有り得ない偶然 Side1
++ H x H++



06.お仕事×花嫁×龍神伝説



『龍姫は国から出してはならない。そのとき龍神は姫をさらったものに報復にくる――と』


「そんな話きいたこともない」
『それは当然でございましょう。なにせこれは、"我が国"での言い伝え。ここは我が国ではありませんので、貴方がしらなくてもいたしかたがないこと。そう龍は龍姫を寵愛する存在』


『お気を付けください旦那様』




『ねらわれているのは“あなた”です』





 :: side 夢主1 ::





これはまだうちのヒソカが、よちよち歩きの時の話だ。

兄弟子は31歳。兄弟子はすでに道場を卒業していて、個人で就活を成功させて、素敵な嫁をもらって平穏にくらしていた。

当時のオレは26歳。
オレの仕事は基本的に墨の能力をいかした刺青師である。
能力で生み出した墨で直接肌に絵を描いて、その墨をあやつり肌に浸透させることで、はいおわり。そんなわけで痛みがないと大評判である。

ただしアブアブ言っているようなヒソカをおんぶにだっこしてなんとか育てていたが、さすがに赤ん坊の面倒を見ながらだと仕事ができなかった。
絵を描くにも赤ん坊がじっとしていないのである。
さらには当時のオレは、フリーの刺青彫師だ。
風来坊な根無し草で、定住せずに好き勝手に世界中をあちこちふらふらしていた。そんなオレがひとりで育児などうまくやれるはずもなく、一次的に旅するのもやめてジャポンの実家にいた。

副業として、ハンターとしての仕事も受けている。
オレの能力は、オレが生きるためだけに編み出したともいっても過言ではないので、自分のため以外に能力を使う場合やハンター協会に貸す力は基本的に偵察能力だけである。
ゼノ先生も称賛してくれるその技で、偵察と調査任務をよく協会からうけるのだ。当然のことだが命がやばい時は逃げさせてもらうし、オレの能力の全貌は家族や師以外には一切教えてない。
ハンターは能力をすべてみせびらかしたりしないものだ。能力がばれてしまえば、命取りになりかねないからだ。
・・・まぁ、協会のネテロ会長は、教えてないのに全部理解してそうだが。あのひと怖い。
それでも"名付け"や"燃やす"とか、他にもある色々あるオレの能力は人前では絶対みせない。





 + + + + +





その時の依頼は、怖い会長のいるハンター協会から届いた。
すでに自立していた元兄弟子ヤスナガも招集され、ハンターとして共にある護衛任務に行くよういわれた。

元兄弟子ことヤスナガとオレが請け負ったのは、「花嫁一行を相手の邸まで守れ」というもの。

どこかの国の「コウシャク」とやらへ嫁ぐことが決まった我が国の小さな邦(クニ)のお姫様が、花嫁道具としてその家に伝わる秘宝とともにジャポンをでるのだ。
ジャポン人が外へでるのはとっても珍しいことだが、この花嫁の一族は代々外国とも取引をしている貿易の要である港の取締役だ。
その証に一人娘である彼女はジャポンの言葉以外の言語も話せた。

表向きは、商売の取引先で出逢い、元気で明るい彼女にほれた「コウシャク」が、莫大な取引と引き換えに嫁にほしいと言った――ということになっている。
そう、"表向きは"である。

依頼書を読むとわかるが、この依頼書は「コウシャク」側からだされたものだ。それは間違ってない。
間違っているのは「莫大な取引と引き換えに」ここだ。コウシャクが一見莫大な報酬を払っているようにおもえるが、あとから搾取する気満々なのが見え見えの契約書がここにある。契約書には「花嫁は持参金を持って、コウシャクのもとに直接来ること」とある。
結婚後の花嫁への対応等は一切明記されていない。
それどころか「花嫁が到着しなかった場合の違約金はいくらか」や、「持参金がはらえない場合はそれ相応の秘宝を用意すべし」と、金のことしか書いてない。唯一詳細が書かれていたのは、秘宝についてだ。
花嫁をもらうかわりに自分たちが融資した額はこれくらいなので、そちらが所持している秘宝が同等の価値がある。

いわく、秘宝のサイズは〜。
いわく、伝説の生き物の身体の一部らしい。
いわく、ほかのどの宝石とも異なり七色に輝く。透明度が高い。
いわく、どれほどの刃も炎さえも通さない強度がある。
いわく、ジャポンでしかみつからず、めったに表にでまわらない。
以下 ウンヌンカヌン・・・

明らかに秘宝目当てだろうこれ!
花嫁より秘宝の方が重要視された内容に若干イラッとした。

そもそも花嫁の持参金に何を持って来いと指示するのおかしくないか?
融資したから持参金をいくらもってこいってどうなんだろう。
貿易資金は、貿易というだけあり売り買いの話だ。つまりあちらにも売上のいくらかが入っているはずで、ジャポンと外国との貿易はうまく進んでいるので、損害はでていなかったはずだというのに。
こいつ、島国だからとジャポンを下に見すぎである。

狙いが秘宝なのは明白だ。

つまり希少価値の高いその秘宝こそをコウシャクとしては真に護衛してほしいのだろう。あるいは、この依頼を持ってきたハンター協会の会長からすると、花嫁をこのコウシャクの手から守るために護衛を求めたのかもしれない。

護衛が必要だった理由はどちらにせよ、コウシャクが花嫁をもとめたのは、秘宝をジャポンから外へ出す口実だ。
なにせ「コウシャク」にはすでに嫁が複数いるらしいから、この結婚は最初から破断目当てで、コウシャクの欲望による謀というわけだ。
謀というにはいささか稚拙だが。
それでも、貿易主である花嫁の一族を脅すには十分だった。

さて、ここで問題だが「花嫁がコウシャクのもとにまで到着しない場合は契約違反で金をとる」と言っている時点で、花嫁の命も狙われている可能性は大である。
あきらかに花嫁を道中暗殺し秘宝だけ奪って、花嫁がこないから違約金よこせ!とジャポン側に追加請求をしてきそうな…そういう未来しか見えない。
なに、この不穏な任務。

オレたちは花嫁のお嬢さんではなく、そのとんでもない秘宝とやらを無事にコウシャクのもとへ運ぶための護衛というわけだ。

秘宝もとい花嫁行列が狙われかねないから、ハンターをそっちで雇え。とか無茶な指示をだしてきたコウシャクは、ハンターがジャポンにいないのを絶対に狙った。
間違いではない。ジャポンには基本的にハンターはいない。
だが0というわけではない。
そこでハンター資格のあるオレとヤスナガが指名されたわけだ。

ぶっちゃけていうと、花嫁の護衛代ぐらい指示を出したコウシャク自身が払えよと思う。まぁ、もしコウシャク自身が花嫁に護衛をつけたとしても、そいつが花嫁に害をくわえる心配が出てくる。
ジャポン以外にはハンターはたくさんいるのに、今回コウシャクが花嫁自らジャポンで護衛を雇うように指示したのは、ジャポンにハンターがいないことを狙ってのことだろう。
なお、現状ジャポンにいるハンターは、うちの母とオレとヤスナガとあと数人ぐらいらしい。
あとはコウシャクがジャポンをなめているのだろう。ハンターがいない国の護衛など弱いやつしかいないと。弱いからすぐ死ぬだろうってところか。
どんだけなめくさってやがるんだあの野郎。
うちには忍者という念能力者を凌駕するオーラ使いや侍がいっぱいいるんですがねぇ。

ハンターを派遣するハンター協会の会長自らオレとヤスナガを指定したのは、やはり本当の意味で「花嫁を守れ」ということなのかもしれない。
コウシャク側からの殺意がちらつく任務であるため、花嫁を無意味に殺させないため。という気遣いもあったのかもしれない。


まぁ、いい。
会長の真意なんて知る由もないが。
とにもかくにも、そういう経緯でハンターであるオレとヤスナガが雇われたわけである。



+ + + + +
 


そういえば、ヤスナガのハンター試験後の話を忘れていたな。

ヤスナガのことだが、「立派な侍になる!」と父の道場に通っていた元兄弟子にして、あの和風美青年である。
だが彼は、侍にはならなかった。
どこでどう足を踏み外したのか、いまでは【忍】に方向転換し立派に活躍中である。

きっかけはこうだ。彼は能力者であるオレやゼノ先生、母の影響で、ある程度《念能力》がどういうものかは理解しており、ハンター資格を得たときに《念能力》を得ることを推奨された。だが、そこで特別な師のもとにつかず放置していたら、《念能力》がうっかり開花してしまったのだとか。
そのままそれが“念”であると気付かぬままに、独学でそれを忍術として昇華してしまったのだ。
ここでうまく能力をつくれば能力融合型の最強の侍(魔法剣士と呼べばわかりやすいか)になれただろうに、なぜ忍になってしまったのか。


服部半三保長(ハットハンゾウヤスナガ)。現在、イガ国ハナガキ村の忍者の頭領。


【忍者の頭領】――忍者だとぉ!?なんでお前そっちに走った!!
とおもったし、ちゃんとツッコミも入れたが「術を使えるのだから忍にならねば!」と意気揚々といわれてしまい、オレは言い返すことができなかった。
ロボット好きな男の子が本物を目にした時のように、彼の目は輝いていた。
ぶっちゃけ侍として難しい顔をしていたころより、忍になった後の方がヤスナガは生き生きしていた。

