10 ユーリではないユーリの・・・ |
世界は狭い。結界の中でだけでしか人々はいきれず、弱いものが虐げられる世界。 貴族は金を巻き上げ、傍若無人にふるまう。 下町からいつも空を見上げるように城をみつめて、天を覆う七色の結界にため息をつくばかり。 この街より外へと出てみたいと思わないでもないけど。 そうするための切っ掛けがないままに、日々はただ過ぎていくだけ。 退屈に日々を過ごしていた。 そんなある日。 寝て起きたら、ベッドのわきに腰を下ろす銀髪ロンゲの赤目がいた。 「俺の部屋…?なんで…」 なんで男はいるのだろう? その男の手にある本をのぞきみれば、「満月の子」とか「星喰」がどうだとかいろいろかいてある。 「目が覚めたか」 いやいや、見ればわかるだろうそれぐらい。 「サウデ不落宮からおちたお前を拾ったのは私だ」 「さうで・・・」 「星喰をまねいた原因は人間にあり、満月の子、彼らはその指導者であったという。償い…だったのだろう。 サウデ不落宮が満月の子の命で動いていたのは。 そしてわずかに生き残った満月の子が始祖の隷長と後の世界のあり方を取り決めた。帝国の皇帝家はその末裔だ」 突然しゃべりだした男に、思わず目をしばたたくのも一瞬忘れて、男を凝視してしまう。 償い。満月の子。さうでふらくきゅう。―――命。 たくさんの単語に唖然とする。 そもそも 「あんただれだ?」 ** side ユーリ・ローウェル ** ポカーンとした男は、滑稽だった。 それを笑ってやれば、男はすぐに意識を取り戻し、「記憶喪失か?」とたずねてきた。 「そんなこと、寝起きで時間軸さえも把握してない自分に言われても困る」 「何か忘れてる気がするけど何を忘れたかわかる?」と聞いてきたやつに、「何を忘れたんだ?」と聞いているようなもの。記憶がないのに何を答えろというのだろうか。 まぁ、俺の場合は、記憶はあるんだが、それはあくまで俺のなかでのこと。目の前の男が覚えているものと同じなのか、すりあわせてみないことにはわかりようもない。 まず、ここは帝都の俺の部屋。それは間違いない。 なら、次はいまが“いつ”なのかを知る必要がある。 それによって、ようやく相手の問いにもこたえられるようになろうというもの。 そう肩をすくめて指摘してやれれば、男は少し考えたあと、「わたしの名前はデュークという」と自己紹介から入り、どこでどう出会ったかを告げられる。 それから彼の口から出てきたのは、まるでおとぎ話のような冒険譚の数々。 俺と彼は旅の先々で出会ったという。 そのどれにも、そのときにいたという俺の仲間だというやつの名前にも、心当たり一つなく首を横に振る。 それからいくつかの単語などを聞かれてもどれも聞いたことがない物ばかり。 最期に、日付けを聞けば、俺はここ一年近くの記憶が吹っ飛んでいることが判明した。 どうやらその間にこの世界は滅びかけていたらしい。 いまはその救世の旅のとちゅうで、俺…というか“ユーリ”は、サウデ不落宮という高い塔から落ちたということらしい。 あとひとつ。 かなり気になることに気付く。 っと、いうか。もはや、確信に近い。 「なぁ、さっきから“彼”って言ってるってことは、そのユーリ・ローウェルって男だよな?」 「ああ、そうだが?」 「俺、こうみても女だけど?」 ほらっと、服のまえをくつろげれば、うすいむねをさらに薄く見せているさらしがチラリとのぞく。 すぐにしまったがな。 相手の口がふさがらなくなっていたのに笑った。 美人がおかしな行動をとるのはとても愉快だった。 ――つまり、この世界で旅をしていた“ユーリ・ローウェル”は、俺とは別人らしい。 「それに俺、刺された怪我なんかどこにもないしな♪」 まぁ、いつ元の世界に戻れるかもわからないし、窮屈でたいくつな日常から解放されるんだ。 この世界のはなしをじっくり教えてもらうことにしよう。 そのあと、世界を救う手伝いをするのも悪くないだろう。 ほら、ラピードが嬉しそうに尻尾を振って頭をなでろと言わんばかりに近づいてくる。 こちらのラピードとデュークというやつも協力してくれると言っている。使わない手はないだろう。 この似ているようで異なる、この未来の世界で、暴れてやろうじゃないか。 さて。 問題はあちらの世界の方かな。 まぁ、可能性とするならば男のユーリが向かったことだろう。 俺が元の世界に戻ったとき、あちらはどうなっていることやら。 なんだかウズウズと笑いの衝動が起きそうになる。 これは想像してはまずいのでは? 