夏祭り A |
《本編》の裏話その2 黒子視点。 「夏祭り」の続き。 ---------------------------- 一日間違ってきてしまったお祭り。 そこで出会ったのは「宮」がつく二人組。 一人は、黒い着流しを見事に着こなし、中世的な顔立ちのせいか、物凄い似合っていた。 むしろ色気振りまきまくっていた。 あのひと、アホ毛だし、男ですが。 それでも人をひきつけてやまないほどには、着物姿が様になっていて。 仕草一つ一つが洗練されたとても優雅なものにみえたんです。 それにしても・・・。 黒と白ってとんでもなく互いを強調しうんですね。 黒の中に白色ってよく生えます。 そのひとの装いは、まるで白い肌を際立たせようとするかのような、黒い着物。 べつに女性ものというわけではなく、ちゃんと男物用の着流しなんですが、それをゆるっと着ているくせに、なぜか品があるような気がしてしまうんです。 さらにはそっとうなじにかかるちょっと長めの短い黒髪。 ただでさえ目を引くよう容姿なのに、首元がいろっぽくって、しかもそこに蝶のような痣があることで、よりその白い肌を強調するかのようで・・・。 ぶっちゃけ、性別関係なく、視線がくぎづけでした。 和風すごし。 うなじすごし。 日本人がチラリズムに感情が高ぶるというのも納得です。 首元のうなじ。それだけで色気が半端ないって・・・。 肌の色の白い人のチラリズムの威力はすごすぎますね。 さらにそんな和風美人が、猫と笑顔で戯れてる姿を想像してください。 みなさんの携帯のシャッターが連射してしまうのも当然のことだと思いませんか? 【 side 黒子 】 ―――っと、いう昨日を終えたのですが。 男性でも色気ってでるんだなと思っていたのですが、今日は今日でまた凄いものがいます。 ああ、お祭り効果ですね。 浴衣姿の女性は可愛いですよね。 いえ、まぁ、それは全人類の心理だとは思うのですが・・・。 黒「なんですかこれ?」 僕と火神君は、昨日会った花宮さんが祭りを案内してくれるというので、待ち合わせの場所に向かっていました。 なお、僕らは昨日の花宮さんに対抗して、和服で来ました。 今日の火神君は、トンボと柳の染め抜きのある黒い甚平姿。それを何でもない事の様にをさくっと着こなしている。 そういうところは、帰国子女とは思えないほど馴染んでますね。 ちなみに僕は、火神君に白い生地のジンベイをきつけてもらいました。 白とはいえ、うっすらと水色の幾何学模様が浮かび、青い折り鶴が描かれているので遠目には淡い水色にも見えなくないこったものです。 火神君は身長もあるからか、帰国子女のくせに甚平を着てもよく似合う。外人さんは身長が高すぎて似合わないかと思っていたのですが、予想外です。 僕はへたをすると着せられてる感があるかもしれないというのに。 イケメン滅びろとか、ちょっとだけ悔しい、なんて思ってませんよ。 着こなせたからといって、それで昨日の花宮さんのような色気が出るかというと、まったくそういうこともなく。 夏ゆえに男らしさが少し上がる程度でした。 それにしても、昨日お会いしたときの花宮さんは、妖艶さとかはないのですが、本当に性別とか凌駕してしまった大人の色気にあふれていました。 なんというのでしょう。あれはもう科海を食って生きている仙人の領域にたどりついた人間が慈愛に満ちたまなざしを地上の人間に向けるような。そう、地母神のような・・・おっと、話がそれましたね。 思い出すだけでなんだか顔が赤くなりそうです。 いやはや、これが着物の威力ですね。 本当にね。 着物だろうと着る人によって、なんかいろいろ変わるんだって納得させられました。 僕がどれほど影薄く平凡なのかを理解した、そんなミラクルに遭遇した昨日ですが、なんか今日もすごい人がいます。 ※【D.Gray-man】リナリー・リーの外見をした浴衣の女の子だとおもってご覧ください。 昨日の花宮さんの話では、霧崎のメンバーがいてもいいなら本日の縁日の案内をしてくれることで、僕らは即お願いしますと声を上げたのです。 