有得 [花悲壮]
++ 二人の花 宮とその後の後 ++
01:花と妖怪と 出逢い方
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ
今「なぁ、花 宮。今度の連休暇やろ?」
妖怪に脅され、無理やり京都に連れて行かれた。
その先に待っていたのは、無冠の五将と赤司の相手。
そもそもが今吉さんの策略ではなく、赤司が無冠を集めようなんて考えたのがきっかけらしい。
木吉鉄平も呼ぶはずだったが、彼は別の用があって辞退したのだという。
赤司相手に、辞退とか。
できるのか!?
断りたくてもオレの場合はすでに今吉さんによって手回しがすんでいたため、断りたくてもどうしようもなかったのだ。
そもそもあの妖怪は、オレに行先を告げることはなかった。
あきらかにオレからYES以外の返答が出ないようにと、外堀から埋められていた。
脅しという要素から連行されたオレには、拒否権はなかったとだけ言っておこう。
木吉、マジうらやましい。
そこかわれ。
【 side 原作よりの花 宮 】
本当に死にそう。
だめだ・・・。
疲労感がはんぱねぇ。
京都に連れてこられたかと思えば、そのまま赤司が駅で待っていた。
逃げる間もなく、その後はご想像どうり。
無冠三人と赤司にからまれ、休日までバスケ尽くし。
ありえねぇ。
やつらの体力は無限大ですかと突っ込みてぇ。
そんな重い身体を引きずって指定のホテルにいけば、さらに待っていたのは笑顔の今吉さん。
いっそのことアレな妖怪はみなかったことにして、さっさとシャワーだけあびる。
そのまま寝てしまおうと思ったのだが、風呂から出た途端、なぜか部屋のテレビの様子がおかしい。
ジジジとノイズでゆれているが、今、まさに何かを映そうとしているようにも見える。
時計を見れば、案の定、夜中の23時58分。
そしてこの時間のテレビというと、嫌な予感しか浮かばない。
たとえばリアル貞子。
なお、この貞子役を演じてくれるのは、別の世界の自分だったのだが・・・なんにせよイヤすぎる。
勘弁してくれ。
そう、思ってテレビの電源を消すべくコンセントから抜いてやろうと、足を踏み出したところで。
リンリンリンと携帯が鳴った。
今「おー花 宮。電話やで?」
花「でたくないです」
今「でるまで鳴るんちゃう?」
花「はぁー」
オレがベッドで寝れるのは、まだまだ先らしい。
いやいやながらも、その胸のもやもやを溜息をついて吐き出し、重い身体をひきずって、鞄から鳴り続ける携帯をとった。
画面に表示されていた電話番号は、霧崎のヤツラではなく、まさかの“オレ自信”のもの。
しかも宛先は『非通知』ではなく『花 宮真』と表示されている。
なんでオレの番号からオレに電話がかかってくるんだよ。
いや。わかってる。
こういうときの電話はきまって“あいつ”だ。
おかしな電話に不思議に思うこともなく、そのまま通話ボタンを押せば――
《Ciao.Sono io.(やぁ。オレだよオレ)》
第一声から聞き覚えのある声で、流暢なイタリア語があふれ出てきた。
このイタリア語のやり取りもずいぶん慣れてしまった。
ああ、もう電話の犯人は明白だ。
直に会話などしたくもなければ、なんでつながんだよと思わずにはいられないけど、これが“あいつクオリティ”だ。
なにが起きてもおかしくない。
《Pronto, Qui e` casa Azana.(もしもしアザナだけど)》
電話の向こうから聞こえたのは、まさにオレそのものの声。
彼は少し前にオレと、中身が入れ替わってしまった――平行世界のオレだ。
名前は“花 宮字”。
頭に蝶をつけた不幸体質の変人だ。
魂だけが入れ替わったあの事件の後、あっちとこちらの世界に何かしらのラインができてしまったらしく、いまだに交流は続いており、
向こうの世界の人間がこちらの世界に遊びに来たほどだ。
