片翼の獅子
++ 第一部Tales of Vesperi a ++



映画軸01.シゾンタニアの再会
※歴史や詳細設定は物語に合わせ一部捏造があります!正史ではありません!ナイレンがキャナリ小隊にいた。キャナリ小隊で昔軍用犬を育てていたなどは捏造です。ご注意を!





かつて自由なる空を羽ばたく白い翼ーーそんな白き翼の紋をかかげる青い騎士たちがいた。

彼らは国をよりよくしようとしていた者により、貴族平民問わず集められた精鋭たちだった。
そこには本来ある身分の垣根はなく、その隊服にかけられた願いを叶えようと、騎士たらんと彼らは人々に貢献していた。
その背に自由の翼を抱いた彼らはまさに、おとぎ話にでてくる理想の騎士そのものでありあり平和の象徴だった。

そんな騎士たちがいたことを覚えている者は少ない。
彼らが部隊をひきいていたのは戦争が起こる前のことなのだから。

いまとなっては、その白翼の紋をもつ部隊は帝都から見ることがなくなった。






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NOT side
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帝都から幾分か離れた辺境の地シゾンタニア。
その町に長くいる騎士団隊長ナイレンは、相棒の軍用犬ランバードとともに街の周辺を見回っていた。

現在シゾンタニアでは、エアルの異常によるおかしな現象が起きていた。

一番顕著なのは、魔物と自然だ。
川の上流から季節外れの紅葉がはじまっているのが、目に見えてわかりやすいだろう。
しかも原因不明の紅葉は、いまもなお徐々に広がっている。
魔物は数が増え、その強さも普段よりは上だという。



そんなシゾンタニアに新しく騎士見習いとして二人の若者が帝都より送られてきた。

喧嘩っ早いが仁義にあつい青年ユーリ・ローウェル。
規律と正義を重んじるフレン・シーフォ。

一見真逆の二人だが、帝都ザーフィアスの下町で育った幼馴染みのふたりだ。
偶然騎士の入団式で数年ぶりの再会を果たしたのち、二人はシゾンタニアへ着任することとなり、帝都を旅立ちいまにいたる。

「騎士団に新しい新人の子が二人。派遣されてきたって」
「昨日空に広範囲魔法陣が浮かんでたろ。あの大きな討伐にそいつらも初陣として参加してるんだとさ」
「へー。その子らも入った早々大変だな」
「あー、魔物の数が今とんでもないことになってからなぁ。あの攻撃魔法であらかたやっつけてくれればいいんだけど」
「いま、この町はなんだかおかしいからなぁ」

シゾンタニアの人々が不思議そうに首をかしげながら噂話をする。
彼らの視線が結界の外に一瞬向けられる。
その先の森は異様な赤色に覆われ、エアルの異常ではないかといううわさが飛び交っている。

「森のなかの、季節外れの紅葉があるだろ。そこら辺にいくとキラキラした黄緑の光が見えるらしい」
「エアルだなそりゃぁ」
「エアルなぁ〜」
「じゃぁ、エアルが異常発生でもしててそれが魔物が増えた原因?」
「いや、それがイコールとか関係性なんてわかんねぇーよ」
「っで、なんでエアルが異常発生するんだ?」
「さぁ?」

エアルとは常にそこにあるものだという認識である一般人の彼らからすると、専門家でもないのにエアルの異常といわれてもピンとはこない。
疑問への決着がつかぬままに、結局は騎士に任せようと、話は移り変わっていく。



チリー・・ン


噂話をしていた町人の横を紫の羽織を羽織った男が、袖にてをつっこみつつ楽し気に鼻歌を歌って通りすがる。

「ふふ〜ん♪これをみせたらきっとルーくん喜ぶと思うのよねぇ」

懐にいれたお土産を服の上からたたき、レイヴンはニマリと笑うと、また歩みを再開する。


レイヴンがこの町に来た理由は、ドンの指示である。

それはこのシゾンタニアのギルトの首領より、ドン・ホワイトホース宛に書簡が届いたためだ。
書簡の内容は、町の周辺にあらわれた魔物の異常増殖。高濃度のエアルの確認。枯れて紅葉する森についてだ。
助言を得たかったのか、はたまた援軍を養成していたのか。詳しい手紙の内容はレイヴンはしらない。