なにかわけしり顔で笑顔満載の火神君と、お祭りテンションで衣装を整えて、その待ち合わせ場所に向かえば―――。 ざわめく周囲と、それの渦中たる男女のグループがいました。 この視線の中心にいるのは、背中に届きそうな長いストレートヘアの――ただし部分的にピョコっとハネている――少女。 白い小さな花弁のついたシュシュが、緑がかったつやのあるサラサラの黒髪のツインテールをくくっている。 黒に近い深い緑生地の浴衣には、白ぬきで蝶の絵柄が描かれている。 彼女の細い腰をしめているのは、着物の色を引き立たせる反対色のオレンジの帯だ。 派手すぎず、かといってガラがないわけでもない。つつましやかに描かれたそれらは、彼女の容姿と相まって、派手さより清楚さを醸し出している。 そんな可愛いらしい浴衣姿の少女に、行きかう人々がチラチラ振り返っているのだが、 その周囲を囲んでいる五人の男たちが牽制していた。 ひとりは彼女の横で、疲れたような顔をしている。淡い色合いの髪に、ひときわ背の高い青年。 他の四人は身長は180cmくらいだろうか。はためには、ガラがいいとはいえない顔つきの四人組だ。 一人が少女となにかしら話している横で、残りの四人が少女に向けられる視線に目を光らせては、視線で威嚇している。 そうして五人の男に見守られている当の本人だけが、まったく気にした風もなく嬉しそうに微笑んでいる。 もう一度言う。 なんだこれ? 火『ああ。保護者と霧崎セコムか』 黒「えーっと・・・?女王とその取り巻きかなにかですあれ?」 火『あれ、アザナ先輩だぜ黒子』 黒「ファッ!?」 火『あ、驚いたか。どっきり大成功だな。あれ、俺と宮地さんで着つけた(ドヤ)』 なんとあのかわいらしい女性――と思っていた人は、あの悪童。もとい〈友〉こと花宮字さんそのひとらしい。 っということは、あれは女装? え? あれで? あれでか!? あれで女じゃないとか!? え、本当に女装なんですか。 あれで? まじですか? だって桃井さんに負けるとはいえ、カントクより胸ありますよ。 黒「女性ではないんですかあれ?」 火『落ち着け黒子。あれはSpecial Makeup・・・あ、いや、えーっと・・・日本語でなんて言うんだっけ? あ、そうだあれだ。特殊Make?の、一種だな。アザナ先輩は disguise…変装?に、関しては完璧を追及しちゃった、ぜ、です?あと、あの大きい胸は今日の俺の朝飯になる予定だったアンパンだ』 黒「火神君が花宮さんといるとき以外まっとうな日本語話せないのと同じくらいその変装へのこだわりおかしいです!!!」 特殊メイク?変装? 顔とか全然違って見えるんですけど。それでも同一人物でメイクといいはるんですかあなた。 たしかに身長も髪の色も同じくらいでしょうが。 でも逆に言うなら、それぐらいしか花宮さんと彼女の共通点ないですよ。 え、それ以前に――― 黒「麿眉(アイディンティティ)はどこいった!?」 あれで女装とか!! 女装でイタズラのつもりですか!? ドッキリですか? だって、胸あるじゃないですか! それとも花宮さんは本当は女性だったのを男装して過ごしていたとかそういうオチですか!? まさかわざわざ胸パットまで入れているとか!?あ、いやあんぱんだっけ。 あんぱん……ハッ!?そ、そうじゃなくて! なんにせよ、完全に女性にしかみえなくてびっくりです。 ドッキリなら成功ですよ! いたずらにしては完璧すぎです。 イタズラ好きもほどほどにしろよこの悪童が!!かわいすぎだ! イタズラすごし! 女装でああまで完璧にしちゃったら、宮地さんの苦労が知れる!あのひとがやたら過保護になるのもわかります。 っというか。 そこいく通りすがりの浴衣のおねぇさんだって、最近の女性がデパートなどで売ってそうな安っぽそうな浴衣を着てるようにしかみえないのに。 なんですかあんた! “悪童ゲスマロフラワー”はどこにいった?! そこいく通りすがりの浴衣のおねぇさんと、全国の本物の女性全員にわびろ!! どこからどうみても女の子ですよ! 本当にかわいいなチクショウ! 