下手をすると―― 「こっちよりもっと愉快なことになってそうだけどな」 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ あれからどれだけたったころか。 デュークの協力を得て、“ユーリ”の仲間たちにも事情を話し、すったもんだの末、世界を救うこととなり、それから新しく誕生した精霊とやらのおかげでようやく元の世界に戻ることができた。 腰の部分にふと違和感を感じ、服をめくって体をひねれば、背中を刺された傷跡が突如浮かび上がってきた。 あくまで傷跡である。 なるほど。これが“サウデ不落宮で女騎士に刺された後”というやつか。 どうやらこの世界の〈俺〉も同じように彼女に刺されたようで、それが本来の俺が戻ってきたことで身体に現れたということか。 「どうやらこっちの〈俺〉は、“むこうのおれ”とはちがって背後から刺されたようだな」 痛みもなにももうないことから、その痕のことはおいておく。 べつに痕があるからといって、動きに支障があるわけではないのだ。いまはきにしなくてもいいだろう。 めくっていた服をパサリともどし、こちらでは何が変わっているだろうかとまず部屋を見渡して、目を見張る。 今度こそ自分の世界であるかを確認しようとして――クローゼットがやばいことになっていて、爆笑した。 男物ばかり着ていた時代が懐かしい。 護りたい。男に負けてたまるかとその気持ちだけで鍛錬を積みすぎたせいか、成長期を終えたころには女性特有の丸みなどどこにもなく、かなりガッシリと筋肉がついていた。おかげで体格だけでは、男に化け続けることにはあまり問題はなかったのだ。 でも、こういう女性らしいのをここ一年ほどのこっちの自分は着ていたとなれば、もう男だと偽る必要もないのかもしれない。 だれかを守れる力がほしくて、そのために男になりたかったむかし。 守るためには、力を得るためには、騎士になればそれは可能のだろうかと、騎士団に入ったこともある。あそこは男社会で女がいけるような場所ではなかった。 だから胸をつぶして、男物の服ばかり着て。 なのに、平行世界から戻ってくればクローゼットは、女物ばかり。 きっとこれはよい機会を得たのだ。そう思うことにしよう。 この年になるまで隠し通した。一度男だと貫いてしまったら、打ち明ける機会がなかったともいえる。 女として好きなことをしたいという気持ちもないわけでなかった。 俺はそろそろ女に戻ってもいいのかもしれない。 クローゼットから、あまり派手ではない女物を一着とりだす。 それを着て、鏡に映った自分に新鮮な気分になる。 そのまま外へ出れば、桃色のワンピースを着た少女がフレンと歩いてくるのがみえた。 ユ「ほう、あんたが俺の世界のエステルかwwwいやぁ、向こうとかわんないな」 エ「ゆ、ユーリ?」 ユ「ん?どうした?」 エ「ユーリがまた女の子の服を!あ、でも胸があります!!!」 フ「ユーリ!!女の子に戻ったんだね!!なのにまたそんな口調で!!」 ユ「おい、こら。人の胸を直視すんな!!」 はじめての女物の衣装。 ただでさえ恥ずかしかったというのに、なぜそこを注視しやがる! 思わず胸元を手で隠した。 顔が赤くなっていたとかしるか! ユ「それで?この世界でのこと、教えてもらえるか?」 入れ替わっていたようだと告げれば、あの男のユーリのとき!と驚かれるが、どうもこちらとあちらの時間軸がしっちゃかめっちゃかバラバラしている。 第一にこちらの世界に“男のユーリ”がきたのは、旅が始まってから本当に後半部分。 詳しく説明すると、サウデ不落宮転落から半年後の話らしい。 “男ユーリ”の世界に俺がついたのは、“彼”がサウデ不落宮からおちてすぐ。 この時点で若干の時間のずれがあるが、俺と“ユーリ”がこの期間肉体ごと入れ替わっていたというのは間違いないだろう。 だが、俺の記憶は、この町を出て旅を始めたというそのあたりからない。 つまり、俺と“男ユーリ”が入れ替わる前まで、別の誰かがこの体を使って、エステルたちと冒険をしていたことになる。 この事態に気づいた俺は、ひとまずこの世界でのユーリとエステルとの出会いから尋ねた。 向こうの世界の“ユーリ”とエステルとの出会いは、“ユーリ”が脱獄し、城で出会った。とか言っていたな。 ――この世界ではどうなのか。そこから違いが知りたかった。 なぜかというと、俺がただたんに記憶喪失なだけか、それとも本当に別の誰かにのっとられていたのか、その明確な答えを探したかったのだ。 そうした、ら。 