しかも「主に仕える者であればみな同じ!」と訳の分からない自論をもちだし、「主に仕えてこそ己の真価が発揮される」とか「我が主は〜で〜が!」とうんぬんかんぬんと長々と主自慢をされた。
つまるところ今の主にほれ込んだあげく、彼のために忍に転職して、気付いたら御庭番集らを全員叩きのめし頭領の座におさまっていたらしい。
ちなみにこのぶっ飛んだヤスナガの髭は最近少しづつ立派になってきた。無精ひげどまりでなかなか整わなかったのがなつかしいぐらい、昔とは比べようもないぐらいしっかりはえている。
そのうち刈ろう。
だが、ハゲである。
あの綺麗なさらさらストレートな黒髪のポニーテールが似合う美青年若侍路線を走っていたのにもったいない。
『きっと髭に栄養が行き過ぎたんだ』と言えば、ヤスナガに「そんなわけあるか!」とつっこまれた。最近ヤスナガのツッコミのキレがましている。
本人いわく、あれは剃髪という一種のオシャレでありハゲではない。かつ、そうなった理由は、オレが首から上ばかり狙うので対象となる髪はあぶないのでそったとのこと。
最後のは聞かなかったことにした。

日本の平安時代では、女性が髪を伸ばしていた理由は、長い髪は女性の美しさを示すものであり、教養や身分の高さを表すものだった。また、平安時代の女性は顔を見せない文化の中で、長い黒髪が静かに流れるように見えることが美しさとされていた。
そして男は髪をまげにする。
この世界の日本ポジションのこの国もその風習はある。
女子のロン毛美しい説にせよ、ちょんまげもとい髪の毛が長いことを重要視するジャポン人には、ハゲなんて坊さんぐらいで、自らハゲ路線を選択するのはとても珍しい。
なお、オレは切ってないだけである。深い意味は何もない。


余談だが、服部一家は主とする大将が政府を鞍替えするとかしないだとかで、近々一族をつれて引っ越し予定らしい。
政府?とは思うが、そこはそれ。深く突っ込んではいけない。なにせ相手は忍者だ。御家事情として聞いてはいけない。


それでは、ヤスナガの話はこのへんで。



+ + + + +
 


さて、依頼の件だが。普通は依頼内容は機密事項とし一人で見るものだが、かまわず家族の前で読んでやった。
なにせ依頼が書面できて、ヤスナガにも読ますように文が添えられていたのだ。
こうなってはもう面倒だ。と、ヤスナガも含めてわが家で作戦会議が開かれた。師匠がそこにいたのもスルーしして。
結果として、オレの背後から横から真上からと、家族もゼノ先生もその協会からの指示書を覗き込んでいたわけだ。

ただし、読んでいくうちにオレとヤスナガはどういう顔をすればいいかわからなくなった。


『伝説の生き物の一部・・・ねぇ』


簡単に言ってしまうと秘宝を守れってことらしいが、その秘宝の説明がやばい。
説明が長すぎるとか変なことが書いてあるとかではない。
秘宝の説明を読んだオレたちが、秘宝の正体かわかってしまったのがやばいのだ。

たぶんヤスナガとオレの気持ちは同じだった。なにせその依頼内容を読んだときのヤスナガの表情と言ったら、たぶん宇宙を背後に背負った虚無顔だった。
傍でその話を聞いたゼノさんと母の爆笑といったら。
父は何かを思い出すようにチラリと家族写真へ視線を向けた。

その写真、今年の年初めに親族一同で酒盛りしたときの写真だよね。師匠とヤスナガも映っていたはず。

何を隠そう・・・というか、隠してもいないのだが。
たぶんそろそろ忘れていると思うが、我が家は“妖怪”の血を継いでいる家系である。

ジャポンでは人外のことを妖怪というが、外の国では魔獣と呼ばれている。
魔獣――人類とは異なる生態や知性を持ち、人間社会の外縁部や未踏領域に生息する危険生物の総称。

その呼び名だけでももう十分わかるだろう。
つまり父が見た写真立ての中には、ヒトガタだけど人間じゃないようなのもいっぱい映っていたりする。
主に赤毛に金色の目のやつらがわっさわさ。
ひとがたっぽい姿で着物も着ているが明らかに顔はトカゲっぽいよね。ワニっぽい顔というか人間じゃない姿の御仁や、角が立派な人間や、背中の鬣が赤いやつもいる。体のどこかに鱗がびっしりあったり、耳だけちょっと人から離れた形してるよねとか。肌の色だけが明らかに人外だよねとか。みごとなシッポで横にいる奴をぶんなぐっていたり(殴り合いって…酔いすぎだろ)、みんな顔を赤くして豪快に笑いながら酒をかっくらっている・・・見事に"龍"な人たちの姿が映っている。

思い出してほしい、父の脇腹の鱗を。
オレの成長がほぼ止まっているレベルに遅いことと、オレの耳飾りの存在を。

「アザナや師範は、まさにあちらの血がでているな。特に目が」
「あらぁヤスナガちゃん、ちょっと違うわ。うちのあーちゃんは、金じゃなくて、金にものすごく近く見えるだけの明るい黄緑よ。怒ると朱がまじっちゃうけど」
「・・・・・・」
「うむ。芭雪殿が言う通り、朱金というに近いなあれは」
「ふふ。不思議な色合いで綺麗よね。龍のひとたちは本来金色の目だけど、うちの子の場合は双方の血がうまく溶けあったのかしら」
「アザナの目の色が不思議な色合いなのはそのせいか。たしかに黄緑は奥方様、金は師ゆづりだな。興奮すると目の色が変わるが、朱はどこからきた?」
「「「それな」」」
「まぁ、目の色が変わる種族というのは他にもおるしのぅ。
アザナの場合は、親父殿の一族が混ざりすぎた“混血”ゆえの遺伝子の変異からくるものやもしれぬな。そもそも龍の方たちは人ではないから、人とは違う力があってもおかしくない。
念能力もしかり。本来の念能力もまた血に影響を受けることが多い。念は基本的に一族共に似通った性質になるからの。そんな中で、アザナは特筆して異なる路線をいっているし。なにかしら“血”に変化がみられたのは間違いないじゃろう」

『父様、母様、ゼノ先生。あとヤスナガ。ぶっちゃけ目の色とか本当にどうでもいいけんだけど・・・・・それより。ねぇ、伝説ってなんだっけ?誰か辞書ひいてよ』

「ふはぁっwwwで、伝説のぉwwいやぁw生ける龍の方たちと数か月前に酒盛りしたばかりで。この依頼はwwww」
「ゼノさん、あのときは素敵なお酒をありがとうございますね」
「なんのなんのw随分楽しませてもらったわいw」
「ハンター協会の会長はアザナの血のことをしらないのか?」
『龍の親戚は基本的に表に出てこないよ』
「・・・」
『いや、だからしゃべれよ父!』
「芭雪殿いわく、これはきっと親戚のものに違いない。と」
『だからなんでゼノ先生は父の言葉がわかるんだ!』
「ではアザナ、やはりこの任の宝と言うのは」
『ヤスナガ、大正解。あー・・これたぶん親戚の抜け殻?皮膚の垢とか犬の換毛期の抜け毛とおなじで、龍の鱗ってたまにばっさぁーっておちるんだよね。父様やオレは一回しかとれたことないけど。長生きしている親戚の龍のおっさんなんかは鱗率高いからか、結構な頻度で生え変わるらしいよ。そのひとかなりの女好きだから、もしかすると今回のお姫様の家に伝わる鱗の主かも』

夢がなくなる話である。

あの色ボケ親戚は、女の子をめでるのが好きなのでべつに妾や妻にということはないのだが、ぶっちゃけ女の子が好きすぎてホイホイかわいい子を口説くものだから、「民草に伝わる噂話の原因はこの人」とさえ言われているほどである。龍の原型をかなりとどめている御仁なのにすぐに人里に降りるので、親戚の中でもかなりの笑い草として語られている。
そこで民草に見られてはまずい!人にばれたらどうするんだ。という発想に至ることはない。そういう「まずいのでは?」という思考回路に行かないのが我が家系だ。よく物語では長命種と人間の寿命差に心を痛めた長命側が、寿命差で悲劇と悲恋があったから人間との関係を断つ―――とかあるが、うちの一族だと「なにそれー」っと爆笑される。「寿命がー」とか「お別れ苦しいから関係を断つ」とか「ないない」と笑って言う。相方死ぬならついて行くから寿命違っても問題ないよねー。ときた。軽すぎでわ!?っと何人が突っ込んだことか。
だからすぐ他の種族である人間と混ざっちゃうし、あまり親戚の数が増えることもない。
「好きだから気にしない」と、大雑把すぎるのである。
面白ければOK!それを周囲が受け入れてくれたらもっと最高!だって俺たち龍だもんw人間の常識わかんない(ノ´▽`)ノ♪
って、ことらしい。いや、最後はあれだ。日本語わかってるくせに「私日本語話せなーい」ってノンノンする外人か!?って、ツッコミを入れたかった。

