その花は桃色ですか?



07 ダメなのは貴方の口ですか?それとも料理ですか?





それはわしが、前世バウルであったことを思い出すよりも数年前のこと。
当時はただの中学生でしかなったわしと、ヤバイ後輩の話だ。
たぶんあの後輩なら、前世でいた旅の仲間のフレンという騎士と相性がよさそうだと思った。
え?性格?ちゃうで。
後輩とフレンの性格は、真逆。むしろ会った瞬間からお互いに嫌悪しかねないほどだ。
なんの相性がいいかって・・・


料理や。








 -- side 今吉翔一 --








わしにはとんでもない後輩がおる。


初めてその後輩と会ったのは、あいつが中学一年の時。わしが中二のときだ。
入学式がはじまるすこしまえに、新入生らしい花飾りを付けた男子生徒がうちの学校のお偉いさんと会話をしたのを目撃した。
先生たちが去ったあと、彼は先程まで浮かべていた笑みを消し、幼い顔を歪めてハーと大きなため息をついていた。
顔を上げた彼とたまたま視線が合ったが、その日はそのままお辞儀をしてあいつは横を通り過ぎて行った。
それから入学式が始まり、彼が今年の新入生代表だったと知った。

第一印象は、頭のいい奴。

次に会ったのは廊下で。
会ったというかすれ違っただけともいえるが。
時期的には、たしか全国の中学生が受けるテストの結果がでたあと。
廊下ですれ違ったそいつは、また教師に囲まれていた。
あいつは困ったように笑っているのに対し、教師たちはうかれたようにテンションが異常に高く、その分声のボリュームも上がっていた。
その大音量からわかったのは、どうやらあの彼は、全国テストで全問解答&正解をだし、全国1位だったのだとか。
ほめたたえられるあいつは、遠慮やそういうのとは違う微妙な表情で、ひたすら教師を相手にしていた。
いわく。
「先生の教え方がうまかったおかげです」
「先生の山があたったんですね」
など。
ん。なわけあるかい。先生とやらが何を教えてくれるというのか。きっと彼が言うその『先生』は、きっと彼の塾の先生か何かだろう。 中学ごときの教師がテストの対策とか細かくするわけがない。自分の記憶が間違いでなければ彼を囲む教師のひとりなどは、たしか去年の自分の担任だ。 全国1位の彼に教え方を褒められて「そんなことないよ〜」と緩んだ顔をしてるが、あの教師がうまくく教えたなどとは信じられない。なにせあいつのは、教え方も何もあったもんじゃなかった。教科書を棒読みで読むだけのどこが言い教え方なのやら。
そもそも本当に教師の教え方がいいのなら、彼だけでなくクラス全体が高得点を出しているはずだ。
――そんなツッコミは、さすがに心の中にとどめて、わしはそこを通り抜けた。

二回目の印象は、変な笑い方をする奴だと思った。

次に会ったというか、目撃したのは体育の授業で。
たまたまうちのクラスと一年生のクラスの体育が同じ時間帯で、あっちは外。こっちは体育館だった。
話題になったのは、たまたま休憩に外をのぞいたクラスメートの一声がきっかけだった。
一年生の中にめちゃくちゃ運動神経のいい奴がいると聞き、あわよくば部活に勧誘してやろうという気持ちで面白半分にのぞいてみれば、あいつだった。

あの最初のテスト以降、あいつはやっぱりテストといったものはでALL100点をたたき出し続けている。
それに加えて運動神経もいいなんて、天はニ物を与えず。どころか一人の人間を贔屓しすぎやと思ったものだ。

しかも話を聞くに、あいつは愛想もよく、性格は穏やかときている。

ある生徒などの証言では、道端で倒れてる婆さんを手助けしていたのを見たとか。
教師に頼まれた仕事は断らず、きっちりこなすので教師からの評価もいい。
顔とあの笑顔にやられたのか、女子からは「かっこいい!」と「やさしい」という評価ばかり。
たまに周囲からねたむような声も聞こえるがそれよりも、彼をたたえる声の方が強い。

「ふーん」

顏もよくて。
文武両刀で。
性格もよくて?

