有得 [花悲壮]
++ 二人の花 宮とその後の後 ++



02:花と妖怪と ミャーズブラザーズ
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ



目が覚めたらなにもなくて、いつもどおりの自分の部屋だった。


――とか。
そういうオチを心の底から期待していた。

残念ながら、目の前にはオレと同じ顔をした人間が、気持ちよさそうに寝ている。
オレの横のベッドには、今吉さんが寝ている。

花「現実か・・・」

こんな現実いらない。
もう一度寝たら、なにかステキな奇跡は起きていないだろうか。

いらつきのままに目の前でアホ面をさらしているアホ毛なオレの顔面に掌底を食らわせたが、きっとオレは悪くないはずだ。
心の中の暴力へは、正当防衛って法則は通じるのだろうか。





【 side 原作よりの花宮 】




目が覚めたらもう一人花宮真がいる。
そのことについて詳しく今吉さんに説明し、無理やり納得させたところで、もうひとりのオレには“ちぃーみや”というあだなが、今吉さんによってつけられた。

字の不幸体質は、主にその肉体にそなわっているらしく、勘違いやら不幸やらはすべて字に向かった。
入れ替わった時は、字の身体を使っていたオレがその不幸体質を味わわされたものだ。
とはいえ、あの入れ替わり事件以降、オレも字に関してはやたらと勘が働くようになったのだが。

つまり、今回もやってくれましたあのバカ。

せっかくきたのだからと京都観光と意気込んでいれば、字は迷子になるわ、人様に迷惑をかけているわ。
ああ、言葉を間違えた。
迷惑をかけていたのではなく、不幸体質を発揮していたにすぎない。
字はひたすら些細な不運に見舞われつづけ、周囲には逆にラッキーフラグが乱立していた。

あまりの様子に、今吉さんが、同情のまなざしで字を見つめていたほど。

そしてその視線がオレにも向けられる。
理不尽だ。
字と同じ顔だからって、字のしでかしたことしでかしたことに、なぜかオレまで巻き込まれる。
字の不幸はオレにだけは飛び火するし、ラッキーになったやうらからは感謝されるし。
お礼がしたいとか、名前聞かれまくるし。
この世界に戸籍がない奴の名前をきくな。こいつの存在をあまり周囲の記憶に残したくないオレとしては、どうはぐらかすかがひたすらに大変だった。

本当にもうかんべんしてほしい。

ただし字いわく、異分子である字のことは世界の修正力がどうにかするのだという。関係性が遠い人間から、徐々に字の存在も記憶も消されるから安心していいのだとか。
まぁ、極力目立たないにこしたことはないそうだが。
そりゃぁそうだろうよ。そもそも同一存在が同じ世界にいる時点で因果律が狂いかけているだろうし、いまお互いに顔を合わせている時点で奇跡と呼べるに違いないのだから。

そんなこんなでトラブル体質?な字にふりまわされ、疲労困憊で赤司プランのお泊り企画の期限が過ぎていった。
ホテルにもどれば、あちらの世界からのお迎えが来ていて、字はその日の夜にテレビからまた去って行った。

怒涛の休日だったといえよう。






* * * * *






花「・・・・・」

あれで終わると思ったオレがバカだった。
そんなこと想定の範囲内であったはずだ。
わかっていたはずだ。あの字だぞ。何をしでかすかさえわからないのがデフォのあいつだ。あれで終わるはずがなかったんだ。


――なにがあったかというと。
あの悪夢のごとき怒涛の赤司プランのお泊り企画もとい京都観光からそれほど間をおかず、また字がこちらの世界にやってきたのだ。
今度は保護者と運転手を連れて。

タイミングが悪いのか、いいのか。
字がやってきたのは、オレと字の入替事情を知っている霧崎のレギュラーメンバーと勉強会をしているときのことだった。

保護者というのは、オレが字と入れ替わった時もお世話になった「宮地清志」こと“キョー兄”である。
運転手というのは、当然たとえで、世界の移動を成し遂げている人物のことで、向こうの世界の火神大我だ。
この二人はオレの世界にもいるため、宮地さんを“キョー”、火神を“レイ”と呼ぶことになった。


花「っで。突然の襲撃につき、我が家の食料は底をついたわけだが」

レイ、おまえどんだけ食うんだよ。
交流は全くないからしらないが、もしかしてこちらの火神もまたあれだけの量を食べるのだろうか。

とにもかくにも霧崎の仲間やレイとキョー兄と字のせいで、買い出しに行くこととなった。
買い出しメンバーは、オレ。字、キョー兄だ。
オレひとりでは荷物は持ちきれん。
そのための荷物持ちとして字だ。