髪を染めてない分清楚系です。最近の流行くささが全くありませんね。 僕の好みです。 ・・・っと、いまのは忘れてください。 僕は男に興味はありません。 とりあえず。 花宮さん、見事です。 花『清志、これから秀徳のやつらとまわるんだろう?なのにもう疲れてないか?』 清「アザナ、口調」 花『お祭り、まだ始まってないのにキョー兄さん疲れてない?』 清「よし。あ、火神達来たな。いいか約束は守れよ。絶対あいつらに迷惑かけるな」 花『私、今日はお土産に金魚とってきてみせるから待っててね!』 清「いや、お前には期待してない。ってか、聞いてたか?」 花『はーい。私リナリー、いま貴方の前にいるの』 清「だれがメリーさんごっこをやれとと言った?埋めんぞ?」 花宮さん(らしきひと)は宮地さんをからかっていたのか、クスクスと小さな笑い声が聞こえ、謝罪の言葉が続く。 聞こえてくる声もけっこうかわいいです。 そういえば昨日も背後から声をかけられたとき、花宮さんだって気づかないぐらいのおどろおどろしい声を出してましたね。声真似が得意なんでしょうか。 むしろ花宮さん、完全に女の子ですよ。 そんな花宮さんに宮地さんがそれはもう疲労感あふれる感じで、その肩をつかんで、真剣な顔で視線を合わせています。 清「まじで金魚とかどうでもいいから」 花『そうなの?』 清「そうなんだよ。 いいか!アザナ、もうリナリーだかなんでも花子でも好きに名乗ればいい。だがな!そこまでやったなら、あとは女性らしく。女性らしくだからな! 口調はかわいらしくだ。いまの口調を徹底しろよ! 突然いつもの声とかもっと低くしたら、外見との違和感はんぱねーから!周囲のやつらの心の傷がつくからな。そんなやつらの看護なんて面倒なことさせるなよ。 そう、やるなら徹底的にやれ。 いいか!女らしくだ!! そうしてれば絶対お前が“誰か”は、ばれないからな。女らしくしてろよ! もしもだ。もしもそこまで徹底的にやってもばれた場合はしかたねぇ。 祭りには誰が来るかわからねぇからな。 いいな!あと変な奴に襲われてる子みつけてもケンカ売りに行くな。 正論かまして、さいごに投げ技とか蹴り技だすな。相手をつぶすようなまねすんなよ! とにかく目立つな!」 花『もう!しつこい!!みんながいるから大丈夫って言ってるじゃない!そんなキョー兄さんなんか嫌い!』 清「いや、俺は嫌われてもいい。むしろ嫌ってくれて構わない。そしていい加減俺離れしろよブラコンが。 だがそういうレベルじゃぁねぇんだよ。お前まじで人様を殴るとか蹴るとやめろよ。 お前が攻撃しかけると大概相手が重傷になるの目に見えてんだから。慰謝料請求とかやめてくれ」 清「っと、いうわけでいいか霧崎、やろうども!」 霧「「「「はいお兄様!」」」」 清「おまえらこいつから、周りをしっかり守れ! 普段は手が早いからな。こいつの離れ業が出る前に、根源を近づけさせるな! こいつが技を仕掛ける前におまえらが敵は潰せ!正当防衛になるように配慮しろよ」 霧「「「「サーイエッサ!!!」」」」 どこの軍隊ですか。ねぇ。 本当にもう、宮地さんによくしつけられてますね彼ら。 ああ、だから霧崎ってチームワークがいいんですかね。 黒「・・・・火神君」 火『なんだ?』 黒「これから僕たち、あれと一緒に行くんですか?」 火『慣れろ黒子』 + + + + + それはまるで頭から冷水をあびせられたように、血の気が一気にザァーっと音を立ててひいていくのに似ている。 花『・・・』 原「ぷぷっ…ちょ!おはなぁwww」 火『Oh・・・」 山「あ、おい瀬戸!黒子によりかかるな!!こんなところで寝るなぁー!!」 黒「ぅえ・・・せ、瀬戸さん。重いです!!」 古「・・・・・・」 カオスだった。 食べながらウトウトし始めた瀬戸さんが寝たと思ったら、僕の方に倒れてくるし。 それを支える山崎さん、まじおかん。 火神君は安定の火神君で、腕の中には大量の食べ物。 昨日の宣言通り、すべて量がハンパない。 それをつまみ食いしている原さん。 どうやら火神君とわけあうことで、どれが美味しいかお勧めしあっていた様子。 