有り得ない偶然 SideW
++ 黒 子のバ ケ ++




転: 夢見るモノの崩壊衝動






白い制服って思いのほかかわいいわね。
金色の今のワタシの髪にはふさわしいわ。
清楚で可憐に見えるでしょう。

毎日見る姿見をのぞき込めば、今日も理想的で可憐な少女の姿が映る。
始めの頃はかすかに違和感をおぼえたけれど、特に鏡の表面がゆがんでいるようにも見えないし、太って見えるわけでもない。鏡に異常はなさそう。それに"今"は、違和感をかじないから不思議ね。





++ side ワタシ ++





ワタシが誠凛に入学して一か月。

ふふ。
いいわね。

鏡に映る姿はいつも理想そのもの。
だからわかる。
みんなみんなワタシを愛してる。
だって、ワタシはこんなにかわいいんだもの。

いまとなっては、この学校の女子も男子もワタシの虜。
むしろこの町全体がワタシのもの。
ワタシの言うことはね、みんなきいてくれるの。
それも当然よね。だってワタシのためにこの物語の世界はあるのだから。

ワタシの生活は、とっても快適になった。
口うるさい他の神々(やつら)はいないし、小姑のような弟からの小言もない。
好きなことをしても誰も怒らない。文句も言ってこない。
だらけて仕事をさぼろうが、手を抜こうが注意する者は誰もいない。
あの弟はワタシが少しだらけるだけでブーブとうるさ・・・あら。弟って誰のことだったかしら。
まぁいいわ。
そもそも役目とはいえ、なぜワタシが嫌いな人間ごときのために働かなければいけなかったのか。
だけど人間の生活は思っていた以上に快適だった。
人間てこんな楽な生活をしていたなんて、ずるいたらありゃぁしない
こんなふうに羽を伸ばして楽な生活ができるのなら、もっと早くイレモノを用意して人間にまぎれればよかった。

ああ、でもこういうことができているのは、“神様に愛されているから”よね。
愛されているから力を授けられたんだもの。

どうだったかしら。ちょっと違う気がするわね。
そうそう。神様は"私を"殺したんだったわ。
だから神様は責任を取る必要があるの。当然でしょう。
自身のミスで殺してしまったのだから、その責任はとるとあの神はワタシに物語の世界をくれた。

それにあれはワタシの愚弟。あの弟神はワタシにさからえない。

ん、なんかしら。まだ違和感があるわねぇ。
そういえば、"私"を殺したのはワタシだものね。
弟が責任を感じるのはおかしい…だから弟って誰よ!

変ねぇ、最近ちょっと記憶が混濁してきている気がする。
そういえばこの世界に転生させられたときのことも、転生をさせてくれた神様のことも思いだせなくなってきている。
でもきっと問題はないわ。
シナリオは崩れてないし。
なによりワタシはきちんとこの世界に転生できているし、神は願いをかなえてくれて、力と衣食住をくれたもの。





 + + + + +





あれから数か月。
世界は問題なくシナリオをすすめていた。

木吉鉄平は原作(シナリオ)どおり、何もない新設校にバスケ部を創設した。

運がいいことにワタシは、彼に近しい存在である相田リコとクラスメイトだったから、芸術の神もびっくりな持ち前の演技力を発揮してすぐに彼女とワタシは親友と呼べるくらい仲良くなれた。
おかげで自然を装って、彼らの側にいれる。

バスケなんて本当はよくわからないけど、あれほど専門用語にあふれていた原作の漫画だって"私なら"さらっと読めてたもの。
試合だってきっとみていれば終わるわ。点が入れば勝ちなんだから、そのたびに喜んだりかなしんだふりをしていればいいんだもの。
それだけよ。
たいしたことはないわ。

「木吉クンの足はぁ〜。ん〜っと」

バスケができなくなろうがしったことではないし、本音を言うとどうでもいい。
でもこの足が壊れてしまうと、一年間は通院で。
誠凛は一年次の大会で負けてしまうのよね。

でも。

「どうせ、“キセキの世代”は来年にならないとこないのよねぇ」

なら、知らないふりをしていればいい。
木吉クンの足が限界に近いなんて。

「そうよねぇ。だってワタシ、お医者様じゃないもん。壊れるって知ってる方がおかしんだわ」

そうしてこわされてくればいいわ。

それでも来年には試合できてたははず。だからワタシが気にする必要はない。
火神君と黒子君を目立たせるためには、彼はあとからきてもらわないとダメ。
だからワタシがやるべきことはただ一つ。