あちらの世界は、ぶっちゃけ本当に意味が分からない能力を持ったびっくり人間の世界である。
こちらの常識でものを考えると、きっとついていけない。
はぁ〜。
もう、やだ。
字《Con chi parlo? Makoto?(ねぇ、オレは誰と話してるのかな?マコトだよね?)》
花「おいこら。だから日本語話せよ」
字《ん?ああ、すまない。うっかりしてた。オレだけど。そっちのオレは今どうしてる?》
淡白な口調で紡がれるそれに、オレは思わず額を抑えたくなる。
声でわかるとはいえ。
名前を名乗りやがれ。
名前をさ。
花「・・・お前は詐欺師か!!だからまっとうな日本語話せと・・・」
なんで別世界から自分に電話がつながるとか、オレオレばっかいってるのはなぜかとか。向こうの時間軸はどうなってるんだ?とか。
聞きたいことは山ほどあるが、なぜにオレは自分自信につっこまねばならないんだろう。
今日は本当に厄日か。
今「おん?だれや花 宮?」
オレが字に怒鳴り散らしていれば、いままで興味なそうにしていた今吉さんが不思議そうに振り返った。
その声は電話越しの字にも聞こえたらしい。
字《あれ?そっちは誰かいるのか?》
っと、答えようとして、一瞬ノイズが走る。
それに眉をひそめれば、今度は電話の向こうの人間が変わったようで、火神の声が聞こえた。
零《あ、マコトさんすか?》
字「お前〈レイ〉だな」
零《うわ!本当につながってる!!まじでつながるとかさすがアザナ先輩。ありえねぇわ。
あ、こんにちわっですっ!!火神な〈レイ〉です!
突然ですが、そちらは外ですか?それとも屋内ですか?屋内だったら、人気のないTVの前に立ってくれませんか?いまテレビの中にいるんですが、出口になる座標がみつからなくて》
テレビ?
座標?
じゃぁ、先程からやたらとノイズが走っているのは・・・
まさか
花「・・・まて〈レイ〉!お前らくるきか!?
いや!ちょっとまて!いま、京都で。今吉さんもいて!!
え。ちょ、ちょっとまじで待って。待てって言ってんだろ!!
アザナじゃなくて、キョー兄呼べよ!!アザナをとめろよバカレイぃ!!!」
こいつらの世界を渡る移動手段は変だ。
そんでもって、そうほいほいこっちの世界に遊びに来んなよ。
むしろそうたやすく来れるものじゃないだろ普通は!
普通はさ!
いや、お前らに普通が当てはまらないのは百も承知だけどよ!!!!
空間?次元?時空?なにそれ?おいしいの?――って、お前らならきっと素で言うんだろうよ。
原子や粒子や時間やらを研究している奴らに今すぐ土下座して謝れと言いたくなる。
シュレディンガーの猫も真っ青だよ!お前らがいるとさぁ、あのネコどっちも死ななくてすみそうだよなぁ!
この、学者泣かせどもめ!!!
そんな学者泣かせのファンタジーを地でいくやつらが、こっちの世界に電話をかけたきた。
しかもその非現実的な奴らの一人が来るという。
アザナが・・・こっちの世界に来る。
ざっけんな!あんな愉快なあっちの世界の、変人な“オレ”とか。同じ顔の奴が奇行を繰り広げるさまなんて見たくない!嫌すぎる。
それはつまりこの先、オレに平穏はないということ。
だってアザナがくるってことは、アザナの不幸体質に巻き込まれるのは間違いないわけで・・・。
花「・・・・・・」
オレは疲かれてんだよ!!!!
花「なんとかしろよ〈レイ〉!!」
零《すみませんマコトさん。俺にはそんな選択肢はないんです》
字《フハっ!こいつは“強い”からなぁ。つい》
花「アザナてめぇ、そいつになにをした!?言うこと聞く後輩ができてるとかなにそれうらやましい!!こっちの火神は会うたびに憎しみこめて睨んでくるしよぉ!!」
零《なにって、あげておとしていたぶった?それでも仲良しなオレたちに拍手をくれ》
花「〈レイ〉強く生きろ」
零《生きてますよ!強くね!!っというか死んでません!まだ!!
