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02. イタリアの家庭教師 |
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:: side 沢田綱吉 :: さて、前世持ちのおれが、中学生になった。 いわずもがな。『沢田綱吉』を待ち構えているのはボンゴレへの道のはじまりの瞬間である。 もちろんなにがなんでも回避させてもらうつもりだけどね!! ポストを確認するのは小さいときからおれの役目だった。 なにせいつ『あいつ』がくるか分からなかったから。 「ん〜。これもゴミだな」 ポストに入っていた“あなたのお子様を次世代のニューリーダーに〜”とかいう家庭教師の広告が入っていた。 捨てたり破ったりすると、これをポストに入れただろうヒットマンに気付かれてしまう。 そうするとあいつはまたポストにこのチラシをいれるだろう。 もうじきおれは学校に行かなくてはいけないので、ポストからはみだした目立つチラシなんかあれば次は絶対母が気付く。 「母さん、郵便ここおいとくからね」 「あらあら。ツゥくんありがとうね」 ほんわかとした笑顔で母が言うのに、笑顔で返して、こっそり一枚の広告だけポケットにねじこむ。 よし。学校で捨てよう。 っで、安心していたのに…。 「チャオッス」 赤ん坊の家庭教師が家の中にいました。 なんでだよ!! そう思って頭を抱えそうになったけど、それも予想内のうち。 だってリボーンだもん。 どんな手を使ってでも家に入り込むのは間違いない。 けど…前世のおれのようには、いかせない。 そう、今のおれはそれほど甘くはない。 それにさ――ここは日本なわけだよ。 つまりね。 「あら。まぁ、どこの子かしら?」 「ダメだよボク。靴を履けるようになって嬉しいのも分かるけど、家の中では靴を脱がないとね」 母さんが驚いている間に、リボーンの脇の下に手をやって抱き上げる。 おれはダメツナを演じることもなく、実力を発揮することはせず、でもありのままですごしてる。 だから少しだけおとなびているとは言われるけど、極力目立ってはいないはず。 本当が混じるから疑うことがない。 その周囲を騙しとおしている演技でもってにっこり笑って、リボーンに対しても苦笑するだけで本物の赤ん坊と同じ扱いをする。 まさかそうされるとは思っても見なかったようで、あまりかわらないリボーンの表情がギョッと驚きに動いた。 でもおれは一般人を装って、気付かない振りをする。 「母さーん、ちょっと雑巾とって」 「はいはい。ちょっと待ってね」 おれの言いたいことがわかったようで母さんも笑顔でとりにいく。 その間におれはリボーンに、泥がついている部分を丁寧にはらってやる。 相手はリボーンじゃない。小さな子供だ。そう設定を脳に叩き込んで、前世での因縁を忘れてひとまず赤ん坊には赤ん坊らしく接してみることにする。 前世のように、『ねっちょり家庭教師』なんぞに憑かれてたまるか。 だからリボーンが“やっと歩けるようになって靴を買ってもらえて喜んでいる赤ん坊”だと思い込んでいる風にみせかけて話を進めていると、前世では即銃をむけてきたり、絶対だっこなんかさせなかったリボーンが、眉を寄せながらもおとなしく話を聞いているのにおかしくなる。 「ふふ。まだちっちゃいのにやんちゃだね〜。」 つい自分が知る彼とは違いすぎる大人すぎるリボーンに。 前世と比べてしまって笑ってしまった。 するとリボーンはおれの腕の中で、チッと舌打ちを打ち「やりにくいな」と呟いていた。 なるほど。 リボーンは、ただの赤ん坊扱いされるのは、反吐が出るほど嫌いだったはず。 だからといって不気味な赤ん坊と見られるのも嫌い。 たぶん一目見て赤ん坊が歩いていたり、普通にしゃべることに対する驚きを普通の人間は見せる。 ときに凄腕の赤ん坊ヒットマンのアルコバレーノとして知られているならば、恐怖や憎しみ、奇異などの視線で見られる。 それのどれとも違う反応に、リボーンらしくなく戸惑っているようだ。 なら一度やってみたかんだよな〜。 リボーンをギュってしてみたかった。 「う〜ん!やわらかい!!