「彼を心から心配するイイ女を演じるの」

そうすればきっとみんなワタシを心優しいと思うに違いない。


でも、もっと"確実性"がほしいわね。
そうね。そのためには何が必要かしら。

ああ。そう。そうよ。悪役が必要だったわね。

たしか原作でも一人「完全悪」みたいな凄いのがいたのよね。
原作者も彼のことは「作中唯一の<悪>としてかいていた」とかウンヌン・・・そんな話もどこかで聞いた気がする。
まぁこの記憶が間違っていても大したことではないわ。
確実に木吉鉄平をこわす存在がいるのならそれでいい。

そう。この物語の悪役は“花宮真”だったわ。
ならば彼にはしっかり木吉鉄平をつぶしてもらわなくちゃ。

その後には――
あいつの落ちるさまでも面白おかしく見物しようかしら。
木吉鉄平の次は貴方の番。

そういうわけだから、“花宮真”には、もっと痛い目を見てもらわなくちゃ。

だってそうでしょう?
悪役にはそれ相応の立場がふさわしい。
彼は木吉君からバスケをうばったんだから。
彼だって、少しは痛い目を見ればいいのよ。
そうでなくちゃ木吉君が足を痛めた分無駄になってしまうでしょう。

たしか今年の試合で、木吉君は彼に壊される。

なら、それまでは遊ばせてあげるわ、花宮君。
その性格をふんだんに使って、好きなように人生を踏み外してね。
木吉君の足が壊れたら、そのあとは、ワタシが貴方を落としてあげるばん。

誰にも気づかれるつもりはないけれど、花宮君にワタシが何かしていたとばれたら・・・ 理由はそうねぇ、同じ部活の大切な仲間を傷つけられたんだから、ワタシが怒ったとしてもおかしくないわよね。そういうシナリオも用意しておきましょうか。
ラフプレーにより壊されたひとたちをつかってもいいわね。
縁をつないであげるわ。
花宮真にとっての悪縁を。
それにね、よくあるでしょ?嫉妬。怨恨による事件なんて。
目が曇った人間たちが、何かをしでかすなんてのもよくあることじゃない。そいつらが花宮真に手を出してしまったとしてもおかしくはないでしょう?
復讐に目がくらんだ人間がよくやることだものねぇ。
そう、これは復讐。
それにここはワタシのための世界。なにをしたって、いいはずでしょう?

だからワタシは木吉君の足が壊れた後は、貴方をはめるの花宮真。
貴方の外堀を埋めて、埋めてうめて…そうして貴方を孤立させ絶望を味合わせる。
それに悪童はわるものって意味でしょう。だから貴方の言葉を信じるものなんていない。でも貴方がどれほど真実を述べようときっと誰も信じない。
正義は常にワタシ。
か弱い女子高生のワタシと貴方。信じるなら“悪童”である貴方よりワタシでしょう?

貴方は頭がいいという。そうしてワタシへの糸口を見つけたとしても。さて、そこでワタシを責めればいいわ。ワタシを一度でも罵倒すればどうなるかしら。ワタシに暴言を吐けば、それは周囲からの貴方の印象をさらに悪くするだけ。そう貴方に向けられるのは軽蔑の視線のみ。
ふふ。想像しただけでも楽しいわぁ。
なんてざまぁないのかしら。

貴方の言葉なんて誰も信じない。
だって貴方は“悪童”だもの。

「ワタシのこと嫌いになってね花宮真。そうしてワタシの悪口をたくさん言うといいわ。 そうしたらワタシは悲劇のヒロイン。みんなが貴方からワタシをかばてくれるでしょう」



あはは、本当になんて愉快なシナリオなのしら。
ごめんなさい花宮君。
ワタシ、原作を読んでいた時から、もともと貴方のゲスいキャラ、好きじゃないのよ。
頭がいいとかいう設定も、下等生物が何を言っているのかと思ったし。
お前たちごときたかが矮小な人間でないくせに、ワタシを見下すなど何様のつもりかと思ったわ。そう。ワタシはすでに漫画の枠越しに、貴方から、上から目線な視線を投げかけられている。あのときから、貴方が嫌いでしょうがなかった。
すごいムカツいてたの。酷い屈辱だった。
ああ、こんな小さな存在ごときに見下される不快感、そんあやつらになぜワタシが運命(生きるための道導)を与えなければいけないのか。それがないと何もできない人間ごときが。
こんなやつらは、ワタシを褒めたたえあがめるべきであって、ワタシを見下すなど許されない。

だから貴方を陥れるチャンスを狙っていた。
ああ、試合が楽しみねぇ。


ざまぁないわよね。





――だからワタシのために





みんなみんな
 壊れてちょうだい。





 + + + + +





ワタシが誠凛の学生になってから一年がたった。

計画通り、ことはうまくすすんでいる。
原作と同じように、一年の時の試合で木吉が怪我をした。
どうやら木吉は花宮に忠告を受けていたようだけど、それがなんだというの?

