[有り得ない偶然] 復活 → TOA



19. 門番と機械技師の少女





 side 新米騎士は不運な門番





『ねぇ』

 その声が―― 

『ど・い・て☆』
「そ、それはできない!」

外形に合わないほどに低く思えたのはきっと間違いではない。
ニコニコとした笑顔なのに、目は全く笑っていない。
そのあまりの冷たさに、背筋にゾワリと悪寒が走り、言葉がどもってしまったが、それでも即答できた自分はきっと頑張った方だろう。

っが、しかし。

『…そうか。ならば、可哀そうだがお前ごとその門を解体するが』

 目の前の金髪の少女の声が一気に低くなる。そしてその顔から表情が消える。
彼女が手にしていた巨大なスパナを握りなおせば、それはギラリと怪しく輝く。

「ひ、ひぃっ!」

刃物でも目の前にして脅されている気分だ。
そのどうしようもない恐怖をあたえてくる彼女に、思わず泣きそうになる。
それでも自分は名誉あるファブレを守る門番として、頷くわけにはいかなかった。
そうだ。私は誉れ高き白光騎士団にようやく入ることを許された。
たただの一平卒の自分を認めてくれた上司やファブレの方々に、このままでは面目が立たない。
ましてや、まだまだ自分は、未熟で、ようやく兵から騎士になったばかりの新米。
ここでミスをするわけにはいかなかった。

「だ、だが、ここを通すわけには」
『……』

 ひぃー!本当にこの子、笑ってるのに怖い!!
綺麗な顔をしてるからよけいにそう思えるんだ。
私が言葉を告げればそのたびに、彼女の機嫌が硬化していくのがわかる。
そのせいではじめのときの気さくそうな雰囲気も無邪気そうな微笑みも、あの冷たい微笑みさえ完全に消え失せ、いまでは無表情だ。
しかもその鮮やかな空色の瞳はスッと細められていて――

『ひとつ聞く。それはだれの指示だ?』

 キラキラしていた空は今は深い海の底を思わせる。
言葉づかいも態度も何もかもが一瞬で反転した。
あびせられた殺気に、身体はすくみ上る。
一瞬ひるんだこの身は、そのときうえつけられた恐怖を忘れられず、己の足で立っていることさえ不思議なほどに震えが走る。
 それでも。
ここを通すわけにはいかなかった。
 私は誉れ高きこのファブレ邸の門番なのだから、美人な少女とはいえ、これほどの殺気を持つ人間。しかも身元もわからない、こんな不審者を通すわけにはいかない。
約三ヵ月ほど前に、この門を無理やり入り込んだ女がいたという。その女は館に危害をくわえたあげく、ルーク様を誘拐した。
あのような悲劇、何度も起こすわけにはいかない。
それにここでこの少女を見逃せば、私の首が飛ぶだけではすまない。家族にも被害は及ぶだろう。
信用も失ってしまう。
 やっと騎士として認められた。やっとここまで来たのだ。
精鋭ぞろいの白光騎士の一員を目指してきたのだから、こんな場所でこんな子供に後れを取るわけにはいかなかった。

「誰の命令もなにも。私はこの門番!門番としての仕事をこなしているに過ぎない」

 目の前にはキラキラとした長い髪を頭部で編みこみ、余った部分をおポニーテールのように流している見目の良い少女がいる。
しかしその恰好は下町で溝攫いでもしてきたかのように薄汚れたツナギで、肩には巨大なスパナを担いでた。
油のにおいがたまに鼻につくことから、技師といえばそうかもしれない。だが、いまどき分、公爵家で事故があったとか、業者を呼んだなんて話は聞いていない。

「今すぐたちされ」
『ふむ。それは門番として確かに正しい態度だな』
「帰れ!ここは貴様がいていい場所ではない」

 なんとか気持ちなおし、足の震えを無理やり抑え込み、気を取り直して剣を構えなおす。
少女はそんな私に一瞬驚いたような表情を見せた後、嬉しそうに微笑んだ。だがその少しあと、何かを考えるように腕を組み、困ったように空を見上げて大きなため息をついた。
いったいなんだといのか。

『…いい子なんだがなぁ。いや、うん。とってもいい志を持ってるし、まじめだし、石も強い。オレの殺気を浴びても持ち直すところとか最高なんだけど。こういうイイ子は、お持ち帰りして、そのまま部下にほしいぐらいなんだけど。
いかんせん。まじめすぎなんだよなぁ。
恰好か?オレが泥まみれなんていつものことなのに、オレに帰れとか言うなんて。
そもそも実家がここなのにどうやって帰れと。むしろ帰ってきたところだってのに……ききゃぁしないし。
そういうところ融通が利かないんだよ。
そもそも上が悪いんだなこれは。外回り担当のオレのことをしらない白光騎士団ってだめだろ。
オレ、二度とかえってこれねェじゃん』

少女のそれは独り言なのだろうが、なんだかずいぶん不穏な言葉が山のように聞こえた気がする。
部下?泥まみれ?実家?帰ってきた?外回り?かえ、る?