・・・・ここまで感情豊かで、ハイテンションで、常にマイペースですべてを笑って流し、みんなでワイワイガチャガチャするのが好きな一族なのに、なんでわが父だけ無表情無口なのか。誰か教えてほしい。





* * * * *





護衛をするとき、件の花嫁であるお姫様と話した。
クニといっても小さいな領地であること、護衛になれるハンターが少ないことなどから、花嫁行列としては荷物も少なく従者は道中の世話係が1人だった。
そのため雇われ護衛でしかないオレたちが花嫁本人と直接話す機会があったのだ。

「結局のところ、姫様のお相手が海を越えてでも欲しがるほどの秘宝って何でできているんだ?ジャポンにそんな希少価値が高いものがあるなんて聞いた事はないが…アザナはどう思う?やはり“あれ”だと思うか?」
『オレも国外にはよく行くけど、ジャポンの秘宝なんて聞いたことないな。“あれ”じゃないといいなぁってすごく思うけど、条件的に…うん。だから“あれ”だろうなぁとは思う』

「こちらです。これは首飾りで、鉱石ではなく生き物の鱗だそうです」

ヤスナガと二人遠い目をしながら話を聞いていれば、花嫁さんが一つの箱を取り出した。
姫様は箱を取りだすと、それをそっと切なそうになで、悲しげに「こんなものなければ」とつぶやいた。
なにか事情がありそうだ。

何気なく、姫様が取り出した箱をみて・・・

『ゲッ』

思わず絶句した。
やだ、あの箱。明らかに“知人”の気配がする。

オレの顔が引きつったのをみて、「やはりか」とヤスナガの重いため息が聞こえた。
いや、だってあの気配、しみついたオーラの残滓といい、どう"視て"もうちの“血”を感じる。
前にもどこかで言ったが、龍は同族の気配が分かるのだ。
オレにも少なからずその血が影響しているのと、念能力をきちんと学んでいるのでオーラの操作に関しては詳しい自覚がある。つまり箱の中にあった首飾りにべったり残ったオーラで、詳細があらかたわかってしまっといっていい。

いまなら目の色変わっている自信あるよ。
やっぱり変わってたのか、突然ヤスナガの馬鹿でかい手で顔面を抑えられたあげく背後に押しやられる。

「アザナおちつけ」

目からは黄緑色要素がなくなって、金色度合いが増しちゃってたかな?朱が混ざってた?はい、そうでしょうね!!とはいえ、色がにじみ出てくるだけで特に体にも視野にも変化はないけどな。おかげで自分で変化が分からないのは困りものだ。
朱が出るというが、全体が変わるわけはないので本当に混ざるという感じだ。はためには「光の加減で変わったようにしか見えないレベルの」金主体の朱金色らしい。
みんながよく突っ込んでたけど、オレも激しくつっこみたい。朱色はどこから出てきた!?
意味わからん。

ちなみにゼノさんに聞いたところによると、目の色が変わる種族で有名な一族がいるらしい。オレのように朱がちょこっとにじみ出る感じじゃなくて、真っ赤に変わるのだそうだ。それはもう鮮やかな緋色に。
緋色かぁー。朱と少し似てるから、誤解されたらイヤだね。でもオレのは光らないし。死んだ後に目に色が残るとかもないし、宝石みたいにもならないから(そもそも実際に死んだこともなければ目玉をえぐったこともないので本当のところはわからないけど)。可能ならそ《緋の目》と勘違いもされたくないし、オレの目玉をえぐるのはやめてほしい。

そういえば父などは、常日頃から完全に爬虫類の金目だけど。あれ、本人からは世界ってどう見えてるのかね。なお、オレの場合は、オーラとか念とか幽れほーにゃららといった"肉眼"ではみえないレベルのものが色付きで見えている。


深呼吸を1.2.3。


しばらくするとあっさりヤスナガの手が外れて、こっそり鏡を見ても目の虹彩はもとにもどっていたのでほっとする。
今度目の色が分かりづらい色付きメガネでも買うかな。

また姫様にむきなおる。

「ハンター様、お加減でも悪いのですか?」
「気になさるな。こやつの顔面に虫が止まっていたのではたいただけのこと」
『うんうん。まぁ、そういうことで』

普段は見られても気にもならないんだよなぁ。だって実家の周りの人はみんな普通に父の血筋のこと知ってるし。
それに《緋の目》とちがって別に光るわけでもないし、金の目にちょこっと朱がまざるだけだ。「光の加減で色が違って見える」と言えばそれで終わってしまうレベル。普段はこれで解決できることなのだ。

だが、目の前にいるのはどうやら“龍”をしる家柄の家系。
金目とか爬虫類目とかで、察してしまうかもしれない。

なんか身内の一部祀ってるひとに「その祀ってる物の本体の親戚でーす(ニコリ)」とか!無理!すっごい無理!!なんかわけがわからないぐらい恥ずかしい気がする。
鱗だったらオレも耳につけてるだろうって?一緒にするんじゃない!オレの耳飾りはべつなの!これはなんかあると安心するし、余計な力を抑えてくれている御守り的な感じがする重要かつ特別なものなんだけど、目の前の鱗はなんか違う!ただの抜け殻って感じがする!
つまり彼女たちが祀っていたのは、もはや皮膚をこすって出てきた垢というか抜け毛と同レベルのものってことだよ!!
抜け毛の親戚とか何それ?それもう龍でも人間でもないよね!?そんな状態で「それの親戚でーす」なんて、挨拶できるほどオレの心は強くない。
恥とか普通に感じるお年頃なの。
ばれたくないじゃないか。
姫様の持つ箱の中身のが「身内の身体の一部」だなんて。
なにそれムリゲー。悲鳴上げて逃げたくなる。

オレのイメージをいうと。
親戚のおじさんが火遊び相手に一夜を共にしたおねぇさんのおうちにパンツを忘れてしまって、それがなにかわからずパンツを発見した人が祀ちゃった・・・のを、みているような気分。
親戚のおじさんの性格を知っているから、すごく恥ずかしい気分なのだ。

『え、えっと…ははは。えっと、姫様。その、“なん”の鱗でしったっけ?』
「伝説の生き物と聞いています』

ですよねー。
何度聞いても答えは変わらないようだ。

伝説。で、ウロコ。ねぇ。って感じです。

まんま、あてはまる単語を持った人間とごく数か月前に会ったきがするのは錯覚だと思いたい。
あの好色爺。酔った勢いでハグしてきて頬釣りしてくるものだから、肌がえぐれるかと思った。あの鱗、一枚一枚はつやつやなのに全体だとざらざらするからあまり好きじゃないんだよなぁ。
円鱗(えんりん)とよばれるそれは、櫛鱗に似るが、棘がなく丸みを帯びていてはがれやすい。
父方の祖父母の弟にあたる人にも似たもん生えてたなーとか思ってない。
ただの大叔父なので明らかに伝説じゃないね。

なお、オレや父のは、◇をしていて、魚の鱗でいうなら硬鱗というのに近いのでそうそう剥がれない。


「鱗のある、伝説の生き物・・・なぁ」

納得したように頷きつつ、つぶやいた(もとい復唱した)ヤスナガがこちらをガン見してくる。
それにつられるように花嫁さんもこちらに視線を向けてくる。

言いたいことは充分理解してるから。
二人ともこっち見ないで。

『ハハハ、伝説の生き物の鱗で作られた首飾り・・・ねぇ。それはすごいなぁー』
「アザナ、目が泳いでいるぞ」


「龍――と聞いております」


とたんヤスナガの視線が強くなる。
しかもその目力を後押しするように姫様が躊躇いもなく蓋をあけ、中身を取り出した。

『ひぇ』

中から出てきたのは真珠のような光沢をもち虹色に輝く透明な丸みのある鱗。

思わず息が詰まって悲鳴となってもれた。
なぜって、案の定あれに女好きの親戚のオーラがめっちゃ染み付いていたからだ。

やだ。やっぱり親戚の身体の一部じゃん!
おっちゃんのパンツ見てる気分になるからもうやめて!いたたまれないわー!と叫びたい。パンツに例えたせいか、ばっちく思えてきた。ねぇ消毒してる?ちゃんと洗ってから首飾りにしたよね!?