字を選んだのは、他に買い物に付き合うってくれるやつがいなかった・・・というか、字なら、考えてることがわかるので、一緒にいて会話が楽なのだ。
それにあちらの世界は未来だから、未来の硬貨や札をもっている。だが字なら、とっさに未来の金銭を使うことはないだろう安心感もある。
あとは俺が横にいることで、字=花宮本人だという認識がされない。せいぜい「親戚」という単語一つで済んでしまう。
現に、以前いれかわたっときに、目撃されているぶん、この言い訳は通じやすいだろう。
字は心配しすぎだというが、別世界の自分の対処法の正解なんかさすがのオレでも知らないのだから念には念を入れたい。

荷物持ちなら体格のいいレイではないのかとおもうだろうが、レイは変装しているわけでもないし、 こちらの火神や火神の知人と会うと厄介でしかないから本人が早々に辞退した。
なにより、これからおこなう料理パーティの準備のため、山崎と残らざるをえなかったともいう。

それならキョー兄だって、こっちの世界の宮地さんと会う確率が・・・と思うだろうが、どっこい。それこそ問題ない。
あのひとはとてもちゃっかりしていて、すでにこの世界に来ている段階でバッチリ変装済みである。
あまりに見事すぎて、おかげでテレビからとびでてきたとき、声を聞くまでだれかわからなかったほどだ。

そんな清志さんが、こっちにきて買い物までついてきてくれると言われた瞬間オレは思ったね「神か」って。

だって、あの字だぞ。プチ不幸体質なあいつだぞ。
清志さん以外のだれが止められるというんだ。

オレのメンツのためにも字の暴走をとめるストッパーが必要だ。超直感?なにか見てはいけないものが視える?不幸がふりかかってくる?ああ、そうだとも。それらすべてがまとまっているので、トラブルとなってオレにも襲い掛かってくるのだ。字をつれていくとは"そういう"こと。

霧崎の奴らは字になついているので、字のストッパーにはなりえない。そうして字の保護者として選ばれたのが清志さんだ。
清志さんは巻き込まれすぎているのか、なにごとも冷静な判断を行える。思考の切り替えも早い。
世界の移動も慣れたもので、はためには本当に“宮地清志”にはみえない。
変装の必須アイテムである眼鏡をかけている。 しかも彼のメイクアップスキルはそれだけではなく、眉も髪も色が違うし、あげくに“宮地清志”らしくない、どこのファッションモデルだとばかりの衣装を着ている。道端でラップバトルをしようが、ヒップホップなダンスバトルをしても違和感なそうな派手な柄のTシャツにパーカー、すこしだけダボっとしたズボン。それがまたよく似合っているからさすがである。
はちみつ色の輝くような髪も眉も字にあわせて黒色だ。鬘らしく、長めの黒髪はおしゃれに編みこまれ肩にたらされている。前髪の長さも位置も違い、長めの髪からのぞく耳には銀色のイヤーカフがいいアクセントだ。さらに服に合わせたポップな柄の入ったキャップをかぶっている。
これのどこが宮地清志と同一人物だと思うだろうか。完全に別人だ。
こじゃれすぎている。
身内びいきといわれてもいい。
はっきりいって、どこかの黄色いワンコモデルなんてめじゃないかっこよさだ。
メガネをしてキャップまでしてやぼったいのに、クイっとキャップのつばをもちあげニカっと明るく笑うものだから、ギャップにうちのメンバーから歓声があがった。イケメンすぎる。

なお字は、オレの親戚という扱いなので変装はしていない。
こちらは黒の半袖シャツに、襟部分で緑のギンガムチェックのタイがふんわりとしたリボンむすびでつけらている。
腰には深緑の長袖ジャケットがまきつけられている。
白いズボンのベルトには何本かチェーンがまきついてゆれているので、清志さんのポップ具合に少し近づけようとしているのかもしれない。
頭はあいかわらずハネ毛をおさえるべく細かく編み込みがされているので、清志さんかロジャーが頑張ったに違いない。そこまでしておさえるぐらいなら、時間の無駄だからもういっそそのアホ毛は跳ねさせておけばいいとさえ思う。
蝶のロジャーさんはやりきってつかれているのか、ブローチのかわりとばかりにリボンむすびされたタイの真ん中にくっついている。
いいコーディネートにこの衣装もまた清志さんの手が入っているのが分かる。
なにせ字に服のセンスはない。

清志さんはこのままファッション系に進むらしいので、納得の出来高である。
自分に何が似合うか。字にどんなものが似合うかもしっかり把握している。
字の世話をし続けただけあって、さすがのファッションセンスである。

清『あ、マコ。お前はこれな』
花「あ、はい」

ニッコリ笑顔で渡された黒い布。
思わず受け取ってしまったが、広げて唖然とする。
まさかオレの分まであるとは思わなかった。
横では字がうれしそうに眼を輝かせている。

え?オレもこれ着るのか?
いや、べつにださいとかじゃなくて・・・。
むしろ似合う似合わないを抜きにして、趣味じゃない。
無地とか。パーカーとかでいいのに。
つか、これ字とあわせてる?おそろいじゃね?え、なにそれはずい。

花「えっとこれ、サイズ、アザナようじゃ・・・オレはいら」
清『いいから着ろや。轢くぞ』

拒否できない素敵な笑顔でした。

そして洋服はまさかのジャストフィット!