原さんと火神君が食べ物で意気投合している横で、僕はようやく瀬戸さんをどかしてもらったところ。 山崎さんの必死の呼びかけで目を覚ました瀬戸さんが、半分寝ぼけ顔で「ああ、わりぃ黒子」と謝ってくれたが、今にもまた寝そうだ。 っで。金魚用の簡易ビニールプールの前でうつむいたまま小さなボール(椀)とポイを手にプルプルと肩を震わせている花宮さん(♀仮)。 その横では僕以上の無表情のままに、さらには無言で、モクモクと金魚を椀のなかにいれていく古橋さん。 何があったかというと、高校の仲間と見て回るからとその場に残った宮地さんに見送られ、僕たちと霧崎のみなさんで祭りを堪能していた。 火神君はさっそく買い食いを始めていた。 しばらく歩いていれば、金魚すくいを発見。 そこで宮地さんに宣言した通り、花宮さんが金魚掬いに挑みにいった。 コインとひきかえに椀とポイをうけとった花宮さんが、一歩プールに足を踏み出した瞬間――。 ザァ!!! 本当にそんな音がしました。 花宮さんが、地面に置かれているビイニールプールに近づいた途端、バラバラと動いていた赤と黒の金魚たちが、物凄い勢いで彼女(?)の前から遠ざかったのです。 ええ。それはもう魚の癖に、脱兎のごとくという言葉が合いそうなほどの勢いでした。 金魚たちはおせやおせやの慌てふためきようで、文字のごとく兎のように水面からピチピチととびはねてまで花宮さんから逃げて行ったのです。 そして花宮さんの前から一匹の金魚たちもいなくなりました。 かわりに花宮さんからは少し離れた位置でしゃがみこんでいた古橋さんの前に、隙間がないほど金魚たちが密集しています。 金魚たちは端に詰めすぎたせいで、おされてははねあがっているので、古橋さんがポイをださずとも勝手にお椀に飛び込んでいきそうな勢いです。 目の前の現象に愕然としてうつむいている花宮さんをよそに、古橋さんはポイポイとリズミカルに金魚をポイですくいとっては椀にいれていきます。 あまりのことに、金魚すくいのおじさんは目を点にして花宮さんを凝視しています。 原さんと火神君さえ思わず食べ比べをやめてしまったほどです。 原さんは、対象すぎる古橋さんと花宮さんを見て笑うのを必死にこらえて肩をふるわしていました。ただし声がもれていたので確実に笑っていました彼。 火神君は花宮さんがこうなることに耐性があるのか、なんとも言えないような顔で、しまいには同情のまなざしで花宮さんの小さな後姿を見つめています。 瀬戸さん?山崎さん?あのふたりはまた寝ては起こしてといったドツキ漫才をしていますが。なにか? 花『・・・・・・動物も幽霊も結局は人間どもと同じか』 黒「花み、えーっとリナリーさん?」 女装のときは「リナリー」とよんでくれ。と言われたのは合流してすぐのこと。 お遊びでお母さま方の浴衣を着せたら案外似合ったのでかつらをつけて、ちょうど火神君が持っていたアンパンをむねにつめて、宮地さんが化粧と髪形をほどこし、花宮さんの親戚のリナリーという設定で架空の存在を作ったらしい。 せっかくだからそのまま女らしく振舞えと、女の子口調を強制されているので、花宮さんが完全にリナリーという女子にしか見ない。 花『嫌いなんだろ?だから逃げるんだ』 黒「きらい?」 古「は、花宮、何を言ってるんだ?俺は花宮もリナリーも大好きだ!」 瀬「花宮のそれ、古橋や黒子に向けてじゃないよ。金魚に向けて話してる」 原「金魚にむけて何を語る気ぃ?」 火『ま、まさか“壊ればみんなガラクタ”ってあの代名詞、今、きちゃうとか!?』 瀬「ああ、これは。またなにか花宮勘違いしてそう」 花『どうせ動物っていう動物もお前ら人間もオレのこと嫌いなんだろ。だから逃げるんだろ?しってるよそれぐらい。 どうせ・・・どうせみんな、オレのこと性格歪んだラフプレヤーだって思ってんだろ。ラフプレーしてるから嫌いなんだろ。し、しってるんだからなそれぐらい。だから・・・だから逃げんだろ。どうせオレなんか嫌われてるんだ』 山「いやいやいやいやいや!!!!ちょっと待った!!どうしてそうなったー!!!