11.赤髪の片腕 |
二度目の生はHUNTER×HUNTERの世界だった。 三度目の人生は0NEPIECEの世界だった。 もう、かんべんしてください。 オレはもう奪われたくないのです。 ::: side 夢主1 ::: あの出逢いからオレはロジャー海賊団に拾われ、シャンクスに育てられた。 ロジャーを爺様と慕い、シャンクスを父さんと呼んだ。 ロジャーたちが航海を終えたころには、前世の能力が戻っていて、記憶と経験値をそのまま引き継ぐ形でオレは力を得ていた。 もう守ってもらうだけの子供じゃなくなっていたのに、オレはまた守れなかった。 オレをはじめて認めてくれた爺様は、もう傍からいなくなってしまった。 そう。オレは忘れていたんだ。 この大切な存在の死こそが、原作の始まるきっかけとなっていたことを。 航海を終えたとき、ロジャーは海賊王とよばれ、彼はエースとルージュさんを残して、自首をして――処刑された。 これにより海賊時代は幕を開け、オレはそのままシャンクスにくっついていった。 シャンクスはやがて、海賊団を結成し、再度グランドラインを目指すべく、仲間を集め始めた。 オレははじめからシャンクスにくっついていたので、赤髪海賊団では知らぬものがいない状態だ。 シャンクスはとても慎重だった。 グランドラインの恐ろしさを身をもって知っていたから、年月をかけて仲間を集め、船を整えていった。 そうしてシャンクスが、次は東の海ドーン島にいくという。 ルフィという原作主人公がいるはずのフーシャ村がある場所だ。 そこをしばらく拠点にするといわれたとき、最初の日は留守番組にまわって船の上からルフィをみていた。 成長がすごく遅いオレより、小さな子供。 黒い髪の、海賊になりたがっている子供――ルフィだ。 あの姿を見て、この世界もまた原作に従っているのを知った。 原作は怖い。 またオレが排除される時期が近いということかもしれないから。 だから原作の主人公なんか近づきたくなかった。 でも原作軸にたどり着いたということは、オレは世界に嫌われてはいないんだろうか。 それとも本当の原作は、ルフィが17歳の頃からなのか? ああ、まだオレはココにいるだろうか。いられるのだろうか。 大丈夫だろうか。 もう捨てられるのは嫌だ。 もう大切だと思った場所から離れるのは嫌だ。 オレが死ぬのなら、もう覚えていたくない。前世なんかいらないのに。 見せ付けられるようにはじかれる――もうあんな嫌われ方だけはいやだ。 心が折れそうになる。 いや、次は折れる。確実に。 この世界でオレは自分の世界だと思った帰る場所であるロジャーを亡くした。 シャンクスもいるけど、たぶん次は立ち直れない。 そのままロジャー(居場所)を探して、オレ自身がきっと壊れるだろう。 ちょっとだけ。ほんとうにちょとだけ期待はある。 こうやって船の中からこっそりみているだけではなく、もし、もしも…主人公であるルフィとかかわることができたなら、オレは世界に許してもらえたことになるんじゃないかと。 でもまだ勇気が出ない。 この世界にいていいのか。 でも前みたいに拒絶されたらと――。 こわいんだ。だからルフィが港でシャンクスにまとわりつくさまを、あの子にみつからないようにこっそりみているしかできない。 『ぁ…やべ』 あつくみすぎていたようだ。ふいにルフィがふりかえった。 とっさにかくれたけど、「赤色?」とルフィの不思議そうな声が聞こえたから、髪の毛を見られたんだ思う。 それだけで心臓がはねた。 背筋を冷や汗が伝う。 みられた。この世界の主人公にみられてしまった。 大丈夫?まだオレは“ここ”に存在している? 胸がドキドキしてしゃがんだ体制から動けなくなった。 オレの手はまだ透けてない。 それにほっとする。 肩から力が抜け、息を吐き出したオレに、ベンさんが「お前も遊んできたらどうだ?」と声をかけてくれた。 だけどそれには首を横に振った。 たった一瞬見られただけでオレは過呼吸にでもなりそうなほど焦ってしまった。あの状態で主人公に会ったら、次は心臓が止まる。 まだオレには、勇気はなかった。 そんなこんなで、結局フーシャ村にくるたびにオレはずっとルフィをさけ続けた。 シャンクスにもオレという存在が赤髪海賊団の船に乗っていることをルフィには言わないでと、約束させたほど。 