「怪我をさせたのは花宮でしょう?」

ワタシがそう言ってやれば、みんながそのとおりだと賛同してくれた。
煽ればすぐにのってくる人間たちのなんと愚かなことか。

さぁ、恨んで。
あいつを恨むの。
そのままあんなやつ嫌われてしまえばいいのにね。

試合後に霧崎のやつらが睨んできたけど、しったこっちゃないわ。
脇役風情の言葉なんて、ワタシの前では無意味な炉端の石も同じ。

ほら、周囲に「睨んでくるの怖い」とでも泣きつけば、ワルモノはあちら。
ワタシの言葉は絶対。
そうみんな見て。ワタシが正しいのだから。

試合終了後に、舌打ちをしつつ顔をしかめる花宮が見えた。
ああ、これよこれ。
イイ顔ねぇ。
霧崎の子も誰もそんな花宮から視線をそらしているし、こえもかけない。
あの様子だと、どうやら外堀からせめて孤立化させることには成功しているわね。

すべては悪である“花宮真”のせい。

ふふ、悪童なんてたいしたことないわね。
ざまぁないわ。



さぁ、始めましょう。
続けましょう。
ワタシのための、すてきな物語を――





このさいはっきり言ってしまおうと思う。
本当は、誠凛のあの眼鏡、キャプテンって、ワタシにとってはどうでもいいの。
一年のベンチの子も、ちょっと名前あやしいぐらいだし。
この世界にトリップしたいと思う要因は、眼鏡くんでもベンチくんでもないの。
ワタシにとっては、火神君だけがいればいいの。

火神君と黒子君だけが、光。
二人こそが"私の"光だったから。

二人のそばで二人をみれれば満足だった。



――そのはずだ。


はて?
本当にそうだったろうか。
これは遊戯だ。神の息抜きであったはず・・・そもそもイキヌキとは何だったか?
たかが人間ごときなど、ワタシからすればただの駒。言うことを聞いてしかるべき存在。
そんな者たちをみて何が楽しいのだったか?
だがそれだと辻褄があわない。ワタシがこの世界を選んだ理由と。

そもそもワタシは"キレイなモノ"がすきだったはず。
そう。だから、"私にとっての光"である火神大我がいるこの世界に来た。
"私の目"からみた彼らがとても輝いていてきれいだったから。

そうそう。キセキとよばれる人間たちが、とてもキレイな顔をしていたからだったわね。
キレイな子たちを大事にしたい。
それをメインにしたいところだけど、一番には火神大我を重視しなければいけない気がする。

火神大我と黒子テツヤの二人がいなければ、バスケなんか興味もないのよ。
ルールもよくわからないし。

それでも付き合ってあげてるんだから、感謝ぐらいしてほしいわ。

そもそも汗をかいたまま触れられたくない。ひとの汗なんてどこがいいのよ?
あきもせず彼らは練習して、汗まみれになって、きたないのよ。
タオルを渡したりドリンクをつくるのがマネージャーの仕事?
勘弁してよって感じ。
だというのに、そんなくだらいもので毎日毎日毎日・・・!! 新設校だから舐められないようにってリコちゃんははりきっているけど、なにも土日まで練習しなくてもいいじゃない。
普段だっていつまでこのボール遊びやってんのよって思うぐらい放課後をめいいっぱい使って練習練習練習。
練習ばっか。
おしゃれしたくてもする暇もないし。
むしろおしゃれをしたとしてもリコちゃんを含め誰も気づいてなんかくれないもの。
本当に、いやになる。

日向くんやリコちゃんや伊月君、他にもたくさんのみんながワタシにとっても優しい。
だけどワタシがきれいにしても気づかないの。
青春漫画はこれだからあこまるわね。
他の奴なんかは、ワタシの美貌にひかれ媚を売っては、仲良くなろうと近づいてくるというのに。