彼はついていなかったのだ。

ドンのもとに書簡が届きそれを彼が読んでいるとき、たまたまレイヴンが傍にいたというだけで・・・。

「レイヴン、いまからシゾンタニアにいってこい」
「へ?」
「おめぇ、いまひまだろ?」
「そんなはずないじゃない!じいさん、この書類の束が見えないの?そもそもエアルに関わりたくないのよぉ俺様は!!」
「書類ぐらいてめぇでやるさ」
「え、でもその町の怪異の原因ってエアルでしょ?」

死んじゃう!むりぃ〜!いきたくない!と首を振っている間に、あのドンの剛腕によりレイヴンはあっけなくギルドを追い出されてしまった。
それが事の顛末である。

何をどうしたらいいかの指示一つない。
しかたなく情報収集をしつつ、現地のギルドを手助けする方向に決め、レイヴンはシゾンタニアにむかったのだ。



レイブンがドンに対する愚痴をブチブチとつぶやきつつ辺境の町シゾンタニアに到着してみれば、町の周辺の魔物が異様な強さをもって襲ってきた。
通常結界を嫌い、結界の張られた町に魔物は近づかない。
それがすぐそばまで来ていることも異常の一つだった。
たしかに、なにかあるな。
そうと判断したところで、「アレクセイ閣下がかかわってたり・・・しないといいわぁ〜」なんて思わず誰かが実験と称して何かをしでかしてるのではないかと大きなため息がこぼれた。



シゾンタニアでエアルの異常がおき、自然がおかしな現象を起こしている。
その調査は騎士団だけでなく、シゾンタニアにあるギルドでもひそやかにおこなわれていた。

レイヴンが詳しい情報を探るべくシゾンタニアのギルド首領メルゾム・ケイダのもとを訪れれば、ギルドには先客がいた。
赤い髪の7歳ほどの小さな子供は、レイヴンをみるとことのほか喜んだ。

『レイヴン!』
「あ!レギ・・!ルーくん!!どうしてこんなところにいんのよ」

子供の名前はルー。

レイヴンの耳にゆれる釣り鐘飾りを贈った張本人であり、レイヴンにとってはアレクセイやドン・ホワイトホースよりも大事な存在であった。

イヤイヤシゾンタニアにきたレイヴンだったが、いざきてみれば思わぬ出会い。その再会にレイヴンは「なんでこなきゃいけないのよぉ」ではなく「きてよかったー!ドンのじいさんありがとう!!」と考えを一転させた。


ルーは弱い七歳ぐらいの男児の外見をしていて、ニンジンがきらいで鶏肉が好きというお子様味覚もちだが、外見よりもはるかに長く生きている。外見と年齢が合わないし、一定の姿でいるわけでもないーーエアルの調停者。彼らはそういう生物なのだ。
そのエアルに敏感な種族である彼もまた、この町のエアルの異常をどこからともなく察知して調査に来たのだという。

彼ら調停者が足を運んでいる時点で、事態はあまりよくない方向に進んでいるのは明確だ。

「エアルクレーネが発生したの?」
『正確には“なりかけてる”だ。エアルクレーネの“ような反応”を他のやつらが感知したんだ。でもなんだか違和感があるからと、手オレが派遣されたんだ』
「やっぱりエアルの異常なのねこれ」
『そうだな。場所は川上の湖にある遺跡だ。あそこを中心にエアルがおかしくなっている』
「さっすがぁ。そこまで把握済みなのね」

アレクセイ騎士団長の右腕であり、そのアレクセイの命でドン・ホワイトホースのもとにとどまっているレイヴンにとって、あるじと定めるべきは本来であればアレクセイだ。
しかしこのレイヴンにかぎっては、目の前の赤毛の子供の姿をしている存在こそが「主」と呼ぶに等しい。