ってかそこまでネガティブ街道突き進むな!!!」 火『あ、あザ、アザナ先輩元気出してください!ほ、ほら!これあげる、ですぜ。から!』 黒「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あせりすぎて日本語が完全におかしくなってましよ。か、火神君!!」 瀬「黒子も十分焦ってるよ?」 原「そうだよ花宮!元気出してよ」 古「リナリー。宮地さんへの金魚はこれでいいか?」 火『安定だなおいっ!ちょ、先輩たち、いいんですかこのネガティブほおっといて!!』 瀬「大丈夫だよ。猫以外の動物に嫌われてるのはいつものことだし。すねてるだけだし」 古「ほら、金魚だ。三匹にしてみた」 山「珍しく古橋がまともだ」 黒「え!?あれでまともなんですか」 原「てっきり全部とっちゃうきかと思ってたわ〜。 ほら、リナリー、金魚、古橋がくれたよ。これで元気出してよ」 古「そんなにとっても持ち帰れないだろうが」 花『・・・・・・』 火『椀に飛び込む勢いでしたからね〜せいぜい10匹ぐらいはお持ち帰りかと』 瀬「なんで三匹にしたんだ?」 黒「つっこみどころそこですか瀬戸さん?いえ、僕もまぁ、なんで3匹にしたのかはちょっと気になってはいましたが。むしろハナじゃなくてリナリーさん無言なんですが…」 山「お前ら冷静だな」 原「金魚口論うけるwww」 古「あの場においては10匹以上とるのはたやすかっただろう。まぁ、その量を袋に詰めてもらったところを想像してもらいたい。小さな袋にぎっしりはいった金魚を」 「「「ああ、さすがにそれはちょっと・・・」」」 古「だろ」 山「ああ、ぐろいな」 黒「なんのドッキリですかとつっこみたくなりますね」 結局花宮さんが近づくたびに金魚たちは逃げににげまくり、ポイを水につけることもできずにおわった。 あまりの嫌われ用にさすがの屋台のおじさんも憐れんだのか、好きな金魚を取ってあげると苦笑したのだが、 花宮さんは首を横に振ると、コインを返却してもらい、それとひきかえに未使用のポイをおじさんの手に戻していた。 しかし“自分で取る”ということに期待を寄せていたのだろう。花宮さんはそれでもしばらくは、未練たらたらとプールで泳ぐ金魚たちをチラチラみていた。 一歩・・・近づけば、ザワリと金魚はにげる。 それを何度か繰り返した花宮さんは、今度こそ屋台に背を向けた。 その背はさらに哀愁が漂っていた。 おちこんだまま長い髪で顔を覆ってうつむいたままドンヨリとしている花宮さんに、古橋さんは赤と黒の金魚が3匹入った袋を手渡して、丸い頭をなぜて慰める。 花宮さんは古橋さんから金魚の袋を受け取ったものの、袋の中の金魚が怯えたように挙動不審になり、ありえないぐらいのアクロバティックな泳ぎを見せたことで、ガッカリしたようにため息をついて突き返していた。 花『みんな嫌いだ』 「「「「「「・・・・・」」」」」」 山「ぷっ!!やばい。今の一言で古橋が死んだわ。瀬戸かついでいってやれよ」 瀬「やだよ」 原「お花もリナリーも。な、なんでwwwwwそこまでwwおびえられてんの!?ぶふっwwww」 花『自分で取りたかった・・・』 火『あいかわらず動物におびえられてますねー。やっぱ先輩の殺気が強すぎるんじゃないっすか?』 花『殺気なんかだしてない!』 火『かわいこぶってすねてもだめっすよー。あんたが怖いのは全国共通一致の意見ですから』 黒「火神君!こんなでも先輩ですよ!!」 火『こんなって・・・黒子、お前の方がひどいこと言ってんぞ』 花『・・・どうせオレはこんなんですよー。黒子君より身長低いしー。だから女の子になりたかったのに。女の子だったら163cmでも逆に背が高いねって言ってくれるし』 原「ぶっ!!!」 花『あ゛ぁ?なんだよ文句でもあるのかよ?』 瀬「花宮、言葉遣い」 花『ぐ』 瀬「いいの?宮地さんに言いつけるよ」 花『・・・原クン。休み明けの練習、倍にしてあげるね(ニッコリ)』 原「そ、それは勘弁www いや、でも本当に火神と“おはな”の会話って新鮮だなぁって思ってさwww」 瀬「ああ、それは思った」 山「あーそういえば古い知り合いだっけ二人?