片 翼 の 獅 子
++ 第一部 Tales of Vesperi a ++



00.それは大いなる惑星(ホシ) の夢





オレは・・・だれだ?






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 side 迷子の焔
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じぶんはなんだったか。
おれ?それとも俺?

オレはだれだ?



なんか記憶がごちゃごちゃとしていておかしい。


思い出そうとすると、いろんな映像が浮かんでは消える。
それは 〈記憶〉 という思い出の光景。
しかしそれは順序良くあらわれるわけでもこちらの感情がその流れる映像に追い付くのを待ってもくれない。
あまりの膨大な量に、脳の処理がついていかなくなり、しまいには映像やら記憶やらが混ざり合って、自分が "誰" なのか、 "何なのか" さえよくわからなくなってきた。

たしか――オレは、たくさんの名前を持っていた気がする。

それは、オレが廻ってきた分の、前世の先々で得たものはず。
だけどその中で呼ばれた己の名や、そこで生きていたという情景などは・・・よく覚えてはいない。

混ざってしまった記憶の中にあったのだろうか。

ただ "いつも必死で生きていた" という感覚だけが、空っぽでぐちゃぐちゃになった今のこの身体のなかに漠然と存在しているだけ。
微妙に思い出せる断片的なイメージはあるが、そのときの自分が、どんな存在で、どんな名で、その映像と他のものがどう繋がっていて、それらにどういう意味があったのかとか。 その記憶たちがいつのことなのかさえわからない。なにをさすのかさえもわからなかった。

――すべてが曖昧だった。

自分のことなのに、本当に何もかもがあやふやで、記憶があってもそれが自分のことだと理解はできても、実感はわかず、理性が追い付かない。
自分は…なんなのだろう。
返る答えは、自分の中にはなく。ないのだと理解しているから、答えを求めようと頭がいろんな映像をひっぱりだしてくる。
そのせいでよけいに、自分という存在が分からなくなる。
深く考えることさえ、今は億劫で。
しっかりと "自分自身" の存在を思い出すことができない。


ただひとつだけ。

はっきり覚えていることがある。
それは、きっと今に最も近しい前世のこと。

―― "そのときの自分" は、たぶん 〔レプリカ〕 と呼ばれていた。
そして魂に寄り添うように、側には必ず紅色の誰かがいて、違う意味で青い小さいのがずっと側にいてくれた。
それだけが、自分が誰かもわからない中で鮮明だった。

いや、違う。
紅い彼、〔オリジナル〕 もまた・・・


"自分" だったはずだ。



なぜ?
この記憶の差異はなんだろう。




「俺は、オリジナルなのに…レプリカの記憶がある」

「おれは、たしかにレプリカのはずなのに。オリジナルの記憶がある」




ああ…。
ああ。ああ。そうだった。
オレは “ひとりにもどった” のだ。

それが 〈オレ〉 がここにくるまえの、前世のこと。最後の記憶。
意味も分からず、ただ漠然と "そう" なのだと理解する。







**********







グルグルとした視界。
目を開けたら、すごく体がだるくて、仰向けのままどこかの森の中に倒れていた。
"なぜ" なんてわからない。
自分が "何" であるかもわかっていないのに、ここがどこで、なんでここにいるかなんてわかるはずもない。
そんなオレを嘲笑うように、木々の間から太陽が燦々と差し込んでくる。
目覚め際に太陽の光は眩しすぎて、無意識に腕で光をかばおうとした。

『え・・・』

驚いて目を見張る。

太陽に透かした手は―――透けていた。
それが生き物としては異常だというのは、さすがのオレでもわかる。
けれどなぜか納得してしまったんだ。

この現象は "オレに関して" 、いや、 〔レプリカ〕 であれば、こうなってもおかしくない。
そうだ。オレは一度、こうやって消えて世界に溶けたはず・・・・・・だった。
だから逆に意識を保ったまま生きている方が、不思議なのだ。


『なんで・・・生きているんだオレは?』


なぜ生きているのだろうか。
不思議で、不思議で、ならなかった。

そもそも "オレ" という存在はどんな生き物だったろうか。
オレはなにをどこに忘れてきたんだろう。
どこかで死んだから、覚えてないのは当然のハズ。
なら、なぜ感覚がある?
〔おれたち〕 はたしかに "消えた" だろ 。

それでもゆるく握った手のひらにちゃんと感覚があって、"生きている" と――そのことに涙が出そうなほど嬉しくなる。


とりあえず、曖昧な手の感覚を確かめるように、ひらいたりとじたりしてみる。
感覚は覚えている以上に酷く鈍い。
それでもまだ感覚があるということは、生きているということなのだろう。





 ――どこかで たくさんの想いが、木霊となってオレの内に響いている。



{生きろ}
{帰ってきて}
{待ってる}

必ずかえってくる


約束。



そんないくつもの声が聞こえて――
"生きなきゃいけない" と、この鈍い感覚と共に強く思う。


本当は 「かえる」 という約束を果たすべきだ。
そのために生きようと思わなければいけなかった。
けれど、たぶん "その約束を交わした時の〔おれ〕" は、わかっていたはずだ。
それが叶わないことだと。

死ぬのだと。

"自分という存在" としては、二度と戻れないことを 〔おれ〕 は知っていた。
"違う存在として" なら、帰れたかもしれない。
けれどそれでは約束を果たしたことにならないし、そこ以外に居場所がなかったから。



でも帰りたかったんだ。
ただひたすらに "その時の〔おれ〕" は居場所がほしかった。

…どこかでは、自分も帰りたかったから。

だからできないとわかっていても。
それでもなにかにすがりたくて。
できもしない約束をした。





『ごめ・・ん・・・』

覚えていない誰かに、"前世における人生最後の嘘" をわびる。

おれは
俺は・・・

もう帰れないんだ。





それに――




















あなたちは 〈オレ〉 を望んではくれなかったじゃないか。




















もういい。
もういいや。

だってオレは――


〔燃え滓の灰〕 でも 〔聖なる焔〕 でもないのだから。


あなたたちは「帰ってこい」とは言うものの、世界に戻った存在が、〈オレ〉 だとしるなりその手を翻しただろう。
望んでいた存在ではないと知った時、絶望したのだろう?
想像もしなかったとばかりに悲しそうな顔して。

しってるかい?

そのとき、〈オレ〉はまた死んだのだ。





ああ、〈オレ〉ってだれなんだろう?










――パタンと。

空に伸ばした手が、自然とおちた。



目元を手で覆ってもはいってくる光がまぶしくて、まぶしすぎて――










涙があふれるのを止められなかった。
















ひとつになった焔は

大いなる惑星(ホシ)の精霊に抱かれ

ねむりについた



これにて



深淵なる物語は壊れた焔によってようやく幕をおろした











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