たくさんの人間たちがワタシに媚びを売る。仲良くなろうと声をかけてくる。ワタシをもとめて争いが起きる。
それって、ワタシがきれいだって認めてくれたってことだから、別にいいのよ。
でもね。デートに一人をさそえば、なぜかぞろぞろとどうでもいい"みんな"がついてくるしまつ。
学校内でも綺麗どころといったらやっぱりバスケ部の人たちだけで、あとはみんなモブばかり。だからバスケ部でがまんしてあげてるのよ。
だけどバスケ部員でどこかに行くっていったら、スポーツ用品店か、ストバスのコートよ。
デートセンスなんかゼロ。
ほんと、バスケバカって、ただのバカよね。
いやになるわ。


だからね。休みになろうと、去年一年は本当につまらなかったの。
伊月くんぐらいしか目の保養にはならなかったわ。

当然よね。

しかも夏休みになろうと、やっぱりバスケ。
言葉巧みに用事があるからと言っては、部活からぬけでたものの、ひとりでぶらついても面白くもなかったわ。


ああ、でも。
去年と言えば、ひとり気になる子がいるのよね。





 

道端で出会っただけ。
綺麗な子というわけでもなければ、どこにでもいそうな普通な子。言葉を交わしたわけでもない。
何でもない本当に通りすがり。
だけど、とても印象的な"緑の目"のあの子は誰かしら?
男の子なのか女の子かその一瞬じゃわからなかった。
目があったのは一瞬。
ただあの“緑”が脳裏に焼き付いて忘れられないだけ。
もしワタシがあのときに話しかけていれば、あの子はワタシのものになったのかしら?

綺麗なきれいな緑の瞳。
そう、飲み込まれてしましそうな鮮やかな緑。あれはまるで魂まで丸っとすべて見つめられているような.....





 

ハッ!?いけないいけない。ワタシは今なにを。


いけないいけない。
ワタシったら、ただのモブになに浮気してるのかしら。

そうよ。ワタシには火神くんや、キセキの世代という恋人ができるのだから。
あんな道端の草なんか気にする必要はないわ。

今年はようやくキセキや黒子君たちが高校生になった年。
すでに黒子くんを筆頭に出会ったキセキたちは、ワタシのことを好いてくれてる。

何人のキセキと連絡先を交換したかしら。
可愛いワタシの恋人たちは、いつもワタシを求めて、毎日ラインやメールをよこしてくる。
火神君は日本語が苦手だと言っていて、ラインはしていないらしくて、残念ながらあまり連絡はくれない。
黒子くんも・・・そういえば黒子君は最初のころは、他のキセキ同様に毎日ワタシを求めてくれたのに・・・あ、そういえば毎日学校で会えるから、それだけで幸せだと言ってくれてたわね。

『あー俺日本語話せるけど、文章とか苦手でさ。ラインとかメールやってないんだわ(ということにしておく)。sorry』
「僕は!他の人と同じような手段なんか使いたくありません!大事にな十九子先輩には直接会ってお話したいです!」

火神くんも黒子君も照れ屋さんね。
火神くんは視線をそらしながら申し訳なさそうに言ってきたの。とても可愛いかったわ。
黒子くんは、まっすぐにワタシをみて、それはもうはずかしそうに。

二人ともワタシと直接話したいんですって。
神様からもらった効果は本当にすごい!
ただ、黒子君は陰が薄くてあまり気付いてあげれないのが残念だけど。





 + + + + +





今の季節は夏。
すっかり原作は動き出していて、もう随分進んだわ。

誠凛の場バスケ部で、お祭りに行くことになったわ。
原作ではなかったけど、番外編か何かであったのかしら。

ワタシはずっとこの日を待っていたの。
こんなイベントを!

これはきっとチャンスよ。
日々マネージャー業なんてしてアピールしてるから、普段のワタシのことはかなりイイ印象で残ってるとは思うけど、 これでもっと火神君に近づけるに違いないもの。

他のキセキや他行のレギューラに会いにいかないのかって?原作にあった海合宿はどうしたかですって?
いくわけないじゃない。
秀徳と会えるイベントなのに・・・って、いわれても秀徳は興味ないわよ。

夏はね、ただでさえ暑いのよ。
なのになんで海まで行って、泳ぐわけでもなく、特訓とか。ホントなんなの!?って感じ。
しかもビーチで遊ぶとか、海に入るわけでもないのよ。そんなのワタシの魅力がもったいないだけよ。
無意味に日焼けする趣味もないもの。
誘われたとき、その夏合宿がすぐに原作のシーンだってわかったけど、丁寧に断らせてもらったわ。
もちろんみんなと離れなきゃいけなくて悲しいし、さびしいの!と、たっぷり演技して、みんなの同情を誘えていたからバッチリよ。

夏休みにめったに会えない。けれど「ようやく会えた!」とでも涙を溜めて言ってやれば、 日向クンもみんな許してくれるわ。

だってみんなワタシに会いたいのでしょう?

