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16.リンゴは焔の色 |
茶色い女に連れてこられたエンゲーブ。 そこであったのは―― 「そのリンゴより、こっちのリンゴの方が甘いですよ」 手にしていたリンゴを奪われ、かわりに赤いリンゴを渡された。 店の人が「にいちゃんいいめをしてるなぁ」と笑っていたので、そっちの方が甘いのだろう。 そう思って、ありがたくそれをうけとり、よごれを服でこすってからひとくちかじれば、シャリっと涼しい音を立ててそのあとすぐに口の中にじゅわりと広がる甘酸っぱさに幸せな気分になれる。 これはいいりんごだと、リンゴを選び直してくれた人物へとふりかり―― 「サンキューな本当にあまいや・・・・」 ゴトン 手にしていたリンゴを思わず落としてしまった。 そこにいたのは、ニコニコ笑顔の小柄な男の子と、女の子。 どちらも髪は黒く染めているし、普段と髪型も服装うも違から気付かなかったが、それはオレがダアトでよくみる二人そのひとで。 -- side レプリカルーク -- 「“イオン”?」 「いや、シンクだよ僕は」 「それはわかるけど」 そこにいたのは誰もがしるダアトの導師。イオンだった。 とはいえ、今回“導師を演じる者達”からしたら、“イオン”というのはファミリーネームだと断言するので、思わずそんな名前じみた苗字があるかと突っ込んだが、あるものはあるの一言で押し切られた。 いまは彼の弟“セッテ”が導師を務めているらしく、“はじめのイオン”はシンクと名乗って、悠々自適に過ごしている。 その“はじめのイオン”たるシンクが目の前に、元守護役の少女と共にいる。 「え?なんでここに?アリエッタまで変装してるし。・・・ああ、アシュレイ兄上の心労がはかりしれない」 「シンク、アッシュまいてきた、です」 「ちょっとエッタ!なんで言っちゃうんだよ!」 「でも、今日は、違うです。シンク様、ちゃんと護衛やとった。えらいです」 「そりゃぁ僕だって、自分の立場ぐらいわかってるからね」 もちろん導師をおりていたとしても、いざという時のことを考えて、導師をおりた“イオン”でも、守護役以外の護衛は必須なのだ。 常に守護役がいるわけではないので、導師の側には守護役を含め必ず二人以上の護衛がつけられる。 見渡す限り、兄アシュレイの姿は見えない。 このイオンズ。外見は穏やかな少年っぽいのだが、そうとうのいたずら好きで、護衛役はいつも散々な目に合う。 オレの兄は、この総じて“イオン”と呼ばれる導師たちの護衛をしていたため、 何度かアシュレイ兄上と入れ替わった時、数人の“イオン”と会ったし、その分、毎回違ういたずらを仕掛けられたものだ。 つまり。その兄の姿が見えないということは、 「まかれたのか」 「まいたね」 「まいた、です」 オレがため息をついている横で、シンクがドヤ顔で、アリエッタがにこやかに告げた。 そうか。楽しかったか。 兄よ。どうかすこやかなれ。 オレはあなたの・・・・・胃の無事を心より祈ってる。 っと、いうか。 護衛なしでなにをしているんだこいつは。 "イオン"には、女だけの守護役。それプラス男の護衛がつくのが必須なのに。 いまはアリエッタしかいない。 護衛をまくのはいいが、せめて兄アシュレイだけでもそばにおいておいてくれと、視線だけでうったえれば 「心配しないでよルルー。かわり途中で護衛見つけたから!」 「とちゅうで?」 「ギルドに帰ると言ってたです。だからお願いして、きてもらいました」 あんまりいい予感はしない。 だが、この二人はどちらもいい笑顔だったので、もうため息しか出ない。 いや、もう勝手にしてくれ。 「っで?その護衛ってのは、兄上より役に立つのか?」 「《凛々の明星》にようがあるって、言ってたです!」 「ヴェスッペリアのひとりか。ならあんし」 「フレン・シーフォだ」 ブッフォッ!? ギルド《凛々の明星》は、うちの白光騎士団を父親にもつ小さなリーダーが発足したギルドだ。 そもそもギルド制度が出来上がってわりとすぐに組織されたそれは、人数が少ないわりにつわものが多いと有名である。 