話には聞いてたけど、火神はうちの(花宮)に容赦がないな」 古「あまりうちの主将をいじめないでやってくれ」 火『いや、いじられてるの俺の方っす』 花『火神君、私にもタコ焼き奢って?』 火『あーはいはい』 何だこの二人。 もうこの二人、これだけで意思疎通してるし。 阿吽の呼吸とか。 夫婦ですか!? 熟年夫婦ですか、ふたりとも!!! 僕の場所は!? うらやましい!! 火神君は「先輩を?俺がいじめる?ナイナイ」とばかりに手を振っていたが、その横を歩いていた花宮さんが憎々しげなまなざしで火神君を睨みつけて火神君のジンベイを引っ張った。 可愛い顔と口調なのに、なんか怖い。 そんな花宮さんをスルーして、何事もなかったようにタコ焼きのパックを手渡している火神君は、そのまま花宮さんを無視してまた霧崎の先輩たちとの会話に戻ってしまう。 なんて強者だ火神君。本当に手慣れてますねー。 横では花宮さんが、「女子に生まれたかった」とか「縮めカス」とかブツブツ言いながら、パクパクとやつあたりのようにたこ焼きを食している。 花『ごちそう様』 黒「はやっ!?」 原「リナリーちゃん♪ストレスがたまってんたんだねー」 火『でしょうね。先輩、モフモフしたものとか、生き物とか好きですからねー。猫以外はにげられますけど』 黒「いえ、途中から身長と性別について愚痴ってましたよ?」 瀬「リナリー、八つ当たりに暴食はすすめない。試合にさしさわる。いつもお前が言っていることだろ」 花『暴食って言っても帯がきつくてもう無理』 山「あーほら花、リナリー、ゴミ捨ててくるからよこせ」 黒「山崎さん安定のおかん!?」 花『・・・ねぇ、火神君』 火『なんすかリナリーさん』 花『おごってもらった私が言うのもなんだけど、どんだけ買う気なの?まだ食べる気なの? 火神君って、もしかしてアレン君みたいな寄生型のイノセンスを持ってたりするの?』 火『イノセンスって…ああ、えっと漫画ネタはともかく。 これから食べようと思ってるのはッスね、からあげ棒、たこ焼きイカ焼き広島焼き団子ケバブじゃがバタ牛串各種にフランクフルト――』 原「うぇ。さすがに俺もぉ全部は無理かな」 古「おどろいたな。全店制覇する気か」 山「見事に主食だな。甘いものは?部活の時、花宮がさ、ストレス発散につくったケーキが最近あまらなくなったって喜んでたぐらいだから、火神って甘いもの好きなんだろ?」 火『ケーキは別。わたあめとかりんご飴って口許ベタベタするから嫌いなんすよねー。食べてもチョコバナナくらい?』 花『火神君、生クリームの塊(ビックパフェ)食べれるのに!?』 古「花宮とパフェだと(ギリィ)」 火『って、いっても・・・男のアザナ先輩とっすよ?"この"アザナ先輩とじゃないっすよ』 古「それでもうらやましい」 瀬「まぁ、古橋ならそうなるな」 原「そうだね〜。うちの花宮もそうだけど、甘いもの苦手な奴が多いのうち。基本的に俺たちスィーツ系の店いかないもんねぇ」 山「言われてみると、コーヒーの香りがいい店がメインだな」 古「甘いのが嫌いすぎて吐くって言ってるやつがいるから仕方ない」 花『ケーキバイキングとかなにその地獄』 火『“花宮”らしいっすね』 黒「・・・・・」 なんでしょうか。 もう●●●先輩が言っていたような、 うちの学校で流されてる霧崎危険!近寄るな!のイメージとか。 世間一般的な悪い噂とか。 ちょっと本気でうたがってこようかと思うんですが。 なんですかここ。 ああ、天使たちの集まりですねわかります。 霧崎のバスケ部員はゲスしかないないとはよく言ったものです。 むしろ誰がそんなこと言ったんでしょうかね。 彼らと話せばすぐにわかります。どこからどうみてもここには、普通の学生しかいませんよ。 いえ、花宮さんはちょっと性別的な意味で普通を凌駕しちゃってますが。それはそれ。 しかしみなさん天使です。 仲良しっていいですよね。 僕もその仲間に入れてもらえてうれしいぐらいです。 原「あ!