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- 元死神「夢主3」の異世界旅行記 -
05. 雪見ぬままに、こは深淵を望む


「だめじゃ」
「って、いわれてもな〜」





-- side 奈良シカマル --
 




 三代目火影の前にアポもなく突然訪れたこどもは、むっと表情を歪ませる。
それでもこどものたわごと。と、火影はこどものことばを完全否定して、首を横にブンブンふる。
しかしそんなことは想定済みだといわんばかりに、 こどもは懐から暑さ5cm以上はありそうな書類を取り出し、それを火影の目の前の机上に叩きつける。
そのままニヤリと口端を持ち上げ――

「こどもだからって甘くみないでもらいたいね。
ってなわけで、こんだけ証言があってもだめ?」
「これは?」
「おれのなしとげたことと、これによる利益や不利益をレポートにしたもの。
たとえば・・・こっちは、暗号解析部に新人として紛れ込んだときのもの。
暗部でちゃっかりいろんなひとと任務をしてみたときのおれの功績。
そのときは、新人にしてはやるなといわれたけど・・・。
そうそう、こっちのは、開発部のだ。
暗部の皆さんが喜びそうな術の提案と、とある忍具の作成に貢献。
これでもまだおれの実力を認める気にはならない?」

こどもは不適に執務机の上に腰をおろすと、火影に見えるようにひとつひとつ書類をさしながら説明していく。
それに火影が目を見開く。

「おぬし、暗部にまで行ったのか!?」
「あぁ、勝手にもぐりこんだ。だってあんた全然頷かないからな。 これだけ証拠があれば認めないわけにはいかないと思ってさ」
「なんてこと。おぬしのような子供が・・・」
「いく。わりいけど、これだけは、おれは絶対にゆずれないんだ」

こどもはにやりと口端をもちあげる。
その目だけはここに飛び込んできたとき同様に、ギラギラとなにか暗い光が宿っている。

「お主は・・・この里に、復讐でもする気か?」
「さぁ。なんのことでしょう?」

その目に宿るのが絶望からくる殺意だけでないのは火影にもわかっていたが、こどもは薄く笑ったまま。 真意をのらりくらりとぼやかして、里長である火影にもまったくその心のうちを見せない。
それに火影は、こどもの言を信じるしか、こどもの心を知るすべがない。
 火影は小さく息をつくと、顔をあげて、覇気さえおぼえる真剣な表情でこどもをみつめた。
その圧迫感さえ覚える気迫に、こどもは「やはりあんたは火影に選ばれただけはある」と 冷や汗をかきながらも好戦的な笑みを浮かべる。

「これ以上の忠告はせん。
ただ、火影として言わせてもらおう。
お主はこれより里に命をかける覚悟が本当にあるか?
人を殺し、逆に己が殺される・・・そんないつ己の命が失おうともかまわぬ覚悟が。
もしも望みのためだけと、ぬるい気持ちで、“その言葉”を言ったのなら、わし自らお主の記憶を消す。 その場合、お前はただのこどもにもどれ」
「甘いな。やっぱりあんたは甘い。記憶だけでなくおれの存在ごと消すか殺すべきだ」
「それが妥協できる最後というだけじゃ。して答えは?」
「おれは・・・決してこの言葉だけは曲げられない!!そのためなら里だって守ってやるさ!!」
「・・・・・・お前が里を怨む理由もわかる。
ゆえにお主が里への忠誠などないこともわかっておる。それに引き換えるだけの決意がお前にあるというのか?
敵を生かそうというぬるい心は、暗部へという望みをかなえた後のお前には許されん」
「わかってる!それでもおれは今よりもっと上にいかないといけないんだよ!!」

「ならば最後に再度問おう。
これより先は里の裏。表からは遠ざかり、光は届かぬ場所となる。
あるのは血と嘆きと暗闇のみが広がる世界。
それも、お主が望むのは、最も深く根深い闇の根源。
こどもが見るべきものではない。
そでも自ら闇に堕ちるというのか?」

 火影は机に肘をついたままこどもに視線をよこす。
それに返って来るのは、恐怖でも絶望でもない――どこまでも純粋で真っ直ぐな、真摯な眼差し。
こどもは力強く頷いた。

「たのむ。おれに力をくれ火影様」

「・・・・・・」
「爺様っ!!」

 火影の最後の回答を待つこどものそれは、どこか必死で、 さきほどまで不敵な態度で火影を脅迫していた人物と同一人物とは思えないほど不安げで、すがるような叫びだった。
その叫びはこどもの心の本心そのもの。

しばらく沈黙を守っていた火影だったが、やがて胸のうちの想いをすべて吐き出すように深い溜息をついた。

そしてゆっくりと口をひらいた。

「・・・認めよう」

「よっ、しゃー!!」


「これより、お主を暗部と認めよう。それ相応の働きをするように」

「ありがとう爺様!」

「ふぅ〜やれやれ。
あまり老人を痛めつけるでないわ。心労で早死にしたらどうしてくれる?
こどもがおとなのふりなぞ・・・本当はまだ早いというのにのう」
「気にしなくていいって。どうせおれ爺様が許可しなかったら報告なしで勝手に暗躍してただろうし」
「・・・最近のこどもはおそろしいの」

 ニカッと満面の笑みを浮かべたこどもの恐ろしい発言に、火影は選択を誤ったかもと、視線を遠くへとむけていた。
こどもはそのまま満面の笑顔で「そんじゃ〜またな〜」と執務室を去っていき、 火影はさっさといけといわんばかりに渋い顔で手を振った。



 火影はこどもを暗部に認めたことで、こどもの力量をきちんと測ろうと机に載ったままの書類をめくり―― 読めば読むほどその顔色を青白くさせていく。

「・・・ま、まさか・・・あやつの復讐リストに、わしもはいっていたり・・・・・しないじゃろうか・・・」

こどもの末恐ろしいまでの実力に今更ながら気付いた火影は、 里を怨んでいるあのこどものターゲットだけにはなりたくないと心のそこから思ったのだった。
たぶんあのこどもは里を変えるだろう(裏から)。彼にはそれだけの力がある。
それが渡された厚さ5cmはある報告書からうかがえる。
 例えこどもの秘めたる暗殺リストに三代目火影の名前が入っていなくとも、安心はできない。
なぜならあの恐るべき力をもったこどもは、少なからず火影のことも怨んでいる。
ならば暗殺はせずとも、微妙に嫌になるほどねちっこい精神攻撃をかけてきそうで、そのおそろしい未来予想図がありありと浮かんでしまった。
火影は己のたくみすぎる想像に頬をひきつらせたが、そのまま自分が胃潰瘍になるのも想像してしまいさらに頭を抱えることとなった。
 その後、火影がぐったりとして机につっぷしたのは・・・だれもしるよしもない。
最近の子供は怖いのうと小さな呟きだけが、風に流れて消えた。








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日の明るさよりも 大切なものを見つけた
だから自らすすんでいった
よろこんで――その闇に堕ちよう


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