有り得ない偶然 SideW
-だれかの短い日々-




蕾はやがて花開く
WC予選試合より前のこと
比喩表現たっぷりな原視点。霧崎レギュズがもとめる春に咲く花の正体とは――
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あなたに最高の笑顔を

そのために
花冠を作ろう

笑顔という名の花で編み込まれた冠を――

君の上に





【 side 原一哉 】





「あのー先輩、ずっと気になってたんですが」
「あのすみっこにあるのなんですか?」
「あ、それ俺も気になってた!なんですあれ?」

後輩たちがそういって指差したのは、体育館のベンチの上にデデンと存在する白いモコモコとした塊。
一言で言うなら、巨大な繭のようなものがベンチに立てかけられているように見える。
それがまるで椅子に座っているようだからか、そのモフモフの一部に瀬戸が頭をおいてベンチに大の字で寝ている。
はたからみると瀬戸用の枕に見えるが、それだけ白いモフモフは繭にしてはでかいのだ。

そう。その大きさはゆうに人が一人入っていてもおかしくないぐらい。

一年に指差された方をみて、興味深げに耳を傾けていた二年と三年生、顧問とマネージャーたちが、納得したように笑った。

山「ああ、もうそんな季節かぁ」
原「瀬戸ちゃんずるー!俺もひざまくらしてほしい!!」
マ「校舎内があったかいからすっかり忘れてたわ。今年も冬が来たのね。それじゃぁ準備しないと!顧問センセェー!倉庫のカギはどこです!?」
顧「そうだねぇ、そろそろストーブださないとね。おーい笹々君!あっちの倉庫から部室用のストーブだすの手伝ってくれるかい?あ、クリスマスの準備もしないといけないねぇ」
笹「俺、三年なんで。そもそももう引退してるのになんで用事頼むんだよ顧問先生。おーい、松本ー」
松「え。俺!?」
一「先輩、じゃぁ、なんのために部活出てるんですか?」
笹「受験勉強の息抜きにたまたま今日ここにいただけの俺を使うんじゃねぇ。後輩が働くのが世の習わしだ。いってこい」
松「そんな横暴な」
笹「花 宮の方が横暴だ。大丈夫、あの花 宮の下でやってこれたんだ。おまえならやってける!」
顧「あそこ寒いから頑張ってね松本君」
松「・・・」

一「えっと・・・結局アレなんなんですか?」
一「笹々先輩いつからそこに!?」
一「原先輩、さっきひざまくらって言ったか?え?じゃぁ、あれって・・・」

あのモコモコをみたことのない一年生たちがわいわいと声を上げていくなか、ひとりの後輩が、あれの正体に気付いた。
嘘だろというつぶやきに、思わず口がもちあがる。

原「せ〜かぁ〜い!あれ、花 宮だよ」

一「「「うそだー!!!!」」」
一「「「花 宮主将何やってんの!?」」」


冬になると、花 宮はモコモコになる。
冷え性で、寒がりだからしかたない。

毛布だかひざ掛けだかわからないけど、この時期になるとモフッモフッの毛布にくるまって、あまり身動きしなくなる。
首筋が寒いという理由で頭から、はてには先端冷え症だとかで足までスッポリくるまるから、いつもモフモフなミノムシがこの時期になると体育館の隅に転がっているのだ。
さすがに二年目になると慣れる。

おかげであの白くてモフっとしたミノムシが体育館に出現すると、先生たちが優等生の奇行にあわてだし、翌日の朝礼から体育館には大型ストーブが設置される。部室では、どこも暖房器具が稼働し始めるようになるのだ。
それがおわれば、学校はクリマスモードに移行する。
あのミノムシはそれの前兆だ。



寒いのが嫌いだったり。
昼間は日向でポカポカまるまって寝てたりして。

ホント、花 宮って猫みたいだ。


ちなみに瀬戸は、どこでも寝れるみたい。
いつも大の字だし、よだれ出していびきを盛大にかいている。
だけど花 宮は陽向がさんさんと降り注ぐ場所でしか寝ない。
どうやってかあったかい場所を見つけ出してきて、そこで丸まって寝ている。
うん、どこからどうみても猫だよね。

寒いところで寝ていようと風邪をひきそうもない瀬戸はともかく。

そんな花 宮だから、ザキが心配して昼寝するときに上着を持っていくか、ダンボールか新聞紙をかぶれとさとしていた。
さすがザキ。相変わらずのおかんスッペク具合がいいかんじ。
たしかに新聞紙は、それを身体にまきつけただけでもけっこうあったかいよね。
夏は日よけになっていいんだと。