あ、そうそう。今日は宮地さんをそっちに送れそうにないので、アザナ先輩だけ飛ばしますね〜。
がんばってくださいマコトさん!ではご武運を!》
花「ちょ!ま!」
その後の展開は――
もう。
言葉にする方が間違ってると思う。
つけていたTVがプツンという音をたててノイズが消える。かわりに突然真っ黒に染まったかと思うと、ぐにゃりと画面が歪み、不思議な映像が映し出される。
前回は貞子の様に頭と手が出てきてビビったなぁ。
今回はまだ何も出てくる気配はない。かわりに映像が流れているかんじだ。
テレビは不思議な光景を映している。
画面の中では、どこともわからない大量のテレビがあるおかしな空間で、
クマ(?)のキグルミを着た人物と灰色の髪の青年(?)が嫌がる小さな黒い影をひきずっている。
【クマ!やるぞ!】
【おー!】
【やめろって!離せ!!こないだみたいにそのままテレビにつっこめばいいだろ!!
なんでわざわざ中に入ってんだよ!ってかその姿はなんだ〈レイ〉!?】
【なにってP4での俺の姿ですが?】
【クマは先生が帰ってきてくれてうれしクマ!だから知らない子を別の世界に送るのも手伝っちゃうくまよ!】
【ありがとうなクマ】
【先生!じゃぁ、いくくまよ!】
【いやー。テレビの中がP4につながってるなら、前回キヨ先輩とアザナ先輩を戻す時みたいに苦労しなくて済むからいいわ〜】
【ちょ!?やめろって!!あのテレビどうみても昭和っぽいわ!!今時ダイヤル式だぞ!あれ、絶対昭和の世界につながってそうだし!!!だれか地デジ対応のテレビ用意して!
ってか!オレが入れるでかさじゃないだろうが!!お前らの目は節穴か!!せいぜい頭しかつっこめねぇよ!小せぇよ!!】
【大丈夫クマよ。クマもいつももっと狭いテレビを行き来してるくま!それに花 宮字はくまより細くて小さいから絶対大丈夫くま!】
【小さくねぇよ!!】
そこにはふたり(?)に両腕を抑えられた“花 宮字”が、なんとかのがれようと暴れている。
しかしうまくいかないようで、とんでもなくアナログな小さなテレビに向かって勢いよく放り投げられていた。
【じゃぁ】
【せー!のー!】
画面の向こうのオレに瓜二つの字が画面に向かって吹っ飛んでくる。
悲鳴と共に画面にぶつかる!?そう思ったが
【ぎゃぁぁぁぁ】
―――ぁぁぁああああああ!!!!!!』
今「は?」
花「今吉さん!よけて!!」
信じられないだろうが、テレビの向こう側にいたはずの人間が、するっとでてきたのだ。
さすがは現役スポーツマン。今吉さんは反射神経をくししてギリギリ頭を伏せた。
それと同時に、画面から黒い何かが飛び出してくる。
そしてそれは弾丸のようにふっとび、ボフ!と音を立て、勢いよく開いた方のベッドにふっとんだ。
オレが使うはずだったベッドの上には、黒いコートに黒い髪、黒い靴と全身真っ黒な恰好をした字が横たわっている。
なんか瀕死の魚みたいだ。
ちらりと元凶であるテレビを見やれば、テレビの画面の中で灰色の髪の青年とクマ(?)がニコニコと手を振っていた。
それはみているうちにまた画面はゆがみ、元のニュースが気づいたら流れていた。
おそるおそる顔を上げた今吉さんが、ベッドでまぐろとかしている黒い物体を見て目を見開いて固まった。
オレは二人交互に眺めて・・・・。
いらいらがつのりはじめた。
そのせいで頭痛をおぼえて、今後のことをどうしようかと頭をめぐらしたが、疲労と困惑によりもううまく働かなかった。
今「ちょぉ花 宮どういうことや!?花 宮が二人!?さっきテレビから!って、花 宮ぁ!!!」
花「しるか!」
なんだか面倒になって、ベッドまでいくと字から靴をうばいとってそこらに放り投げ、
目を回しているあいつをベッドの隅へと押しやり(その際に字は顔面を壁にぶつけていたが興味ない)、その横にもぐりこむとふとんをかぶって寝た。
すぐ側で一瞬「うー」というぐずったような声が聞こえたが、それは側の温もりめがけて肘をいれて黙らせた。
今「ああ、なんてことを。顔面に花 宮のエルボーとかないわ!!みてるこっちがいたいわ!」
背後で今吉さんのなにか言う声が聞こえたが、もう限界である。
オレは考えることを放棄して、寝た。
ベッドに入って数秒で意識は落ちていた。