驚いたことに、エステルと出会った後の〈俺〉は、女というのを武器にして、貴族をはめたり、 男たちが言葉では言えないほどの心の傷をつくりあげたりと、それはハチャメチャなことをしていたという。 それを聞いて、確信した。 俺では到底思いつかない復讐劇だ。 見事なことに血も一滴も流れず、貴族との争いさえも成し遂げ、かつ虐げられていた者たちの鬱憤まで晴らしたのだ。 俺なら、悪徳貴族など目にした日には、砂漠にでもこっそり誘い込んでそのまま死体が見つからないように殺すか、闇討ちでもしていそうだ。 結論からして、“ユーリ”と入れ替わる前の〈俺〉は、俺ではない。 俺は記憶喪失でもないということ。 ユ「くっくっくwwwなんだかずいぶん愉快なことになっていたみたいだな」 女装をさせたり、誘拐された王族を助けようとしたら自力で逃げだしていたとか――あまりに予想を裏切る展開に思わず笑い後こぼれる。 ユ「ああ、いいな。こういう世界www」 エ「ゆ、ゆーり?本当にどうしたんです?」 フ「なんだか今日のユーリは昔みたいにずいぶん漢らしいよ。はっ!?まさかあの男ユーリがまだ憑いて!?」 ユ「な、わけあるか!正真正銘、この世界のユーリ・ローウェルは俺さ」 まぁ、いい。 いまこの世界は、結界がなくても街の外へも出歩けるようになったみたいだからな。 この世界の“仲間たち”とは一度も話したことがないわけだし、“仲間たち”に会いに、これから世界を旅をするのもありだろう。 きっと話をしていくうちに、溝も埋まるだろう。 そうしたら、こちらでもしっかり彼らを“仲間”とよべるようになるだろうし。 そう、いつか。 彼らが旅したというこの世界をなぞるように、めぐるのもいいだろう。 世界はまだまだ楽しいことやしらないことであふれているようだし。 そうだ。わすれてはいけないことが一つあった。 まだこの世界の仲間に言っていなかったな。 ユ「なぁ、エステル」 エ「はいです?」 退屈な世界から俺を解放してくれて。 世界は広いと。 退屈さえ忘れてしまえるほど面白いものだと教えてくれて―― ユ「ありがとな」 【 オ マ ケ 】 とある世界。とある場所でひとりの男が恐怖におののいていた。 それを親友である金髪の青年がなだめているが、なかなか彼の調子が戻らない。 呪文のように頭をかかえてうなる彼は、自分の部屋のクローゼットを開けることを極度に恐れ、心配げに自分を見上げるラピードに「お前まで俺を裏切るんだろう」とびくびくしてはラピードに首を傾げられている。 ユーリ「ふわふわのドレスとか細やかな細工のバレッタ、動きやすいかつ女性らしいヒール、ネックレス、腕輪、指輪、お見合い写真…」 フレン「ユ、ユーリ!?大丈夫かい!?」 ユーリ「クローゼット、一面、女モノ」 フレン「君のクローゼットは男らしい簡素な中身だよ!ホラ!それは夢だから……!!」 ユーリ「エステルがさぁー、つかお前もだけど。なんで人の胸揉もうとするんだよ?意味わかんねぇよ・・・・おっさんが白いウエディング、ナース服、チャイナ・・・」 フレン「今直ぐ休もう。休んでおいで!!しっかり!ユーーーリィー!!!」 --- 完 --- <時間軸の解説!!> 夢主:P4→原作開始より女ユーリに憑依→指名手配を食らった時点で変装!→女を武器に無双→サウデ不落宮で女騎士に背後から刺される→P4世界へ星喰みと戻る→P4シナリオクリア→P4世界でクマのせいで脳震盪→“サウデから落ちて、女ユーリの世界にトリップしていた男ユーリ”の身体に憑依→半年後ヨーデルに手刀をいれられ気絶→P4にもどる 男ユーリ:原作そのまま→サウデ不落宮で正面から女騎士に刺され、落下→身体はサウデ不落宮後の女ユーリの世界と入れ替わる→女ユーリ世界のデュークを目撃後意識を失う→半年後夢主がぬけたことから女ユーリ世界で目が覚める→女ユーリが男ユーリの世界からもどってくるまでこのまま 女ユーリ:原作開始の魔核盗難事件から夢主に憑依される→サウデ不落宮落下により、男ユーリと肉体ごと入れかわる→男ユーリ世界に女の肉体でトリップ。意識が女ユーリの物だったため、ここまで夢主がおった傷はトリップではついてこなかった→男ユーリ世界でデュークをみかたにつける→男ユーリ世界で星喰みをみんなと力を合わせて撤去→精霊誕生→精霊により女ユーリの元の世界に戻してもらう→ユーリズが全員元の世界に帰還→元の世界に戻ったとたん、体に夢主が負った傷が痕として浮かび上がる→問題なしと判断。この世界のエステルたちと初顔合わせ ※基本的に女ユーリ世界のラピードは、中身が女(夢主や女ユーリ)のときしか優しくない(笑) |