00.どんなに時がすぎようとも |
優しい記憶にとらわれて、前にあゆむことをやめてしまった妖がいる。 たまたま噂を聞いてやってきた三流程度の貧弱な術師の術をあまんじてうけいれ、そのまま何年も何十年も何百年も眠っている。 傍でずっとその様子を見てきたけど。 こんな術、君なら瞬き一つで祓えただろうに。 こんな封印、オレがかじってしまえば一瞬で壊れてしまうのに。 けれどその封印を守るように君が結界を張っているから、君が意識しない限りこの封印術はとけることがない。 どうして起きないんだ? もう君を封じた人間もいないのに。 もう君を知る存在さえいないのに。 もう・・・ ――君が望んだ愛しいひとたちはどこにもいないというのに。 ねぇ、いつまで夢をみているんだい? もう、いくつ時代が移り変わったかわからなくなってしまったよ。 もう、オレたちのような妖を視れる者さえいなくなってしまったよ。 どうしたら君は起きてくれるだろう。 封印の光のなか、浮かび上がる大きな姿。 眠ったままの君。 いつまでオレをひとりにするんだい? もういいだろう。 そろそろ起きておいでよ。 また月と太陽が何百回まわったかわからなくなるぐらい待ってみた。 やっぱり起きてこない。 ちょっと寝ぎたなくはないかい? それとも現実を見るのがそれほどつらい? 夢の中の方が幸せ? なら、なんで・・・ なんでオレだけおいていったの。 どうせならオレも君と一緒に眠っていたかったよ。 『雁首揃えて待っていろ!オレがお前を絶対に夢から引きずり出してやる』 もう待ってなんかやらない!だって君は起きてこないじゃないか。 オレなんかの声じゃぁその幸せな夢のそこまでは届かないのだろう。 しょうがないから、君を起こせる存在を探しに行くことにした。 どんなに時間がかかっても、必ず君をたたき起こす。 覚悟しておくんだな。 さぁ、はじめよう。 ただの猫による一匹旅だ。 うん?“ただの”猫ならウン百年も生きないって? 当然だろう。 外見がただの猫ってやつさ。 中味はオレだしなぁ(笑) |