「いつも赤い何かがいる」とルフィに指摘されるたびに逃げる。 船の仲間たちは、オレとルフィの追いかけっこに口を出さないし、ルフィをずっと見続けてるくせに見られたらサッと隠れるオレの挙動を面白がっている。 あげくシャンクスなんかは、ルフィに「面白いのがいるぞみつけてみろ」と素性をばらさないが煽るので、こうしてオレとルフィのおいかけっこは続くわけで…。 そうやってずっと追いかけっこをやっていて、今日もオレは船で留守番組のクルーと甲板でまったりしていたのだ。 ルフィはくるだろうかとか、ちょっとドキドキしながらも、けっして自分から彼のもとへは行くまいと心に誓って。 だけど。 あの日。船のところまで、風に乗って血のにおいがした。 前世の経験を引き継いだ今となっては、その微かなにおいもすぐに血だとわかった。 そのまま気配をさぐってみれば、なぜかルフィやシャンクスの位置がおかしい。 嫌な予感がして、船を飛び出したオレがみたのは、村への道中、地面にたおれる山賊の死体。 ヤソップがうったのかな?それとも副船長? ああ、でもなんでだろう。これじゃない。もっと嫌な感じがする。なんでこんなにいやな予感がするんだ。 まるで爺さまが自主しにいくときのようだ。 このままではまた大切な人がいなくなるような――そんないやな予感。 『副船長!父さんは!?』 「こども?」 「とうさん?」 オレの登場に、村の人たちが驚いたように声を上げる。 赤い髪を見て、すぐにオレの言葉の意味を理解した人たちは、あのシャンクスに子供がいたということに違う意味で驚きをあらわにしている。 そりゃぁ、いままで一度も船から降りたことがないから初対面の皆さんはびっくりするのも仕方ない。 「若。きちまったのかい?」 『いいから!父さんとルフィはどこ!?』 オレの脳内で警鐘が鳴り続けている。 理由がわからないから怖い。 今のオレにゆとりはなくて、副船長たちに事情をきいて血の気が下がった。 山賊の頭にさらわれたルフィを追って、シャンクスも消えた。 なんだそれって思った。 嫌な予感がピークに達した。 消えた彼らの居場所なんてだれもしらない。 でもオレは海だってとっさに思った。 これもすべて原作からの影響だろうか。 こんな精神状態ではうまくオーラをたどれない。 オレはただただ勘を信じ、仲間や村人がとめるのも聞かず、踵を返し駆けだした。 もっとしっかり原作知識があればなにかを変えられただろうか。 こんな曖昧なら、やっぱり記憶なんて持ってなければよかった。 そう思わずにはいられなかった。 オレたちが岸にたどり着いたときには、泣き喚くルフィを片腕をなくし血みどろで支えるシャンクスの姿があった。 オレはとっさに布を裂いて、それで血を流し続けるシャンクスのうでをしばって止血する。 「わりぃな」 『だまってて。すぐに医者呼ぶから』 「あかい、かみの…こども?」 シャンクスの腕のなかで、いまだに泣いているルフィがオレをみて目を見張る。 悪魔の実を食べちゃったって聞いてた。つまりシャンクスは、海に嫌われたルフィを守るために、片腕で泳いだのか。 でもこのままでは―― 『どいてよルフィ!父さんがしんじゃう!』 浜に着いた父さんはもう死人も真っ青な青い顔で、オレの様子に苦笑するとそのまま意識を失った。 当然じゃないか。あれだけ血を流したんだ。 あれだけの怪我を負ってショック死しないだけましだ。 ああ、海水につかちゃって。 こいつばかだ。 まじでばか。 こんなんが父親だなんて、オレの心臓は心配のしすぎで崩壊しかねない。 ああ、やっぱり。 からだがひえてる。 つめたい。 なのになんて穏やかな笑顔。 死を前にしているというのに、なんで笑うんだ。 これじゃぁ、まるで・・・ 爺さまの、 あのときの死に顔みたいだ。 爺様は処刑されるときも笑ってた。 ロジャーの最後の姿と、シャンクスの姿がかぶる。 やだ。 そんなのやだよ。 『じい、さ、ま…』 爺様のようにシャンクスも死ぬ? オレをまたおいていくの? ずっと傍にいるというのは嘘だった? そんなの…! そんなの許さない! 爺さまみたいに父さんまで死んだらゆるさない! 『父さんも爺様みたいにオレをおいてくの?死んじゃやだよ!おいてかないでよ!!』 「若、おちつけ!