有 り 得 な い 偶 然
第3章 0NE PIECE



13.なにが、ダメなの?





 爺様、ロジャー、オレのセカイ。オレの帰る場所だったひと。
ようやくです。
ようやく、オレは、あなたの残した“宝”を見つけられた。

―― ポートガス・D・エース

 いまならばあなたの残したあの子に、伸ばせばこの手さえ届きそうだ。
この少しの距離が何て歯がゆいのだろう。







::: side 夢主1 :::







 ようやくロジャーとルージュさんの愛した子供に会えた。
生まれたての君をつれてきたガープに、赤ん坊だった君を一度だけ抱かせてもらった。
やわらかくて、なんて愛しいと思ったことか。
けれどオレが君と会えたのは、その一度きりで、すぐにガープに連れられ、君はオレから離された。
 オレはずっとずっと、爺様の忘れ形見である君を探していた。
ジイサマの愛し子。
オレの宝物。大切な子。
 ようやくみつけた。
ようやく彼に、手の届くところに、オレは立てた。

 だけど。そこは海軍本部で。
人数の多い白ひげ海賊団が来たことで、激しい戦場となっていた。






* * * * * *






 君を探す旅のさなか、エースが監獄に入れられたと聞いて、慌てていけば、監獄は脱獄兵とオカマとルフィやジンベエがいて。
なのにまた一歩遅くて、“オレの宝”である君は、手の届かない場所へと連れ去られていた。
 いつもそう。
ずっとすれちがってしまって、覚えていた数少ない原作知識を頼りにコルボ山に行っても狩りに出ているとかで会えず、白ひげのもとを訪ねれば、まだ君は白ひげの一味ではなかったり、次の時には君はティーチを追って船を出たという。
原作知識をもとにアラバスタに行けば、ルフィのもとを去った後だった。
 君が生まれて、そうして二十年。
ついぞオレはエースに会うことがかなわなかった。

 しかし今、ようやくエースに一歩近づいた。
ルフィの帽子のマーカーをたどって“能力”で転移したオレは、やたらと濃い個性的な囚人たちがたくさんいる船にたどりついた。
彼らがエースを奪還に行くのだと聞いて、そのままのせてもらった。
そうしてオレたちは海軍本部へ急いだ。

 なんだかんだのすえ、オレはルフィと一緒に、上空から船で戦場のど真ん中へと落された。
まぁ、どれくらいの高さがあろうと、オレは能力があるから移動すればいいわけで、死にはしない。
 っと、いうかたたきつけられる前に、なぜか身体の周囲に青い炎がまとわりつき、気が付けばオレだけ白ひげ海賊団の不死鳥の姿に身をやつしたマルコに服をくわえられていた。
 そのまま鳥マルコは、オレは白ヒゲの側におろした。
なんか優しくおろされた地面に足がつくと、マルコはまた戦場へと戻っていく。
あの…なんでそんなにオレにやさしいの?きもいわ。
オレはすぐにでもエースのもとにかけつけたかったのに、いったい何の用だろう。
脇に立つ白ひげをみやれば、白ひげは懐かしいものを見るようにオレをみて目を細めて笑っていた。

「よう、リルリトル。おめぇ相変わらずちいさぇな」
『…小さい小さい言うな』

 ロジャーにくっついていた頃のオレを知るやつらは、ほとんど成長しないオレを【lil'little(小さな小さな子)】とオレを揶揄して呼ぶ。
はじめにそれを言い出したのはたぶん白ひげだ。
それが海軍にまで広がったのは気に食わないが、白ひげ海賊団の幹部にあたるやつらは、オレがそう呼ばれるほどこのおっさんと親しいのを知っている。
だからマルコに連れられてきたオレを咎めたり警戒する者が、こちら側にいないのは少し楽でいい。
 それにしても常日頃から思っていたが、ぶっちゃけて、このおっさんを前にしたら、オレじゃなくてもみんな小さくみえるのは……錯覚だろうか?