興味を持ったのは、そんな完璧な人間いるわけないという考えと、あいつの表情に違和感があったから。

あいつの素を知ったのは、それから間もなく。
だけどあいつは「優しい」「穏やか」――みんながいうようなそない生易しい生き物じゃなかった。

あの運動神経を見て、バスケ部に誘った。
突然なんだとばかりにいぶかしげな視線を向けてきたが、すぐに「やったことがない」と返答が来た。
だけどルールを教えれば、すぐに覚えた。
そうしてあいつはバスケ部に入った。

同じ部活ですごして、あいつは1を聞いて100を理解する子だと知った。
はじめは年上だからと、その他周囲同様にわしにも敬語だった。
やはり部内でも周りのあいつへの評価は変わらない。
けれどしだいに違和感がぬぐえなくなってきていた。
後輩くんの表情は常にどこか固く、周囲をうかがうようにさりげなく視線をあちこちに向けている。
それはまるで相手の顔色を見ているようだった。
そこからあの天才の後輩が、相手の望む言葉と態度をとっているのだと気づき、いい加減それがうっとうしくなって・・・

「わしにはネコかぶらんでええで?」

あまりにつくりものめいた表情がうっとうしく思えて、ある日あいつを呼び出して遠回しな表現も比喩も何もなく率直にそう告げれば、驚いたような表情をした後、 いっきに表情をかえた。

「ふはっ!やれやれとんだくわせもんだなあんた。・・・なんでわかった?」

強烈な変化だった。

「あれま。自分の素、そないな男まさりな口調なんか」
「どうだっていいだろ」

そこにはいままで穏やかな笑みを浮かべていた後輩はおらず、はっ!と笑うのに失敗したような予想のさらに斜め上をいく独特の笑い方に、年上も先輩もなにもあったもんじゃないとばかりなふてぶてしい態度の後輩がおりましたとさ。
悪人の様に口端を持ち上げて楽しげに笑う後輩は、そのイケメンというか年齢的のせいに中性的なその綺麗な顔のせいで、感情のこもったその表情の変化は普通の子供よりはるかに大人びて見え強烈なインパクトをこちらに与えてくる。ぶっちゃけて言うと、めっちゃ悪人面でした。
どんだけ分厚いネコをかぶっていたんだか。

「世の中上手くやるためにはそっちの方が便利なんだよ」

いままでの猫の具合についてそう語る後輩は、ここまで完璧に優等生の演技ができるのならなぜねたみややっかみをかいそうなALL100という点数をだしつづけているのだろう。 すこし手を抜いておけば、天才などと周囲に持ち上げられ過度な期待をされることもなかっただろうに。
そこを問えば、諦めたように首を横にふりかたをすくめてみせた。
さすがの彼も普通の中学生がどういうものなのか、どれくらいの知能が「普通」なのかわからなかったのだという。
学校が変わる知うことは、いままで小学生だった子供たちが突然中学という環境に変わるということだ。
いままで私服だったのに、今度は制服というだけでも生活習慣が変わるので驚いた記憶は確かに自分の中にもあった。
つまりはそれと同じなのだ。
この知能指数が異常な後輩も同じことがいえ、そのため天才の彼が他の子供から浮かないようにと「普通のこども」を演じようにも、 他の子供たち同様に中学生というものがどういう生活をし、考え方をするかわからず、はじめのうちは手加減の方法がわからなかったらしい。
それがテストALL100点という結果だ。
そして一度やってしまうと、それがあたりまえになり、突然点数を下げるわけにいかなくなったそうだ。
周囲からの期待に対しても冷めた表情で彼は「あいつらは自分の功績としたいだけだろ」っと、フンと鼻を鳴らしてつっけんどんに言いきっていた。
そういうふてくされたような態度は普通の子供のようだが、言ってることはつい数か月前までランドセルを背負っていた子供のそれではない。

っと、まぁ。こうしてわしの前では素の表情をみせてくれるようになった後輩を無理やりわしのサポート役としてバスケ部で今まで以上にこきつかいつつ、色んなことに巻き込んでやった。
それからはまぁ、いろいろやった。
後輩は頭がええこやったから、証拠隠滅とかみごとな働きを見せた。なにをしたかといえば、とある教師の鬘を吹き飛ばしたり。
だがあの後輩は相変わらずわし以外の前ではみごとな優等生を演じ、わしらだけのときは汚い言葉を使うのも当たり前。 よく手や足はでるし、いたずらはするし・・・まぁ、つまるところ本当にいろいろやった。
わしてきにはあいつといろいろやるのはおもろかったし、あいつの知能は人生を楽しく生きるのには役に立った。
それはバスケにもいえ、彼はその頭脳を存分に働かせPGとして活躍してくれた。