いいね赤ん坊肌って。もちもちしててかわいい!」 「・・・はなせ」 「やだ。っていうかダメだよ。まだ靴の裏拭きおわってないんだから」 「脱げばいいだけだろうが」 「あ、そっか。でももうちょっとだけ」 昔は怖いだけだった。 昔は信頼できる頼れる家庭教師だった。 でもどこかでは彼の手の早さに恐怖していた。 昔は――いつしか側にいるのが当たり前の存在になっていた。 それでも最後はいつも強気に出ることができないのは、幼少期にさせられたあのねちょりな修行のせいだろう。 だけどね。 今は違う。 もう一度、やりなおそう。 今度はもっと君と、信頼を築きあいたい。 もっと近づいて、おれから警戒心をなくさせる。 そうしたら 君は―― イタリアに戻るんだよ。 そう。だっておれは絶対なにが何でもボンゴレを継ぎたくないんだから。 今のおれには家庭教師なんか不要だし、ボンゴレにはザンザスがいるだろう。 え?血のつながり? リングに宿る一世を脅してでも拒否しようかなって思ってるけど。なにか問題でも? それに…。 “やられる前にやれ”と最初におれに叩き込んだのは、おまえじゃないか。ねぇ、リボーン。 たしかにこの餅肌は手放しがたいけど。そう簡単におれの野望は、止められはしない。 たとえそれがリボーンでも。 だからリボーンがこの家に来た理由を彼の口から言えないように、話をおれのペースに引き込んでいく。 母さんが来たら、こいつの靴の泥を落として、母さんが住み込みのOKを出す前に――即、準備していた道具を用意しよう。 「つぅくん、これでいいかしら?」 「うん。充分だよ。ありがとう母さん」 「ほら、足出して〜。綺麗になったら家の中でも靴で歩いていいからね」 なんか言いたそうだけど、それを言うにいえないらしく、ただ言われるがままにおとなしく足をだしてくれるリボーンが本気で、 前世の彼とは違って別人のようだと思ってしまった。 そしておれは、母さんが「どこの子?」「お茶でもいかが?」という前に、彼をつれて家を出る。 「じゃぁ、そろそろ送ってくるね」 「おい。ちょっと待て!おれは…」 「だめだよ。まだそんな小さいうちからそんな言葉遣いじゃ。 お兄さんがおうちまで送ってあげるから、お話ししながら、途中まで一緒にいこうね〜」 リボーンが「家庭教師」なんてふざけた発言をする前に笑顔で言葉を封じ、銃なんて物騒なものを取り出すことさえさせないように手をつないで歩く。 母さんがそんなおれたちを疑うこともせず、気をつけてね〜と見送ってくれる。 リボーンはしばらく押し黙っていたが、何かを諦めたように小さくため息をつくと、抵抗するでもなく家の外には出てくれた。 ここで「君のお家はどこかな?」なんてバカなことは、おれは絶対聞かない。 聞いたらこいつはイタリアのことやマフィアのことを語りだすだろうから。 だから、演じる。 可愛い子と歩けて嬉しいという風に。 そしてうかれているように、おれの学生生活とかを面白おかしく語ってやりながら、 “迷子の子という設定”にしてあるはずのリボーンに道も聞かずに一人勝手に歩く。 「おい」 案の定、家から少し離れた所で、リボーンが不信をあらわにして声をかけてきた。 「ん?なぁに?」 「普通、迷子の子供には道を尋ねてから歩くもんじゃねーのか?」 「え?たずねてほしかったの?でもどうせ公園で遊んでたんでしょ?」 だって、この辺で遊び場って公園しかないよねと、不思議そうに首を傾げてみせる。 ついでになぜ名前を聞かない?といわれたときは「忘れてた!ごめんね!ずっと君なんてよばれたくないよね」で誤魔化した。 だって、隙を与えるわけにはいかない。 一瞬でも気を抜けば、リボーンはマフィアやイタリ・・・以下略。 この可愛い口から、そんなオレの未来を狂わす単語を聞かないよう、リボーンからはイタリアの話をさせないよう歩き――だけど目的は公園ではなく、郵便局。 リボーンのことだろうからおれの身辺調査やらはしているだろうし、現に三日前からつけられていた気配や視線は感じていた。 だけど土地勘まではないだろう。 これはいい具合に超直感が働いて間違いないことが分かっているので、うまく郵便局へと誘導することに成功した。 「おい、綱吉」 「だからだめだって。