なんだろう。
なれってこわい。


オレのは字と色違いだった。
シャツが深緑、ジャケットは無地の黒。
ジャケットは寒くはなかったが腰には巻かず、上から普通に羽織る許可をもぎとった。
タイは布ではなく紐だった。こちらは黒のループタイで、留め具にはロジャーそっくりの蝶の飾りがついている。
右腕に緑のギンガムチェックのアームバンドをさせられた。
ズボンは字と同じく白。字がつけているチェーンはないが、ベルトが細くて長いため二重巻きにするひつようがあった。
・・・二重巻きのおしゃれベルトとか始めてなんだが。
案の定、清志さんからの微調整が入った。

原「わー。似合ってるよ真!字さんと色違いかぁ、いいね!」
清『そうだろ。いいできだろ』
原「かわったデザインのシャツだよねこれ。真のは後ろがアシンメトリーになってて片方だけ長い!あ、アザナさんのは前の裾がアシンメトリーなんだね〜面白い!」
レイ「さすがキヨさん!ダブル花宮によく似合うッス」
山「お。いいんじゃねーの真。なんか大人っぽくみえるぜ」
古「グッジョブだキョーさん!花宮がふたり並んでいるだけでも最高なのに!本人たちじゃ絶対着ないような服を着せてくれるなんて!似合う!完璧だ!!!」(シャッターの連射音が響く)
瀬「ふぁ〜。ああ、うん。いいんじゃない?」
レイ「ふむふむ。全体が黒であることでひきしめて、緑でワンポイント。字先輩と真さん色合い逆っすね。ふたりともめちゃかっけーっす!」
清『よしっ!これならどこにだしてもいいな」
古「キョーさん、俺に弟さんをください!」
清『却下。まずそのビデオカメラをおけやこのやろう。埋めんぞ』

ああ、いやだ。
字とおそろいかよ。
おそろいかよ。
仲良しかよ!!
ちげーよ!

ってか、なんで字のもオレのもシャツの左右で長さが違うんだ。
え?字がアシンメトリー好きだから?あーさいですか。意外と簡単な理由だった。

その後。字とおそろいコーデとかなんかイヤで(だってあの普段の私服がダメダメなあいつとだぞ)、着替えようとしたのだが。レギュラーのやつらに脱ぎ捨ててあった服を奪われ、私服のあるタンスには近づけさせてもらえずで、抵抗むなしくしかたなくそのまま出ることとなった。

字『ふはっ。似合ってるぜマーコ』
花「似合わなくていいっての。普段私服センスゼロのやつとおそろいとか、気持ち的に死ねる。双子コーデとかもっといやだ。これ恥ずかしすぎんだが。あと男に蝶や花はよけいじゃないか?」
字『男に蝶はにあいませんか、そうですか……え、それはロジャーを手放せと?オレに死ねと!?』
花「バァーカ。ちげーよ。そっちじゃなくて、オレだ。なんでオレのループタイが蝶なんだってはなし。ループタイの飾りなんて世の中いくらでもあるだろうに。蝶。
ロジャーさんのレプリカかよ!?一瞬まじでロジャーさんが分裂したのかと思ってあせったわ」
清『はは。真咲さんの服を着るよりはいいだろ。ちなみにそのループタイはレイがロジャーさんぽいってみつけてきたやつだ。可愛い後輩のためだと思ってよろこんでつけとけ』
花「キョー兄・・・目立ちたくない」
清『おいおい、頭の良さはどこにいったんだ。同じ顔が二人いるだけで注目の的だろうが』
花「!?」
字『オレを付き添いに選んだのがマコの運の尽きだったというわけさ。まぁ、楽しんどけって』

なんかしょっぱなから疲れた。









買い物行く前から疲れていたのに――


今「よぉ花宮やん。なんやらしくなく、キラキラしてんなぁジブンら」


疲れてるところに、さらにあくどく笑う妖怪サトリと遭遇するとか。
よけい疲れるわ!
しかも清志さんがあっさり同行を認めるし、サトリはサトリを発揮してすぐに変装を見破るし。
ネチネチからんでくるし。
字と一緒にゲンナリとしたのは言うまでもない。





そして、デパートで字が迷子になった。



もう何も言うまい。








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