09:兄ちゃんと蝶とサトリと |
蝶って、あんなに長生きするもんだっけ? ++ side宮地 ++ ことのほったんは俺の幼馴染みにある。 戸籍上は男だが、ぶっちゃけもう男とそういうの吹っ飛ばして人間なのかも怪しい。 中性的な顔立ちというわけではなく、かわるのだ。姿がまるっと。 もうこの際、あいつは人間ではなく、ああいう生き物なんだと思えば納得もできる。 それはさておき、その幼馴染みは男にしては髪がちょっと長い。 女子と間違われて声をかけられまくっていたのは、中学生の頃までだ。 それまでは首うらにかかるぐらいの長さだった。 アザナの髪の長さは、はじめは痣を隠すためだ。 生まれたときから蝶のような痣が首にあって、それで周囲の子供たちにいちゃもんをつけられたから、ならいっそかっくしてしまえという花 宮のおばさんの鶴の一声で髪を伸ばし始めた。 幼稚園の頃の理由はそんな感じだった。 小学校になって、アザナの痣はなくなっていた。 痣なんてものは、大人になるごとに薄れることがあってもおかしくない。 っが、しかし。 そのころから、気付くとアザナの側に黒い蝶がとんでいるのをみかけるようになった。 ―――その蝶は"高校生になった今も健在"である。 「おーい、ロジャーさん!アザナのやつしらないか?」 ちなみにこの蝶。 名をロジャー(アザナ命名)。 呼べば来る。 ふわりと翅を広げてどこからかとんできたロジャーさんは、おれが手を伸ばすとしつけられた鳥の様に降りてきて、案内するからついて来いとばかりにとびたつ。 けれど本来の蝶らしい羽ばたきの音ひとつたたせず、ひらひらとぶ姿はひどく優雅で、現実離れたしたその存在感は幻想的にさえ見える。 さらに賢い蝶は、おれが見失ったり速度を緩めるて、わざわざもどってきてくれるし、その場で待っていてくれることもある。 そんでもってロジャーさんは、世話焼きである。 アザナの髪の毛が黒いのをいいことに、髪飾りのふりをしてアザナの頭によくくっついている。ロジャーさんは長年生きてきたせいか、暇を持て余したらしく、ついには頭に無頓着なアザナの髪を器用に編み込んだり飾り付けしたりと、アザナ以上におしゃれである。 現にロジャーに導かれるままに連れてこられた先にいたアザナの頭は、サイドを網こみにされうしろでそれが束ねられ、残りの髪は降ろされている。 家を出る前は、いつもどおりふつうに長めの髪を降ろしていて、なにもされていなかったはずだ。 チラリとロジャーをみやれば、黒い蝶は静かにひらひらとび、アザナの髪の結び目にとまると、そのまま微動だにせず髪飾りのふりに徹してしまう。 器用な蝶である。 アザナがいうには、守護霊が実体化したら蝶になったということだが。 ここまでくるともうどうでもよくなってくる。 アザナという生き物を目のあたりにしていると、世の中、常識を超えた出来事など自分が思っている以上にあるのだと思い知らされる。 とりあえず、ロジャーさんの寿命はなさそうで、生きてはいなさそうということだけはわかった。 きっとサーモグラフィにはうつるまい。 ********** 中学の頃、遊びではなく本格的にバスケをしようとバスケ部にはいった。 そのバスケ部には、関西弁を話す糸目眼鏡がいて、周囲の人間たちをその感情を読み解く能力をフル活用して畏れさせ、気付けば妖怪サトリといわれるまでになっていった。 「宮地君のスルースキルには勝てへんわ〜」とニコニコして言われた。 が、花 宮家の側にいるとだれでもこうなる気がして軽くあしらった。 幼馴染みの花宮字(ハナミヤアザナ)は、勘が異常にいい。 気配に敏い。 不幸体質である。 性別も人間も凌駕したアザナという生き物である。 あとたまに普通の人間が見えないものを視ている。 そしてチビだ。 ロジャーさんは、そんなアザナの守護霊で、実体化すると蝶になるらしい。 それを気にせず容認するアザナの母親は、猫かぶりのプロフェッショナルで、人の嫌がるところを見て内心大喜びしている愉快犯である。 さらに父親は、猫かぶりも愉快犯もゲスなのもすべて理解したうえでとめることもなく、自分のペースを確保したまま第三者視点で応援するという男。 うちの両親はそんなハイテンションすぎる花 宮夫妻にツッコミをいれまくっている。 もう家族ぐるみで、コントを繰り広げるのが日課となりつつある間柄である。 つまり、そんななかで育った俺は、何事にも応じないスルースキルがいつのまにか身についたわけだ。 それもまた必然だったのだろう。 それから一年後、今度はアザナが入学してきて、案の定あいつもバスケ部に入った。 今吉は何を気に入ったのか、やたらとアザナにからみにいっては、邪険に扱われていた。 今吉に関してはクラスが一緒になったこともなく、いままではそこそこ会話をする同学年の同じ部活の友人程度だった。 それがなぜかアザナが入部してからは、おれまでよく巻き込まれるようになったせいで、以前より友人としてのレベルがあがった。 その友人が、幼馴染みをとおりこしてもう弟のようなアザナの匂いをかいでいる。 その姿に思わず顔が引きつった。 普段から淡白なアザナでさえ、その顔を盛大にひきつらせ、顔を近づけてくる今吉から逃げている。 「花 宮って香水でもつけとるん?それともお花のいい匂いするんか?」 『はぁ?なに言ってんだよ。