外見だけとはいえオレは君より年上だよ。 たとえ本当は君の方が年上であったとしても、今の君は赤ん坊なんだよ。目上の人にその態度は・・・ね」 だんだんとおれの行動を怪しく思ったのか、リボーンがついに口を開いた瞬間、おれは態度を崩さず笑う。 おれの「外見だけ」という発言に殺気をまとって振り向こうとしたときには、リボーンを抱き上げ――帽子の上のレオンごと、リボーンをガムテープで一気に縛り上げる。 さすがに意表をついただけあり、あのアルコバレーノといえどガムテには勝てなかったようでムガムガもがいている。 それを隠していた空気穴を開けたダンボール(くっしょん入り)に「ちゃんとおうちに帰してあげるから安心して」と笑って ――そのまま気絶させて、仮死状態にし、さらにおまけと『ゼロ地点突破ファーストエディション』でカチンコチンに凍らした。 そのまま鼻歌を歌いながら黒いフィルムで覆い、リンゴがいたまないようにいろいろ梱包に食う風を凝らす。 あとは、すでに郵便局に届いていたリンゴ入りの箱を受け取って、その中にリボーンの氷漬けが入った小さな箱をしまう。 もちろん赤外線フィルターで遮断してあるから、みえるのはリンゴだけ。 ウキウキと詰め込んで、これまた頑丈にガムテームで封をした。 「すいませーん。これ国外便でお願いします。 あ、あと着払いで!それとなまものなんで丁寧にお願いできますか?」 「品物はなんですか?」 「リンゴとリボーンの氷漬けで」 「りぼん?」 「あ、すみません。おれが書きますね」 言っただろうリボーン。 【おうちまで送ってあげる】と。 【途中まで】一緒にいこうね〜と――。 だから君とはここでお別れ。 オレはこっから先には行かないからね。 日本に残るよ。 でもイタリアンな君は元いた場所(イタリア)へ。 宛先はイタリアのボンゴレ本部。 送り主は書かなくとも中身が『最強のヒットマンリボーン』と書いてあれば、さすがのボンゴレ本部への直通でも誰かが開けてくれるだろう。 郵便内容欄には、始め“リンゴ”だけにしようかと思ったんだけど、そうするとリボーンが中に入っているのも気付かれずテロを疑われて本部に届かないかもしれない。 あるいはボンゴレの検疫で中も確認せず破棄されるかもしれない。 爆弾と果物の貢物は、おれが前世でボスをしていたときもしょっちゅうだったから、宅配便に関する警戒は厳重なはずだ。 でもそこに書かれているのが九代目の信用するアルコバレーノのリボーンからの届けものなら、本部に通される確率が高い。 まして中身の欄に“リボーン”とかかれているならなおさら。 ああ、愉快だね。 開けてビックリ玉手箱ってネ(笑) これもすべておれにまたアルコバレーノをよこす九代目が悪い。 だっておれは前世では、中学生以降の人生はアルコバレーノとほとんど暮らしていたんだ。 リボーンのだいたいの重さや大きさを把握していてもおかしくないだろう? これのために今日の学校帰りに寄り道をして、八百屋さんからリンゴを買ったんだから。 税関? 大丈夫大丈夫。 生体反応なんかあるわけないじゃん。 だって仮死状態で息してないし、死炎で凍らせちゃったからね。 それに赤外線サーチとかも潜り抜けられるように、箱の内側にはしっかり赤外線遮断シートを貼ってあるんだよ。 大丈夫大丈夫。 さらには小さなリボーンの入った箱は、一回り大き目の箱にいれっちゃったし。 リボーンの箱を隠すように周囲を覆うように、きちんとリンゴを一箱分いれました。 本気でばれるはずがない。 なにより相手はリボーンだから、仮死状態にさせなくても普通に大丈夫だったと思うよ。 だって“アルコバレーノ”の死は、世界が許さないからね。 まぁ、いい。 さぁ、おれは今までどおりの生活に戻ろう。 ただ――イタリアのボンゴレで驚きに目を見張るだろう九代目やヴァリアーの顔が見れないことだけが残念で仕方がない。 「ただいま母さん」 「あら。よかった。あの子のおうちわかったのね」 「うん。イタリアのヒットマンはイタリアに無事帰ったよ」 おれの平穏を守るためなら―― 【オマケ】 だってイタリアのマフィアなんだろ? だったらちゃんとイタリアに返さなきゃね……クスクスクス |