『てめぇがでかいんだよ。エドは巨人か?』

 そうつっこんでやれば、グラララと笑いながら背中をたたかれた。
大きさと力加減を考えてほしい。
おかげでいまの一撃でオレは10mはふっとんだ。顔面地面とスラインディングとかマジイタイんすけど。
ギリギリ受け身を取ったので、それほどひどいことにはならなかったけど、イタイには違いない。

 ハァ〜とため息ひとつついて起き上がり、もうこのおっさんイヤだと、オレは楽しそうに笑う白ひげを無視して、エースのいる処刑台に向けて走ろうと視線を逸らしたら、背後で白ひげが“待った”をかけたので、足を止めて振り返える。

「グッラッラ。おめぇにはあまりうごいてほしくねぇんだがな。
まぁ、無理な話か」
『ああ、無理だ。たとえエドの頼みでもな』
「リルリトル。おめぇは一般人だ。海軍の敵とみなされたくなけれりゃぁ、手ぇを出すんじゃねぇよ」
『海賊が好きかって言われたら、なにも感情はわかない。海賊だからじゃなく、オレは身内だからシャンクスたちが好きなだけ。でも海軍は嫌い。だからって、海軍にケンカ売るのも面倒だって思ってるよ。
でもね。でも、今はこの衝動を止められない!嬉しいんだオレは!!
オレはあの子をずっと探してたから。嬉しくてうれしくてたまらない。
この手でもう一度抱きしめたい!ようやく、会えた!!
この機をのがしてたまるか』
「この機に乗じて、ついに“セカイ”の敵討ちでもしにきたか?」
『変なこときくなエドは。
残念、さっきから言ってるけど敵討ちじゃないよ。そんなもん興味ないし。
だって爺様は殺されたんじゃない。自分からいったんだ。カタキって、そんなん誰にうつんだよ?それこそ世界にうてってか?爺様を殺したのは病だ。あの人は寿命だった。だからカタキなんていない。
今日はオレの宝物かえしてもらいに来ただけだ』
「海軍に目をつけられたら、おめぇもおたずねもんだぜリルリトル?」
『あまいね。オレは海賊でも海軍でもない。どちらの味方にもならない』

 オレの敵は、オレから大切なものを奪おうとするものだけ。
白ひげたちの敵ではないが、でも味方じゃない。
かといって海軍に味方する気もない。
オレは自分の大切な者や興味あるもののためにしか動かないから、誰の味方にも付かない。

味方にならない――つまりは誰でもがオレの敵になりうるのだと。

意味を的確に理解したらしく、こわいこわいと冗談めかしながら、白ひげはまた愉快そうに笑った。

「・・・そうか。ならもうとめはしねぇよ」
『年寄りは船で待ってろよ』
「言うようになったじゃねぇかクソガキが」

 一般人が、大切な家族のために、世界にケンカ売っちゃ悪いのかよ。
ってか、本当にやぁーね。なんでオレの過去を知る奴らは、こうも過保護が多いのだろう。
異質な能力を持つオレが、敵に回ることを恐れているのか。それとも本当に、海兵でも海賊でもないオレを心配してくれているだけなのか。
オレには当の昔に、戦う覚悟も世界を敵に回す覚悟もあるというのに。
オレの過去を知る者達は、一様にオレが戦うことを止めようとする。

 まぁ・・・それも、しかたないことなのかもしれない。
ロジャーをなくしたときのオレの荒れようはひどかったから。
あのときとエースを奪われた時は、たぶん錯乱気味だったのではないかと思う。
はっきりいって、自分自身あの時期の記憶ってかなりあいまいなんだよな。きっとシャンクスに迷惑かけまくったに違いない。ああ、なんて黒歴史。


