04.遺跡×扉×別れ |
『離せ!このバカ!!野生児!!』 「やだ」 『やだじゃねぇクソジンがぁー!!』 ::: side 夢主1 ::: ジンを踏みつぶしたあの出会いより十年以上がたち、我が息子は二十前半。 二十代後半で成長が止まってしまったオレは、いまじゃ息子と並べば息子の方が背が高いほど。 兄弟に見られることはあっても、おかげでオレの方が弟とみられてしまう。 そしてあの踏みつけ事件がきっかけで、オレはすっかりジン・フリークスに振り回され、気が付けば腐れ縁といっていいほどの付き合いとなっている。 現在そのジン・フリークスによって、遺跡の調査に駆り出された。 その理由というのがふざけていて、「お前の探査能力は役に立つからこい!」と無理やり攫われた――御年50もすぎたオヤジなオレ。 っで、なぜそこでオレがダダをこねているかというと、その遺跡探査の最中に、物凄く複雑な念をかけられた扉が現れたからだ。 そこで引きずり出されたのが、ただの刺青彫師でしかないはずのオレだ。 たしかにオレはただの刺青彫師。だけどこの年までずっと鍛えてきた【逃げ技】が役に立つと、つれてこられたのだ。 その技は、オーラをひろげて周囲を探る“円”という技で、“円”の中の情報はオレには手に取るようにわかるのだ。それで、この年まで必死に裏庭の怪獣どもから逃げてきたのだ。年季が入っているぶん、ゆえに探査能力はかなりの信頼性が高い。 ジンはその“円”で、この扉の向こう側を探れと言っているのだ。 っが、そのオレでさえ、扉の向こう側に何があるかわらない。 『離せやゴラっ!!』 「お前はゴリラかよ!?せめて向こうに何があったかぐらい教えてから消えてくれっ!!」 『だから何も見えないんだよ!』 「は?」 『ここはヤバイ!絶対やばい!!二度と“帰れなく”なる気がするんだよ!!だから離せっ!!』 この奇天烈ハンター世界で鍛え上げられたオレの勘が、この扉はやばいと告げた。 オレのオーラがひきつけられる嫌な感じ。 たぶん“オレ”が触れたら、もう二度とこの場所に戻ることはできなくなるだろう。 そんな嫌な感じがプンプンしやがる。 「なぁ、なんとかならないか?」 『無理だ。念を解除したら、間違いなくなにか大きな仕掛けが動く。 逆に解除せずに触れたら、間違いなく・・・その念はオレたちをくらう』 「くらうって・・・」 『オレの勘と、“円”からの情報が正しければ、言葉どおりだ。 この扉は触れたもの念を喰らい、それを動力源に罠を作動させる仕組みになっている』 長年の経験上、ジンはオレの勘を信じている。 だからすぐにオレを捕まえていた腕を解き、「そうか。じゃぁ、つぎいこう」とあっけなく踵を返す。 その際に、しっかり「ここのブロックは立ち入り禁止にしないとな」と指示を出していたところは流石だろう。 撤退の合図にオレは、扉の前でほっとしていた。 しかし【オレがどんな能力を持っているか】など知りもしない他の一般の発掘者達は、いぶかしげにとどまるものもいる。 ジンを知る者は、すぐに彼の後を追って撤退を始めたが、その場に残った学者のひとりが興味心身に扉を触れようとして―― 『バカ、触れるなっ!』 オレが慌てて彼とその扉との間に割り込んで、念も使えないらしいその学者をとめる。 ギリギリ間に合ったことに息をつく。 そんなオレに「これは歴史的価値があるんだぞ!!このまま封じるなんてお前のほうこそなにを考えているんだ」と怒鳴り返してくる。 でもね。オレはこれでもプロのハンターなんだ。 目の前に怪しげな念がかかっているのさえわからない一般人には負けないし、そんな一般人に怪我などさせられない。 『触るなと言ってる。これには罠が張り巡らされてる。現在進行形でそれはまだ作動中なんだ。触れたらなにが起こるかわからないんだぞ』 「若造が!くちをはさむな!!お前はプロのハンターかもしれないが、我々は考古学のプロだ!!お前も向こうの若造も指図をするな!!」 『なっ!?だめだっ!!オレが触れたら・・・・・・ぁ!』 学者達の誇りを穢したかったわけじゃない。 《念能力》とは、オーラと呼ばれる生命エネルギーを技として昇華する術だが、これについては一般人には教えてはいけないのだ。 