人参の応援はオレンジ風味 |
バスケットボール。 その小さな大会の試合会場でのこと。 高尾はある一点がずっと気になっていた。 自分の視界に収まる範囲の物を瞬時に計算する脳みそのおかげで、人より視界が広いと思われがちだが、認識力が並外れているだけである。 その優れた脳と目を酷使してもその風景はかわらず、高尾は瞬きを繰り返す。 錯覚かと自分の目を疑っては目をこすったり瞬きをするのだが、その“色”は消えない。 むしろなんだか声援まで聞こえてきて―― クィ。 高「宮地先輩。ちょっと気になってるんすけど」 宮「んだよ?」 高尾は自分達より前を歩く蜂蜜色の髪の青年のユニフォームをつかんだ。 高「えーっと、あそこの」 指差しはダメ。 そう言われて育った高尾は、指で示そうとしたのをグッとこらえ、視線を目的の方へ向けることで、宮地の視線を応援席の方へと向けようとした。 高「えっとですね。秀徳の応援席に混ざってる、先輩と同じ色の誰ですか?」 宮「はぁ?応援席?同じ色?なんのことだよ。あんまわけわかんねぇこと言ってっと埋めるぞ」 高「いや、うちの学校の制服着てるけど見たことないなぁーって」 宮「だれのこと・・・・あ」 挙動不審な高尾の視線をたどりついたのは、秀徳の応援席。 その最前列に、宮地と同じ蜂蜜色の髪をした少年がいた。 彼の周囲にいるのは、レギュラーからはずれたバスケ部の三年生たちである。 裕『きよし−!がんばれー!!』 三「こら。あんま体前に出すんじゃねーの」 三「おちるぞー」 三年生たちはどこか微笑ましい物でも見るように苦笑しながら、体を乗り出して手を振っている小柄な蜂蜜が観客席からおちないように支えている。 ふわり。 どこからまぎれこんできたのか、暴れるのをやめておとなしくなった蜂蜜色の少年のもとまで黒い揚羽蝶のような蝶がとんできて、そのまま彼の小さな頭にとまって羽を休ませる。 三年生たちも本人も蝶がいてもいつものこととばかりに、反応は薄い。 その光景をみて宮地が目を見開くが、 宮「ぅぉっ!?きてたのかあいつ」 やはり蝶とか気にしてはいないようだった。 大「ああ、ユウヤか」 高「え!?先輩たち知り合いっすか?」 裕『きーよーしー!大坪さん、木村さんもがんばれ〜!』 なんだか服に着せられているような。袖の余った大き目の秀徳の学ランからは手が出ていないが、相手は宮地が自分に気付いたことにか嬉しそうにパタパタ手をふっている。 それをみて宮地の顔が険しくなり、周囲に不機嫌オーラがあふれだす。 宮「おい」 木「どうした?」 大「ん?」 宮「誰だよあいつに秀徳の制服貸したの。あまってんぞ袖の長さが!!あいつに服貸した奴名乗り出ろ!!ズボンは本人のはかせたろうな!あいつに着せたらダボダボになるのなんてわかりきったことだろうに!!えぇ!転んだらどうするんだよ!」 高「ブッファァッ!!!つっこみどころおかし」 大「あーはいはい。高尾はこっちなー」 応援席にいる同じ色をしたユウヤと呼ばれた少年を指差して騒ぐ宮地の発言に、今度は高尾が吹き出し、やかましく笑い転げている。 大坪が慣れた動作で爆笑している高尾を移動させ緑間に預け、その間に宮地を落ち着かせようと木村が「まぁまぁ」と声をかけている。 木「さすがに制服の上着だけだって。面白がって俺の上着かしただけだから、下はいつも通りだから落ち着けって」 宮「いつもどおり?いつも?まさか真咲さんの服じゃ」 木「あ、いや、おばさんの着せた服じゃなくて、お前が用意しといた方の私服着てたぜ。ほら、制服の下パーカーのフードみえるだろ」 宮「はぁ〜。あーまじでよかったわ」 あっさり自分の制服であると認めた木村に、宮地がおかしなことでほっと息をついていた。 その安堵のため息が、下にきちんとサイズの合う服を着ていたからなのか、それとも“マサキ”と呼ばれた人物の選んだ服を着ていなかったからなのかは不明である。 その後、試合終了後にブカブカの学ラン(上)を着込んだ小柄な少年が秀徳の見学者たちに連れられてやってきた。 裕『木村先輩学ランありがとうございます!秀徳の生徒になれたみたいでうれしかったです』 ニッコリと笑って丁寧に着ていた学ランをたたんで返却したのは、“ユウヤ”と呼ばれていた蜂蜜色の少年だ。 名を宮地裕也(みやじゆうや)。 宮地清志の弟らしい。 長い睫も首元付近までかかる髪も宮地と同じ色だ。 そして頭に黒い蝶がついているのはもうデフォであり―― 木「いいっていいって。またこいよ」 裕『え。いやです』 高「ぶっふぉ」 緑「はっきりしてるのだよ」 大「なんでだ?あ、部活がいそがしいとか?」 裕『いえ。オレの学校のやつらより、秀徳のバスケ部って背が高いひとおおいんで嫌です。あ、みなさん縮んでくれます?そうしたらまたきます。 特にそこの緑色。お前縮めよ』 高「ブッフォ!!!!!!ひー!!!