そこからレイヴンは本当の主との再会に歓喜し、すっかりシゾンタニアのギルトではなく、子供の面倒を見ることに全力を注ぎ始めた。

当然仕事はきっちりやる。
だが、なによりもレイヴンにとって優先すべきは、赤毛の子供ルーの存在だった。





「ふんふんふん〜♪」

噂話をする人々の横を鼻歌を歌いながら通りぬけつつレイヴンは、門の付近で会話をしている青い騎士たちを見て足を止める。
どうやら昨日の大規模魔物討伐後だというのに、休む暇もなくここシゾンタニアの騎士たちは町を巡回しているらしい。

「あらぁ〜えらいこったで」

帝都の騎士は上から目線で、下の者へのあたりが悪い。
そんな様子とは裏腹に、ここの騎士たちは住民に明るく声をかけられている。
とくにナイレン隊長の名を呼ぶ住民は多い。

そんな彼らを「およ?」っと、なにかを思い出すようにアゴの髭をなでつつ、足を止めたレイヴンは首をかしげる。
そうやって首を傾けたせいで、紫の男の片耳に揺れる釣鐘上のピアスがチリーンと音を鳴らした。

「ワン!」

鐘の音に気付いたのか、騎士といた犬がワンと一回吠えると、その特徴的な尻尾を振って一頭の軍用犬が男の方に駆け寄ってきた。

「っほへ?あら、ま。なんできちゃうのワンコ?
あんた騎士さんとこのワンコでしょ?おっさんギルドの人間だからね、ほら、いったいった」
「くぅ〜ん」
「え〜。ちょっとぉ、何も持ってないわよ。なんでなつくのぉ?」

シッポのようなフサフサの髪をあちこちにゆらして困ったようにレイヴンは、まとわりつく青い犬から逃げるようにクルリと動く。
すると後を追って軍用犬もクルリとまわるので、一定の個所で一人と一匹はぐるぐるとおいかっけこをはじめてしまう。

そのつどリンリンと小さな鐘の音が響く。
やがて犬を気にしたレイヴンが足元の段差につまずいてそのまましりもちをついてしまい、 それを待ってましたとばかりに犬が襲いかかった。

「ワン!」
「もうなんなのよぉ!おっさんなんか食べてもおいしくないでしょーに!あー!!や、やめてよワンコ! かじっちゃだめだってこれはオッサンの一張羅で! あーあ、しわになっちゃう。 ひどいわぁ。ああーよだれが〜・・・・って、ちょ、ちょ!?やめー!なめてもおいしくないでしょうに!!やーめーてー!!」

いやぁー!とバタバタあばれるレイヴンに、犬は嬉しそうにその顔をなめ、くぅーんと鼻を擦り付けて頬釣りをする。
しまいにはレイヴンもあばれるのにつかれたのか、もうなんなのよと苦笑しつつその柔らかい青い毛をなでている。

おそわれてるのか、なつかれているのか。
そんなレイヴンに民間人になんてことを!?と、軍用犬の飼い主が慌ててかけてくる。
騎士の隊長をつとめるナイレンというおとこである。

「すまないうちのが!」

「騎士さん、あんたが飼い主?ちゃぁんとしつけなさいな。おっさんだからよかったものの」
「俺以外には懐かなかったんだがなぁ。ああ、本当に悪いな」

くたびれたような男レイヴンはそのまま犬をなで、犬は満足そうに男の膝の上にあごをのせて目を閉じて頭をなでさせている。
その犬の様子にナイレンは心底不思議そうに首をかしげる。レイヴンと戯れる青い軍用犬は、ここまで人懐こいやつであっただろうか?思わず頭上にハテナを浮かべるほどには、犬はレイヴンの撫でテクににベロンベロンにとかされ、あげく腹までみせ甘えている。
そんな男と青い犬をナイレンは興味深そうに眺めるのであった。