 オレは白ひげに「またな」と手を振ると、船と共に落ちてきたやつらが復活しているのを目撃し、その騒ぎを隠れ蓑にして、気配を消してかけだした。
 気配をたって、煙や騒動をかいくぐっていけば、見聞色の覇気使いにたまに気付かれて邪魔されるが、スルーして、さっさと処刑台へ向かう。

 あっけなく登頂完了。
みんな正面ばかり向いてて気付いてないけど、背後から登ってきました。

 よっこいしょと登りきると、センゴクさんとガープさんが棒立ちしてるその背後に立って――それから気配を出す。
するとバッ!と二人が勢いよく振り返ってきた。

『や☆』
「「リルリトル!?」」

 振り返られたので、どーも☆と、手を振りながら笑顔を返せば、ガープやセンゴクさんが目を見開き、次の瞬間には渋い顔を浮かべて睨んできた。

「お主…やはりきてしもうたか」
「なぜ貴様が…。いやこの問は愚問だったな。
海軍にも海賊にも属しないお前が、我々世界を敵にするかリルリトル?」

『センゴクさん、勘違いしてもらっちゃ困るよ。オレの世界は世界政府でも天竜人が治める世界でもない。オレの世界は“爺様”だけだ』



 ――目の前にはエース。
大将の三人は下の海賊たちを相手しているので、でかぶつ二人の背後にいるオレには気付いていないようだ。
もうこれ、オレのためのフラグですよね?
ああ、なんて最高。
こんな側に長年会いたかった大切な宝がある。
つまりこのままかっさらうのはオレの役目だよね。
当然の権利として、あの子をそのままもらって帰ってもいいよね。

たとえば、たまには“大技”ぶちかましてでもさ。


『さぁ、その子は、返してもらうよ。それはオレの宝物なんだから』

 能力を発動しようと手を動かそうとしたところで、ガチャリと音がして、背後を振り返れないエースがあせったような声を上げた。

「たから?なんのことだ!?誰だそこにいるのは!?
聞いたことない声だぞ。俺はお前を知らない!」
『うん。初めて会うし。
あ、でもオレ、エースをずっと探してたんだ!会えてよかった!!待っててね。すぐ解放してあげるから』

「なんで!?」

『ん?』
「なんでルフィもあんたもこんな、こんな俺なんかのために」
『“なんか”発言禁止ー。理由がないとたすけにきちゃだめ?
ん。そうだなぁ。なんでっていうなら…きまってるじゃん!としか言えないかな。
ようやく会えたから。
オレが一方的にエースと会いたかったから!
それだけ☆』
「なんで。なんで!?そうも会ったことない奴のために命はれるんだよ!」
『会ったことなくてもいいじゃん。会えなかっただけだもん。それに身内だもん』

「え………それ、どういう…」

 正面を向いたままこちらを振り返ろうと頑張っているエースに見えないとわかっていて大丈夫と笑いかけ、オレに対して警戒色を強めている海軍のおえらいさん達に向け、口端を持ち上げる。

 はじめて、あの子の声を聞けた。
あの子が側にいる。
それだけでオレは歓喜に支配される。

嬉しくてうれしくてうれしくて・・・たまらない!

 でもその身内発言を聞いた途端、センゴクさんとガープが苦虫を噛んだように表情をしかめた。
なんで?そんな顔をするの?
なんでオレが身内だって発言をしちゃいけないの?
 なんでオレから、大切な者を奪おうとするの。
エースのことだって、爺様ことだって。オレとは関係ないって…なにそれ?
なんでオレの大切だと思うこの気持ちさえ否定されなきゃいけない。


ねぇ―― 《悪》 ってなぁに?


