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プロローグ 壊れかけたままでよければ |
side [有得] 前世鹿な 夢主1 魔女に言われたよ。 ――もう大丈夫だって。だからもういきなさいといわれた。 ちょっとね、「行きなさい」なのか「生きなさい」なのかわからず、どうも「逝きなさい」って聞こえたけど…。 そこは気付かなかったことにしておく。 オレはそのときまで鹿だった。 そのまえも動物だったかもしれない。 その前は人間だったかもしれない。 オレという存在が何だったかわからないのは、魂が壊れてしまったから。 魂がバラバラになったから、記憶もどこかへいってしまい、転生を繰り返していた時の記憶もあいまいになってしまった。 魂が砕けかけていたのをかき集めてつなぎ合わせてくれたのは魔女。 そうしてようやく意識がはっきりしてきたものの、なにも覚えてない感じ。 大丈夫っていわれても記憶は曖昧で、なにが大丈夫なのかも今まで何があったのかもわからなかった。 オレがどうして魔女の元にいるのかも。 オレ、いままでなにしてたかな?どんな人生だったんだろう? 何度か生まれ変わった記憶はあるんだけど。 それもすべてあいまい。 覚えているのは、ひとつ前の前世ぐらい。 そのときのオレは、神様のいる森で暮らしていた鹿科の動物だった。 あとわかることは――。 魔女にもらった青い指輪のこと。 左手の薬指にはまる青い硝子でできたような指輪。アレがオレの魂を形度っているということだけは覚えている。 「それが壊れたらお前はまた死ぬの」と魔女に言われた。でも言われるまでもなく、それだけは本能のように理解していた。 オレ自身が壊れる以前の記憶は、酷く曖昧だ。何年も何十年、何回も生きた気がする。 けれどオレはこの指輪のことだけはしっかりと覚えていた。 覚えている。 この指輪がどうやってできたかを。 何回目の世界でか、オレは一番大切な人が死んだとき、その魂を捕まえて自分の中に封じた。その魂が今は指輪の中にある。 前世の記憶はひとつ前以外ほとんどないんだ。 でもね。この指輪に宿る魂が、海のような人だったのもなんとなく覚えてる。 その魂を逃さないために、当時は持てる能力すべて使って、自分の中にあのひとの魂をしまいこんだ。それがはじまりなのも覚えてる。 それはオレの勝手なえごだったんだ。 死者を見送ることもせず逆にとらえるなんて…。 なのにあのひとは今もこうして側にいてくれる。 だって転生の繰り返しで磨耗し壊れかけたオレをたすけてくれたのは、オレの中にあったあの人の魂。 砕けたオレの破片を抱きかかえて、直るまで包んで守ってくれていた。 もうあの人の魂を縛っていたという当時の能力がなにかとか覚えてないし、ただの鹿でしかなかったオレにはそんな特殊な力はない。 前世でオレにあったのは、立派な角とがけさえもとびはねれる見事な足ぐらい。 そう、オレは本当にただの鹿だった。 それに魂は壊れかけていた。 だから、あのひとはいつでもオレから逃げてよかったんだ。開放されていいはずだった。 なのに… おせっかいで優しいあのひとは、自らを鎖となし、オレの壊れた魂をひとつにつなぎとめてくれた。 それがこの青い指輪。 あのひとの魂そのもの。そしてオレがオレとして生きるのに必要な鎖。 もらった指輪を手にしたとたんすべてを理解した。 忘れていた記憶も少しだけ思い出したんだ。 だからあの人を縛りつけたことに苦しくなってごめんなさいと言ったら、同時に涙も出た。 握った指輪をとおして、見えない何か大きなものに抱きしめられたような気がした。 それはあたたかくて、あげく大笑いしていた気もする。 《てめぇがあやまることはなにひとつないだろうが。オレはとっくに死んでんだ。死後の世界を自由に生きてるだけさ》そう叱咤激励をもらってしまった。 ああ、あのひとはそういうひとだったのか。 それさえも忘れていたようだ。 とりあえず一蓮托生らしいからもっと生きろと言われた。 そのとおりだと、生きる覚悟を決めた。 魔女はオレと指輪のひととの対話が終わるのを待っていてくれていたようで、彼女の方を見れば、「挨拶はすんだ?いくのね」ときかれたので頷いた。 ――代価はいずれ。 「とにかく。あなたの“セカイ”の言うように、どこかに生まれてきなさいな」 ――と言われた。 『とにかく』とか『どこか』とかてきとうだな。 そう思っていたらもっと適当な感じで、いつのまにか野球の衣装に身を包んだ魔女がいて―― 「はい、いってこい!!」 っと、そのバットでふっとばされた。 そのまま空の星になる前にオレは意識を失った。 ここでただの鹿だったオレの人生(鹿生?)は終わった。 もう一度いう。 オレは鹿だった。 そして目を覚ましたオレは――人間の赤ん坊だった。 はっきり言って困った。 ・・・・・・人間って、どうやって生きるんだっけ? 長く獣でいたせいで、“人間らしさ”というものがさっぱりわからなかった。 救いだったのは、オレには同じ日に生まれた兄弟がいること。 彼女を見本に人間を模倣することにした。 でも実際は思っていたのと肉体の構造が違いすぎて、みているだけじゃうまくいかないのが事実だった。 そんなわけで。 “とりあえず”と“どこか”と、そんな適当な言葉のとおり、どこかに生れ落ちました。 |