「・・・ああ、それはまごうことなき龍の鱗だな」
『最近見たな』
「奇遇だなアザナ。実は自分も今年のはじめに同じようなものを見た記憶がある」
『ですよねー』

あれとおなじ鱗で数か月前に頬釣りされてほっぺが擦り切れたんだ。あの痛みを思い出すので今すぐにでもしまってほしい。
龍の人達はスキンシップ好きすぎだよね。
いや、あれはただの酔っ払いの行動か。

ひとまず花嫁さんに“それ”をしまってもらうべく「それからはヤバイ気配がします!どうやらそれがみえていると自分たちハンターの能力を弱めるようなのでしまってください」とお願いして、オレたちには近づけさせないでもらった。嘘も方便というだろ。
パンツはもういい。


親戚の抜け落ちた皮膚の垢だろうが毛だろうがの話はさておき。

道中あまりに暇で、花嫁さんとけっこう話をした。

なお、結婚相手から付けられた世話係かと思った"侍女っぽいひと"は、侍女ではなく"メイド服着ただけのただの案内係"だそうで、花嫁の世話ひとつしない。
どれくらいかと言うと、ジャポンから大陸についたあとの待ち合わせ場所は何と、「コウシャク邸」ではなかった。「コウシャク邸」のある港でもないときた。案内係がいうには、波がこないように館は山奥にあるのだとか。しかも馬車も車も何も無く徒歩。食料や寝床の援助は一切なし。
オレは仕事の都合と能力の都合上、地図を常に持ってるんだけど、メイド服な案内人が向かっている方向が明らかに山であり、そこからさきには町一つないのを把握していた。つまり町からの最短ルートどころではなく、遠回りしている始末。

しかも自称案内係は、宝を回収するように言われたのを隠しもしていないで、面と向かって「宝を先に渡してください」とまで言いやがった。誰が渡すかよって感じである。当然うちの姫様が断った。

あわよくば宝をおいて死んでくれないかとばかりの対応で、侍女から会話もなければ、飯もない、思いやりも何も無かった。その案内係が傍にいるのは、道を進むときの道案内の時のみ。どれだけ花嫁さんが追いつけなくとも無視。どれだけ花嫁さんが疲れていようと無視。周囲に盗賊っぽい気配やなにがしかの生き物の気配があろうと無視。休憩の時は見張るでもなく、出発時間を告げるとすぐに姿を消す。当然花嫁に旅道具や宿もご飯さえ用意されていない。オレたちがいなかったら、間違いなく花嫁さんは初日で殺されていたのではないだろうか。

依頼人は花嫁さんに死んでほしいらしい。
死んだら「お前たちが雇った護衛が役にたたないばかりか、花嫁が死んだじゃないか」と金を請求すること必須。
協会はそれを危惧し事前にオレたちを派遣した――という説が、今となっては有力候補だ。
いや、むしろオレの血筋のしでかしだから、尻拭いをしろという意図もあったのかもしれない。
ハンター協会の会長の思惑など、下っ端の自分たちが知る由もないが。

さて、案内人がいなくとも屋敷にたどりつける自信しかないが、念の為に案内役だというあいつに従って旅を続けている。
案内人のことを抜かせば、道中本当に暇だった。
なんなら自分たちの食料も自給自足で捕まえに行くほどには。

「いや、それはお前だけだアザナ。普通は携帯食料というのを持ってくるんだ!」
『え。だって山の中じゃ八百屋もなかったから食料は自分で狩れって教わったし』
「はぁー・・おまえのようになるから心配だったんだ。風花様は子供の世話に向いていないからな」

道中襲ってきた巨大猪は、ヤスナガがあっさり瞬殺した。念能力から進化した忍法すごい。
猪はこれまたヤスナガが火を用意してくれて、血抜きをして、臭みを取るために香辛料ぶっこんであれこれしたとに、猪は鍋になった。一部は保存食になった。
狩るのはできるけど、料理ってしないなぁ。口に入って食えればいいと思うんだ。

だけどそれは普通じゃないらしい。

つまり母が育てると、オレのような山育ちにむいている子に育ってしまうらしい。

『え。それヒーちゃん大丈夫かな』
「乳飲み子をさすがに山には放り出さんだろう」
『・・・オレ、赤ん坊の時の記憶あるけど。放置はしなくても、赤ん坊のオレを連れて山の中走ってたよ母が』
「は?」
「うちの母の赤ん坊のあやしかたって、"おんぶ紐でくくったあとに母様があの山の中を走りまくる"だった。あれ、背後から追いかけてくる猛獣が丸見えなんだよねー。赤ん坊ながら獰猛な怪獣の牙がみえて、いつも死ぬって思ってた』
「!?おいアザナ、それお前の息子大丈夫か?」
『うううう・・・オレも凄い心配になってきた』

「まぁ!ハンター様にはお子様がいらっしゃるのですか?」

『そうそう。オレと同じ赤い髪でね。フウカっていのはオレの母親で、いまあずけてるんだけど。・・・いや、こんな会話してたらめちゃくそ心配になってきた。早く帰りたい』
「羨ましいです・・・私も可能ならば好きな方のお子が欲しかった」
「もしや、好いた方が?」
「嫁ぐ身となっては、すぎたことでございます」

そう言ってはあの首飾りが入った箱を寂しげに撫でる。

あの箱は龍の花嫁の血筋のおなごでないとあかない仕掛けがあるのだとか。

なにその奇想天外なの。もしやおじさんの独特な術か何かか?龍限定の術とか?この世界ならそれも普通にありえそうなんだけど。
龍すげぇなっと、と、感慨深い思いできいていた。
っが、違った。龍がすごいのではなかった。
しかけはなんてことないことに、箱の裏に「神聖文字」もとい漢字で血族しか開けられないと書かれてた。
神聖文字とはハンター語とは事なり、文字そのものが力を発揮する―――らしい。見た目まんま漢字だがな。

ああ、なるほど。つまりこの結婚、マジで相手が首飾りのためだけに、鍵である血を継いでる女性を連れて来るために仕組んだということらしい。
パンツ置き忘れ事件より悪趣味だな。





* * * * *





はい、なんだかんだ言って着いちゃいました。
コウシャクのおうちの前です。

侯爵?公爵?どっちなのかはいまだにわからない。コウシャクサイドが送り付けてきた書面は日本語変換に失敗していてカタカナと共通語だけでやりとりしたせいで、音しかわからなかったせいだ。

なお、この世界は元の地球によく似た世界ではあるが、漢字は一般的にはひろまっていない。
日本と同じ文化圏であるジャポンでさえ、基本はひらがなとカタカナと共通文字(ハンター語)である。
なお、古い血筋の家は、漢字を知っているらしい。うちもそうだね。
漢字はその一文字で意味を持つものとなる。そのため一文字一文字に"力"が宿りやすいらしい。だから知られることがないように、秘匿されたのだ。それが念応力同様に不可視の"力"を持つ文字――「神聖文字」の正体だ。

カタカナゆえにそのわけのわからないことになっている位を名乗るコウシャクの家についたわけだが、歓迎はされなかった。コウシャクが望んだ花嫁なのに!
はぁー。

コウシャクの住まいは、さすが爵位を名乗るだけあって、バカでかい屋敷だった。
あんなにオレたちは山の中を歩かされたのに、実際は貿易主だけあり港に近い丘の上に館はあった。
案内人マジでふざけんな。
遠回りさせるにもほどほどにしてほしいレベルだ。山2つ超えたぞ。

花嫁が狙われていたので、当然のごとく、ここに来るまでの間に夜盗や暗殺者が来た。
案内役が仕掛けてきたこと数十回。
全部返り討ちにしました。
いい加減飽きたのできちんとコウシャクの素まで案内しろと案内人を脅したところ、案内人はめちゃくそすごい顔で舌打ちしていた。だんまりを決めていたようだが、ヤスナガの忍術モドキというか拷問()にまけて、彼女はしぶしぶコウシャクのもとまで案内してくれた。
なお、玄関前までやってきたコウシャクがオレたちを見た第一声はなく、案内人と同じような凄い顔でデカイ舌打ちをしやがった。
お前もか。

コウシャクは生きて無事にたどり着いてしまった花嫁のせいで、違約金がもらえないとか思ってんだろう。
もし花嫁が死んだり傷を負ったりしていたら、てめぇが花嫁を欲しがったんだから、花嫁を絶対守るとか言うべきであるし、テメェが彼女とその親族に金を払えよ。あ゛ぁ?
お前が金を払えと切実に思わなくもないが、そういうのぶっちゃけどうでもいい。
金より、もっと重要なこと。
ずっと道中考えていたことがある。

花嫁のお嬢さんを無事に国に帰してあげられないか。ということだ

できれば一族の汚点なので、龍の鱗はこちらで回収したい。むしろ行方が分からなくなる方が気持ち悪いので、ガチでジャポンの外に出したくない。
金での解決は不可能だ。なぜなら、ジャポンは自然豊かゆえに謎生物もとい魔獣の宝庫であり、もはや魔境ではある。魔境とはいえ、人里もあり、クニとよべる小さな集落はいたるところにある。だが海を越えた大陸に比べると、自然が豊かすぎる影響で金の流通が少ない。物々交換のほうが多いのだ。そのせいであまり裕福ではなく、秘宝に代わる金額は払えない。
目の前のコウシャクと名乗るフクヨかなナリキン男を消すことも潰すこともたやすいが、彼が行っていたジャポンとの貿易が問題なのだ。
そのせいで花嫁が逃げられないのが現状なのだ。

