【有り得ない偶然】Side1 F
-- 君は別の世で生きる --
◆0NE PIECE
01. 医者と患者の関係
生きたいのならこの手をつかめと――
その目つきの悪い医者はオレに言ったんだ。
::side夢主1::
その日は船内ならなんとか、者に触れることも人に触れることもできるようになったころ。
買い出しに行くと、めずらしく船長であるローまででかけるというので、パニックになったオレがついていくと言ったのだ。
けれど仲間たちはオレが小さいからって、みんなは危ないからって船にいろと言う。
『ヤダ!』
「残れ」
『やだったらやだ!』
「お前は島にはあげられねぇ」
「留守番だ。おいていくけどいい子にしてろよ〜」
・・・おいて、いく?
「そうだぞ。今日はキャプテンの言うこときいとけって!」
「さんみたいな小さなやつは、すぐにさらわれちゃうんだぞー」
『ヤダ!』
ひとり?
また――“その隙”を突かれたら、オレはどうしたらいい?
ひとりになったとたん、また世界に拒絶されて消されたら。
オレには無理だよ。
あの絶望をもう一度味わうの?
そんなの…イヤだ。
『行く!!』
「ダメだ」
『イヤだ』
船には留守番がいるから、ひとりじゃないのはわかる。
でもオレを拾ってくれたのは貴方だ。船長。
あんた、なんだよ。船長。
その貴方がオレから手を離して、オレを置いていくという。
いかないでほしくて。
世界において行かれることになりそうな。
ひとりがこわくて。
“失うこと”がなによりも怖くて――
船を降りようとした船長の足にしがみつく。
船長がくっついているオレをみて、眉間に皺を寄せて睨んでくる。
普段から悪人面の凶悪さが増す。
「歩けねぇ。邪魔だ」
『ヤダ!』
振りほどかれそうになったけど、嫌なものだは嫌だ。
またあの恐怖が来るのが怖いんだ。
ひとりがこわい。
だけどそれより、せっかく手に入れた温もりなんだ。それを失うのが嫌だった。
オレの居場所。
あんたがオレの居場所なんだ!
あんたが側にいないと、オレはどうしたらいいかわからなくなるんだ。
オレに生きていいと言ってくれたのはあんただ。
あんたは医者として、オレを生かすと言った。
オレを殺すためにやってくる病気は“世界”。オレが世界にとっての異物だから、消されかねないというもの。
ローはそれから手が届く範囲で守ってくれると言う。
生きたいと望んだオレに重なった手は、それだけでオレを勇気づけてくれて、光へと導いてくれた。
たぶんオレはひとりにされたら、さびしくて死んでしまう病で。
そのオレを《生かす》といってくれた名医たるこの悪人面の船長と、大切な仲間の一人がかけても…寂しくて死んでしまうんだろう。
そのときこそ世界は、オレに牙をむくのかもしれない。
死なないでみんなで笑って生きようよ。この先の未来を
一緒に見よう。
そんでもって。オレも生きたい。死なせないで。
だから、ひとり。置いてくなんて言わないで。
放置すんなよ。
責任とれよ。
あのとき、雪の中でのばされた腕。
船長の手の中だけが、オレが世界に許された場所なんだ。
「サン。キャプテンはすぐに帰ってくるから」
『それでも一人はイヤだ!オレが死んでもいいのか!』
本当にこの手を離したら、オレはショック死するかもしれない。
そう訴えて首を横に振る。
こんなやりとりはこの船に乗ってから何度もあった。
もう。大丈夫だから。
怖がらないから。
迷惑かけないから・・・
「おい」
『へ?』
船長も諦めたように深く溜息をつくと、オレの首根っこをつかんで持ち上げて、ベポの方に放り投げる。
放り投げられたぁ!?
「ベポ。こいつみはっとけ」
「アイアーイ。了解キャプテン」
置き去りはダメ。
それは――たった一人で留守番するという意味ではなくて。
先に死なないでほしいってこと。
オレを置いて死んでほしくないから・・・。
死ぬのならオレの見ている前で逝ってくれ。
だから――
『………置いてかないで』
「いかねぇよ。連れてく代わりにベポにしっかりくっついてろ」
オレも一緒にいけることになった。
よし!粘り勝ちだな!