だから詳しくこの学者に伝えるすべをオレは持っていない。 説明するなら「呪われている」とか「罠がある」としか言えないのが歯がゆい。 ――ただ、かけられた《念》から、あなたたちを守ろうとしただけ。 それがいけなかったんだろう。 気が付けばとめるはずが、言い争いになっていて、もみ合ううちに勢いよく学者に身体を押され、触れたくなかったものにオレの背がドンとぶつかった。 扉に触れた瞬間、オレの念が勝手に発動した。 どうやら扉にかけられていた念が、“ひとさまのオーラを奪って、なにかが作動する仕掛け”――というオレの判断は大正解だったようだ。 オレが扉に瞬間、ブン!とモータ音のような低い音が遺跡中に響き、それとともにグラリと大きな地震がおきた。 「な、なにが・・・!?」 『だからいったろ。触れるなって。 オレが触れたから仕掛けが作動したんだよ!はやくにげろ!!』 突然起きた地震の原因がわからず呆然としている目の前の学者の背を押し出口へ追いやり、オレはその場に残ったまますぐ背後にあった扉をみやる。 扉の念は、時空を歪めていた。 “円”で扉の向こうが見えないほどに。 そしてオレの能力の一つは、空間を超えるもの。 案の定、扉とオレのオーラの相性は最悪なほどぴったりあてはまったようだった。 扉は青い光を放って、オレのオーラを吸い取り続けている。 地震の原因はこの扉であるのは間違いない。 扉はゴゴゴゴという音を立てて、扉の内側へと吸われていき、やがてガラガラと扉が崩れ、扉の破片は“向こう側”にと消えていく。 そして扉があったはずのその向こう。なにもみえない暗闇のような空間が、そこにはぽっかりと口を開いていた。 そこからオレ自身さえをも吸い込もうとするような凶暴な風が吹き荒れる。風は“向こう側”にと吸い込まれていく一方だ。 『っく!!!』 ゴォゴォ吹き荒れるぽっかりと開いた暗闇。 扉だった場所はいまだ青く光り―― 「っ!!!」 異常に気付いたジンが戻ってきて、振り返って彼に手を伸ばそうとして、自分の身体が青い光に包まれてる気付き、ギョッとした。 思わず自分の身体を見れば、なぜか光の粒子となって肩や足の先から消えかけていた。 痛みはない。 それをみて、なぜか泣きたくて泣きたくて、どうしようもない気分になって、それを無理やりこらえて笑う。 叫びそうになるほどの絶望感を押さえて、でもジンをここから遠ざけるように逆に突きとばす。 それでも血相を変えてもう一度かけつけてくるジンをみて、口端をさらに持ち上げて笑ってみせる。 『なぁ、ジン。お前の子供をみかけたら、お前の悪口を全てちくれとオレの息子に言ってあるからな!!かくごしろよアホジン!!!』 「んなっ!?なんだと!!」 これが最後。 大変だったけど、お前との腐れ縁も悪くなかったよ。 楽しかったよ。 オレももっと生きたかったなぁ。 でも、手を伸ばさなくていい。 おまえまで巻き込むつもりはないから。 お前の子どもはまだ幼いし、まだお前は必要なんだから。 オレに助けなんか要らないよ。 同情も、わかれの悲しみもいらない。 ここで死んだら、もうオレはこの世界に帰ってこれない。 ――だから伸ばされた手をとるかわりに、つきはなして、笑ってやる。 いずれ“こうなる”ことはわかっていたこと。 そんな気はしていたから。 いつかオレが、この世界からいなくなるんじゃないっかてずっと心のどこかで怯えていた。 ずっとどこかで考えていた。 イレギュラーであるオレが、原作に関わることがありえるなんて・・・おもってなかったよ。 だからいつかこうなることはわかっていたんだ。 覚悟はできてなかったけど。 五十年生きられたんだ。24歳で死んだ前世に比べれば、大往生と言っていいだろう。 それにね。扉に触れた時、オレの心はすでに決まっていたんだよ。 諦めと絶望ともいえるそれ。 時が来たんだって理解した。 『はは。こんな終わりだったとはな。わかっていたつもりだけど予想外だ。 ・・・・・・またな、ジン・フリークス』 世界とお別れは、涙ではなく笑顔で―― 生涯最後の大嘘。 “また”なんてないのにね。 これで閉幕。 