「どう思うアザナ。あれだけ女性を侍らしていてうちの国の姫さんまでほしがるなんて、どんだけ好色家かとおもったんだが」

それなぁ。鍵の役目を終えた後は花嫁さんをかっこちまうのかとおもったが、どうやらそれはなさそうだ。
なぜなら、オレたちを出迎えたコウシャクの周りには、きわどい格好をした白い肌の胸がでかい美女たちが侍っているのだから。
なんだかなぁ。
貿易主として港にばっかりいたから日焼けした肌の持ち主より、白い肌の女性にあこがれたのだろうか。
あれをみたら、うちのお国の小さな村のお姫様なんて目にもはいらないだろうと思ってしまう。
言っては悪いが、うちの姫様は田舎娘まるだしのすこし薄汚れた着物(ぶっちゃけここまで来るまでの山登り強行軍の影響で晴れ着から着替えたもの)に、日焼けして健康的な小麦色の肌に、お胸もあまりない。
たぶんうちの姫さんのことは初見からコウシャクの好みではなかったのだろう。あとジャポン人は基本的に外の国の人からしたら果てしなく童顔だ。あと小柄である。その辺も好みの対象外だった可能性がある。
そりゃぁ、コウシャクから女とみられないわけである。
むしろコウシャクに稚児趣味がなくてよかったと安堵すべきだろう。

「女より金のほうが大事のようだな。だからこそ貿易を行う力がある…という状況か?」

いや、どうだろうね。"今回は"、女より金に傾いただけだろうな。
きっと秘宝の調査とともに、姫様の容姿も情報は入っていたはずだ。この世界にはカメラも携帯もパソコンもあるのだから、そのくらいの情報収集は誰でも可能なのだ。
それらの情報を事前に把握したことで、コウシャクの脳裏に「秘宝を奪った後になんくせでもつけて花嫁を殺して金にする」までの計画が浮かんだに違いない。

『貿易ができるのは"別"の話だよ。
ただ、オレとしては花嫁だけは無事にかえしてもらって、あの汚物をやっこさんにおしつけるのが一番妥当かとも思ったんだがなぁ。汚物も渡したくなくなってきた』
「大叔父さんのアレかぁ。汚物とまで言うのはどうなんだ?それに男のもとにアレがあるとわかった場合のあの方の反応は?」
『そこなー(笑)まぁ、想定済みってやつさ』

そう。そこまで想定済みです。
うちの大叔父、コウシャクと真逆で金より女性大事だから、自分が加護を与えた血筋でもない、それも男が自分の身体の一部を持っているとか、それがわかればそさぞ不愉快になりすごい表情をすることは間違いない。
オレでも不快だ。気持ち悪いったらない。

『だから屋敷につく前にオレは所用があると一回離れただろう?』

ドヤ顔のつもりで笑ってやれば、「お前今凄い悪い顔しているぞ」とヤスナガから呆れたような表情が返ってくる。
ほどほどにしとけよ。と言われる。
止めないヤスナガのそういうところが好きだ。

「なに企んでるか知らんが、"地獄絵図"は勘弁しろよ。 ここには姫さんもいるんだからな」

《慈黒》は不要だよ。
そもそも引きこもり島民なジャポンの貴重な貿易相手だろう。《慈黒》は使わないかな。なにせ《慈黒》だと、本当に地獄に一直線だからねぇ。使えれば、種も仕掛けも証拠も骨も残さず、かつ、一瞬ですべてが終わるんだけどねぇ。
あと、オレの能力が地獄絵図作成以外にもあることをお忘れではないかい?


「おい!早く秘宝をよこせ!」

話し込んでいたら、コウシャクがイライラしたように声を荒げた。
わざわざ海を渡って持ってきてくれた花嫁さんへの敬意が全く見えない。
コウシャクは花嫁をいたわるでもなく宝をよこせと言い、このまま宝を渡せば、花嫁さんに鍵を開けてもらった瞬間にオレたちごと花嫁を殺そうとでも思っていそうだ。そうでなくとも用が済んだら、その場で花嫁を捨てかねない。
とにもかくにもそんなトゲトゲしい雰囲気があった。
それに戸惑いとショックをかくせいないでいる花嫁はうつむいてしまい、ここで捨てられたり帰るわけにはいかなかった彼女はそのまま身動きが取れずにいる。
契約内容から目的が宝だとわかりきっていても、望んで花嫁と迎えられたのだ。それも里には想い人を残したまま。貿易のこともあって逃げるに逃げられなかったのだろう。

ヤスナガはコウシャクの態度に怒りをあらわにしていて、花嫁の前に庇うように立ち、威嚇するようにコウシャクを険しい顔で睨みつけている。

コウシャクはというと、相変わらず金だ秘宝だと騒いでいる。
オレや花嫁を"敷地内"にいれても、"建物のなか"にまでは入れる気がないようだ。つまり、こと(オレ達をいかにして消すか)をこの場(玄関と門の間)で、やってしまおうということか。
ガチで最低な男だなぁとは思うが、それはそれで"好都合"だ。

『姫様、それをコウシャクに渡しましょう』

「!?ですがこれは」
『大丈夫。そんなものために貴方の人生を棒に振ってはいけません』
「でも私はあの方に買われた花嫁で」
『ああ、それはなんとかなるでしょう。それに貿易のことも気にしなくていいですよ』

ここまで言えば、オレにはなにか考えがあるとおもってくれたようだ。あと一押しとばかりに、安心させるようにニコリ笑顔をむければ、花嫁さんは少しの逡巡のあとオレと手の中の秘宝入りの箱を交互に見た後、顔を上げしかりと頷いた。


さぁ、"自称"コウシャク様。
少しオレのお喋りに付き合ってもらうじゃないか。

花嫁さんとともに、コウシャクのもとに歩み寄る。
コウシャクはまだかまだかとばかりに挙動がさわがしいし、もう文字に書き起こすのも嫌なぐらい口が悪い。
これでよく貿易主であるとか爵位を名乗れたりしたものだ。品位のかけら一つない。
花嫁にもう一度箱を開けてもらい龍の鱗でできた首飾りを出してもらう。

それをみたとたんコウシャクは目の色を変えて首飾りをひったくる。

虹色にかがやくそれをかかげ、執事らしき者が持ってきたナイフをつきつける。当然本物の龍の鱗なので傷一つつかない。砕けたのは突き刺した方のナイフの刃だった。
「おー!」「おー!」と歓声を上げ狂喜乱舞しつつ、「これこそ本物の秘宝!」「大勢の者が探し求め手に入れることができなかったものがわが手にあるのはなんと気分がいいことか!」と叫ぶコウシャク。

はい。手に取った!計画通り過ぎて思わず口端が持ち上がってしまう。
この時を待っていたんだ!

『コウシャク様、その秘宝にまつわるお話をご存じですか?』

「そんなもの調査済みだ!あれだろ。ドラゴンに愛された姫が別れの際にわたされたうんぬんと。鍵はドラゴンの姫しか開けられないのだろう。ふん!愛などとくだらない!そんなものより金だ!女なんてものは金があれば手に入る!この秘宝さえあれば、わたしは億万長者だ!」

本音でたな。
まぁ、いいよ。言ってろ。

『いいえ、それは表だってのこと。その話には続きがあるのです。
龍姫は国から出してはならない。そのとき龍神は姫をさらったものに報復にくる、と』

「そんな話きいたこともない」
『それは当然でございましょう。なにせこれは、"我が国"での言い伝え。ここは我が国ではありませんので、貴方がしらなくてもいたしかたがないこと』

はは。そりゃぁそうだろうとも。なにせここにくるまでにオレが作った新伝説なのだから。
あ、花嫁さんはオレに合わせてくれな。

花嫁さんが一瞬驚いたようにこちらを見たがウィンクで返せば、さもそれが本当であるかのように「そのとおり」と頷いてくれた。
企業秘密だから事前調査でも知られることがなかった――てことさ。嘘だけど(笑)

『そう、龍は龍姫を寵愛する存在』

この意味が分かるか?
龍は寵愛する姫のために報復に来ると言っただろう。
つまり姫を国から出した時点で、狙われてるのはお前の命であると。

ゴクリと唾をのむ音が聞こえる。
そう、たっぷりと怖がってくれ。


『お気を付けください旦那様。ねらわれているのは“あなた”です』


イッツショータイム!!
《黒姫》能力解放!

事前に顕現し、屋敷から少し離れた場所で空中に小指サイズで漂っていた黒い鯉がオレの合図を受けて、宙を円を描くように泳ぐ。
鯉がおげばそこから墨が広がり、波紋のように広がる。墨はやがて宙の次元が避けたように黒い穴のようなものを空中に描きだした。

さて、この黒い鯉の正体は念能力によって具現化した墨絵――《黒姫》である。
オレの着物に墨で描かれた鯉に能力と名前を与え、それにより具現化した念能力による生物だ。
おかげで着物からは鯉の模様だけが抜け落ちている状態だ。とはいえ、絵が描かれていることが分からないように着物自体墨染なので、絵がなくなってるのに気づいた者はいないだろうが。
この鯉は体の大きさを自由に変えられるので、瞬間移動系トリックにはもってこいなのだ。
念能力や念能力で生まれた生物は基本的には、視る力のないものには視えない。
しかしこの場に念能力者がいないとも限らないため、念には念を入れて《黒姫》には遠目では見えないサイズになってもらっている。
追記しておくと、本来の《黒姫》はオレをパクリと丸ごとくらえそうなほどでかい。イルカとシャチの間位のでかさといえばわかるだろうか。

この《黒姫》の能力は、墨を影とみたて、影と影を自由に行き来する力を持つ。
ただし制限はいろいろあり、マーキングされた箇所にしかいけないとか、影か移動先にないといけないとか。


何をしたいかというと、つまり――ここに本物の龍をよんだのだ!!
おいでませ!
龍神(笑)様っ!