事件は、もうじき春というそんなときにおきた。

それはモテナイ男たちが最も憎む日。
おん。もうそれがいつかわかるやろ。
2月14日。
バレンテインデーや。

その日、案の定机の上や下駄箱をチョコまみれにしていたあいつは、大量の紙袋をどこからかもらってきて詰め込んでいた。
イケメンは羨ましこったで。

っと、いうわけで。うらみつらみがつまった怨念を受信したわしは、部の仲間らとともにあるゲームをすることにした。

まず3on3のチームを組んで、トーナメントのようなことをする。
これはチョコをもらった男子へのあてつけなので、チーム編成も人数もめちゃくちゃ偏っている。
ルールはもらったチョコの数が基準となる。
今回もらったチョコの数で、チーム編制を行うのだ。

チョコ0個チーム。
1〜10個以上チーム。
11〜20個以上チーム。
20個以上チーム。

案の定、0個か1〜10個チームの人数の多いこと。
もちろんそうなるとわかってて仕組んだルール編成だ。
チョコ少数派チームの殺意のこもった視線が、大量チームにむけられていて笑えたわ。
いやーそれにしても20個以上もらったやつらが3人もいるとは。
それは義理チョコだろといいたいが、その三人ともが全員イケメンであったので、半分は本命かもしれない。

なお、チームないではいくらでも選手交代は可能。
これは10個以上のやつらをたたきのめすためのゲームなので、人数が少ない大量チームは交代なしで戦うこととなった。

作戦通りや♪

結果は目に見えてるやろ。
体力切れで、チョコ大量チームが負け。

もちろん彼らには、罰ゲームをうけてもらう。
わしらモテナイ男たちで用意したのは、チョコレート。
とはいえ、それは見た目はチョコだが、中身がカレーのルーだったり、カカオ濃度の高いチョコだったり、コーヒー豆だったり、 こんがりこげたソラマメだったりした。
ようは見てくれがチョコレートに見えれば何でもOK。
誰が用意したのか―――たぶん0個チームの3年のいい笑顔をした先輩だろう―――トッポにみせかけた鉛筆とかもあった。
どんだけもてたいねん。
つかどんだけもててないんだ。
女の恨みは怖いというが、モテナイ男の恨みもそうとうなものだと身をもって知った。つか先輩の鬼畜さに思わず顔が引きつった。

とりあえず体育館には、わしらにとって心地よい、モテル男たちの悲鳴がひたすら上がっていた。

「一番チョコレートの多かった花宮の罰ゲームチョコはこれや!」

たまたま面白いことが大好きな知人が海外の土産として買ってきたカカオ100%のチョコレート。
80%手前でもじゅうぶん苦かったから、この100%なんてもはや泥だろう。
100%は一枚しかないので、これは濃度が分からないように包装紙を変えて、モテル1の後輩に与えることにしたのだ。

他の部員へは、カカオ濃度80代が限界だった。
チョコレートの輸入品は高いが種類はある。だがそこまでわしら学生が買えるはずもない。 最近は80%前後までなら日本のメーカーも手ごろな値段で出しているのでそれを買い、溶かして可愛い型にいれて、今回の敗者にランダムくばった。

もちろんカレーのルーやら鉛筆を引き当てたやつらに続いて80代チョコでも悲鳴が上がっている。
今日は水道へ駆け込むバスケ部員をきっとよくみることだろう。

そんななか、渡されたチョコレートの板を渋い顔でみつめていた後輩が、自分のだけすでに用意されたものを渡されたのをいぶかしみ、こちらとチョコを交互にみやる。
もちろんお前のも仕掛けがあるに決まってるやろ。
さぁ、さっさと食え。
食べないという選択肢は、ゲームに負けたお前にはない。
そういう意味を込めてニコニコ微笑み返せば、小さく舌打ちとため息が――

