうしている間にもこくこくと時間は迫っているというのに。
思わず、のんきに会話している山崎にいらいらして、地団太を踏みそうになるのを懸命にこらえれば――


山崎「わかったぜ。花宮はあっちだ」


はぁ!?
さっぱりだ。
なにがどうしてその流れになった?
山崎が用務員さんに聞いたのは、ダンボールの処理の行方だったじゃないか。そのダンボールを置いてきた場所がなぜ花宮のいる位置になるんだ。


―――なぁ〜んて「意味和が分からない!」と叫んでいた時期が、数分前までありました。


山崎に案内されたのは、校舎の裏側の資材置き場。
ある程度たまってから廃品回収にだされるダンボールが積み重ねられた場所のすぐ横に、数枚のダンボールをひろげて――曽於上に花宮はいた。

会計「本当にいた。でも・・・」
役員「うん」
役員「寝てるね」

山崎「相変わらず一番日当たりがいい位置を確保してるな。本能か?」

目つきの悪いジャージ姿の生徒を筆頭に、僕ら二人の男子とひとりの女子生徒がその場にやってきたときには、もうその楽園のような光景は出来上がっていた。

僕らの前には、大きめなダンボールの山。
その根元付近に、人が転がっている。
太陽の光がさんさんと降り注ぐそこには、大きめのダンボールが数枚広げられ、そのうえで体を縮こまらせて眠る花宮がいた。
心地よい陽だまりにさそわれて集まってきたのか、その花宮を囲むように猫団子がいくつも丸まっている。
猫アレルギー持ちのひとには、天敵のような光景である。
花宮が着ている制服に動物の毛が付きそう――ともいう。

山崎「あ・・・。ったく。おい。、花宮ー。お前寒がりなんだから寝るなら上着ぐらいかけおつも言ってんだろうが。いまの季節は午後はもう冷えてくるってのに」

山崎は気持ちよさそうに昼寝をしている花宮に呆れたように苦笑を浮かべると、自分の髪をわしわしとかきまわし、その後自分が着ていたジャージの上着を花宮へとかけてやっていた。

会計「安定の山崎だな」
役員「だな」
役員「おかあさん」

思わず、よく見る光景に、頷いてしまっていたが、そこで生徒会の仲間がハッと我に返り、その表情を改める。そのまま、流れるように慣れた動作で何事もなかったように花宮にジャージをかけている山崎を睨みつける。

役員「ちょっとザキ!」
山崎「んぁ?」
役員「普通この状態につっこまね?!なんで花宮こんな場所で寝てんだよ!!」
会計「寝かしつけるんじゃなくて!ここは起こしてよ山崎!!」

山崎「なんだよ。うっせーなぁ。もう少し音量下げろ。花宮が起きるだろ」

会計「あ、ごめん。って!そうじゃないだろ山崎!なんでダンボール?!っていうか、ちょっと待って。ちょっとまって本当にまって!ここどこ!?猫の楽園!?どうみても資材置き場のはずだったよね!?なんで花宮こんなに大量の猫に囲まれてんの!むしろなんでこいつダンボールわざわざひいて寝てんの!!」
役員「会計君、凄い。一息でなんてツッコミを」
役員「・・・花宮まで丸まって。猫団子がたくさん」

どこから来たんだとツッコミたくなるほど、ねむり猫たちが花宮を囲んでいる。
和む光景に思わず書類とかいろいろ忘れそうになってしまう。

息継ぎをせず言い切ったせいで、僕は肩をゆらしてゼェーハァーと深呼吸する羽目となった。
そんな僕の疑問に、山崎は鋭い目を細め、顔をしかめている。けれどそれはいらだちからではなく、理解ができないがゆえの困惑が現れたに過ぎないようで、不思議そうに目をしばたたかせては首をかしげている。

