花 宮≠花字D |
:《花悲壮》 世 界 【 side 原作よりの花 宮 】 “花 宮字”の部屋は一種の魔境だった。 部屋の家具自体は自分が使っているようなのとまったくそ遜色はない。木の質感が出ているものや、黒や白とシックな色合いで統一されている。 部屋には他に小さな丸テーブルや、本棚はオレ以上の雑食具合がよくわかる。ミステリーからファンタジーといろいろあるが、どれも言語から分野もばらばらな本がぎっしりはいっている。 そこまではいい。 問題はそこじゃない。 しっくな部屋の中心に、ふわふわの、しかも巨大なぬいぐるみがドンと陣取っていて、扉を開けた途端それがオレを迎え入れた。 ベッドの上にもなんか小さいけどモフモフしたものが視界をよぎったため、思わず視線をそらした。 心の安定を求めて視線を窓の外へと向ければ、窓際にあった机が目に留まる。 机の上になぜかみゆみゆのミニフィギアがのっていた。 この世界の“花 宮字”は、“花 宮真”であるオレと同じ存在らしい。 だが、オレはけっして、こんなモフモフやみゆみゆな趣味はない!! 部屋の無残さに、しばらく立ち直れなかったものだ。 疲労だけがつのった学校からぐったりして帰ってこれば、疲れがピークにたっし、そのまま部屋に引きこもった。 この世界、オレが知ってる世界と違いすぎて・・・つかれる。 なんともいいがたいはずなのに、なぜか居心地がいいモフっとした部屋で、ぬいぐるみにうもれて休息を取っていた。 居心地がいいと思うのは、世界は違えどここがオレの部屋だからだろうか。 それともオレもそろそろモフモフに洗脳されかけているのだろうか。 うまく頭が働かず、ぼぉ〜っと呆然と目の前のオタマロのぬいぐるみをじーっとみつめていたら、インターホンがなった。 こちらの世界では陽気でゲスな母さん。彼女が対応したようだが、そのまま足音はなぜかオレの部屋へと一直線にやってくる。 今度はなにがくるんだ。 若干おびえながら、ぬいぐるみをだきしめてかまえていれば、コンコンとノックがなる。 居留守だ!この変な世界長くいたら頭がおかしくなる!!これ以上変な知人をふやしてたまるか!!そう思って返事をしないでいたが、「はいるぞー」という軽い声と共に扉はあっけなくひらかれた。 そりゃぁ、まぁ。鍵がないのだから当然だ。 元の世界に帰ったら真っ先に部屋にも鍵をつけようと心に決めた。 入ってきたのは、この世界をみてきたなかで一番まっとうだった男、宮地清志だった。 っが、しかし。 たしか宮地さんは、この世界のオレの幼馴染みだったはず。 「・・・・」 彼はこの世界のオレの幼馴染みだという。それはもう兄弟のような間柄で、家の出入りなど気にもしないのは先の行動から分かりきっている。 それほどまでに“花 宮字”にとって親しい関係。 そして周囲の影響か、半端ないスルースキルをもつ常識人。 現在“花 宮字”は記憶喪失ということになっているが、成り代わってしまったらしいオレはどう対応すべきかわからない。 宮地さんとの距離をつかみかねて、オレは睨むように彼を威圧するしかできなかった。 そんな風にベットの上でぬいぐるみを抱いたまま無言のオレに、宮地さんは苦笑すると、かってしったるなんとやらとばかりに、ベットに腰掛けオレの頭をわしゃわしゃと撫でてきた。 「そう警戒するなって。大丈夫。とってくいやしねぇよ」 こうして誰かに頭を撫でられるなんて、どれくらいぶりだろう。 あったかい 普段なら子ども扱いするならと払い落としてもおかしくない人の手。 けれどこのひとの手だけはほっとした。 このままもっとなでていてほしいと思ってしまって、拒否をせず撫でられるがままに受け入れる。 そうして宮地さんは、オレの想像の斜め上のことをつげてきた。 「お前さ、アザナじゃないんだろ?」 「え」 てっきり記憶喪失に関して聞かれると思っていたのに、これは予想外だ。 「あの、どうしてそう思ったんですか。オレ、記憶喪失だって」 「あいつじゃないけど、なんというか、勘? いや、だってさ。あのふてぶてしいが代名詞のようなあいつが、記憶を失ったぐらいでこんなイイコになるわけないからなぁ。 ああ、ネコかぶってるならぬいでいいぞ。どんなのが素でも気にならないからなぁ。 それに、お前、アザナじゃないけどアザナだろ?仕草とか癖とか同じだし」 強くなでられていた頭がふわりと優しいものに変わる。 それに思わずうつむいてしまう。 やはり幼馴染みという存在は、側にいる時間が長い分よく見ている。 なによりこの世界の宮地さんの洞察眼と、その思考の回転がはやい。 彼を仲間にひきこんだ方が少しは楽になるだろうと、オレの脳も答えを出す。 肉体は字のものだから、オレの脳という表現はおかしいかもしれないけど、それは気にしない。 「おーいどうした?」 「フハッ。