まわる疑問に末恐ろしいものを覚えて、まさか公爵家の関係者かと思ったが、それを証明するものが少女にはない。

っと、そこで

『やれやれトップが頭が固いと、下っ端まで硬いのか』
「なっ!?」

――公爵様まで見下したような言葉が聞こえ、一瞬で頭にカッと血が上り、思わず怒鳴り声をあげていた。

「貴様公爵様方を愚弄するか!!」

 尊敬する白光騎士団。
そしてかのすばらしき手腕によって治政をひく有名なルーク様。
そして武人として名の知れた公爵様。
このファブレの方々は、実力主義。
それは平民であろうとかまわずその才覚が認められれば門戸が開かれる。
貴族でありながら、その品格を失わず、けれど下々にも目を行き届かせる――この二年で様変わりしたキムラスカの根源たる方。

自分のようなものが尊敬することもめにすることもおこがましいであろう存在。

その彼らをけなす言葉に血が沸騰するようだった。
 しかし少女はそんなオレをみてキョトンとふしぎそうに目を見開いてこちらを見たあと、なにかに思いあったようにひとり納得した表情を浮かべ、おおげさなジェスチャーで首を横に振った。

『ちがうちがう!勘違い!』
「なにを!?」
『あー、気分を害してしまったのなら、すまない。
いやいや。本当にお前の尊敬を踏みにじるとか同のではなくて、ただ自分のしつけ方が甘かったと、今、自分自身のことで後悔しているところだ。気にするな』
「はぁ?」
『どうも、オレの子育てがうまくいったためしはないんだ。それで今回も失敗したんだと身に染みていたところだ(ひとりは世界屈指のキチガイ殺人鬼。年が離れて生まれたから可愛がった妹とその子どもなんか…珍しいポケモンになつかれて世界規模の事件に巻き込まれまくってたし。新一なんか家事能力ゼロのただのサッカーと推理バカになったし。兄と慕った焔の錬金術師、あれはオレがいないと部屋をすぐに腐海にさせていたし。リクオなんかついには妖怪ヤクザの三代目ついじゃうし。そういえばオレがザンザスだったときの沢田のこどもたちもいつのまにか腹黒いボスになってしまって…)はぁ〜。子供を育てるのって大変だな』
「は、はぁ?私はまだ子をそだてたことがないのでなんとも…」
『子供は可愛いぞ。まぁ、こんな仕事についてしまったからには縁は遠そうだがな』
「はぁ…」

 わけがわからない。
なぜか溜息まで行くのに、かなり含みがあったように思うけど…。
少女は私よりも随分と若く見える。
だが実はもっと年上なのかもしれない。
わからないことばかりが増えていく。

『まぁ、この際、オレの教育云々はどうでもいいだろう。
―――それで。
職務に忠実な新米兵士さん。

貴様にもう一度問おう。何をもって先刻渡した書類を偽物と判断する?』

 先程感じたような殺気も、鋭く細められることもなかったせいでどこか柔らかい表情ではあるが、その様は彼女の外見には不釣り合いなほどの威圧感と、老いを感じた。
真偽を追問われている。
そしてそのまっすぐな目が見定めた結果が、このファブレそのものに響くのだと一瞬で理解する。
せざるをえないほどのまっすぐな瞳だった。
 しかしだからといえ、私が頷くことはできないのだ。
なぜならば、彼女が訪れた時に渡された書類は、油にまみれ、ほとんど読めないほどに黒ずんでいたのだ。
それを渡されて、はいどうぞと言えるわけがない。
黙ったままの私に、少女はあの目のまままっすぐにこちらを見て、淡々と言葉を告げる。

『貴様の所属隊と名を名乗れ』

それは絶対的な命令のようで、逆らえないなにかがあった。

「え、えらそうに。自分から名乗ったらどうなのだ!」
『…そうか。
あ、オレはガイだ。いまはシェリダンにいる。
名字も国籍も出身地もない。
発生地はキムラスカのファブレ邸だ』

「ふざけているのか?」

『ふざけてはいない。
だから“里帰り”だと何度も言っているだろう。
というか、こちらも名を名乗ったんだから貴様も所属ぐら言ったらどうだ?ファブレの新米門番は騎士として礼儀も知らない――と、言いふらしてやろうか?』
「………第二小隊ツバキ隊、ヒサカキ」
『ツバキ隊?なるほどあいつね・・・やはり徹底的に、騎士団の下まで仕込んでおくべきだったか』