そして学校一のモテ男は、悲鳴を待ちわびているモテナイズのキラキラとした視線を受けながら、銀色のアルミホイルをはがし、それを口に入れた。

もぐ・・・

・・・もしゃもしゃもしゃ。もぐもぐ。

「・・・お、おん?(汗)」

もぐもぐもぐもぐもぐもぐ・・・・・

「は、花宮?」
「ふぁい?(もぐもぐ)」
「え?それ食べて平気なん?」

後輩は悲鳴を上げることも、顔をしかめることもなく、むしろおいしいそうに食べ続ける。
罰ゲームのはずなのに、平然と、しかも幸せそうでさえある。
それに思わず彼の手の中にしっかりと握られた板チョコをみる。
他の生徒のものよりなんだか黒っぽいから、たぶん、きっと・・・カカオ濃度は間違ってないはずだ。

「先輩?」

「な、なんでや!花宮のだけは濃度100%にしたったんに!!」

「100%!?今吉テメェーなにしやがる!」
「キャプテンのは72%や!」
「うげぇ!?おれらのだってじゅうぶん苦いっすけど!!あんたなんちゅうもん花宮に食わせてんですか!」
「大丈夫か花宮ぁ!」
「おまえらのは86とカレーのルーだ!!」
「それでも十分鬼畜だ!」

「?・・・おいしかった、ですよ?」

意味が分からないとばかりにコテンと首を傾げられた。
仕草がちょっとかわいいとか思わないからな!
そうしてモテる後輩は、不思議そうに自分の手元と、悲鳴を上げる仲間の手の中を見つめている。

そうしてアムっとまた幸せそうにチョコをたべ始める後輩を見て、思わずその手から板を奪い取りかじる。
「あ」と、それは物寂しそうに後輩が取り返そうと手を伸ばしてくるが、しったこっちゃない。
わしは間違ってないはずや。ちゃんと100%を用意したはずで・・・・

うげぇ・・・

「ぐっ!げほ!ごほ!!な、なん!?」

それはまさに泥だった。
苦いのかえぐいのかもうわからない。
口の中でなかなかとけないし、なのに一気に喉は乾くし、いっそ地面を舐めているような気分になる。

まちがいなくこれは100%チョコだろう。
87%?ブラックチョッコ?そんなものがあまったるく感じるレベルのものだった。

チョコレートはいつのまにか後輩の手に戻っていて、後輩は幸せそうに口に入れていく。
間接キスとかちゃかせる状態ではなかった。

なんでこないなもん食えねん!?
このわしが、しばらくしゃべれなくて、その場でたおれこんだまま口を押えてプルプルと震えるしかできなかった。

それから、100%の苦痛から解放され舌が動くようになると水をがぶ飲みした。
あの一口でこれだけダメージを与えられるとはおそるべしチョコレート。


こんな結末を望んでいたわけではないが、この後輩、どうやら味覚障害だったらしい。

口が動くようになった後、勢いのままに後輩のご家族に確認を取っろうと連絡したところ、身内らしい電話相手の人間に驚かれた。あちらさんもその事実を知らなかったらしい。
罰ゲームでわかるとか、なにそれ状態である。
詳しくはわからなかったが、この後輩の家は複雑で、家族は仕事の都合でほとんど家におらず、 頭の回転が速く五歳のころにはもう身の回りの世話を一人でできてしまったこいつは、 ネグレストやら暴力やら放置などといったことをされていたわけではないようなのだが、家に一人きりで過ごすことが多かったらしい。もちろん料理も自分でやっていた。
その結果、彼の料理がまずい美味いを指摘する人間はおらず、いままでだれも彼の味覚障害に気が付かなかったとか。
とんでもないビックリである。

電話が終わり、チラリとみやれば、人形のような表情が多いその顔がで普段は見せたことのない幸せそうな笑顔をうかべている。
うまいうまいとそれはもう周囲に花を散らさんばかりのゆるい表情で、あのカカオ100%のチョコレートをくらっていた。

その日、バスケ部に伝説が生まれた。





それから武勇伝を作り上げた味覚音痴の後輩は、バスケ選手としても才能を見せていった。
いつしか彼は、「悪童」とよばれるようになった。





* * * * *





「わしは思うねん。花宮とフレンくんってお似合いやな〜って。
むしろお前フレンちゃうん?
いや、わかっとるんよ。 あの潔癖な騎士であるフレンが、たとえ死んで生まれ変わったとしても、花宮みたいなたちの悪い性格はしてないってのは。 なんとなく想像できる。
せやけど、これはあかんよ。うん。あかんやろ。――助けてや〜花宮」