同情を誘えるということは、ワタシがそれだけ演技が上手いということ。
なんでもアドリブでこなせて、自分の思いのままに相手を掌で操れるなんて――どうしてワタシってこんなに頭がいいのかしら。
これなら花宮の優等生ぶりっこなんてきっとめじゃないわ。
なんだかこの世界に来てからワタシ、ずいぶん頭がよくなった気がするの。

ふふ。これほど人を引き付けられる演技ができるのだもの。
いっそのこと将来は女優を目指すのも有りかもしれないわね。
主演〇〇賞とかなんとかいうものも軽くとれちゃったりしてね。

ワタシってひとの感情に機敏で、とってもさといのよね。
だから臨機応変にいろんな演技が即席でできるの。
これって頭の回転が人よりも早い証よね。

現に、夏合宿をおえて帰ってきたバスケ部のやつらにちょっと涙を見せながら「さびしかった」「みんなとっても鍛えられてるね!すてきよ」なんて言って微笑みを向けたら、それだけで凄いやる気を出していたわよ。


ああ、でも去年の冬頃はいいおもちゃができたのよね。
木吉君のヒザが壊れてからは、花宮でうっぷんを晴らしていたから、まだ我慢はできたのよ。
花宮真――あいつの苦渋の顔が見れたから原作が始まるまでは、かなり気持ちがすっきりしたのよ。

あいつの優等生ぶりが壊れるところをみたかったの。
だってあいつこそ悪役でしょう?
なら、世界にいる価値もないんだから。
どこまで落ちても誰も何も思わない相手。
そんなあいつをいじめてあげたの。
外から掘りを埋めるようにジワリとね。
たまに、わざわざこのワタシが足を運んで見に行って確認もしているから、計画は上手く進んでいるのは間違いないわ。
今頃霧崎第一で、花宮くん、つまはじきにでもあってるんじゃないのかしら。
お金は好きなだけ使っても減らないから、霧崎の生徒を買収して、彼が孤立するようにしかけてもらったの。

机の上に置かれた菊を見た時彼はどう思ったかしら。
机の落書きは?
「死ね」と通りすがりの子たちが囁いてくるのはどういう気持ちかしら?
ふふ。そういえば、絶対にわからないようにワタシの自宅から遠く離れた場所から郵便を出して、文字はパソコンの字。封筒に刃物が出る仕掛けをして、あいつがもうボールに触れられないようにした愛のある手紙も送ったわね。
まだあいつがバスケをしているので、それほど深手にはならなかったのでしょうけど。
なんて残念。だれかあいつをラフプレーのうらみとかで、どこからか突き落としてくれたりしないかしら。事故にでもあえばいいのに。

いちおうある程度は成功したと報告も続々入ってきてるし、怪我をした霧崎のバスケ部員の写真。花宮の苦痛に満ちた写真も送ってもらったから。
作戦は大成功ってところかしら。
もちろん送ってもらった写真は、みてるのもおぞましいからさっさと燃やして捨てたわ。
それでなんとあ溜飲をさげたのよ。

まったく。他人を怪我させまくってるような悪役ぶったやつが、のうのうとしてるのが悪いのよ。
悪役が逆にひどい目にあわされる―――ほんといい気持ち。
「ねぇ、どんな気持ち?」といつか正面から聞いてみたいものね。


それにしても、本当に原作がはじまってよかった。
どれだけ待ち遠しかったものか。
花宮を陥れるだけでは、とても暇だったの。


だけどね。それもキセキの世代がいる長期休みになったおかげで、ようやく休みって実感できたわ。
キセキたちと連絡をとって。
ちょっといじわるをして連絡をしないと、かわいいワタシのキセキたちは不安がって「どうして連絡をくれないんだ?」「なにかあった?」とすぐに心配をしてくれる。
それだけでニマニマがとまらないのに、夏休みのおかげで興味のない屑どもから数日でも解放されるんだから嬉しくてしょうがなかったわ。
なにより、キセキたちwひとりじめできるのよ。最高でしょう。

