有り得ない偶然 SideW
-クロバヌ 外伝-




08:黒筆字といういきもの


理不尽な話をすると、なぜかオレは多くの人に「お前は人間じゃない」「字は字という種なんだよ」とよく遠い目をしていわれる。
意味がわからない。

「チートすぎる」

聞けばみんなが口をそろえて言う。
どこがだと思う。
そもそも転生しまくっているせいで、物忘れが激しい。前の世界の記憶もどんどんおぼろげになっていくというのに、そんなオレがチートなことなどないだろうに。

むしろチートっていうのは、継続して使えている〈レイ〉や、現特殊能力保持者である●● ●●●のことを言うと思うんだ。
なぁ、みんなもそう思うだろ?あいつら、ほんとうにすごいんだから。





++ side花宮成り代わり主 ++





まずはオレが小学校一年生になったばかりのころの話からきいてほしい


『ん〜。今日もよく寝た』

この世界に来てからは、家族と一緒に暮らしているため、ひとり分だけの飯を作って、一人でご飯を食べるということがない。
へたをすればオレがうっかり寝坊しても心配した家族の誰かが起こしに来てくれるほど。

恵まれた人生である。

朝起きればごはんが用意してあるなんてあたりまえ。
銃弾が飛び交うこともなければ、特殊な炎を出す子供たちが日々大騒ぎするようなこともない。
平和だ。
この世界ではまず、やさしい声とおいしそうな匂いからオレの朝は始まる。

『おはよう』

「ああ、おはようアザナさ・・・」
「え?アザナ?」

眠気を引きずって、だらだらと起きれば、両親がオレをみて固まった。
いったいどうしたんだろう。
戸惑い気味の父が、「本当にアザナなのかい?」ときいてくる。
それ以外のなんだっていうんだ。
そう思って首を傾げれば、よくよく考えると身長がずいぶん低い。
あれ?っと思って背後をまず見やれば白いものが視界をふさりとよぎる。
しっぽがあった。

『ん?』

よぎったものをつかまえようとして、ふと手を伸ばそうとして、手がもふもふの白い毛に覆われているのに気づく。
目の前にと掲げてみれば、それはあきらかに人外の獣の手で。
そういえばいつの間にか脱げたのか、パジャマのズボンをきていない。
かわりにふさふさのしっぽがゆれている。

『ああ、なるほど』

どうやら寝ながら無意識に、【前世】の能力が開花したようだ。
おかげで紫色の霧による幻覚がオレを前世の姿にひきもどしたらしい。

このときのことがきっかけで、今回は珍しく【前世】の能力を継続して使えるのだとしった。


ちなみに両親が戸惑っている原因もこれで納得がいき、オレは指をパチンと鳴らす....のは獣だったの無理なので、足で床をパしりと叩く。音を合図にフワリと紫の霧がキラキラと舞い、オレの姿が今の人間としての姿へと戻る。

「アザナさん、いまのは?」
「えっと・・・アザナが一瞬狐に見えたんだけど。いまのは僕がみた幻覚じゃないよね?真咲さんもみたよね?」
「え、ええ」

いつも丁寧な口調の母が、育ちの良さがうかがえるような仕草で、驚いたようにそっと口元をおさえてこっちをみつめてくる。
同じマロ眉なのに全体的にほわっとした印象のある父が、自分の目をこするなんていう子供っぽい仕草をして、まじまじとオレをみつめてくる。

――幻覚。
言い得て妙だが、それはそれで正しい表現なのかもしれない。
いま、オレにまとわりつく幻覚は、実体を伴う幻覚。【有幻覚】と呼ばれるものだ。
だから、たしかに幻覚の一種ではあるのだが・・・

ああ、説明がめんどいな。


『オレ、変身できるらしい』


それで納得してもらえるとは思ってはいないが、前世ウンタラと説明が面倒で、そう告げたら――

「あ、そうなんだ」
「まぁ!それはとても素敵なことね。私、モフモフのペットも欲しかったもの。
ねぇ、アザナさん。もう一度さっきの姿になれるのかしら?」

父はさっきのあわてようが嘘のようにほっと息を吐き出すと何事もなかったように笑った。
母は満面の笑顔で・・・というか、物凄くキラキラと顔を輝かせて言った。

なにこのひとたちの順応力。

いままで両親とはあんまり縁がなかったから、親ってこういうもんだっけ?と思わず穴あきだらけの前世の記憶を振り返る。
あさったからといって思い出せるわけでもないが、そもそもがひとつ前の前世ではオレに親がいなかったのだから、検索をかけてヒットするはずもない。
それ以上前のことなると、ほとんど覚えてないしなぁ。

とりあえず、化け物と言われることもなく、おびえられることもなかったのでヨシとする。


母がいまだに期待を込めたまなざしでこちらを見てくるので、

パチン。

指をならせば、一瞬オレの身を紫の霧というか光がつつみ、次の瞬間には、オレの姿が狼へと変化している。これは前世の白い大神の姿である。赤い隈取があるのだが、周囲の人間には見えないようだ。