黒子がわたあめ食べてる!」 火『え。おーまじか』 黒「わたあめはすでに2個目です」 ドヤァ〜っと、戦利品たるわたあめを右手に。左手のりんご飴とあんず飴をかかげてみせる。 「「予想以上に食べてた!」」 山「いつのまに・・・」 黒「お金を見せてもなかなか気づいてもらえなくて泣けました」 原「ん?どういうこと?」 黒「存在感が薄いとよく言われます」 花『へぇ。黒子君は甘いの好きなの?』 黒「リナリーさんは、食べないんですか?」 山「うち(霧崎)で甘いのがダメってやつが、そいつだからなぁ」 火『そのわりにはケーキとか、もうめっちゃつくるんすよこのひとwww』 なんと!? なんともったいない。 黒「バニラの香りは神の作りし最高の香辛料だと思います!」 火『黒子ぉ・・・』 花宮さん、甘いのがダメなんてそれだけで、かなり人生損してますよ! ならばここは僕がバニラの素晴らしさを語りましょう! 黒「むしろ今度から火神君だけじゃなくて僕にも花宮さんのお菓子ください!バニラエッセンスたっぷりだとなお良しです!」 原「へぇ〜本当に黒子って甘いの好きなんだなぁ。今度部活あるとき霧崎においでよ。俺らいつもお花のケーキで休憩時間過ごすからさ」 古「それはいい。あの量はちょっと・・・な。きてくれると助かる」 原「そうそうwwwお花のストレス発散が菓子作りみたいで、機嫌が悪いときほど差し入れの量がハンパなくてさーwwま、おいしいのはおいしんだけどねwwww」 すてきな部活ですね! ぜひ! っと、いうか、みなさんバスケ部ですよね? ほんとうにこのメンツでバスケしてるんですか? 本当は違う部活だったりしませんか? それにしても最近の男性(花宮さんはともかく)は、料理の一つや二つできて当然なんでしょうか? かわりに最近の女性の料理の下手さがうきぼりになっているような・・・。 いえ、料理壊滅的女子なんて、きっと僕の周りの女性だけですよね。そうにきまってます。 そういえば火神君の料理もおいしいんですよねぇ。 僕なんか、それで今なんて食育うけてますし、少しは量を食べれるようになってきたんですよ。 でもいつか花宮さんの手料理、お菓子ですか?食べてみたいものですね。 食べると言えば―― 黒「花、リナリーさんはともかく」 花『会話も始まってないのに私だけのけもの扱い・・・兄さん、私、泣きたい』 黒「だって、もう性別も生まれた時代もよくわからないひとはいいかなと」 「「「「「ああ、その理屈はよくわかる」」」」」 黒「っで、ですね。火神君は物凄い量を食べますが、食べ方綺麗だな〜って。ちょっと思ったんです。 ほら、あんなに食べるし体格良いからから、火神君って肉にかじりつく某漫画キャラをほうふつとさせるじゃないですか。 でも実際は所作がきれいだし、帰国子女のくせに・・・今日なんか甚平着こなしていますし」 やっぱ料理ができる男は、そういった細かい仕草とかにもいろいろとでるんでしょうか。 “和”を着こなせる人こそ、モテそうですよね。 黒「僕も料理ができるようになった方がいいですか?」 古「すまない。意味がわからないんだが」 山「なにをどうしたら今の会話がつながるんだ?」 花『黒子君が言いたいのは、料理ができると所作もきれいになるのかってことよね?』 瀬「料理しているからといって、火神の様にはならないと思うけど」 火『俺はオトメンか!です!?』 花『音面?なんか聞いたことあるような?えーっと…ボーカロイドの一種かなにか?』 原「ちがうってリナリー。オトメンってのはねw乙女らしいwww男子(メンズ)の略だってwww」 山「・・・花宮の部屋にあるぬいぐるみは、その乙女思考のせいか?いや、でもリナリーの方が持ってるぶんには違和感ない?」 原「wwwwwwwま、まじめな顔でwwwザキぃwwwなに言ちゃってんの」 花『ただもふもふが好きなだけよ』 火『俺もー。オトメンじゃないっすよ俺。 まぁ(モノノ怪時期)普段着にしていた時あったし。女物も着付け出来るぜ!です』 黒「君はびっくりな特技持ってるんですね」 火『特技か?』 古「火神」 火『なんだ?