あと、いっちゃぁ悪いけど、もうバスケットには飽き飽きしてきていたのよね。
もちろん、今年もバスケ部の練習は断ったわ「ごめんなさい。夏休みは家族ですごすすので」と言ってやれば、それなら仕方ないわねとリコちゃんにだって許可をもらえたわ。
黒子君と火神君が、ワタシと一緒に過ごしたがったのか、他の人より不満そうなかおをしていたけど。
だってそうでしょう?
体育館には冷房もないのよ。むさくるしいだけで嫌になる。
そもそもバスケなんて、ただゴールにボールをいれるだけのお遊び。どうせそれで将来稼げるわけでもないのにねぇ。

それでも火神くんはかっこいいし、黒子君はもうみているだけで癒される。
彼らはバスケをしててもいいのよ。だって主人公とその相棒なんだもの。
彼らだけは、ワタシよりまぶしい存在でいてくれなくちゃ困るの。
彼らが輝かずしてどうするの?
この世界は二人がいてこその世界。
二人は主人公。かがやいて当然でしょう?


ああ、そうだわ。
早く声を掛けなくちゃ。

一緒に「お祭りに行きましょう」って。

他のどうでもいいゴミのような女が火神君に声をかける前に。
火神君はね、黒子くんにとってだけじゃなくて、ワタシの光でもあるのよ。
他の女なんかが触ったら汚れてしまうわ。
その前に助けないと。
ワタシの取られる前に、取り返さないと。



「〇〇で大きなお祭りがあるらしいの。みんなでいきましょう」

ワタシがそういえば、みんなが賛同する。
監督を務めるリコちゃんが「そうね、体を休めるのも重要よね」と、部員の日程を調整してくれた。
なのに。

「あのーすみません、その日は僕たちすでに予定が」
『俺は黒子とバスケする予定なんだよ』

あら。断られてしまったわ。
ああ、キセキとストバスでもするのかしら。
なら

「一緒にいきましょうよ。キセキの世代とやるのでしょう?みんな一緒の方が楽しいでしょ」

こっちがわざわざ可愛らしくみえるように微笑んで見せてやれば、申し訳なさそうに悲し気に眉を寄せ。

『キセキとじゃねぇっす。先輩たちのしらない・・・ひと?なぁ、黒子。一緒に行くのって先輩たちしってるひとか?』
「えー。知らないと思いますよ。“名前”も知らないと思います。
っと、いうわけで。せっかくの休みまで、キセキともまったく関係のない皆さんの知らないような近所のバスケチームとの遊びなんてさせられません!
僕らも本当はみなさん、特に●●●先輩といきたいんですが! 僕たちに付き合ってもらうのは申し訳ないです! なによりせっかくのお祭りに僕たちのせいでいらない汗をかいたり、休みを返上して知らないひとたちとバスケなんて!とんでもありません!!ほら、お祭りといったらみなさんおしゃれしていくんでしょう?●●●先輩とカントクの浴姿、みたかったので、ぜひシャメはよろしくおねがいしますね」

っと、ことわらてしまった。
ふふ、でーもーそういう理由なら仕方ないわね。
だって二人はワタシのことを案じてくれたのでしょう。それにワタシの浴衣姿が見たくてたまらないなんて。ふふ、かわいいんだから。
まぁ、学校がない日まで、バスケになんかかかわりたくはないし。
それに近所のガキと一緒ですって?はぁ〜本当に二人はバスケバカね。

それより浴衣は何を着ていこうかしら。



そうこうしているうちに、夏祭りの日がやってきた。


火神くんと黒子くんはいないけど、まぁしかたないわね。
なにより浴衣っていいわね。
いつもよりワタシをかわいく見せてくれる。

そのおかげで、ワタシが歩くたびに周りがワタシのことを注目するの。
男も女も関係なく顔を赤くして、ときには話かけてくる。
ワタシが笑えば、それだけでなんでもいうことをきいてくれるひとたち。
やはりかわいいワタシこそが魅力的。

気付けば背後にはたくさんの人がいて、ワタシに声をかけられるのを待っているかのよう。
振り返って一言こえをかければ歓声が上がる。

ふふ。なんて気分がいいのかしらね。




〜〜♪



ふいに綺麗な歌声が聞こえた。


聞こえてきたのは、どこかなつかしいメロディ。
まるで子守歌のようなそれ。

思わず誘われるように、声の方向へと足が進む。
背後で「待って」や「どこいくの」という声も無視して、ついてくるやつらもすべて無視。
声が途切れる前にと、少し駆け足で進む。


どこかできいたことがあるような・・


『〜♪そして坊やは眠りについた〜♪息衝く灰の中の炎〜♪ひとつ、ふたつと・・・』


そこにいたのは、予想外の人物。

「どうして?」

どうして?
なぜ “貴方” がそこにいるの?