 なにがわるいの。
オレにしてみればさぁ、オレから大切なものを奪おうとする輩こそ《悪》なんだけど。


『ねぇ、センゴクさん。ガープ。オレ、前に何度も言ったよね?』
「リルリトル…だが」
「お前は“違う”だろう」
『血が関係あるのか!血のつながりがないと家族じゃないのか!!』
「お前のは」
「っ!!おちつけリルリトル!お前があばれると!!」
『しつれいな。オレはまだ正気だぞ。
だれも殺しはしない。
だけどオレは今怒ってんの。

オレの身内、傷つけたら許さないって―――言ったよね?』



 瞬間、オレは能力を開放する。
オレのオーラをひろげれば周囲半径2kmをあっというまにオレの支配下に置く。
そうして巨大な“場”をひいたこの範囲がオレの能力を活かせるテリトリーとなる。
この世界にはない能力は、前世から引き継いだもの。
ゆえにオレが“場”をひろげたのに気付いても、オーラを見える人間はいない。
なにか空気が変わったかも?っと、そのくらいの微かな違和感を感じる程度で、それの理由が理解できる者はおらず、センゴクさんでさえ眉を微かにしかめただけで、何が起きるのかと、オレの動きに警戒だけを強めている。
 オレ自身を警戒してもしょうがないのに。だってオレの能力は、オレが広げた“場”の中の水分に作用する。敵はオレじゃなく水分だぜ。
ニィーっと笑えば、それと同時に“場”の中のあちこちで、水分がじわりじわりと黒く染まる。
 ――水を墨に変える。
そういう能力だ。
 墨に変えたことで、その水はオレのオーラが通う。
オーラが通った墨は自由に操ることができるのだ。
同時にその墨で書いたものは、一回ぽっきりだが能力を付与することができる。
能力を付与した絵は自動的に実体を得る。
それがオレの能力の全貌。
 空間を移動しているのは、墨を影と見た立てて移動する能力を絵に与えたからだ。
今は――

『舞え。そのままみ〜んなの動き、とめちゃえ☆』

 紙に書いてきたのはたくさんの蝶。

 ノートを開けば、そこから絵が具現化し、紙から羽ばたいていく。
何百と描かれた蝶はやがて紙からは消え、すべてが青い光の粒子を振りまいて戦場を覆う。
さらにふところから巻物を取り出し宙になげる。
バサリとひらかれたそれには長細い巻物まるまるひとつをつかって黒い鯉が描かれている。

『おいで《黒姫》。食事の時間だよ』

 フォンとまるでくじらのなきごえのような声がひびき、体調五メートルはありそうな鯉が紙から抜け出して宙をおよぎだす。
《黒姫》は、以前の世界の“制約”により継続された能力。
 オレの能力は、絵に名前を与えると、能力を持ったままその絵を何度でも具現化できる。
 この鯉――《黒姫》――の能力は、空間をきりとること。
 おなじようにオレの能力で生み出した蝶たちには、普段なら触れると燃え尽きるような鱗粉をまく能力を与えるが、無用な人死には今日はいらない。
戦争を大きくしたくないのだ。
だから全員を眠らせるか、身動きできなくなるようなものを能力として与えて具現化している。

 蝶の鱗粉に触れたものが次々に倒れていく。
イメージ力が弱く記憶力も弱いオレには、絵を描きまくるなんて相当苦労する能力だ。
だから書き溜めしておいたのだ。
 本来は墨を作り出す能力がメイン。
だけど生み出した墨に能力を一つ付与することができる。
あとは生み出した墨を操れること。
つまるろころ――ようは、使い方次第ということだ。

「墨使い・・・」
「こやつをひきづりだしたらくるとは思っておったが」
「奴の描いた絵にふれるな!なにがあるかわからん!!」
『絵を具現化する前に指示を出すべきだったな』

 オレのテリトリーのなかに水分があれば、オレは無尽蔵に墨を出せる。
出した墨は自在に操れる。
 そしてここは海がとても近い。
すなわち――

この場はオレのもの。

 手のひらを正面に出し、握りつぶすようなしぐさをする。
それだけで蝶だったものはパン!とはじけて、ミクロレベルにまでに細かく砕け、霧散したそれは黒い霧となり周囲を煙幕が覆ったような状態となる。
色がついているのが難点だが、スモッグだと思えばいい。
そのスモッグの中には、いま影を自由に行き来できる《黒姫》が表に出ている。
スモッグのなかなんて影の世界といってもおかしくないんだぞ。つまりこの領域は、いま完全にオレの支配下にあったりするわけで・・・