ザキ曰く、なにかのアウトドア系のTV番組で、身近にあるもので熱を逃がしにくい物や、それで暖を取る方法――っというのでやっていたらしい。
なんて豆知識。ちょっと変な知識だけど。

花 宮本人は、昼寝をするだけなのに、何かを持っていくなんて・・・って、はじめはけっこう渋っていた。
だけど制服汚れちゃうしね。

それに俺たち、ちょっと心配なんだよねぇ。
ほら、花 宮って、普段から青白っぽい顔してるからさ。
あんまり体調管理とか得意じゃなさそうじゃない?
なのに本人ときたら、「ウィルスや毒はきかない」とニヤっと笑ってさ、名前の通りの悪童みたいな顔して豪語するんだよ。
たしかに生まれてから一度も大病にかかったことないみたいだけど・・・。

ん?あれ?え。ちょっと待って。
毒って・・・
毒って何!?
なにそれ!?ためしたの?なにをどうやって試したの花 宮!
それとも花 宮って暗殺一家にでも育てられたとかそういうオチなの?

なんなの花 宮って!?

っていうか、いつも思うけど。あの根拠はどこから来てるの?


とりあえず冬の花 宮って、本当に冬は冬眠中って感じ。





+ + + + +





原「は〜やくこい♪は〜るよこい」
花『どうした原?』
原「ん〜ん。なんでもないよ花 宮」
原「ただね、早く春になればいいのにって思ってさ」


春になれば・・・

そうすれば
眠っていた蕾も、“花”を咲かすでしょ(笑)
花 宮もきっとあの頑丈な毛布から出てきて、笑ってくれるよね。
モフモフの下で今は見えないその笑顔が、花となるように。

春に咲く花の様に。
あの笑顔こそが、俺たちがみたいものなんだって、“あいつら”にアピールしてやるんだ。



春になれば、蛹も蝶に孵る時期だ。
俺達が育てた蛹が、綺麗な蝶じゃない。なんて、誰にも言わせないから。

一等綺麗なんだって、みせつけてやるんだ。





チラリとみれば、花 宮の死角で――ほら、瀬戸たちも頷いてる。
本当はね、俺達みんな同じ気持ちなんだよ。

同じ気持ちで“春”を待ち望んでる。



原「花 宮、花 宮ぁ〜。一緒に春になったら花見しようね!楽しみだね〜ザキの弁当」
山「俺のかよ!」
花『あったかくなったらな』
原「うん!」

はやく寒い冬なんか終わればいい。

春は冬とは違って、あったかくて、色とりどりの花が咲くんだよ。
それで花冠を作ろう。
花冠、花 宮に似合うかな?
その頃には、俺たちは、お前のために去年は取れなかった“冠”を用意しておくからさ。
そうだ。これから頑張って、たくさんの“花”をとらなくちゃね。





ねぇ、花 宮。
花 宮は覚えてる?

以前、花 宮は、勝利に興味ないって言ってたけどさ。

ああ、そのモフモフの繭の中からは、こっちが見えないかもしれないね。
それでもとりあえず、きいてよ。


俺達ね。
今年の冬は、絶対に、だれにもまけない冠(もの)、お前に届けてみせるから。


絶対の。
絶対だよ。


だから――




それまで 待っててよ、花 宮。
その繭の中で、待っててよ。



もうだれにも花 宮の悪口言わせないよ。
無冠なんてもう言わせない。
キセキに負けた役立たずなんてことも言わせない。
だって花 宮はすごいんだよ!できるやつなんだから!!それを周囲に見せつけてやる!

俺達を使えるのは花 宮だけ。

一人ぼっちになんてさせないよ。

俺達が花畑に生まれた小さな蜘蛛を守り、生かす糸と、巣となるよ。
俺達に伸ばしてくれたあの手を、俺らは忘れてないから。

だからね。
だから花 宮――

君には笑ってほしくて。



だってほら。
君の上には冠がよく似合うだろうから。










春を待とう
何色の花が君に似合うだろうか
春が待ち遠しい

だって来年の春には

君の頭上に 綺麗な花の冠が 君を彩っているはずだから・・・





 




ああ、冬がはじまる。

俺たちの最後の舞台(試合)――





 


ピピー!!

ボールがオレンジのリングをくぐりぬけると同時に、試合終了の笛の音が鳴り響いた。





その年の 冬の訪れを 告げるは
冷たい風の音ではなく・・・

コートの上のブザービートだった。





冠を作るための花は―――・・・





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