濃い緑の浴衣にオレンジの帯をしめた女の子。
長い黒髪は頭の上で、見覚えのあるツインテールにしていて。


「"リナリー・リー"?」


どうして“彼女”がいるの?
どうして“別の漫画のキャラ”がここにいるのよ。

だってこの世界には【D-Gray.man】という“漫画は存在していない”の。
ましてや、ここは【黒子のバスケ】の世界。
なのにワタシの目の前にいるのは、リナリー・リーというキャラクターにに瓜二つの少女。

リナリーにそっくりの少女はうっとうしまでの長い髪をゆらして、境内の階段に腰かけながら、楽しそうに歌っている。
繰り返されるは、【ディグレ】の挿入歌。
アレン・ウォーカーが14番目と関係があるとわかるキーとなる歌。

これはどういうことなの?
頭が混乱するなか、ふと赤いものが目に入り、さらに驚く。

「え?・・か、火神くん?」

その歌を聴く人影がある。
赤と黒の髪――あの女の横でトンボと葉っぱのガラが書かれた黒いジンベイをきているのは火神君だった。

その手には大量の食べ物があって、たまに少女に渡している。
二人は親しいのか、笑顔が絶えない。
軽い言い合いもするのがあたりまえのような雰囲気。

ふと、もう一人いることにきづいた。

彼女は火神くんに渡された飲み物をみて顔をしかめた後、階段の上の方にそれをさしだした。
そこには誰もいないのに、と、思っていたら。飲み物を受け取る手があった。
そこでようやく彼女の上段に、黒子君までいたのにようやく気づいた。
淡い水色の浴衣?をきている彼は嬉しそうに渡された飲み物を受け取っている。
火神くんが黒子君に文句を言う。

火神君。
黒子君。
二人ともなんでそこにいるの?

バスケをしにいくって言ったじゃない。
そんな女のために、笑うの?
やめて!その笑顔はワタシのものよ!!なんであんな女に見せるの?

まだ、彼女の歌は止まらない。


〜♪
そして 坊やは 眠りについた
息衝く 灰の中の炎ひとつふたつと
浮かぶ ふくらみ 愛しい横顔
大地に 垂るる 幾千の夢 夢
銀の瞳のゆらぐ夜に 生まれおちた輝くおまえ
幾億の年月が いくつ 祈りを 土へ 還しても
ワタシは 祈り続ける
どうか この子に 愛を
つないだ 手に キスを♪〜〜


繰り返される同じメロディーと歌詞。
けれどそれに違和感がなく続いていく―――“この世界にはあるはずのない”歌。

ああ、嫌だ。
聞きたくない。

この曲はいやだ。
なんであんたが、ないはずの歌を歌っているの!?
どこでその曲を知ったの!?

やめなさいよ!と叫びたくなる。そのまま思わず耳をふさぎたくなる。
だっておかしいじゃない。
この曲は、"この世界にはあるはずがない"曲。

どうして?どうしてその曲を彼女が知っている?
そもそも彼女は何?


ワタシには不快なそれは、ほかの人たちには不快ではないらしい。
その歌を聴きながら、黒子君たちが楽し気に話している。


彼女はなに?だれなの?
いや、それはわかる。
でもそれは“あってはならない”こと。


ねぇ、火神君こっちをむいてよ。
ワタシはここよ。
なぜ火神くんも黒子君も、あんな女にそんな笑顔を見せるの?
ワタシは二人のそんな笑顔なんて一度だって見たことないわ。

どういうこと?
これはなに?