おかし!!あっはははははは!いや、うん。でも気持ちはわからなくないwwwけどぶふっ!!!!!!」 裕也は二度と来ないと宣言した。 それはもうキッパリハッキリと三年生たちには素敵な笑顔でそれでも丁寧に言葉を選んで答えていく。 しかし一年生面子、とくに緑間にたいしてふりかえったときには、さきほどまでのおとなしそうな雰囲気は一変し、睨み付けたあげくドスのきいた低い声で答えた。 そうコロっと表情も態度もかわる裕也に、笑いの沸点がひくすぎる高尾が先程よりも激しく笑い転げる。 宮地の背後に隠れるようにしつつ、威嚇する猫のようにフシャーとばかりににらむ裕也に、緑間はどう対応していいかわからず伸ばした手を彷徨わせるばかり。 縮めと言われた三年生たちは、こうなるだろうってわかってたと慣れたような顔で笑っていることから、こんな会話はすでに何度も行われていたのだろう。 わしわしとその蜂蜜色の頭をなでながら、裕也に「いつでもかんげいするからまたこい」と朗らかに笑った。 裕『あの、でも。オレ、違う学校ですし』 木「今度うちにも買い物きてくれ。パイナップルなら安くしておく」 裕『え。あ、ありがとうございます?』 大「こんな後輩ほしかったなぁ〜」 裕『あのやめてください先輩。縮みます』 三「「「「こんな後輩欲しかったな〜」」」 互いに顔見知りであるがために、わしわしとなでてもおとなしくなでられている裕也をかこんで和む三年生たち。 裕也にかんしては結局名前と宮地清志の弟であるということ以外さっぱりな二年生は、むずがゆそうにもみくちゃにされている裕也に触ることができず、それを羨ましそうにみているだけだった。 その背後では裕也に殺気を向けられてからそのまま固まったままの一年生。 っと、笑い転げて死にかけている高尾。 っと、眼鏡のずれを懸命に直そうとしている緑間。 その後、ひたすらなでまくられた裕也は、差し入れだと、オレンジ(秀徳カラー)のゼリーとドリンクをバスケ部員たちに配ると、さっさと帰ってしまった。 大「あーやっぱり裕也のつくる差し入れうまいなぁ」 高「うわーめっちゃうまい!!なにこれなにこれ!すごーいうま!ねぇ真ちゃんおいしいねぇ」 緑「オレンジ味・・・なのだよ」 宮「・・・これ秀徳カラーだからオレンジにしたのかあいつ?」 今日も秀徳は絶好調である。 :: オマケ :: 花『ただいま〜』 山「ただいまじゃない!おい、花 宮。おまえどこいってんたんだよ」 花『おー。ちゃんと練習してたみたいだな。イイコイイコ』 山「イイコイイコと同時に頭なでんな!」 古「花 宮に頭なでなでだとぉ!!うらやましいぃぃぃぃ!!!俺もイイ子だった。さぁ、なでてくれ!存分になでくれ。俺はザキのように嫌がったりしない!さぁ!」 山「その執着心がきもいんだよ!!」 古「ザキのくせになでなでしてもらったくせにぃ!!!!・・・・ああ、それと。花 宮、心配した。お帰り」 瀬「花 宮。試合か?」 花『バッチリだ』 山「いつも思うけど瀬戸も花 宮も言葉数少ないよな。さすが天才同士の会話。はしょりすぎだろ。 それで?花 宮は今回はなんで部活に遅れたんだよ」 古「これだからザキは。 ――っで?どうして部活に遅れたんだ花 宮」 山「なんか古橋、お前だけには言われたくなかったわ」 花『フハッ!ああ。秀徳の今日の対戦相手は、次にオレたちとあたるからな。解剖させてもらっってたんだよ』 瀬「そっか」 原「ねぇ、ちょっといいかな?」 花『ん?』 古「どうかしたのか原?」 原「ねぇ・・・なんで“ソレ”が花 宮だってみんな一発で気づくの?」 俺は一瞬不審者がやってきたのかと思っちゃったよ。そう告げる原が指差したのは、蜂蜜色の鬘をかぶり、特徴的なまつ毛までしっかり蜂蜜色に染め上げられた――もはや別人にしか見えない花 宮字であった。 しかし。 山「え。ふつうにわかんだろ。眉毛目立つし。まぁ、高校デビューにはちょっと花 宮には似合わない色合いだけど」 瀬「声、かな?」 古「俺が花 宮を間違えるはずないだろ」 山「古橋キモイ」 花『なにってただの変装だろ。“宮地裕也”と名乗って秀徳にもぐりこんできた』 瀬「花 宮、本当に宮地さん好きだね」 山「おい花 宮、あんまり宮地さんに迷惑かけんなよ。あ、なにかわびの品でも秀徳にもっていったほうがいいか?」 瀬「安定のおかんだな」 原「・・・・・うん、ごめん。なんか悩んでたのが馬鹿みたいだったね」 古「悩む必要もないだろ。花 宮だぞ。スナップひとつで変身する花 宮だ。いまさらだろ」 原「そうだったね。あ、おはなー!その色もにあっているよ!どうせだったら今日はそのままでいてよ」 花『気が向いたらな』 瀬「すなおじゃないなー」 山「なぁ。秀徳にわびの品名に持っていけばいい?」 今日も霧崎第一バスケ部は平和である。 ←BackUTOPUNext→U |