 そして一瞬なりともこの場にいるすべての者の視野を奪った隙をついて、この処刑台を爆発させる。
そのまま黒い濃霧にまぎれて空間を移動していた《黒姫》に、新たな指示を出す。

『喰らえ』


「ぎゃぁ!」「なんだ!」「ぎゃ!」

 いままでフォンフォンと聞こえていたくじらの鳴き声のようなものは消え去り、かわりにバクリバクリと派手な音と悲鳴が霧の中から上がり始める。
味方も敵もわからないせいか、刃が混じる金属音は鳴りを潜め、かわりとばかりに誰のものだがわからない絶叫が響き続ける。
《黒姫》が空間を丸々食べる音は爽快だが、彼女のは音がはでなだけだ。
実際人以外の物はそこに残っている。彼女がくらっているのは、海賊や海兵問わず人間で、しかも殺してはいない。みんな彼女の腹から、別の場所に飛ばされているのだ。
 こんな視野が役に立たない場所では、見聞色の覇気使いがいると形成が彼らに傾くのかもしれないけど、この霧の中はオレのテリトリーである。
ゆえに誰が危険でだれが優秀かは手をとるようにわかる。
そういう“オレにとって危険なやつ”を優先して、《黒姫》にとばさせる。
次はデンデンムシだ。全国放送されてるのがムカツクから、デンデンムシにはいづこかへとんでもらった。
 転移先は大丈夫。
旅をしている最中に見つけた無人島に、大きな洞窟があったからその影に《黒姫》のマーキングがしてあるため、そこへ制服を着てる奴はとばしている。
着ていない奴はイコール海賊と判断し、モビーディックのなかにでもたたきこんんでおいてね、と、《黒姫》に頼んだから、双方の身の安全は保障しているつもりだ。
デンデンムシ?そこはどこへとんだかしらないな。海賊か海軍と一緒の場所じゃないか?
カタツムリにまでは残念ながら興味ないんで、指定しませんが。なにか?


『具現化した墨だけがすべてじゃないってことさ』

 ちなみに、これ、固形化もできます。
いつも使ってる日本刀なんかは、墨を固めて高度を増してつくったものだしね。
あ、具現化するじてんで固形化は知ってるか。
じゃぁ、気体と液体かと固形化で。
長年の努力の成果なんですけどね。まぁ、そんなことだれもしらないので、それはおいておく。

 とにかくいっきに海軍本部をほぼ制圧!オレ最強!
とか、言いたいけど、そうもいってられない。
 なぜなら範囲がでかかったり人数を多く移動をすると、いっきにオーラぎれをおこすから。
つまるところそろそろ燃料切れです。能力も切れます。そうすると《黒姫》もだせななくなってしまうわけですよ。
 そもそも《黒姫》の技は、オレが一人で“敵前逃亡”するようにつくったので、定員は一人のはずだったんだ。
もちろん長く生きていてそれではだめだと理解したから、懸命に鍛えて、定員数増やせるようにしたんだけどね。
すべて努力のたまものです。だれもほめてくれないけどさ。
定員数を増やすことはできたけど、かわりに時間制限がついてしまって、こんな大人数をいっぺんに移動したら、そろそろ限界。
 この場から1/3ぐらい人数が減ったところで、“場”を解除せざるをえなくなり、オーラで囲んだ特定の領域が消えると、墨で作った霧も、具現化していた者達も何もかも消えてしまった。
ああ、見事に格下は眠気にやられて倒れてますね。倒れてない奴も結構ふらついてる奴も多い。蝶のしびれ粉はある程度きいているようで何よりだ。
 そうして視界が良くなったところで、白ひげが自分の仲間たちまでいないのを見てギロリとこちらを睨んできた。
それにはアハハと笑ってごまかすしかなく、とりあえず白ひげの背後を指差して、彼らがどこへ消えたか教えておく。
それで納得強いていただけたようで、ホッといきつく白ひげをみて、『やっぱりエドはみんなのお父さんなんだ〜』とか思ってしまった。
 広範囲に能力駆使したせいでちょっと疲労がすごいけど、そんなところをみせるわけにはいかないから、踏ん張って立つ。
爆破により崩れた処刑台はみるかげもない。
ちょうどルフィもあの霧に乗じてエースを奪還したようだし、さてオレも逃げようかなと思ったところで、白髭の表情が変わり叫び声が聞こえた。