ふいに歌が止まる。

顔を上げた彼女の視線の先には、霧崎のやつらがいた。

霧崎第一!?
あの前髪で顔が見えないあの顔は漫画にもあった。
彼らの手には、祭りの戦利品と思わしきものを持参している。

「おまったせリナリー!!みてこれこれ!リナリーが好きそうだなってゲットしてきたよモフモフ!」
「玉入れとはいえ、ああいうときはバスケ部でよかったとおもったよね。ちょっと卑怯な気がしたけど(苦笑)」
「花火の特等席確保したぜー古橋がw今度は生き物じゃないからにげられねぇよw」

つぎつぎに少女に抱き着いていく彼らはとても楽しそうで。
リナリーも楽しそうで。
そんな霧崎のやつらと、黒子くんと火神くんは喧嘩をすることもなく、むしろそこにいるのが当たり前のように少女を囲んで笑っている。
そのまま彼らは、少女を連れて、仲間が待っているだろうという方へ向かってしまう。

なぜ?そんなに笑えるの。
だって花宮がいないとはいえ、あいつらは霧崎よ。
木吉を壊した悪童の仲間。
それなのになぜ?なぜ黒子君たちまで行ってしまうの。

姿が見えなくなる前に声をかけようとしたけど、言葉が浮かばない。

伸ばした手は届かない。
声はでなかった。





なにがなんだかわからなかった。

意味が解らない。
なにが、おきているの?
彼女は誰?
彼女は"何"?
耳にこびりつく歌声。

楽しそうな黒子君と火神君たち。




ど う い う こ と ――





「なにが、おきているの?」





 + + + + +





それは一年前のこと。

長めの前髪の隙間から覗いた緑。
その子と目があった瞬間、そのおそろしいぐらい鮮やかな色に目が離せなくなった。

こちらをとらえた鮮やかな色彩が、ふわりと弧を描く。

それはとてもくすぐったそうに。
それはとても優しく。
それはとても――


冷酷に。



『夢はいつか覚めるんだよ』



くすくす笑いながら、その子は去っていった。


背筋にゾクリと走った悪寒を、そこには誰もいなかったと口に出して言うことで、拭い去ることしかできなかった。
悲鳴を上げなかったのが不思議なくらいのおぞましさと恐怖に、全身から血の気が引いている。
体が震えるのはなぜ?
芯から凍えてしまいそう

――・・こわ‥‥い・・・
こわい?

な に が ?

「そう。そうよ。あそこには誰もいなかった。ワタシは誰とも話してないの」

自分の体を抱きしめるように腕をつかみ、何度も何度も言い聞かせた。


そうせざるをえなかったのを、“鏡”の中から夢を見続ける少女は知らない。
やがて少女は自分の言葉で、自分に暗示をかけた。
そうして少女は、その"言葉"を忘れてしまった。
ただ彼女の中に鮮烈なまでの色だけが、脳裏に焼き付いたまま残された。





 









:: オマケ ::

花『ヘクシッ!』
宮「・・・え。お前がくしゃみとか!?どんだけとんでもないウィルスだよ」
今「ソレうつされたらワシら死ぬんちゃう?」
花『ちげぇよ。そうじゃなくて誰かがなにか勘違いしてる気がする』
今「噂をされとるだけなんちゃう?っていうか勘違いってそないなもんジブンにはいつものことやろ?勘違いされてくしゃみが出るなら、花宮は年中くしゃみ止まらへんでwww」
宮「おーナイスツッコミ。さすが今吉」
今「みゃーじ、関西人が全員ツッコミ得意いうんは勘違いやで」
宮「安心しとけ今吉。お前は《見事なツッコミができる派》だ」
今「そないな派閥にはいったおぼえはあらへんわ!!」
花『今吉先輩!ぜひ、今度ヨシモ○につれてってください!』
今「手を握るな!そこでイイコな後輩モードやめい!いくなら彼女といけぇ!このお笑い好きが!!!」

花『そういえば、今度地元でお祭りやるんですが今吉センパイきますか?』
宮「なお、俺と火神によりこいつを女装させて連れていくぜ」
花「あー俺こそがやられてしまうひとです』
今「おお、あいかわらずおもろそうなことやるなぁ。まぁその日は行けんから二人で楽しんでき。ただし写真は必須で頼むで!」


後日談
火『おおーさすが宮地先輩の手入れがされた髪の毛〜♪さらっさら。
先輩の髪はきれいな黒なのでウィッグも黒くして、せっかくなのでこれをこうツインテして…ハッ!?このできは!?
先輩せんぱいセンパーイ!先輩ってたしか【ディグレ】しってますよね!?』
花『ああ、あの歌がきれいで印象的なアニメか。確か別の世界でみたな』
火『それですそれ!もう先輩このさいリナリーになりきりましょう!コスプレしましょう』
花「は?』
火『はいじゃぁ眉毛そりますよ〜』
花『え?はぁ!?え、や、やめ!ぎゃぁ〜!!!そこまでは許可した覚えはないっ!!』








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