グォォォォォォォーーーーー!!!




空気が震えた。
到底人からは出すことのできない地を揺るがすような低音が大きく響き渡り、あたりの木々を揺らし、屋敷の窓をガタガタと鳴らす。
ビリビリと体の芯から震え上がりそうになる龍の咆哮につづき、《黒姫》があけた時空の穴をくぐってズルリと長細い身体が現れる。
キラキラと光を反射して鱗が虹色を放つ。
現れたのは胴体の長い龍そのものだ。

ほら見ろよ、あの光を集めて固めたような加賀欲ような鱗の一枚一枚を。
ただの抜け鱗にあの光沢はないだろう!あの透明な輝きもないだろう。
これで同族の気配が分かる龍以外でも、あの首飾りの鱗が本当にただの抜け殻の一部であると理解できただろう。
オレからするとあの首飾りを求める人間たちは、「最近仕上がった乾燥した像の糞見て素晴らしい化石だ!と、勘違いして、飾って喜ぶ」あれである。
まぁあの首飾りに価値を見出している人間たちにこちらの事情なんか教えてなんかやらないが。


龍が動くことで風が起き、雲はさかれ、青い空にブワリっと一斉に太陽光が舞台照明のごとく降り注ぐ。
天使の梯子と呼ばれる放射状に広がったいくつもの光がふりそそぐなか、青を背景にキラキラした龍が空を泳ぐ様のなんと荘厳で美しいことか。

花嫁が龍を見て引き込まれたように煌々とした表情浮かべ、しまいには膝をついて拝んでいた。
うちのヤスナガは、驚いたような顔をしたが、こちらに視線を一度向けると何かを思い出したように納得したような顔をして、自己完結していた。あの顔は、オレが龍の一族なのをわすれたように。はたまたオレの一族に伝説の龍そのものの親戚がいたのを忘れていたか、オレの空間移動能力のことを忘れていたかどれかなのだろう。本物の混じりけのない龍ってあんなんですのよ、綺麗だよね。

まるで空の覇者とは彼のことを言うかのように、悠々と広大な空の海を泳ぐのは、我が一族でいまだ唯一空を飛べる一番最古参の親戚である。
元凶の大叔父ではなく飛べる方のご先祖様だ。

なお、大叔父はヒトガタをした龍なので、飛べない。
ものすっごい長生きで、一人に恋愛対象を絞らず、あまたの浮名をながした。もとい現在進行形で流し続けているひとである。

だが、いまは飛べない者に用はないので、今回の演出の都合上呼んではいない。

ただし転移でご先祖様に相談に行ったとき、いきさつははすべて話してあるので「さすがに節操がなさすぎる」と、後々大叔父のことを怒ってくるとのこと。さすがご先祖様!いかすぜ。

ご先祖様は打ち合わせどおり、誰もが虚をつかされ話せない隙をつき急降下し、地べたに膝まづき震えつつも拝みつづけている少女をその鋭利な爪のついた手でわしづかみ、空へと再び舞い上がりコウシャク一行から距離を置く。
コウシャク自身は三下にすぎない男だが、その部下に能力者がいたら危険なので、巻き込まれないようにするためだ。
ご先祖様は威嚇のためにもう一度大きく吠え、大叔父さんの鱗を手にしている男をその金色の爬虫類の目で睨みつける。

たぶん大叔父さんの鱗を見て、抜け鱗か汚いなぁと思ったんだと思う。
逆鱗とか意味のある鱗や、鱗の持ち主本人によりしっかりとした想いがこめられ、ちゃんと手入れや加工がされたものであるなら、同族とて汚いとは思わない。そういうのは輝きが違うのでわかるのだ。むしろそういのは、なにかしらの加護が宿るらしく本当に「宝」としてあつかっていい特別な一品となりうる。ただ前述のとおり勝手に抜け落ちる鱗は、人間でいう切った爪や抜けた髪の毛やフケと同列なので、オレたちからするとちょっとアレなのだ。ゴミは早く撤去したい、そんな心理が働くわけである。たぶんあの首飾りは大叔父さん自らが加工したのではなく、大叔父さんが去った後にたまたまおちていたものだろう。

龍事情を知らない者たちからしたら、ご先祖様の唸り声は震えあがるほどに恐ろしい威嚇となったのは間違いない。

ご先祖様は演技派だった。
というか、楽しんで「伝説」を演じきってくれた。

――我が愛し子の末裔をかの地から連れ出したものはお前か!

ゴロゴロとまるで雷が鳴り響くような低い声は、人の言葉であるが、まるで脳裏に直接語り掛けるように“響いた”。

「ひえ!ち、ちが!」

――貴様のその手にある物が何よりの証拠!その箱は愛し子の血縁しか開くことはできぬ!箱を開くために愛し子を外へ連れ出したのであろう。禁を犯した罪、その身でとるのだろうな。

それはもう設定を忠実に守り、鱗の首飾りを持っている男を今にも喰いちぎらんとばかりに口を大きくグワリとあけ、鋭い牙をぎらつかせて、男のもとに急降下した。
コウシャクは顔を真っ赤にさせ、命乞いをしている。
自分に都合のいい言い訳を繰り返し、ふいにすべての元凶が自分の持っている首飾りであることに思い至り、手にしていた首飾りを「こんなものいるか!」と地面になげ捨てる。
その顔は恐怖に青ざめ、赤くしたり青くしたり忙しない。
ご先祖様はそんな矮小な男をあざ笑い、口を閉じると、飛ぶ方向を変えて、その投げられた首飾りに向かい、勢いのまま爪で首飾りを割った。
フン!と不満そうな鼻息がもれる。それだけで周囲の木々が吹き飛び、またコウシャクの悲鳴があがる。

あれはですね、貴方たちに向けたものではなく、あの大叔父の尻拭いをさせられている不満を吐き出しただけだ。

鱗は返したんだからもう自分は関係ないだろう!と騒ぐコウシャクに「花嫁と鱗を外に出した報いを受けよ」と、口を開け閉めしつつ追いかけまわすご先祖様。
あ、楽しんでますね。とはいえ、当人も見ている側もめっちゃ恐怖な光景だが。

ついでにこれも演出ですとばかりに「花嫁を返せ!」と「わー!」と建前上攻撃のようなものをしたオレやヤスナガ、そしてなんとか我に返って武器を持つことができたコウシャクの護衛か部下らも宙を飛ぶ龍に攻撃を仕掛けるも、強力な尻尾のひとふりで吹っ飛ばされる。
しかも当たった攻撃はその鱗の強度ゆえにはじかれる。
ちょっと楽しくなったっぽいヤスナガが結構ガチで挑んでいたが、見事に吹っ飛ばされていた。
オレの能力は”生命エネルギー”を燃やすからたぶん龍でも効果ありそうだが、能力者だと知らせたいわけではないので一般人として挑んでるが、刀も投げた石もあの鱗は全く通さない。
ガチでご先祖様つえぇ。
なお、オレは9.9割人間なので、攻撃は普通に通るため同じ攻撃は向けないでいただきたい。

建物をその強い身体で一部破壊し、人間を吹っ飛ばし(ヤスナガは横の森まで吹っ飛ばされた)、命乞いと罵倒と言い訳を並べ立てるコウシャクを鷲塚むとどんどん力を込めていき「二度と我のものに手を出すな」と一言いい、そのまま握りつぶすぞと脅せば、恐怖に一瞬でコウシャクは気絶した。ご先祖様はそれをみてつまらなそうに男をごみのように捨てると、花嫁(こちらもとうに気絶していた)を連れて飛び上がりそのまま姿を消してしまう。
なお空中に消えたのではなく、オレが用意していた《黒姫》の能力でジャポンに戻っていっただけである。
さすがの龍もワープの能力は持ち合わせていない。

けっこうオレもボロボロ&泥まみれになったが、この場の破壊具合のほうがすごい。建物はほぼ瓦礫だし、森も一部吹っ飛んでいた。館を覆っていた森は、枝がおれたり葉が根こそぎふっとんでいて、荒野もしかりな散々具合。怪我人はいるだろうが、龍に攻撃を仕掛け反撃を受けたための傷と、他使用人たちは吹っ飛んできた瓦礫や枝葉にかすっただけのようだ。この状態で死者がいないのはさすがだな。
証言者がいないと困るから殺さないで。と言ったら、ご先祖様は「汚いない血を好んでかぶる趣味はない」と殺人を否定した。
龍のひとたちが、人を殺すのにためらいがあるかは不明だ。父が営む道場も殺しを基本とする技を伝授しているので、門下生はたぶん実践で躊躇なく人体の急所をついてくる。なお、オレにもためらいはない。この世界にきて、生きるためなら必然的に必要で、やらなければこっちが死ぬと理解してしまったので。