オレという人生の終わり。 「―― っ!!」 ジンの何か叫ぶ声が聞こえて、だけど扉があった場所がカッ!と強烈な青い光を放った。 それとともに、オレの視界がグラグラゆれた。 念能力による時空間移動。オレはジンの驚く顔を最後に視界におさめた。 それこそがまさに世界の最後の光景だった。 ::: side ジン・フリークス ::: 遺跡の中で () が一人の考古学者と言い合いになり、あれほど近づくことを嫌がっていた扉に背をうった。 その瞬間、遺跡一体に風が吹いた。 密閉された空間で風?不思議としか言いようのない風には、かすかにジンの見知ったオーラもまざっていて、彼が《異変》に気付いて後戻りしたときにはすでに遅かった。 ジンがその場所に引き返した時には、扉のあった場所にはポッカリと真っ暗な穴が広がり、そこからはあふれんばかりの青い光があふれていた。 その光の粒子が増えるほど、の身体が実体をなくすようにうすく、しまいには向こう側が見えるほどに透明になっていったのを目の当たりにした。 そして光は爆発するように一度輝きを増すと、扉ともに消えていた。 とともに。 まるであの念は、をとらえるだけにつくられたかのように、彼を飲み込んで収まった。 地震もそれとともに収束し、 黒筆 という赤毛の男は、崩落事故で死んだこととなった。 真実を知るのは、すべてを目のあたりにしたジンただひとり。 ――突如遺跡一体を地震がおそい、は、ともに残された学者をたすけようとして崩れてきた土砂に彼は巻き込まれた。 命からがら、学者達は助かったが、発見されたは、もうその段階で息はなかった。 彼の葬式はひっそりと身内だけで行われ、遺跡の調査はそのあとも続いた。 っと、いうことになっている。 表向きはだ。 しかしその棺に遺体はない。 ジンがめにしたままに、は消えたのだ。 扉も部屋もなにもかも消えて行き止まりの土壁だけが存在していたが、確かにそこに彼はいたのだ。 そしては最後に笑っていた。 ジンはそれをみた。 「やれやれ。けっきょくあの扉の向こうは何があったんだろうなぁ」 の死の真相を彼の息子に告げた後、ジンはどことなくこまったように空を見上げた。 親友が死んだ。悲しむべきなのだが、なぜかまた会えるような・・・いつかひょっこり帰ってくるような気がしてしょうがない。 それに彼は最後こう言っていたのだ。 “またな”と――。 のことを思えば、ジンは自然と空を見上げてしまう。 そういえば、あいつは空を見るのが好きだった。 あの青い空を見ていると、思わず笑いさえこぼれ出る。 あいつが死んだのに悲しくもないし、むしろどこかで元気でやってるんだろうとさえ思ってしまうのだ。 それはジンだけではなく、彼の一人息子も同じように思ったらしく、その死を悲しむどころか“らしすぎる”と笑っていた。 それからジンを筆頭に、崩落のあった場所を徹底的に調査したが、案の定そこはすでに跡形もなくなっていた。 瓦礫や土砂によって崩れ去ったはず(公式では)の扉や、そこにあったはずの小部屋の痕さえ、どれだけ捜してもみつけることはできかなった。 やがて世間からその話題が薄れるとともに、世界から『ひとつ』の名前が消えた。 「――ぁっと…」 ふとジンが思い返すように空を見上げるも、誰の名を口にしようとしたのかもわからず首をひねる。 “だれもいない”墓があったような気がして、墓地に足を踏み入れてもそこには、墓石もない。 使われた形跡もないそこには、ただ野草だけが風に揺れていた。 「あなたもかい?」 「そういうおまえもか?」 「ここに誰かが眠っているような気がしたんだけど…。ボクのかんちがいだったみたいだ」 「おれもさ。なんだか狐につままれたような気分だよ」 遺跡の調査で崩落事故が起きたが、奇跡的にだれも怪我ひとつ、死傷者さえなくすんんだあの日。あのひとと同じ日。 ジンは訪れた墓所で、自分と同じように“なにもない”場所に佇んでとまどう“赤毛の青年”と邂逅した。 ――それは原作と呼ばれる時間よりわずか四年ほど前のことだった。 -------------------- さようなら。 悲しませてしまってごめんなさい。 そして 楽しい日々をありがとう。 |