さっきは狐で、いま大神(狼)。さぁ、親はどういう態度をとるだろうか。
オレが、幻覚の力でもって姿を変えることができるのは、せいぜいインパクトに強かった姿だけだ。おかげで人間の姿は印象が薄すぎて獣の姿ばかりとってしまう。
なぜなら。そこまでオレに記憶力がなく、最近では転生を繰りかえしていた感覚はあれど、二つ前以上の前世の記憶があいまいなのだ。
なにより、もとから記憶力がなかったのが、転生を繰り返すことで魂がすり減りガタがきているせいで、記憶力はさらに悪くなっている。
特に現世ではなく、転生し続けていた頃の記憶が、どんどん曖昧になっていっている始末。
ゆえに前世の【復活】世界で、幻覚を扱う霧の炎がだせたとしても、オレは “一度なったことのある姿” にしかなることができない。
ちゃっちぃ能力だ。

つまり今の変化は、何とか覚えていた前世のいつだかの姿を、死ぬ気の炎とよばれる力がで周囲に幻覚を見せている状態なのだ。たぶん。

あと前世のザンザスという人間の姿にはきっとなれないだろう。
なぜなら今が男として生まれたから、この男の姿以外に思い出せないというのが正しい。

――っと、勝手に“そうである”と思っているが、なぜずいぶん前の大神(狼)の姿にまでなれたのかはわからないし、前世の能力であるはずの有幻覚がそもそも使える理由がよくわからん。



とりあえず

『狐憑きでも悪魔付でもなく、変身できるだけの人間です』

念のため、念を押しておく。
祓い屋を呼ばれても困るので。

なお、子どもサイズにも大きくも慣れることがそのあとの実験で判明した。有能だな。
うん。口調も大丈夫そうだし。動物の姿になっても、人語は話せるし、両親も別に気にしていないよう(むしろ喜んでいるよう)だから、特に問題はないな。





後日。
常に母が選んでくれていた(流行りらしい)服の他に、犬用の洋服が増えていた。
まったくいつのまにいれたんだか。
それにしてもここまで準備がいいということは、よほど母はペットがほしかったようだ。
それほどとは・・・。
気付かなかったな。
しかたない。
今度から母が望む限りは、大神(狼)でいることにしよう。

だが、一つだけ言いたい。
犬じゃない。狼なんだ。

『・・・ふむ。まだこの身体に能力が馴染んではいないからな。また気付いたらナニカになっているなんてことはあり得るな』

さて。きょー兄にはなんて言っておくか。

それからすぐに、「変身できるんです」っと宮地家に言いにいけば、最初は驚いてたけど「アザナだからなぁ〜」で納得していた。
みゃーじママはファンタジーはお好みではないようで、常識を持って、笑ううちの母に「ペットを飼ったなら何で言わないのよ!!」といつものテンションで母に言い返していた。
「あらちがうわセイコさん。この子がアザナだもの」
「は?」
『みゃーじママ。変身できるようになったんですよ〜」

と、協力を仰いだ。

彼女はすぐにおちました。
なんだ。やっぱりお前もモフオフは好きか。



そんなこんなで。
前世の能力が一つ戻り、さらにオレの姿にバリエーションが追加されたのだった。





**********





あれから数年。
すっかり前世の能力も今の身体にすっかり馴染んで使いこなせるようになっていた。
そんなオレが、中学生のころ。

修学旅行にいった先で――。



「おー。花 宮ぁそろそろいこうぜ」
『ああ。もうそんな時間か』

こどもらしくはしゃいでいる同級生が本当に若々しく見えて、こどもってどうして枕投げとか好きなんだろうなぁとほのぼのしていた。
気付けば時間は19時を回っていて、班ごとによる交代制の入浴時間になっていた。
いつもとは違ってテンションがあがっていたこどもたちを班長が叱咤して、みんなでゾロゾロと風呂場に向かっていた。

の、だが。

「だめよ花 宮くん!!」

ガシッ!っと、なぜかオレは、風呂場前で仁王立ちしていた女子グループに腕をつかまれた。

『なにがダメなんだ?』
「アザナ君は私たちと一緒にいきましょう」
「一緒がいいもの」
『こらこらこら。結婚前の娘が男を連れ込んじゃだめだろ』

「「「「「言い回しが爺くさっ!?」」」」」

「いいじゃない!かわいいアザナ君と一緒に入りたいわ」
「だからわたしたちは花 宮君にあっちにいってほしくないの!」
「男どもと一緒なんてダメよ!」
『勘違いしているようだが、一応その“男ども”なんだが、オレも』
「字くんに性別とか人間性を聞いても無駄だもの」
『・・・失礼じゃないか?オレ、ニンゲンだろ?』
「とかいいながら何もおもってないくせに」