難を逃れたコウシャクの周囲に侍っていた女性たちや館のメイドたちが不安そうに周囲を見まわして、瓦礫と化した一帯をまのあたりとし呆然としている。
それもしょうがない。
窓ガラスは龍が空をかく一泳ぎで発生した風ですべて砕け、建物はしっぽびんたで破壊され、雇った護衛や傭兵はふっとばされ、雇い主はボロボロの姿で意識喪失中。金づるのはずの花嫁は人外に連れ去らわれたときた。
自称コウシャクの言葉を借りるなら、この場合の損害賠償とか誰が払うんだか。
というか、そもそも「花嫁も首未飾りも国から出してはいけない」というルールを破ったのはそちらなので、文句は言えませんよね。
そもそも相手は人外です。人の理に当てはめてはいけない。
ここまでしたら、人外がやったという証言も証拠もたくさん残っているし、ルールを破ったのはコウシャク側だと断罪もできよう。
龍まで「コウシャクが悪い」と言ってたのだから、こればかりは反論の余地もないだろう。弁の達者(?)なコウシャクであろうとも、もう「花嫁が連れ去られた責任をとれ」などとはいわないと思いたい。
ずっと言いたかったんだけどね、今度は我が国側がら賠償請求していいだろうか。いや、貿易のことで脅されてなかったら、花嫁を買い取りたいとほざいた貴様が我が国へ保証すべきなんですよ。婚姻ってお家間のつながりが必須ですしね。片方に有利すぎる条件はまっとうではない取引なわけで。
この始末をどうつけるのか。コウシャクの今後がとても楽しみだな。と、顔がニやついてしまう。

いやぁ〜、それにしてもご先祖様強かった。あの鱗ちょっと卑怯だよね。
うちの親父の脇腹の鱗もあんな感じなのだろうか。
以外とオレの鱗も炎で炙っても焦げもせず、刀で切り付けても無傷だったりするのだろうか。いや、それで壊れたら怖いからやらないけどね。

ちょっと疲れたので、そのまま地べたに尻もちをついた状態で転がっていたが、このままではらちが明かない。
“そろそろ”だとおもうし、動ける人間の把握をしに行くかと「よっこらっしょ」と立ち上がれば、ちょうど門があったところに人影がみえた。
ふもとの港からそのまま来たのだろう陽気な船乗りのような恰好の浅黒い肌の一人の青年が、半壊している館やその周囲の状況を見て口を開けて呆然としている。

「なにごとですかこれは!!!!」

青年の絶叫が静寂の広がる惨状後に響いた。




――結論から言うと。
最後に登場した彼、彼こそが我がジャポンと貿易をしていた領主その人だった。
コウシャクだと名乗ったふくよか糞野郎は、領主の父親で、才がなく、あげく勉強嫌いときた。そのため領地運営も貿易もなにかも息子が幼いころにまる投げしていたらしい。
コウシャクというのは真実ではなく、現領主の曾祖父にあたる人物がこの国の王の弟で公爵であったが、辺境地域の家に婿入りして侯爵となったらしい。曾祖父が持っていたその地位は、祖父の代で領地経営がうまくいかず返還している。
そして奥方の親戚のつてをたどって何とか東の端のこの地にたどりつき、港町のあるこの小さな町の領主におちついたのだという。
だが公爵であり侯爵であったときの威光をふんぞり返ってさも自分のことのように祖父は自慢し続けた。結果その恩恵を受けた父親が、わがまま勝手に育ち、いまだに傍若無人にふるまっているというわけだ。祖父亡き後も父親が好き勝手するので、その息子である現領主は、彼とほぼ縁を切っていた。
っが、今回現領主の貿易路をつかい他国まで巻き込んだ事件を起こしたとあっては、だまっているわけにはいかなくなった。

情報収集と情報操作こそ、戦の要である。
当然あのタイミングで、重要人物(本物尾領主こと貿易主)が登場したのは偶然ではない。
オレがただふらふらと暗殺者な案内人メイドにくっついてきたと思うなよ。龍の登場しかり、彼があのタイミングで来るようにしたのもすべて、仕込みだ。
コウシャクが首飾りとその周囲を調べていたのと同じようにこちらも自称コウシャクについては調べさせてもらった。素行調査と素性調査の結果、彼の息子にまでたどり着いたというわけである。

実のところ、依頼書を開いたその段階結構初っ端から、調査はしてた。
なにせ花嫁の婚約者が出す条件が、子どものわがままのような戯言のようなものばかりだったから、冗談か何かだと疑ったのだ。
しかしのその子どもの落書きのような条件のなかに、こちら側が逆らえない条件が組み込まれていたりするものだから、悪質極まりなかった。
調査の結果わかったことは、地位と権力があった過去の栄光にすがりまくっていた祖父によって甘やかされて育ったあげく、勉強嫌いな馬鹿が爆誕し、その自称ボンボンの「持ってるだけで他人が敬ってくれる誰も持ってない高価なあの宝物が欲しい!」という一人暴走だったわけだ。
ジャポンが断れない部分(貿易交渉)に関しては、勝手に息子の権利と息子の功績を使って、それをひけらかすことで脅迫をしてきたというオチである。
コウシャク自身は、あのお粗末極まりない婚姻条件で、契約は成立したと思ったし、"今後"もジャポンは完全に彼の支配下になった。と、本気で思い込んでいたらしい。
だから、島国だからとジャポンをなめすぎだ!たぶん実際にジャポンにきたこともなければ、お前が馬鹿にする島国というその島の大きさも知らないのだろう。
なお、島国とはいえジャポンはお前んとこの港以外にも普通に貿易してますんで、一個の貿易路を抑えられてもジャポン全体は貴様の手中には収まり切りませんがな。むしろ一つの港でさえ、お前に運営するのは無理だろうと思われる。

コウシャクについて調べるために、は嫁を送るこの旅の際中にちょくちょく抜けて、本来の貿易対象である港町にも調査をしに行っていた。
オレの能力《黒姫》はこういう時便利でね。
そこでジャポンと貿易を行っている現領主の存在が確定し、現領主と自称コウシャクが親子関係であることも知った。
オレは現領主に、あんたの父親に脅されて花嫁として買われた姫のこと、元凶が秘宝とされるひとつである首飾りであることを説明した。
そのときの領主の顔と言ったら、…なんというかかわいそうなほどの絶望顔だった。
怒りと絶望と飽きれと。様々な感情が入り混じったひとえには言い表せないような表情をしていた。

現領主を生んですぐ彼の母親は、自称コウシャクとは離婚したらしい。
なにせあの自称コウシャクは、傍若無人のわがままな男だった。自分以外の者を格下と見下す。女遊びは激しい。金遣いは荒い、などなど。あげるときりがない。ダメ貴族の見本のような男なのだから早々に離婚した奥方の判断は正しい。

そんな父親なので。今回の「花嫁は言い訳で秘宝が欲しいよ事件」の仔細をきいた現領主の怒りはひどかった。
「あのひとはまた嫁をとったのか!それも強引な手段で」
自称コウシャクは金で物を言わせて女を買いまくっては侍らしているらしい。しかもその金は息子の現領主の血と涙と努力の結晶からでている。
ああいうやからは、自分の者ものでないのにどこかから人の金をみつけては、それに手を付けて使いまくる。金も使えないようにするべきだったし、完全離島に召使などもなしで隔離すべきだった。
現領主のやさしさが裏目に出たのだ。血がつながった父親だからと、少しばかり罰が甘くなったのが今回の敗因である。

っというわけで、正当な貿易主様との相談のすえ、賠償金は父親の勝手な行為なので、ジャポン側は支払う必要はなし。花嫁は無事に返してあげてほしいと頼まれた。なお、お屋敷でひと騒動あるかもしれないとは伝えていたが、さすがにあの建物崩壊の惨劇は想定外だったらしい。
まぁ、本物呼ぶとは言わなかったしな。



「本当にアザナさんが事前に父の暴挙を報告してくれていて助かりました。花嫁が迎えいれられていたり、殺されていたらと思うと、う…胃が痛い。ああ、あやうく貿易路が一本閉鎖になるところだった」

瓦礫跡地ではなんだからと、住民を一度非難(もとい逃亡防止に別施設に全員を捕縛して隔離)させ、オレとヤスナガは港の近くにある領主館に招待された。
テーブル越しに向かいのソファーに腰掛けたとたん、領主の全身から力が抜ける。
もともとオレと彼には面識があるので、気きもぬけたのと、今回の顛末に疲労が一気に出たせいと思われる。
それはもう疲労困憊とばかりのていで、領主は「これからどうしよう」つとぶやいた。

「鱗の持ち主の魔獣(ドラゴン)が出てくるとは思いませんでした」

オレとヤスナガも同意するように頷いておく。
うんうん、そうだよねー。

『人語を理解するほどの魔獣って、頭の回転もよくて力も強くて脅威だよなー。そんなやつが出した条件を破ったんだから、お前の親父さんに何があってもしょうがなかったさ』

「人語を話せる魔獣だから、血筋の〜しかあかない箱を作ったり、愛をささやけたんだよ」という意味もこめておく。
ここで正解を言っておくと、血筋の女性しか開けられない箱は、たぶんあれ龍のひとではなく人間側があとから警護のために作ったと思われる。だれにも教えないけど。

なお、キリコってキツネの魔獣もしゃべるらしいけど、彼らは人間の姿をまねて人世に紛れて暮らせる。
ときにはハンター試験の手伝いをしたりもするそうだ。
どこにひそんでいるかわからない高位の魔獣怖い。