そうしていれば後から、ナイレンを追ってきた若い騎士たちが数人駆け寄ってくる。
そのなかには噂の新米ユーリとフレンの姿もあり、小さな青い子犬の姿も目に入る。

「ナイレン隊長、ランバートはどうしたんです?」
「さぁ?おれにもわからん」

「なぁ、隊長。こいつ、なんとかしてくれよ」
「ああ、なんだ。またユーリはラピードにまとわりつかれてんのか。
おい、ランバート。いいかげんそのひとから離れろって。ラピードをたのめるか?」
「…うー…ワフ」
「きゃん」

ナイレンと呼ばれた騎士が、男にはりついてはなれようとしない犬ランバートに声をかければ、 ランバートは不満そうだったが、何か考えている風のレイヴンをふりかえり頬をひとなめすると立ち上がり、 黒髪の青年にまとわりついている子犬をくわえて歩き出す。

「ちょっとまって」

ランバードを完全にあまやかしていたレイヴンが、何かを思い出したように慌てて声を張り上げる。

「ん?」
「ランバート?いまランバートって言った!?」
「あ、ああ・・こいつの名はランバードだが」

「うそ!?おまえ、ランバードなの?あの?!」
「わん!」

レイヴンが歓喜の声をあげて軍用犬の名を呼べば、「ようやく思い出したか」とばかりにランバードは尻尾をふり我が子を口から離して喜々としてレイヴンのもとへ舞い戻る。
そのシッポは勢いよくふられており、キュンキュンと鼻を鳴らして、頭をまたすりつけている。

今度はレイヴンも嫌がらずにそんなランバードをうけいれ、優しく頭を撫でている。

「そっかぁ。あんた大きくなったわねェ。え?こっちお前の子どもなの。よかったわねぇ」
「ワン!ワン!」

ついには犬と会話を始めたレイヴンに、周りの騎士たちもポカーンとしてしまう。
あまりに離れたがらないランバードにどうしたものかと思っていれば、レイヴンを呼ぶ声がきこえてくる。
「おいレイヴン!!いつまで油売ってやがる!」
「あらーヤベぇはメルゾムの旦那から呼ばれっちゃったわ。 しゃーない、オッサンそろそろいくわね」

それにレイヴンは不満そうに口をとがらせつつ、寂しそうにしっぽをひとふりしたワンコを最後とばかりにひとなでしウィンクをちばして去っていく。



ふわふわゆれるレイヴンの髪をみながら、その背を見送ったナイレンが、横で尻尾をブンブンふって見送っているランバードへ視線を向ける。

ランバードは軍用犬だ。
知りあいだったとしても会えた場所は限られるだろう。
たとえばランバードが以前助けたことのある市民か。 いや、それにしてはあの男には隙がない。 結界を超えて町をこえてこのシゾンタニアくるほどだ。一人地ではあるまい。ギルト首領が彼の名も呼んでいたことから、彼はギルド所属の腕利きとみるのが妥当だ。
ではいつ帝都の騎士団序族であった軍用犬たるランバードと、あの男が出会えたのか。
出会えたとするなら、ランバードがナイレンのもとに来る前。
この町においやられるまでは、彼は別の―――

「・・・・ランバードを知ってるって・・・まさか、な」
「わふ!」

ナイレンが辿り着いた考えに「それこそが正解だ」とばかりにランバードが吠えた。
そんな相棒の様子にナイレンは「あちゃぁ〜しまったな」と、顔をボリボリとかきつつ、すっかり姿が見えなくなった紫の影を探す。

己の青い騎士服を見下ろし、もう一度ランバードをみおろし、困ったように頭をかく。



リンー・・と、どこかで澄んだ鈴の音がきこえたきがした。



「そんでもって“釣り鐘のピアス”ときたら、もう確定だろこれは。・・・・・・“副隊長”」





遠い昔、本物の騎士がいた。
身分というくくりにとらわれない彼らは、その背に胸に自由なる翼をいだきーーー青い隊服をまとっていた。











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