きもいんだよ!!よるなカス!!』 「いや、だって。いつも花 宮の周りに蝶とんどるし。なぁ、宮地くんもそう思わへん?」 「おれからすると、嫌がるアザナを襲うただの変態が目の前にいるように見える」 「いややわ〜宮地くん。わし、そんな危ない奴ちゃうで」 『いいかげんどけっていってんだよドカス!!きょー兄!ヘルプ!!』 「アカン・・・なんで墨の匂いがすんのジブン?え?お花の匂いちゃうやん!ってかこの蝶、わしのこと咬みよった!地味にいたいわ〜」 「そこでよけいアザナをかぐって、やっぱり今吉、お前・・・変態だな」 カオスだった。 今吉に抱きつかれるようにしてにおいをかがれているアザナが、殴り掛かっているのだが、体格差ですべて抑え込まれている。 それに愕然としたあげく、その視線がこちらをみてくる。 ふだんはあの木吉鉄平と同音事件以降、呼びたくはないようだが中学生なので!と割り切ってけっこう頑張って「清志」と呼んでくるのに、ついに理性の限界に近づいたか昔どおりの呼び方で、必死に手を伸ばされる。 助けを求められてはしかたがない。 なんかこういうパターン多くないか?まぁ、それもこれもアザナがUMAならぬ未確認生命体「AZANA」であるからしかたがないのだろうけど。 はぁーとため息をついてから 「おい、今吉」 「なんや?」 にぎった拳を反対の掌で覆い、ごきりと音を立てかまえたおれに、今吉が顔をひきつらせて動きを止めた。 まわりにいたバスケ部の連中までいっせいに逃げ出している。 呆れたような顔をする奴は、アザナと今吉のやり取りに慣れ、この現状をよぉくわかってるやつらだ。 「嫌がってるやつになしてんだてめぇ、あぁ?轢くぞ?」 「まてまてまて!待つんや宮地!!それはアルカイックスマイルともちゃうで!!もうヤのつくひとのする顔やで!!あとなんなんなん!?なんでその拳やめぇ!!」 「うっせぇんだよ!変態らしくそいつに構ってないで、とっとと練習に戻りやがれ!!」 「いたぁ!!!ちょいま」 「だまれ轢くぞ」 「すでに手がでとるから!!ってか轢いてない!!むしろもう殴ってる殴ってるやん!!!」 アザナが今吉に絡まれる→アザナがおれに助けを求める→おれが今吉をぼこる→隙をついてアザナが今吉から逃げる→部員かクラスメイトがアザナを保護。 最近すっかりこの流れが定着している。 なのでおれが無理やり今吉を引き離したことで無事にその腕から逃れられたアザナは、すぐさまいままで傍観していた部員たちが「こっちおいで〜花 宮」と苦笑して手招きし、そちらへとかけていった。 「だいじょうぶだったか花 宮?」 『あー部長ぉ!とめてくださいよあれ! なんなんなんですかあの糸目眼鏡やろう。なんでオレにまとわりついてくんだよ』 「さぁな」 「さすがに妖怪サトリの考えは俺たちにもわかんねぇよ」 「しいていうならお前が面白生物だからじぇね?」 『あ。きょ、清志!お帰り〜』 今吉をボコボコにしたあとそのジャージの襟をつかんでズルズルひきずって戻ってきて、そのまま会話に参加する。 その場にいただれもおれの発言を否定しないってことは、少なからずそう思っているってことだろうな。 おれも否定はする気はないがな。 嬉しそうにやってくるアザナの頭をなでて、それからなんかしょげかえっている今吉をつれて、練習に戻るように指示を出す。 なぁ、今吉。 アザナで遊ぶのはいいんだが、部員に指示を出すの、本来はお前の仕事だろう? 「遊びもほどほどにしろよ」 :: オマケ :: 火「今吉さんとキヨ先輩とアザナ先輩が同中wwwwwなにその中学wwwこわすぎるwwwww」 中学といえば、思い出すのは主に部活でのこと。 性別凌駕した変身体いつ?なアザナとか。 アザナの不幸体質がまねく珍事とか。 しつけの行き届いた蝶とか。 今吉によるサトリ事件とか。 宮「ふりかえってみれるとあれだな。人知を超えた中学生活だったな」 火「でっしょうね〜www」 火「そういえば」 火(原作の花 宮は常に猫をかぶっていたらしいけど) 火「アザナ先輩ってめちゃくちゃ口がわるいですけど、猫とかかぶってるんすか?さすがに普段のままの高圧的な態度をずっとってわけではないですよね。 優等生演技ですか?今吉さんにはすぐばれそうですけどね」 宮「ねこ?アザナが?」 花『とくにかぶってないな。きよしと今吉さん以外にはちゃんと「です」「ます」も言ってるし』 宮「臨機応変にってやつだな。そもそも目上の人にはそれ相応の態度をとっているだけで、別にあれは猫じゃないだろ。どこからそんな話が出てんだよ火神」 火「徹野十九子による《花 宮最悪説》よりです」 宮花「『あいつまだそんなこと言ってんのか』」 火「言ってます。どれだけ《花 宮が最悪なのか》をいつも俺たち一年にも聞かせるわ、写真や試合の映像まで見せて、去年の試合でのこととか熱く語るんで。もう本当にアレ洗脳ですよ。 先輩、誠凛の奴らにあったらまずはにげることを薦めますよ」 宮「いや、その前にお前とめろよ。そいつら仲間だろ」 火「十九子の洗脳にかかった人間がどういった行動するかわからないから無理です」 宮「お前も気をつけろよ火神」 火「ありがとございまーす」 花『ああいう頭わいたやつと、今吉さん戦わせたらどっちが勝つんだろ』 宮火「「・・・・・・」」 U←BackUTOPUNext→U |