――結果、こわくて地面に足が下せませんでした(笑)
精神ダメージが思いのほかひどすぎて、みんなの邪魔してるだけで精一杯で、“外”のものと触れるだけで息が止まりかけた。
クルーでない他人に触れられただけで、震えが止まらなくて、錯乱しかけ、あっさり船に戻された。ローのあきれたようなため息つきで。
結論としては、当分船の外にでることを先延ばしにされました。
* * * * *
オレの名は。
一度死んで、そうしてまた生まれなおした経験をもつ、転生者という奴だ。
けれど二度目の生をうけた世界は――すでに完成されたシナリオが存在した。
それを《原作》と呼ぶことができる。
オレはその《原作》には含まれないイレギュラーな存在だったため、それが始まる前に、世界に干渉することを拒否された。
否、そこで生きることを拒絶された。
世界がオレを嫌って【HUNTER×HUNTER】世界から切り捨てられた。
オレがたったひとりになるのを世界は狙っていた。
待っていたように、すべての門戸がとざされ、光を失い、暗闇だけが広がる空間に突き落とされた。
そうして別の世界へと落された。
目が覚めたら、雪の降る街の中。
河原の側にゴミかなにかのように転がっていた。
空気から、肌で感じるものから、世界そのものが違うのをすぐに理解した。
動きづらいのは世界を超えた影響かと、すぐそこにあった川を覗き込めば、体は2歳ぐらいまで縮んでいた。
赤ん坊といってもいいような幼さに驚くも、まだ体が残っていたのは運がいい方だろうと、なぜか逆に納得してしまった。
現状の有様に、あの世界はよっぽどオレが嫌いだったのだと知る。
オレが“生きていた全て”を消そうと、肉体の時間さえも奪い取るとは。
本来なら、そのまま生まれる以前まで戻して、存在そのものも“はじめからなかったもの”として消すはずだったのだろう。
そうしてあの世界は《原作》どおりの決められたシナリオを、たどりなおすはずだったのだろう。
そう、理解して―――あまりの世界からの嫌われようにおかしくなって、なぜだか腹の底から笑いがこみあがってきた。
どれだけ笑っても。
笑っているのに楽しくもなくて、ただ泣きたいような気分になっていた。
けれど感情とは裏腹に、出もしない涙にそういった機能までうばれたのだろうかと、気分が覚めてくると笑いの衝動も引っ込む。
もう、どうでもいいかな。
ぶかぶかになった服をひきずって、橋下の壁に寄りかかる。
このまま“迎え”を待とうかと、考えることさえ放棄して、“そのとき”がくるのをじっと待つことにした。
誰にも気付かれないように橋の影に身をひそめていたのに、オレに気付いたやつがいて。
そいつは医者だと言った。
あの悪人面で。
そいつがここは《グランドライン》と言ったので、この世界もまた《原作》が存在する世界なんだってすぐに気付いた。
前世の記憶から、あっちは【HUNTER×HUNTER】という漫画の世界だった。
ここはどうやら同じ週刊雑誌に連載されていた【0NE-PIECE】だ。
《原作》があるってことは《決められたシナリオ》が存在するってこと。
どうせこの世界も“いつか”がくれば、オレを捨てるのだろう。
あの世界のように。
ならば。
もう何もいらない。
いつ、歴史から、人の記憶からさえも抹消されるかもわからない存在なんだ。
だったらはじめから消えるなら、はじめから何もいらない。
でも。
そんなオレを悪人面の医者は「生かす」と言った。
初めてそんなことを言われて、あまりの嬉しさに、伸ばされたローという医者の手を思わず取っていた。
伸ばされた手をつかみ返したら、すごくあたたくて。
ああ、これが生き者の温もりだったのか。と、改めて感じた。この手はこんなにやさしいんだって。
それほど昔のことでもないのに、人肌が懐かしく思えて―――そのとき初めて涙がでた。
悲しくもないのに溢れ出た涙はとまらなくて、
そのまま鼻水と涙でぼろぼろの顔のまま「うえうえ」言いながらローに俵田抱きされてお持ち帰りされた。
拾ってくれたローは、医者だけど、ハートの海賊団の船長だった。
そうしてオレはハートの海賊団の一員になったんだ。
あれから精神錯乱状態で、ロー以外の人間にも触れられないし、食べ物もうけつけないし。
とにかく“この世界のもの”がこわくて、ローにつきっきりで看病された。
ようやくクルーになれて、船の上なら足をつけても怖くなくなるまでには、とんでもない時間がかかった。
今回は外に出るのに、失敗したけど。
次こそは、って、思う。
――つぎからは。
なんて言ったはいいが、船の入り口にしがみついたまま、怖くて足が一歩も前に進みません。
おかげで、今、後ろにクルーがつまっています。
背後から「はやくいけー!」と声が聞こえるが、扉にしがみついた手が離れません。
すいません!無理です!!!
そこでため息ついてる船長!やめて!オレの指に手をかけないで!!!!!
いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!