崎穹識の日常
- 復 活 × 零 崎 -



02. 穹色は零崎であるがために





おれはみんなが大好きです。

だれにもいなくなってほしくないし、死んでなんかほしくない。



でもね――





「おれだって生きていたいんです。だからオレの代わりに死んでください」





 


―― side 名のない穹色の零崎





 


 その日、おさえていたものが壊れる――そんな予感がしていた。

あのときいままでのおれは終わりを迎えた。
平凡な。平凡な少年はもうそこにはいない。
いるのはただの殺人鬼。



 さぁ、あなたに沈黙を――
おさえを取払ったのはあなたなのだから。





あのとき、おれは母さんの買い物にでかけて、ひとごみにいた。

道を歩く。
歩いてふと気付く

今、なにか当たらなかったか?

それに不思議に思って首をかしげたとき、ズリっとへんな音が聞こえた。
その瞬間、バシャッと水が飛び散るような音が真横でして、顔に生ぬるいものがあたる。

「あ、あ、ああああ・・・・・ああああああ!!!!!」
「キャー!!!!」

側で聞こえた変な音に続いて、女のひとの耳が痛くなるような悲鳴があたりに響いたんだ。
甲高い音は耳が痛くなるように、周囲に感染し、あっというまにおれたちの周りの人が叫びだす。
それの元凶はなんだろうと、一番最初に聞こえた不快な音へと振り替える。

そこには赤が広がっていた

とっさに母さんがオレの目を隠した。

「どうしたのおかあさん?」
「なんでもないわ。大丈夫よつぅくん。だから絶対目を開けちゃダメよ」
「う、うん?」

おれの視界を隠すような、なにかあったっけ?
ただの赤色。血の色だ。
だって、それはおれの中にも流れているものと同じ色だから気にする必要はないと思うんだけど。
そういえば、おれのすぐ背後だったから、おれも全身ぬれている。

オレの視界を懸命にふさぐ母さんの手は震えていた。
だけどオレを守るためだろう。周囲の大人たちと違って気丈としていた。

見ちゃだめ。大丈夫よツゥくん。

その言葉を聞きオレは―――あぁ、抑えないといけないと。そう、漠然と思った。



あれはオレがやった。

真紅、緋色。赤色。あかいろ、あかいろ、あかいろ・・・。
まっかな――赤。

夕日さえもおぼろげにするようなその鮮血の赤は、かあさんの指の隙間から広がる狭い隙間の向こうに広がって。 ひろがっていて――。


「ふうせんはどこにいったのかな?」

 もっていた風船はめずらしくお金を賭けていたらしくたこいとよりも強いワイヤーのようなものだった。
それを使って、こうしたらいいと思うがままに力を込めた。
そうしたら糸はついにプチンと切れ、風船は空に飛んでいった。
だけど切れたのは糸だけじゃなく、おれにぶつかった男の人の身体もあっけなくきれてしまった。
骨ってあんな簡単にきれったっけ?
ああ、そうか。骨と骨ってすきまがあるんだよね。
それのつなぎ目をきったからだね。
だから彼がおれから一歩はなれたときには、身体はバラバラになって地面や周囲の人にまで値が飛び散った。
おれのせいで死んでしまったのは知ってるけど、そのときは何も思わなかった。
だって殺したのはおれって、ちゃんとわかってる。

だから、気になったのは、このひとのせいでどこかへいってしまった風船。

血で汚れてないといいけど。



 その日の新聞やテレビには、突然人がこまぎれになったとかの報道がでていた。
お母さんはしばらく青い顔で調子を崩していたけど、大乗ぶっといって笑うばかり。
でも。それじゃぁだめだと思ったから、おかあさんに「大好きなものを思い浮かべて」そう言って、ひたいとひたいをくっつける。
おかあさんが幸せそうな顔をしてクスクスとわらったので、おれは「なにもなかったんだよ」と抱きしめる。
そのとき勘がささやいた。

“炎”なら記憶を消せる。

そうだね。おれならお母さんの記憶から、おれが殺した人のことを消せる。


 それから額が暑くなった気がして、気が付くとお母さんは眠っていた。
目を覚ましたお母さんは、あの事件のことを忘れていた。
おれはなにをしたのかな?
まぁ、いっか。
やがて母の記憶から消えたように報道も静かになっていった。

 つらそうだったお母さんを見ていたから
だから決めた。

おれはたいせつなひとだけは、“決して”殺してしまうことがないようにしようと――。








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