「リルリトル!後ろだ!」

 気を抜きすぎたとおもったときには、背後に男が立っていた。
くそ。一番に《黒姫》に襲わせたのに。もう戻ってきやがった。

「君ぃ、随分変わった能力者だねぇ。何者だい?」
『だれだって、いいだろう?』

 背後に振り返った時には、視界の隅を光が走っていて、針のようなものに足を貫かれていて、痛みにがくりと力が抜けひざまづいてしまう。

 ああ、なんてやっかいな。

 やってきたのは、能力者。
自然系悪魔の実「ピカピカの実」の能力者にして光人間。
黄猿ことボルサリーノだ。

 貫いた光線は針のように細く、致命傷ではなく足をねらったのは、きっとオレの口をわるため、殺すわけにはいかないと、手加減したんだろう。

「センゴクさんやガープさん、そうさねぇ、あの白ひげまで知ってるなんて。きみぃ、本当に何者?」
『オレはオレだ!
爺様がオレはオレのままでいればいいと言った。
父さんがオレだからいいと言った。
だからオレはオレ以外の何者でもない!!
文句あるかよ』
「黄猿!あおるな!!」
「んん。そうわいわれてもねぇガープさん。こいつ、わっしらの味方じゃぁないでしょう?わっしらちょっと遠い無人島まで飛ばされましてねェ。おかげで向こうでサカヅキがおっかないのなんの」
『だったらそのまま戻ってくんなよ!』
「いやいや。責任はお前さんにあるのよ?っで、この子供はなんなんですガープさん、センゴクさん」

 足やられて動けないのをいいことに、髪の毛ぐわっしってつかまれて、そのままネコのようにつままれました。
いてーってのこのやろう!
暴れたらお前は黙ってようねと、黄猿のレーザーがいとたやすくオレをねらってくれる。

しかもようしゃなく打ってくるし。
痛いし。
死なせないよぉ〜ってその口調で言われるとマジムカツク。
でも、つまりさ。それって死なせない程度には痛めつけるぞってことだろ。

「黄猿おまえもいい加減にせい!こやつは…負の遺産じゃ」
『不愉快のフですか!?そうですか!そうだろうなちくしょうめっ!!
だからオレのことも爺様のことも目をつぶろうって!?目をつぶっていなかったことにしたいとでも!?爺様を!!』
「リルリトル!あやつのことは口にしてはならん!!」
「おぬしは一般人じゃ首を突っ込むんじゃない」
『うるさいよ!ガープもセンゴクさんも!!』
「仲間われかい?本当にこの子供はなんなんですセンゴクさぁん?おふたりとも随分親しいようで」

「リルリトル」
『エドもとめないでよ!
なんでみんなオレをとめるんだ!なんでオレは一般人で、エースはだめなんだ!』

 たしかにオレは爺様とは血の繋がりはない。ロジャーと唯一血の繋がりがあるのはエースだけ。
なのにみんなしてオレの記憶を否定するように、オレの口からロジャーの話がでるのをいやがるんだ。
なんで爺様の話をしてはいけないと言う?
 なんで。なんでだよ。
 白ひげまで、それ以上を口にするなと顔をしかめる。それがお前のためだと彼は言う。
 二十年以上前を知るロジャー世代のみんなが、オレに口をつぐめと言う。
オレが小さいままだから?オレが成長しないから?