さすがですね宮地さん」 「うぉ。突然顔上げんなよ」 「あ、えっとすみません」 「いいっていいって。 その笑い方、うちのアザナもよくやる。そっちが“お前”の素顔ってことだろ。っで?おれはお前をなんと呼べばいい?アザナだとややこしいからな」 このひとは本当に頼りがいのある理解ある先輩だ。 先輩といえど――オレの世界にいる妖怪サトリは違いすぎる。 オレもこんな先輩、ほしかった。 「オレは花 宮真です。真って呼んでください宮地さん」 「マコトか。おばさんが最初に着けようとしていた名前だな。あー、なら無難にマコって呼ぶわ。そっちのほうが親しみがあるしな」 「マコ・・・あ、はい!」 マコトやマコやらオレの名前を口の上でいくつか転がしていたが、宮地さんは少し考えた後に、オレの・・・名前を呼んでくれた。 それだけでほっとする。 なぜだろう。 この世界に来て目が覚めてからまだ二日目だ。 それでもこの世界の人々は花 宮字しかしらないから・・・。 名前を呼ばれて、ほっとする。 目の前のこの人の前でなら、気を抜いてもいいのだと思えたら、撫でられている頭がくすぐったくて、思わず笑みがこぼれた。 ああ、息がしやすい。 「あと約束!おれのことは“宮地さん”なんて他人行儀な呼び方すんなよ」 「えっと、あの、こっちの世界のオレはあなたのことをなんと?」 「あー・・・“きょー兄”か“きよし”だな」 言われた瞬間思わず顔がゆがむ。 それに宮地さんは笑って 「やっぱお前も誠凛の木吉が嫌いか」 「ええ。“キョー兄”と呼ばせてもらいます」 オレのバスケをみたことのあるやつは、普段の言葉遣いや態度は猫をかぶっているというけど、こんなものただの習慣だ。 自分の素はたしかに性格歪んでいるだろうし、言葉遣いも悪いだろう。 だけどそれは本当に心を許した相手だけへの対応で、それ以外には一線ひいて応対するなんてのは誰だってあることだろう。 初対面のやつらが突然ため口なんかを聞くわけないだろ。 それが同年代でなく、年上であればよけいに。 だから今の言葉遣いも態度も意図したものではなくて・・・ 「大丈夫。アザナのやつはもっとネコみたいにゴロゴロしてたぜ。そんでもってお前みたいに素直じゃないし、メチャクチャ性格悪い」 「・・・・・・」 いや、それもどうかと。 思うにこっちの世界のオレって本当になんなんだよ。 「もっとおれを頼っていいぜ?」 オレがみや、キョー兄に対して、順々なわけじゃなくて。 それに対する言い訳けを心の中で並べたてていたら、こっちの心を読んだように、ニッカと笑顔で笑って、鬱々とした気持ちを吹き飛ばすようにさっきより強くなでられる。 「安心しろマコ。お前がだれであっても。どんな性格であれ。おれはお前ら二人の味方だ。今日の様子からして、この世界はお前にとって違うことが多いんだろう? まぁ、そのときは頼れ。いつでも話ぐらい聞いてやるから」 オレ、このひとの側なら、もう少し頑張れそう。 「そうそうマコ」 「はい?なんですか?」 「敬語も禁止なー」 「・・・わかった」 + + + + + 協力者ができた。 これはこの世界を生きていくためには必要なものだ。 なにより相手はオレが“花 宮字”でないと理解してくれている。 それだけで少しだけ楽になった。 っが、しかし こいつもやっぱりただものじゃなかった。 あの今吉先輩とためをはれるとか。 お前のスルースキルはどんだけや!! 今「花 宮―!!記憶喪失やって!?わし今吉いうねん。お前の一戸上の先輩でな。いっつもヒヨコのようにわしのあとついてきたんも覚えてないん?尊敬してましたってワシを追いかけてバスケはじめたんよ。バスケやったらおもいださんか?ほ〜らバスケボールやで。これなぁ、花 宮の誕生日にわしがあげたもんで」 花「!?」 宮「おちつけマコ。全部今吉のホラだ。どうせ思い出させようとしてバスケさせようってんじゃないからこいつ。そうやって嘘を刷り込もうとしてるだけだからな」 今「なんやねんジブン、じゃませんといて。いっつもいっつもいいところで邪魔してくれて。せっかくこない可愛い性格になったんからには、ぜひわしのこと好きになってもらわんと。そんでなぁ、先輩を敬ういいこになるように」 宮「自爆したな」 花「キョー兄・・・あの、だれ、ですか?」 宮「ああ、知ってるかもしれないがこいつは今吉。俺と字と同中だ。 そんでもって字にいたぶられまくってたバカだ。こいつならかまわないから存分にいたぶっていいぜ。なんなら俺が軽トラで轢いてやろうか?」 花「どっちも遠慮します」 今「そういえば宮地君や。記憶喪失になったちゅーことは、花 宮の不幸体質ってどうなってん?記憶なくしてもかわらんの?」 宮「本人が気づいてないだけで何も変わってネェな」 花「は?」 なに、今の不穏な言葉。 U←BackUTOPUNext→U |