有り得ない偶然 SideW
-クロバヌ 外伝-




10:それは花の気持ち…な、わけないだろ!!


そこに書かれた文字は
感情の起伏が薄いあのひとの
表情や態度には表すことがない
あらわせない

本当の気持ち



――んなわけないだろ。バァーカ。





++ side花宮 成り代わり主 ++





オレは花宮 字(アザナ)。
ぞくいにいう転生者である。

現代人の価値観は、とても複雑怪奇なものである。

この世界では――
忍が使うチャクラが視えたり感じれる者はいない。
ともすれば、妖怪や妖や呪霊なんていない。
ハンターもいなければ、海賊によって命を奪われたり狙われることもない。
魔法も剣もない。銃もナイフも必要ない。
発達しすぎて魔法じみた科学技術があるわけでもない。
戦わなければいけない敵がいるわけでもない。
常に命をまもるために、周囲を警戒している人間はどこにもいない。

本当のことを言うと、オレからしたら、この世界こそが摩訶不思議な世界に思えてならない。

価値観そのものがあわないのだ。
それはオレの中に根付いている考え方が、この世界のこの時代の人間とは違うためだ。

そのひとつとして、ファッションセンスがあげられる。

今の花宮 字(アザナ)として生まれる前は、マフィアの跡取り息子だったり、その前は逃げんでなかったりいろいろだった。
そのなかの人間生活では、どれも固定の服を身にまとっていた。
そもそも人間でないときに服は着ない。あとは忍服や隊服、団員服は、常に指定のものばかり。 マフィア時代は黒スーツが基本だった。私服というものを着ていた世界もあるが、それらはすべて着物だったように思う。
そんなわけで、今回、ファンタジー要素のないしかも現代に生まれたオレは、服のセンスがまったくわからない。

人間のファッション誌を見てみるもどうして雑誌の中のモデルがその恰好を選んだのか、わからない。
わからないから、見本としてそいつを真似ようとしてみるものの、写真そのものが頭に入らない。
着れるなら、制服かスーツでいいだろうと思ってしまうのだ。
人間の区別が苦手であるため、ひとの恰好や顔を見てかっこいいとか美人だとか、判断できない。
そんなオレが、自分に見合う服を選べるはずがないのだ。

そんなこんなで、オレの私服に関しては、もう両親に投げていた。

しかし幼馴染みである宮地清志いわく、花宮の母のセンスはとにかく悪いらしい。
オレにはその辺のことがよくわからない。

なにせいままでの転生生活で、母親というものとは縁が遠く、あまり母親という立場の人が何を考えているのかわからないのだ。
母親がいたときもあったが、そのときは常に同じ忍服を着ていたしなぁ。

つまり、オレに服のセンスをもとめないでほしいということ。

だってオレが来ているTシャツもズボンもすべて母親が選んだものをてきとうに着ているだけなんだから。





**********





その日は、学校での練習のときには、これを着ろと清志に用意されていたTシャツがなかった。
連日続いている雨のせいで渇いていないらしい。
しかたないと、清志との約束を破る形になってしまったが、普段着ているTシャツの山から数枚とって持って行った。

それを母が物凄い笑顔で嬉しそうにみていたのに、ちょっと嫌な予感がした。



嫌な予感がしたわりに、学校へ行ったが特に何事もなく時間は過ぎた。

朝練はない。
そうして放課後になり、まっていたバスケの練習だ。



さぁ、体育館で遊ぶぞ。っと、部室のロッカーで着替えをすませたところ・・・

パァン!

原が噛んでいたガム風船が割れた。



「はなみゃぁ〜・・・おま、それ」
「おぅふ」

『なにか変か?』


みんなと同じように、運動しやすいTシャツとズボンに着替えたのに、なぜか部室にいた全員がオレをみて呆然と動きを止めた。
数人は笑いをこらえ。
残りは唖然とし、さらに残りは遠い目で天井を眺めているしまつ。


思わず首をかしげて、なにか変な箇所があっただろうかと自分の恰好をみて、そうして周りの部員たちを見回す。
みんなTシャツとズボン・・・だよな?
同じだよなぁ。

なんなんだろうと思っていると、原が限界とばかりに盛大に噴出した。

「ぶふっ!!なんなの!?ちょ!まじでなんなの花宮ぁ!!もう、やめて!!!うける!! その文字ティーなに!?俺たちに笑い死ねと!?ほんと、ちょっとやめて!ぷっくくくく・・・も、もじ!文字がおかしいから!!」

もじてぃ?
笑い転げる原が指差したことで、ようやく彼らは服そのものではなく、服に書かれた印刷に目を止めていたのだと気づく。


―――独裁者――


Tシャツにはそうかかれていた。

フォントは筆記体ですごくいい感じだとおもうけど。
あ、もしかして文字の色?
色がダメだった?