「リルリトル。あやつは“悪”じゃ」
『なにが悪だ!
エースなんか血が繋がってるからってなんだってんだ!
そもそもエースは愛されて生まれたんだ!
一番幸せに、だれよりでもぬきんでた素敵な子になってほしくてオレたちはエースとつけたんだ。
海賊の血が流れてたらいけないの?
海賊になったあとは、それは悪いことしたかもしれない。いつも無銭飲食だって、エド言ってたし。
でもじゃぁ、そうなる前のエースがなにをした!?ただ生きていることの何が悪い!』

 生きたい。なのに世界によって殺される。
あの絶対的な孤独をお前らが知っているのか!?


 ねぇ、ど う し て ?


 ――みんなが爺さまを絶対悪だという。
その血をひくだけで、エースも悪いのだという。

 言われた瞬間カッと頭に血が上った。
無性に悔しくて悲しくて、オレはつかまれ、いたのも、怪我してるのも気にせず、暴れて、黄猿の腕から抜け出すと、毛を逆立てたネコみたいにフーフーと威嚇するように肩を荒くして、二十年以上も前からオレを知る目の前のセンゴクさんとガープをみやる。

『お前たちに何がわかる!
なにが悪だ!正義ってなんだよ!お前ら海軍が何もしないから、オレの代わりに島のみんなを“救って”くれたロジャーたちをなんで悪っていうんだ!!
守るべき海軍が、オレたちを助けてくれなかったくせに!』

 ロジャー。その名が、いつのまにか静かになった戦場に響いた。

 思い出すのは三日間燃え続けた街。
 無法地帯と呼ぶにふさわしい島は、地図にないグランドラインの小さな島。
海軍が気付いてくれないのもかたなかった。
けれど島民の「命」をまるっと背負って、血みどろになって、そうしてオレが生まれた島の住民を開放してくれたのは、ロジャー海賊団だけだった。
あの手の暖かさは本物だった。

『オレたちを、助けてくれたのは、彼等だけだったのに…』

そんな彼らを悪と呼ぶことは許さない!!

『なんでオレと爺様のつながりを否定する!なんでみんなダメって言うんだよ!!オレはこどもじゃない!』
「おちつかんかいリルリトル!!」
『おちつけ!?なんで!?ねぇどうしてさ!なんでオレをとめるんだんよ!
どうしてエースはだめなの?
どうしてオレは一般人だって区切るんだ!
どうしてロジャーの血をついでることが、ただ生きるがいけないのさ!!』

 オレがくるのがちょっと遅かったから、もうエースがロジャーの息子だって全国放送されてしまったあとだ。
でもいまはデンデンムシは一匹もいない。
オレのことをしられたくないんだろ。だったらよかったな。
この場にいるやつ以外、ロジャーの世代にいた“赤毛のガキ”が“なにか”知る者はいないんだから。
その証拠に、まだ黄猿は首をかしげている。

『なんでエースを否定すんの!エースはただ生きてただけじゃん。
ロジャーの関係者が罪びとだと言うのなら、殺すならオレだろ!?ずっとロジャーの側にいたのはオレだろ!』

 叫んでいるうちにボコボコとオレを囲むように黒い円が広がっていく。
ああ、暴走しちゃったか。
 円陣の中の水分が暴走してる。
暴走すると、オレの能力水分を選ばなくなるんだよね。
ほら人間って水分でできてるけど、下手に手を出されるとまきこみかねない。
 オレ暴走すると自分でおさえられないんだよな。
だからガープもセンゴクさんも白ひげもそれを気にしてたのに。
遠くであの赤鼻、ロジャーの船にいた見習いの…そうそうバギーまで、オレの様子に気付いたようで「リルリトルの暴走だ!!逃げろ!!」と青ざめて悲鳴を上げている。