そのとおり。
魂がすでに壊れているせいか、それとも転生しまくっている影響か、オレに性別を問われても困るんだよな。
現に有幻覚で獣に見せることもできるしなぁ。


実際のところ、自分が女なのかも男なのかもいまいち興味がないというか。むしろ人間かそうでないかも、服を着るか着ないかって話じゃないのかとさえ思える。
ぶっちゃけ、性欲とかないね。
むしろ犬だったり妖怪だったり猫だったり鹿だったり・・・そのなんというか、転生を繰り返しすぎて、もうニンゲンの価値観とかよくわからなくなっていて。

もちろん小学生のころからずっと一緒にいる中学の仲間たちが、そのオレの以上具合を知らないはずもなく。

「“ニンゲンらしさってどういうの?”って聞いてくる時点で、あんた人間じゃないわ」

っで。ここでいつも「アザナはアザナという生き物以外の何物でもない」と皆様にくくられるわけで。
それに違うと言い切れないので、オレも口答えができるわけもなく。


「じゃぁ、男子。花 宮君もらってくわね」

腕をつかんで引きずって女子風呂へ連れてこうとする女生徒たち。
どうしたらいい?と男子仲間に視線で問えば、いつものこととばかりに「いってこい」と手を振られた。

「あーはいはい。とっととつれてけ」
「たのむから、そいつ戻すんじゃねーぞ。自然乾燥なんか厳禁だ。そんなことさせたらそこらじゅうびしょびしょになっちまう。ホテルのひとになんていわれるかわかったもんじゃないからな」
「それはわかってるわよ」
「服着せたら戻すわ」
『お前ら、いつからそんなオレの母親になった?』
「あんたがそんなだから男子どもが困るのよ」
『困るって・・・そこまでオレは非常識じゃない。
さすがに女になるわけでもないし』
「でもだめ!今日は私たちと一緒って約束したじゃない!」
「ほら、いこう」
「花 宮ー明日は一緒に入ろうぜ」
『おー』





―――って、かんじで。修学旅行とかよく女子に誘拐されてました。

え?あのあと?
普通に女子とお風呂入ったけど。
それがどうかした?
毎度のことだし。
それに子犬もとい子狼バージョンは、毛が抜けない種類の短毛種なので安心だろ?
耳に息は吹きかけるなよ、犬系はそれをやられるとどうしても無意識にブルブルしちまうからな。やるなら脱衣所ではなく、風呂場の方でやってくれ。





 


:: オマケ ::

いつか
どこかの
そんな修学旅行にて貸し切りな女子風呂での会話――

風呂の中で小さな白い子犬が、犬かきをしながら見事な泳ぎを見せている。
その犬を捕獲した女子が濡れてしっとりしている犬に頬釣りをする。

「うーん。相変わらず花 宮君かわいいわー。ぬれててももふもふねぇ」
「やっぱりこっちのアザナくんの方が好き!だきつき!」
「あ!ずるい!!そもそも〇子より私の胸のほうが大きいわよ!ワタシのほうがいいわよね、ねぇアザナくん」
「アザナ君は大きいのと小さいのどっちが好き?それとも形かしらぁ?」
『くすぐったい。腹の上で深呼吸しないでくれ。
そもそもみんなまだ中学生なんだから、そんなに気にしなくてもすぐに大きくなると思うが?』
「このもふめ!動物に人間の価値観求める方が間違っていたわね」
「ああ、お日様のにおい最高」
「うらやましい!」
「ねぇ花 宮君。人間の女子はどうしたらボンキュボンってなれるかしら。運動してたら細くなる?」
『さぁ?でも胸って結局のところ脂肪だから、大きくしたいなら、あんまり痩せすぎもよくないかも。
運動選手とか、あまり胸にふくらみがないひとの方が多いだろ?
そういうひとは脂肪を燃焼してるから、胸の脂肪までおちちゃうんだと思うし』
「まじで!?」
『男性からしたら少しぽっちゃり目の方が好みらしいから。△子さんはもう少し食べても平気じゃないかな?』





「・・・男が女に言う意見じゃないよねアレ」
「犬が人間に言うアドバイスでもないでしょーに」
「アザナ君って、本当にテレとかは恥じらいとか、すがすがしいほどないわよね。ま、だから外見とか関係なく性別感じないんだけど」
「あー、それはいえてる」
「アザナくんって、男の時は胸のこと胸筋って言うの知ってた?」
「色気が全く何のがよくわかりました」

「今はみてくれはどうみても犬だけどね」

「ねぇ、人間って指ぱっちんで外見変わる生き物だっけ?」
「ばかねぇ××子。アレはハナミヤアザナっていう別生物よ」
「△△。あんた、眼がうつろよ」
「・・・犬が喋ってることに現実がああ追いつかないのよ。お願い。現実から逃避させて」





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