 どういうことだろうかと聞こうとしたとき、救いの手が差し伸べられた。

「そこの門番。先ほどから何をしているのです?」
「おいおい、騒がしいなぁ」

そこにいたのは、銀髪に眼鏡、白衣というスタイルのリンヒットカーン・イキシテ・ヨウマン博士と、あこがれたる白光騎士団団長アベリア隊長だった。

「ヨウマン殿。騎士団長!?
も、申し訳ありません!この者が通せと言ってきかないのです!いますぐ追い出しますので!」

「この者?」「誰かいるのですか?」

 言葉を交わせば躱すほど目の前の相手がなんなのかわからなくなり困っていたし、彼女に問われたことは答えざるを得ない方向にもってかれてしまう。
それにあの目だ。あれを見てしまうと、すべてを見透かされているようで動けなくなる。
それを遮ってくれたのは感謝しているが、こんな怠慢を見られてしまったことに焦りを覚えた。
しかし少女は私の影に隠れてしまっていたようで、私の言葉を聞いて、首をかしげるお二方。
そこへ私の背後からヒョッコリと顔を出した少女が、不快そうに顔をしかめて、それはそれは低い声でお二方を“愛称”で呼んだ。

『おいこらリン、アベリア。うちの坊ちゃんはどこだ?』

「ガイ様!?」「ガイじゃないですか…何してるんですか貴方」


え?
あの部下にはきさく、もとい口の悪いアベリア隊長が様付けをし、かしこまって敬礼をした。
ヨウマン殿は眼鏡の位置を治しつつあきれたように溜息をついて、少女の名を呼んでいる。
 もしかして本当に少女が言っていたのは、すべて事実だったのだろうか。
 呆然とする私は彼らの会話には加わることはできず、そうしてみているうちに既知の中とうかがえる三人の様子に血の気が引く思いだった。
しかしあの召喚状だけでは絶対に門はあけられるような状態ではなく―――

 私が内心言い訳でグルグルしていると、追い打ちをかけるように、隊長格の人間が二人屋敷の方からかけてきたのだった。

「アザリア団長!大変です!!先程キムラスカ未確認の飛行譜業が着陸したと報告が!」
「敵の襲撃の可能性ありと、これより我々はそちらに向かいます」

「も、モミジ隊長、カエデ隊長・・・」
もし彼等も目の前のガイという少女のことを知っていたらどうしよう。
私の首はもう皮一枚で繋がっている状態だろう。
こういってはなんだが、どうみてもガイという少女は、ファブレ邸とは縁もなさそうなただの機械技師に見えるのだ。

しかし私の願いを裏切るように、金髪の少女を見て、モミジ隊長もカエデ隊長も動きを止めて驚きに顔色を変えている。
ああ、死んだなおれと、思わず自分の一人称が騎士になる前のそれに戻ってしまったほど。


 やってきたのは白光騎士団においてさらにひともくおかれている三人の隊長のうち二人、モミジ隊長とカエデ隊長だった。
ヒイラギ隊長は居残りのようで、二人の隊長をみた少女もまた――

『なんだメイプルコンビじゃないか。隊長まで上り詰めたのか』
「「・・・って。え。うそ!?ガイ様!?」」
『やれやれ。まったく騒がしいのが次から次へと』
「それはこちらのセリフですガイ。そもそもあなた、なんで門番なんかにつかまってるんですか」

これは終わったなとおれの脳内は、彼女のことを“しらなかった”ことにうちひしがれた。
ツバキ隊長、こんな凄い人のこと、どうしておしえてくれなかったんですか。

――うらみます。










門番「隊長だけでなく団長や博士まで様づけ…いったいこの方は何者なんですか?」
夢主『もしかしなくてもしてもガイ。オレはただのガイだ』
団長「ただの…とはいうが、実際は、ヨウマン殿が助手をしていたほどの名医にして、そこのカエデ・モミジ・ヒイラギの剣の師だ。かくいうこの俺もなぁ、いまだ戦闘において勝ったことはない」
門番「そ、そんなかたがこんな小娘」
団長「娘じゃなくて男だ馬鹿者」
門番「え?」
夢主『オレ、クリムゾンより年上なんだ。まぁ、なれてるから気にしてないけど』
リン「あまい、あまいですよ!もっとこまかくというのでしたら、そこの童顔男、まだまだ称号は出てきます!
童顔年齢詐欺。
永遠の19才。
ファブレ公爵家の二人目のガイ。
二面性のある使用人。
型にはまらない最強の傭兵。
発生地ファブレ邸。
白光騎士団の団長を打ち負かした男。
機械大好きの譜業オタク。
女装の似合う麗人第2位。
気迫で人を殺せそうな男。
革新的。
見た目は子供中身は大人。
公爵の専属使用人にして、公爵と陛下に騙されて政の案件をいつの間にか処理させられていたワーカーホリック。
公爵子息の料理の師。
公爵子息の勉強友達。
奇抜的にして革新的な名医。
知識の発生源。
ダアトいじめの主犯。
秘予言を知る男。
豚と椅子に啖呵を切って逃亡した出家人。
ファブレ邸の真の支配者。
噂では予言を壊した男………とも言われているようですしね。きっと探せばまだまだでてきますよ」
夢主『…なにそれ。なんなんだその肩書きの山は?』
リン「言いえて妙ですが、すべてあなたが今までしでかしたことに対する賞賛と恐怖から流れた噂です。火のないところに煙は立たないとはよく言ったものですよほんとうに」

門番「・・・・・・(なんて人におれは…ああ、もう私の首は明日のはここにないのでしょうね)」





――そうして不憫な門番の一日は始まった。





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