ですか』 瀬「“なんですか?”な」 火『・・・うっす。すんません』 原「どったの古橋?」 花『古橋君?どうかした?』 微かに首をかしげるしぐさだけで、花宮さんの長い髪(ウィッグらしい?)がサラリと揺れる。 学校で可愛いと一番人気な●●●先輩でさえ、首をかしげるとグキィってかんじの曲げ方になるのに。 女性らしさを演技中なはずの花宮さんのそれはすごく自然だった。あと仕草ひとつひとつが儚げでかわいい。漫画の中のヒロインてこんな感じかもしれないって思えた。 不思議そうな周囲をよそに、古橋さんは真顔(表情の変化がよくわからないから、たぶん)で、火神君に近寄ると―― 古「火神!ぜひ!!このリナリーをさらの着飾ってくれ!」 ガシリッ! 火神君の両手をつかんで、普段はハイライトのない目をキラキラと輝かせて言った。 火『へ?』 花『着飾るって。浴衣・・・変だった?』 古「ちがう!せっかく髪が長いのにもったないだけだ!ツインテールはツインテールで刺激があって最高だ!花宮にもリナリーにも非はない!! さらにいうと帯に色気がない!花宮が着てるんだ!ならもっとこう!名前の様に花の様に!可憐に!フンワリと!」 原「うわーひくわ」 花『そのダジャレ、面白くない』 山「なぁ、リナリー。いまのどこがダジャレだ?ってかツッコムところちげーだろ!!」 瀬「・・・花宮と華をかけたのか?」 黒「今はリナリーさんなのに」 山「え。いまの本当にダジャレだったのか!?」 火『違うんじゃないっすか?ダジャレだと思ったのはたぶん頭の中まで花畑なリナリーさんだけじゃないっすかね』 原「ひゅー。火神ちゃん相変わらずぅ言うねぇ。たしかにうちの花宮ってば頭の中絶対に花咲いてそうだけどね」 黒「ならダジャレと変換したリナリーさんが凄いんですね」 古「――っと、いうわけで。火神、このリナリーの帯をだな、結び方を変えてとめなおしてやってくれ。彼女を着飾りたくとも俺にはさすがに和物までは、どうこうできなかったんだ。 着物を着つけることはできても、悔しいことに小物がよくわからなかったかんだ。勉強不足だった自分が恨めしい。 さっき的屋でゲットしたこの簪か、こっちのリボンだな。レンタルで帯とかも貸してくれる店が近くにあるし。他の色や柄が欲しいならいってくれ、こんなこともあろうかと、とりあえず身内に借りてきたし、リュックにいくつか持参してきている。 仰々しくならず、かつ、彼女の可憐さを引き立たせる感じで頼む!」 古橋さんはノンブレスだった。 お祭りなのに何を持ってるんだろうっとは思ってはいたんですが、そのリュックはそのためだったんですね! 花宮さんを着飾りたいのかお前は! っていうか、その飾りあと何個入ってるんですか。 そしてどこから取り出した、そのビデオカメラは!! :: オマケ :: ひらり黒い蝶が目の前をよぎった。 いや、目の前をかけたのは、緑がかった濡羽のような漆黒の髪をもつ少女だ。 長い髪をサイドでツインテールにし、軽やかにかけていく。 通り過ぎぎわ、彼女と視線が合う。 彼女がこちらをみたのは、ただの偶然だったのかもしれない。 ふわりと微笑んだ彼女は、また軽やかに走っていってしまった。 笠「どうした森山?」 森「・・・」 笠「おい」 森「運命の相手だ」 笠「また始まった・・・」 森「いや!今度こそ絶対だ!俺をみて微笑みかけてくれたあのかわいらしい笑顔!これぞ恋!!」 笠「あーはいはい。っていうかその子って、あれか?」 森「あ!あのこだ!!あのこだよ笠松!!よし!いますぐナンパしにいこう!」 笠「あれ?あれって・・・秀徳の?っと、あとは誰だ」 森「え?」 ――金魚はいいんだよ ――ョーにいさん、キライ!!! ――い加減俺離れしろよブラコンが ――いうわけで、いいか・・・やろうども! ――サー!イエッサ!! 笠森「「・・・」」 笠「なぁ」 森「・・・」 笠「あれは、あきらめろ。壁が頑丈すぎる」 森「短い恋だった・・・orz」 お祭りって色んなところから人が集まるよねって話(笑) ←BackUTOPUNext→U |