なお、そのメンバーの一人、黒い傭兵というのが、オレの従兄弟にしてキムラスカの王位継承者ユートゥリスもといユーリ・ローウェルである。 そのユーリの護衛として、キムラスカの騎士がひとり変装して弓使いレイヴンとして紛れ込んでいる。 もちろんユーリとレイヴンの素性を知っているのは、身内と《裏の権力者》たちぐらい。 まぁ、ユーリのことはともかく。 アリエッタがうれしそうに語り、ニヤリといたずらが成功した悪ガキのような笑みを浮かべてシンクが告げた名前がよくなかった。 だって、そいつ・・・マルクトの軍人だぞ!! 青がよく似合うあのガイそっくりの軍人だろ!? オレというか二人の赤毛の王子の存在めっちゃ知ってるやつだぞあいつ。 ルークが二人いるって知ってるんだぞ! しかもやつはガイの従兄弟だ!! ただしユーリのことは、下町の知り合いという認識らしいが。 なぜエステリーゼともかかわっていながら、あのユー兄をしらないのだ!? あやうく、せっかくのリンゴをまた落としかけた。 いや、でも、さすがにその生を聞いた瞬間には、のどに詰まらせそうにはなったけど。 もしフレンのせいで窒息死してたらどうしてくれるんだ。 はぁー・・・これはもしフレンと赤毛のままのオレが遭遇したらどうなるのだろう。 いや、むしろ黒髪に染めているとはいえアシュレイ兄上と遭遇したら・・・なんで公爵子息がダアトで働いてるんだ!?とフレンのやつパニックになるんじゃないだろうか。 だってガイとそっくりな外見を裏切るほどの生真面目さ。もう堅物といっていいほどの堅物。 やばくね。 思わずリンゴを持ったオレの動きは固まった。 そうしているうちにシンクは連れだという青年――あー、かすかに金髪が人ごみの向こうから見える――に、よばれて去っていった。 去り際、リンゴを大量に買っていた。 そして意味深にこちらをみてドヤっというような笑顔を残していったシンクに、オレはきっとこのあとろくなことはないと思わずため息を吐き出した。 フレン、頑張れよ!きっとあんたにもイオンズの試練(イタズラ)はふりかかる。 どうか兄上がイオンズに阻まれる前に、ことがおきるまえに、ユー兄かアシュレイ兄上が彼らをいさめてくれますように。 つか、オレには何も起きませんように。 「ルーク!あなたなにをしているの!」 ・・・短い平穏だった。 オレの願いはわずか1分たらずで終わりを告げられた。 そういえば、現在進行形でオレは事件に巻き込まれていたのだった。 誘拐という意味不明なものにな! このあとは散々だった。 そしてオレはシンクの弟の"イオン"と遭遇することとなる。 そこで思い出すのは髪を染めた守護役とシンクの去り際の笑顔。 なぁ。シンクサマ。 あの笑顔・・・もしかしてこうなると、あんたはわかっていたのですか? * オ マ ケ * ひとくちたべるとシャリっと涼しい音がする。 隣では、黒髪の少年と少女がおいしそうに、リンゴをかじっている。 フレンはそのリンゴの赤さをみて、思い出したようにクスリと笑う。 自分の上司であるマルクト皇帝に連れられて行った先、非公式の場で、まだ10才ぐらいであろうふたりの公爵子息がいた。 ふいにあのときの彼らを思い出したのだ。 シ「なに笑ってんのフレン。気持ち悪いよ君」 フ「いえ。あのリンゴをみていて、ちょっと思い出したんです。 以前お会いしたアシュレイ様もルルー様の髪もリンゴみたいに赤い髪だったなぁと。いお、じゃなくてシンク。これお二人に欲に似てると思わないかい?君なら公式の場でもお二人に会ったことがあるだろう?」 シ「たしかにファブレの奴らのことは知ってるけど。 だけどフレン。あんな可愛げのない二人をリンゴに例えるなんて。あんたの目おかしいんじゃないの?」 ア「え・・・でもシンクサマ。りんご、かわいい、です」 シ「リンゴはね。でもアリエッタ・・・じゃぁ、君、それをアシュレイとルルーとして。そのりんご、食べたい?」 ア「ふ、ふたりを、食べる・・・です!?ご、ごめんさいそれはちょっと」 フ「シンク!失礼だろ!リンゴに!」 シ「リンゴなの!?」 |