桃井から渡されたタッパーをあけた瞬間、思い出されたのは、中学時代のあの衝撃な事件。
後輩の花宮は、性格はめっぽう悪く、たくさんのネコをかぶっているようなゲスだが、料理のみてくれだけはとても素晴らしかった。
本人は味覚音痴だから、あれがおいしいという食べ物は全部あかんかったが。

それを思い出す陽で思い出さないようで・・・・目の前のものを見て思わずうなってしまう。
ハチミツ(?)のなかにぷっかりと浮かぶのは、丸ごとのレモン。

まさか桃井がフレン?
いや、この料理の仕方の系統は、また別のだれかだろう。

タッパーのなかみを覗き見た桜井が「すみません!すみません!とめられなくてごめんなさい!」とあやまりだし、 中身を見て顔をしかめた青峰が「シーフォ隊長のは見た目だけは美味しそうでした。ってルブランが言ってる」と言うだけ言って痛ましいものをみるようにそっと顔をそむけていた。

わし、前世はいちおうバウルっちゅう大きなクジラみたいな空飛ぶ獣やったけど、相棒のジュディスは料理が上手やったん。
もちろん前世のときに、その手料理をいただくことは何度もあった。
仲間の手料理もしかり。

前世では、少しの間仲間だったフレン・シーフォという騎士がいた。
これまたとんでもないきまじめなやつで、教科書にかかれてそうな正義厨で「これぞまさに騎士!」といわんばかりのやつだった。
そいつの料理は見た目は美味しそうで匂いもおいしそうだった。

だけど一度食べさせてもらってからは嫌いになった。

青峰が言うように、彼の料理のみかけはいい。 だが味はこうガッツーン!と頭を殴られたような衝撃を与えられ、 星が目の前にちり、バウルは空を飛べなくなり状態異常になったものだ。

花宮はまさにこれの再来だ。

だが、別軍なプロモーションをもつ美少女たる目の前の桃色な少女のは、もはや料理と呼んでいいのかさえ怪しい。

つまり何が言いたいかというと。
獣だって、人だって、美味しい物が食べたい。っと、いうか、おいしくなくてもいいから、口に入れるなら食べられるものがいいということ。


そして、いまわしらの目の前には、タッパーの他にも・・・・食べられるかも微妙そうなものがある。

「どうしましたかみなさん?あ、別にクッキーもつくってきたんでぜひたべてくださいね!」

かわいらしい笑顔で、さぁ!と部活の練習で疲れたわしらを気遣って桃色の少女が、手作りの物をいろいろ出してくる。


ああ、桃井の姿が、前世の仲間のお姫さんとかぶってみえる。
花の化身のようなあのお姫様とて、最初はさすがに料理はできなかった。だが彼女とて、一緒に旅をしている間に料理は上達していた。
だからきっと桃井の料理もそのうちうまくなるだろう。きっと。いつかは・・・。

っが、しかし。
桃井の料理はだめだ。
美味くならない。

しかも「いつか」ではだめなのだ。
わしらには時間の猶予がない。
なぜならば、「いま」、この瞬間にでも彼女の料理の腕がまっとうでなければいけない。
そうでなければ



わしらは死ぬ。



だって目の前あるのだ。
タッパーのなかには、まんまの蜂蜜のレモン漬け。
なんかハチミツの上にぷっかりとなにかの"カプセルの溶けそこない"みたいなのが浮いてるし。
そしてクッキーだという紫色の物体は、ドロリドロリとして若干"液体状"になっている。

これを今まさに突きつけられてるわけで。
つまりは今すぐこれを食べなければいけないわけで・・・。





「たすけてはなみやーーーーーーー」





お前ならきっとこの料理も平然と食える。
なんたってカカオ100%大好きっ子!

以前、桃井からもらったものをこっそり持ち帰り処分しようとしたとき、あの味覚音痴の後輩とたまたま出会ったことがあった。
あのとき思わずおしつけた謎の物体X。
だが花宮は平然と、むしろ「うまい」と言ってあのマドレーヌだという血のように"赤い"物体を食べきったのだ。

そんなフレン・シーフォのごとき舌を持つていたお前のことだ。
今回の《これ》もお前なら平気やろ?!なぁ!いますぐ食べたいと言ってくれや。

つか、お前フレンちゃうの?!
ちがってもあっててもこの際どうでもいい!

だからわしらのかわりに・・・



しかし、今わしらの側には、お助けマン花宮はいない。










<< Back  TOP  Next >>