 本当はね、知ってた。
ロジャー世代の人々が“なに”を恐れているのか。

彼らが恐れているのは異能たるオレ。


 理性がぶっ飛ぶと、オレは暴走する。
たぶん世界に拒絶された影響が一番強い。
この世界に生まれてもなおそれをひきづったままで、なにかと情緒不安定で。
すぐに能力の暴走につながるんだ。
へたするとオレの“場”のなかの生物だろうがなんだろうが関係なく“水分”であれば、墨へと変えていこうとする。
止める方法なんか知らない。

 ぶっちゃけ、ロジャー海賊団にいた時も何度か爺様が怪我を負うたびに暴走していたんで、だからロジャー世代の人たちはオレを恐れるんだ。
爺様が死んだときも、赤ん坊のエースを奪われた時もしばらくこんな感じで。

 止める方法をオレは知らない。
爺様だけが気にせず“場”の中に入って頭をなぜてくれた。
 前の世界ではそうやって、泣く子の頭をなでるのはオレの役目だった。
かわいいかわいいオレの子。
血はつながっていなくてもよく似てるといわれるのが実はうれしかった。
エースだって、エドといてうれしそうだったのに。



――



 ふいに先程とは比べ物にならない衝撃を身体をおそった。
足に来たような指すような痛みとは違う、確かな痛みと衝撃。

『ぁ……』

 心臓を大きな何かが貫いた――衝撃を感じて、そこへ手をやればベッタリと血がつき、のどからはせりあがるものがあり、ゴボリと声と共に鉄錆くさいにおいがあふれでた。
血だと脳が理解した時には、心臓を撃たれたのだとも理解する。
攻撃の主を見やれば、腕にオレの墨をまとわりつかせ、脂汗をべったりかいている黄猿。

「あぶない、のー」

 彼は最もオレの側にいたからか、黄猿はまっさきにその身から水分を奪われかけたようだ。
センゴクさんとガープも膝をついて、苦しげに呻いているところから、身体の中の水分が墨になりかけたのかもしれない。
あちこちで海兵も海賊も関係なくうめき声をあげているのを目にし、申し訳けなく感じたけど。
能力を解除するより、意識が白くなる方が早かった。
せめてエースたちまで被害はいっていないといいけど、そう思って重くなる身体で唯一動く目だけを動かし、エド達の方を見る。
 たおれる寸前に見たのは、白ひげたち。
どうやらエドが覇気とグラグラの能力を使ってオレの暴走から逃れたようだ。
顔に冷や汗らしきものを浮かべた白ひげに守られるように、彼の一味といっしょくたにルフィとエースがいる。
目がとびでそうなほど大きく目を見開いて、とけんばかりに大粒の涙をこぼしてオレに向かって手を伸ばすエースを周囲が必死に引き止めいる。
それを見て、ほっとする。
よかった。エースはいるべき場所に帰れたみたいだ。
泣いているエースをみて、泣かないでって言いたかった。

結局その言葉一つでず――



オレの能力は暴走した。










 広がった“場”が一気に倍にまで膨れ上がり、全員が身構えたが、すぐにそれは収束し、オレの周囲1mでとまる。
血液やらなんやらが墨に変換されかけていた者たちの、“水分”はすべてもとにもどり、肩で息をつくもののみな墨にならずに終わる。

オレの意識はそこで暗転し、オレも色んな意味で“終わる”のかなって思った。





 トプン――



 水に沈むような音がして

  オレは《黒姫》の生み出す時空の穴に落とされた。











--------------------

意識がなくなる寸前誰かに呼ばれた気がした
あったかくて
なつかしいぬくもり
それにおいてかれたくなくて
待って――と
おいて行かないでと
だきつけば
温かい陽だまりに包まれたような気がした

声は――
オレに「帰ってこい」と言った








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