シャンクスは死なねぇから!」 『嘘だ!なら、なんでみんな笑ってんだよ!なんで笑って死ぬんだよ!!どうしてオレをおいてくのさ!!』 「若っ!」 「いま、医者が来るから、向こうにいってよう。な、若」 『やだ!側にいる!父さんの側にいる!』 オレが爺様のことを思い出して情緒不安定になって、子供のように喚いていた。 その騒ぎを横で見ていたルフィが、青い顔をして、オレとシャンクスの関係に気付いたようで「おれのせいで」って、鼻水をすすりながらつぶやいた。 瞬間、オレはルフィの傍まで駆け寄って、彼を殴っていた。 「「「「わかっ!?」」」」 「ぅぐ…」 『とうさんが、とうさんが死んだら一生うらんでやる!』 「ぐす…しゃんくすが・・しぬ?…うぇぇ」 『オレのほうがなきたいよ!』 ルフィが会話の途中で泣き出して、結局オレも一緒になって大泣きした。 医者が来て、すぐに治療できる場所に運ばれて、止血がなければあぶなかったと言われた。 そうして手術して点滴して、それでもしばらくシャンクスの意識は戻らなくて。 治療がすんだ後もオレはルフィと一緒になってワンワン泣いていた。 船の仲間が頭をなでてくれてもシャンクスは貧血でただ寝てるだけだと言われても、ルフィが謝りに来ても―― むしろルフィの顔を見ると涙が出てとまらなくて、連動してルフィも泣きだして、結局二人で保護者がくるまで――泣くを繰り返えして日々を過ごした。 オレにはもうあなただけなんです。 だから死なないで、シャンクス。 オレが育てた大切な子供はもういない――この世界のどこにも。 オレの産みの親はもういない――どの世界での両親もここにはいない。 オレの念の師匠もいない――この世界で念を使えるのはオレだけだ。 オレの仕事の上司もいない――刺青彫師なんて職業にさえついていない。 オレの兄弟子もいない――すでに剣術は身についていたから、この世界で学ぶ必要はなかった。 オレの腐れ縁のおさがわせ野生児ことジン・フリークスもいない――この世界で腐れ縁の人間などいない。 むかつく狸爺ことネテロ会長もいない――会長なんて立場の人間にこの世界で会ったことさえない。 「童顔死ね」とねたむビスケット・クルーガもいない――ビスケットは人名ではなく食ベ物しかこの世界にはない。 ――いない。いない。いない。ないないないない・・・。 オレの記憶の中には“みんな”いるのに、この世界にはいない。 オレはひとり。 さびしいよ。 世界が違うから会えないんだ。 もしかすると向こうの世界には、オレがいた痕跡さえなくなっているかもしれない。 それが・・・世界にはじき出されてということだから。 でもこっちでオレを認めてくれた世界ができた。 だからなんとか平気だった。なんとか生きてこうと思えた。 ロジャー。オレの居場所になってくれた人。 でもその彼も、もういない。 この世界の母さんだっていない。オレを産んで彼女は死んだ。父親はしらない。 ロジャー、爺様は、大海賊時代の幕を開けて死んだ。もういない。 一緒にいるよって。側にいてくれるって。お前の居場所はココだと。オレに帰る場所をしめしてくれていたひとたちはもういない。 残ったのは、シャンクスだけ。 だけど今シャンクスは瀕死だ。 いつもいっしょにいてくれたシャンクスが死んだら、オレはどうしたらいい? 死ぬことが怖い。置いて行かれることが怖い。 怖くて怖くて怖くて、オレはずっと泣いていた。 オレが泣くと、ルフィも泣いた。 結局、オレとルフィが泣くのをやめたのは、シャンクスの意識が戻った次の日だった。 なぜって、シャンクスの意識が戻った時は、まだ不安があって、でもそれ以上にうれしかったから。嬉しくて、やっぱ二人でいつも以上に凄い顔して泣いた。 その後、回復したシャンクスは、ルフィに麦わら帽子をあずけて、海に戻った。 オレは爺様の帽子を受け取ったルフィがうらやましくて、シャンクスを瀕死においやった彼がまだ許せなくて。 別れ際に思いっきりルフィに、アッカンベーをしてやった。 -------------------- 世界を一つをなくしただけでオレはどうにかなってしまいそうなのに 居場所をくれたロジャーまで死んで シャンクスまで失うなんてたえられない オレには無理だ どうか オレの大切なものを オレの居場所を 奪わないで―― |