山崎「お前らこそ何言ってんだよ。ヒナタあるところに花宮ありだろ。
ダンボールはあれだ。こいつ普通に地べたでもかまわず昼寝するからせめてダンボールか新聞紙ひけって言ったんだよ。これなら服汚れねぇし、直接地面に転がって体冷やすような心配もないからな。
猫なぁ。あいつら本当にいつも助かるわー。なんか花宮ってさ、他の動物には逃げられっけど、猫だけは平気みたいで、逆によく集まってくるんだよ。こいつら体温高いだろ?花宮って日向ぼっこすぎだからさ、外で寝てるときとかはマジで助かるよ。おかげで花宮が風邪ひかずにすむしさ」

役員「「「安定のおかんだな山崎!」」」

役員「って!そうじゃないでしょ!!なに和んでるの貴方たち!」
役員「ハッ!?そうだった」
役員「しっかりしてよ委員長!花宮色に染まったバスケ部員なんかに流されてんじゃないわよ!!」
会計「ついうっかり」
役員「そうだった。バスケ部員どもの会話が、おかしな方向に流れるのなんて今に始まったことじゃなかったな」

そうだね。
すっかり忘れていたけど、あの奇想天外の生き物である花宮が指揮する部活のレギュラーだもんなぁ山崎って。
そりゃぁ、花宮と会話のノリが似ていてもおかしくはない。

だけどそこは時計を確認して、常識を現状をしっかり思い出した生徒会役員の紅一点が、山崎を叱咤する。

役員「山崎くん!あんたもあんたよいい加減にしてよね!」
山崎「は?なんだってんだよ。俺なにかしたか?」

役員「会長のためにダンボールひくとか!そんな優しさはいらないのよ!!ジャージかけてあげるとこからしておかしいでしょ!私たちの目的はなに!?」
役員「そうだよ!なんのために俺たちがお前に花宮会長を探してくれって依頼したと思ってんだよザキ」
会計「そうそう、会議が始まるから花宮探してたんだよね僕たち」

つい予想の斜め遥か上を行く想像以上の現状に、僕らもほだされてたけど・・・

山崎「あ、やべ」

役員「ちょっと山崎くん?」
会計「山崎・・・」
役員「ザキ、おまえ・・・」

山崎「ワリーワリーすっかり忘れてたわ。そういえばそうだったな」

役員「「「「ざきぃー!!」」」」


そんなこんなで、花宮会長の捕獲を成功させた。
花宮は、僕らが山崎につっこみをいれているあいだに目を覚ましていたようで、眠気の一切ない表情でダンボールの上に座ってこちらをみつめていた。
気が付けば観客は僕らではなく、花宮に代わっていた。

あれ?もしかして寝てなかった?
まったく寝起きには見えないことから、意識は覚醒していたのかもしれない。
だったらはじめから起きててよと思う。
むしろこんなところで横たわってないで、会議の順瓶に精を出してくれ。


そんな僕らの心情など理解していないのだろう。花宮は無言のまま視線をスイっと校舎にかかる時計へ向け――


花字『あと五分だな』


何事もなかったように立ち上がると、敷布団にしていたダンボールをダンボールの山に戻し、山崎にジャージの礼を言うと、「ほら、いくぞ」と僕ら生徒会メンバーに視線を向けてきた。

山崎「あー花宮、終ったら返せよ」
花字『ちょっと借りる』

え。花宮・・・制服の上にジャージきたまま会議出るの?
しかも山崎のジャージだから袖が出てないよ。
彼シャツっぽくなってるんですけど。
ってか、生徒会長としての威厳がないから、ジャージはやめて。
敵はモンスターペアレンツとPTAなんだからさ!!!

あれ?
もしかしてシャッキリ起きてるように見えるけど、花宮まだ寝ぼけてる?


ああもう。
もう
ホント・・・どうでもいい。





だけどこれだけは言わせてくれ。

花宮。
お前の後ろを大量の猫が行列造って後を追いかけてるんだけど。

お前はハーメルンの笛吹き男ですか!?



っていうか、校内まで動物連れ込むな!!!!





U←BackUTOPUNext→U