『まぁ、そんな魔獣相手に人命被害はないのはよかったな』
「そうだな。あんたの父親の間抜け面に呆れて龍もあっさり帰っていったおかげだな」
「そうはいいますが・・・またあのドラゴンが港に来たらどうするんです!あんなの災害級じゃないですか!またきたら一撃でうちの港破壊されちゃいますよぉ〜」
『こないだろ。彼の怒りにふれる原因だった首飾りは、龍自身が破壊したし』
「だといいんですが。もう生涯絶対潔白に生きます!」
「あんた、それ自分だけではなく、お前の身内もしっかり見張っておいた方がよいぞ」
「ですよね。ヤスナガさんの言う通りです。私はどうやら身内に甘すぎたようです。はぁ〜」
『政治周りに口を出さないように本邸から離れた丘の上に隔離まではよかったんだがなぁ。あの親父さんの動向に今後もきをつけてくれると、ジャポン側もすごい助かる』
「う…もう本当にうちの父がすみません」

その後ショボショボして、胃薬を飲んでいた領主といくつかやりとりをし、花嫁騒動自体がなかったこととして処理をする方向で落ち着いた。
龍にさらわれた花嫁のことは、「あのあと国から連絡があって、気付いたら花嫁の故郷の邑の入り口に彼女が忽然とあらわれたと報告が来てるから安心してほしい」と告げたら、領主はものすごくほっとしていた。こいつ、苦労しすぎて早いうちにはげるかもしれん。
花嫁の件は、おいおい事実にする予定なので、安心してほしい。
なにせオレの移動術は、一度行ったことがあってマーカーがある場所しか転移できないので。
いまは我が家にてかくまってもらってる。あとで花嫁はちゃんと故郷へ帰還してもらう予定である。

まぁ、なんだかんだあったが、一件落着!ということで。





+ + + + +
 




「ハンター様の息子さん、本当に髪の色がそっくだったわ」
『ふふ、うちの息子、かわいかったろ』
「ええ。お母さまは外の方だったのですね。あまりこの国では見ない肌の色をしていて、あんな綺麗な白い肌の方もいるのだとびっくりしました」
『ああ、オレたち基本黄色人種って言われるしね』
「うちの漁港とかだと、周りの者も取引先の船乗りたちもみんな肌が焼けたものも多くて」
『うちは逆に海が遠いかわりに、みただろ、横が森だよ。小麦色になるくらい焼けるどころか森のせいで日影ができまくってる』
「あまり地元から出たことなっかので、あれはすごい新鮮でした。潮のにおいがしない代わりに、凄い濃い緑のにおいがして。お魚の干物なんかうちのほうでは早々食べませんよ。売るために作りはしても」
『海が近いと鮮度いいからなぁ。刺身とかいいよな。あーこんな話をしてたら、なんだか海鮮が食べたくなってきた』
「故郷までたどり着けばいくらでもありますよ。オススメは取れたてての海の幸の漁師飯です」
『お、いいね』

ただいま行きの強行軍もとい修験者のごとき準備ナシの山登りが嘘のように、ほがらかにまったりとジャポンの田舎道を歩いています。
山から海へ向かって、のんびり街道を移動中。
知った土地なので、ちゃんと移動に必要な荷物もお金も装備済み。元花嫁さんには、うちの母と門下生の家族が不要な着物や市女笠をゆずってくれたので、旅の準備もばっちりだ。
転移しないのは、オレの能力バレ防止である。

元花嫁の彼女は、龍にさらわれた直後気絶していて気付いたら、オレの家で目を覚ました。設定としては龍が転移後にたまたまみた人里がうちで、その近くで彼女を解放し、道で倒れていた彼女をうちの家族が拾った。ということになっている。
無理があるよね!?とは思うが、そこは口のうまいうちの母がなんか言い聞かせたぽい。我が家がこのあたりで一番の地主だから、旅人をあず かる余裕があったとかウンヌン。そりゃぁ、道場ですし、うしろの裏山もうちのですし、土地はあるわな。

そうして比較的穏やかに山道を下り、また数日歩いて海が見えてきた。
風もさわやかだったものから、潮を含んだものに変わる。
それに元花嫁さんからの肩からもようやく力が抜けたのがわかった。
街道に出れば、もう港はもうすぐで、遠目に見える賑わいの様子に、彼女ははしゃぐように「あの港のあれがこうであそこに見えるのがどうで、どの店になにがあってどの店のあれがうまい」などなど色々解説してくれた。
ここまできたらもう入り口も目と鼻の先だ。
護衛としてついてきていたオレはここでお別れ。"突然現れた"という演出が必要なため、彼女が使用していた旅装備はこちらで回収し、さも一人で何も持たず戻ってきた風を装ってもらう。
事件の詳細は、後ほど領主の青年からきちんと詫び状とともに届くだろうし、ハンター協会にも事の顛末は伝えてある。しかるべき対処をするとハンター協会の会長も言っていた。なので彼女には、"龍にさらわれるまで″の覚えていることはすべて語っていいと告げているので、オレから彼女の家族に報告するまでもないだろう。
なお、貿易相手の正当な領主には「気付いたら花嫁の故郷の邑の入り口に彼女が忽然とあらわれた」と伝えてしまったため、いまからその演出をしてほしいとは彼女に伝えてある。まさか彼女たちが信仰する龍神が、転移先にたまたまあった里に女性を一人放置したとか醜聞がよくない。
その旨を伝えたら、彼女はおかしそうに笑っていた。

「龍神様は大きなお方ゆえ、人間の住処など差が分からないのでしょう」

元花嫁さん、いい子だった。

このあと家に帰った彼女により、もしかすると新たな龍神伝説が生まれるのかもしれない。
あまたの恋の浮名を流した大叔父以外の龍の人が伝説になるのは、ずいぶん久しぶりなのではないだろうか。
いや、そうでもないか。魔獣として大陸でブイブイいわしている半龍半人の姿の親戚もいたしなぁ。

ひとり感慨深く親戚の数あるやらかし騒動を回想し、ものおもいんふけっていれば、これが最後だからと、彼女がそわそわとこちらを見てくるの気づいた。
なんだろうとおもっていれば、おずおずと気になっていることがあったと告げてくる。
いいよ、いいよ。何でも答えちゃうよ。ハンターとしての特殊能力の内容以外なら。
ニコニコして促せば、少し考えるそぶりの後に意を決したように顔を上げてきいてくる。

「あの!ずっと気になっていたのですけど」
『いいよ、何でも聞いて』
「不躾で申し訳ないのですが!あ、あの!ハンター様はどうして首に、その、鯉…というか鯉のぼりの襟巻をなさっているのですか?」

だって鯉のぼりって首に巻くものじゃなくて、空を泳がす…棒につけてとばすものですよね?
え。別の邑では違うの?
あわただしい心の声がボロボロこぼれておちている。

なんだ、そんなことか。

いや、鯉のぼりを巻いてるんじゃなくて、鯉のぼりの柄のストールなだけで。
鯉のぼり模様でも別におかしくは・・・ない?ないよね?
実家の誕生日にもらったからそのままつけてるだけで。

そもそもこれはしょうがないというか。
オレだし。
そりゃぁ、あれだよ。

『だってオレはまだまだ龍にはなれそうもないしなぁ(笑)』
「龍に・・・?」

ポカーンとした顔をされた。
背後に宇宙が見えますぜ(笑)

ネタバラシを一つしましょうか。

そう思って左耳の髪をかき上げ耳飾りが見えるようにし、ニカっと笑ってやる。

「あ、ハンター様の左耳の耳飾りって、鱗…?え!?鱗!?待って。え!?鯉とか龍とか、え?鱗!?」

めっちゃ混乱してる彼女を落ち着かせるべく、ポンポンとその頭をなでる。
まだ目がグルグルして混乱しているが、こればかりは受け入れてもらうしかない。なにせ事実ですし。

そんなわけで

『うちの親戚が変なもん残してごめんね〜』



『じゃぁ元気で!多分会うことはもうないだろうけど。今後は怪しい取引には気を付けて』

「え、あ、はい。って、今、大きな鯉が横に・・・え?きえた・・・え?えぇぇ!?」





はい。《黒姫(ver巨大)》の能力で、オレは影の中に潜り込みまして、さくっと家に帰してもらいました。
元花嫁さんの目の前で消えたように見えたことだろう。
あと彼女、《黒姫》のことが見えてたね。みがけばいい念能力者になりそうだけど、能力者もハンターも彼女とは無縁そうだ。
最期の別れ際まで凄い混乱していたが、まぁおうちは目の前だったし大丈夫だったと思っておこう。



――これにて、龍と花嫁騒動は終幕!











【後日譚】
「え。なんでハンター様が」
『あ、ども』
「達者なようで何より」

「え?」

あの事件から数日後。
せっかく港町のうまみどころを教えてもらったので、ヤスナガをつれてきた。
教えてもらった市や食事処はあたりで、海鮮を食べまくってしまった。
そのさなか、あの花嫁だったお嬢さんとばったり遭遇した。
いや、そりゃぁ彼女の故郷だから、彼女がいてもおかしくない。オレたちも彼女がいるのを警戒してなかったし。
晴れた青空の下、とある少女の驚きの声がこの後響くこととなる。

再会は意外と早かった。








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