そうだよなぁ。文字だけのTシャツって、見た目が地味だもんなぁ。
せめてもっとガラとかあるべきなのかもしれない。

ロジャーさんがオレの髪の毛じゃなくて、いっそ某カエルのようにTシャツに張り付いてくれればいいのに。
きっとデザインチックになっていいんじゃないか。


「あー…もう、なんか。絶対花宮おかしなこと考えてそう」
「ブフっ!!!《独裁者》ってどんなだよ!?しかも背中ぁ!!!《報復上等》ってなに!?なんなのそれ!だれになにしてなにされたいの花宮っ!?」
「そんないかにも悪者的なアピールやろ花宮っ!だからうちら勘違いされんだっての!!」
「・・・この前は《ガンバラナイ》だったな」
「街でくまもんのTシャツきてるのみたよ」
「・・・俺、このあいだ、花宮先輩が血まみれで倒れてたから、刺されたのかと思って・・・ あわててかけつけたら、Tシャツがやぶれて血が流れているように見えるトリックアートで、まじびびったんですけど。
できればあのかっこうで昼寝とか、まじやめてください。ついでにあの恰好で路上で待ち合わせとかもやめてください。ほんとまじでお願いします」

「「「「どんなチョイスだよ!!!」」」」

思い思いに、服のセンスに文句を言うバスケ部の仲間たち(しかも一人は本気で涙目だった)に、意味が分からないとばかりに首をかしげるばかりだ。
いや、だってこれもとはといえば、うちの母が要したものの一枚だし。

それに


『どんなって。これが今、流行ってんだろ?』


「は!?んなわけないだろ!」
「なんでそう考えるんだよ!せめて周囲をよく見て!」
「TVとか雑誌とかみたことない?」
「そんなの着てるやついないだろ!」

『興味ないところには見向きもしなかったわ。あとは面倒だから、服とかいつも母さんまかせだし』

「「「おばさーん!!!??」」」



その後、オレ的には着れればそれでいいと思うのに、山崎になぜかジャージの上着を羽織らされた。
後々、古橋にそれをうばわれ、古橋のジャージを着させられた。

後からやってきたマネや顧問先生が、オレのTシャツをみて目を丸くしていた。

レギュラーを含めたバスケ部全員に、文字のあるTシャツは、よその練習試合では絶対に着てはいけないと、すごい念をおされた。
Tシャツというのが悪いわけではなく、文章の内容がよくないのだと、全員に懇切丁寧に説明された。


どうやら清志がダメダシしたのもその辺に原因があるらしいと、はじめて知った。





 


:: オマケ ::

とりあえず。母よ。
『あれ、最近の流行じゃないらしいんだが』
家に帰って、今日着ていたTシャツをみせて告げたら、母はいつもの笑顔のまま
「あら。しりませんでしたわ。ごめんなさいねアザナさん。 きっともう流行遅れになってしまっていたのだわ。私の情報が古くてごめんなさい」
と謝れた。
そのかわりにと、渡されたのは、もこもこな素材でできたうさぎ耳のついたパーカーだった。

『・・・・・・』

「これが今の流行らしいの。こっちを着ていかれたらどうかしら」
『だけど、これは・・・』
「大丈夫よアザナさんなら何を着ても似合うから」
『いや、そうじゃなくて。最近雨続きで、こんな厚手の素材だと、乾きにくいんじゃないかと思って。フードがついてると、そこだけ生乾きになること多いし』

「・・・・・・あら。そっち?」

『え。フードが生乾きになってよくないから、もう少し天候が落ち着いてから着た方がいいって話。だよな?』
「いいえ、なんでもないわ。ふふ、そのとおりよ。じゃぁ、これは雨期が終わったら着ましょうね」


「アザナ、おまえ、おばさんにいろいろ騙されてるぞ」
「あらぁ、清志くん。
たとえ清志くんでも手出し無用よ。あの動物パーカーだけは譲れないんですもの」





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