00.這いつくばってでも |
大切な人が死んだ。 おいかけるようにオレは時の輪を廻ぐり、時をさかのぼった。 けれど未来なんてものを変えられるはずもなく、時をさかのぼったさきで、今度はオレが死んでしまった。 いまとなってみれば、そのときのオレがどれだけ壊れていたんだかよくわかる。 気がふれて、おかしい頭のまま時を巡った。 何が良くて何が悪いか判断することもできないまま。 ーー気が付けば今度は世界まで超えてしまった。 死んだはずなのに、目が覚めた。 それで、ここは死者の国ではないかと思った。 案の定、そこに生者はいなかった。 『へぇーそれは最高だな!オレは“セイジャ”っていうものが気に食わねぇ!』 生者とかいてセイジャ。 でも同じ音で聖なる者とかいても同じ読みだ。 『正義なんてクソくらえっ!てめぇらがオレの何を救ってくれた!?』 死者の国ときいて大歓迎だと笑ったオレをみて、周囲のやつは「気が狂ってる」と言ったがその通りだと思う。 死者が生き返るはずもないのに。 オレはこの世界でも大切な人を探した。 この世界では、まったく同じタイミングで死んでも、死後の世界で同じ場所にいれることなんてほぼないという。 ましてや世界さえ違う死者が、この世界にいるはずもないのに。 この世界で目覚めた直後のオレは、“前の世界”で失ってしまった大切な人を探し続けた。 気が狂っていたのは認めよう。 しばらくの間、オレの涙腺はこわれっぱなしで、涙の止め方がわからないままに、“たったひとり”をもとめて暴れまわった。 おかげで強くなってしまった。 別に強くなりたかったわけでもない。 死んだ後もみじめな暮らしをどうにかしたかった――なんて崇高な志も矜持もなければ、何がしたかったわけでもない。 死者にとっての良いくらしとかもどうでもよかった。 ただ。会いたかっただけ。 ただ・・・ 探し続けていた。 それだけだった。 そこが死者の国で、そのなかでも最も治安の悪い場所でだったとしても。生きるのも難しいと言われる場所であることなど、そのときのオレにはどうでもよかった。 オレが望んでいたのはただ一つ。 死んだのなら、あのひとがいってしまった場所にオレを連れてってほしかった。ここが死後の世界だというなら、あのひとに会わせてほしかった。 それがだめなら、本当に死なせてほしい。 魂を消されようが輪廻に変えれなくなろうが構わない。 こんなつらい思い出を持ったまま、考えることができることがつらかった。 自分で考えて動くことができるのは死んだなんて言えるのか?生きているのと同じじゃないか。 もう、生きていたくなど・・なかったのに。 だって、この世界ではーーー生きていても。死んでも。あのひとには会えないのだから。 「どしうして」「かえしてほしい」「どこ?」「殺してくれ」 その単語を繰り返して、ずっと彷徨っていた。 気付けば、涙は枯れていた。 気付けば、手には黒い日本刀が握られていた。 暴れて暴れて…どれだけたったころか。 あるとき“死神”と名乗る真っ黒な装いのやつがオレに手を差し伸べてきた。 「その強さを見込んで、提案がある。なぁ、死神にならないか?」 そう誘われた。 “死神”が職業であることも、この世界においてどんな存在なのかだとか考えることもせず。しらないままに、その“音色”に魅(ひ)かれた。 その甘美なまでの音を舌の上で転がした。 “死神”ーーその響きに脳がとろけてしまいそうな歓喜にうずく。 死にたがりのオレには、その響きがとても甘美なものに聞こえ、何も考えることもなくその手を取った。 バチリ! 振れた瞬間に、火花が散り弾かれた。 一瞬全身を覆う痛みに眉を顰めるが、マヒした思考回路はそれ以上の苦痛を感じさせなかった。 『ああ、やっぱりな』 だが、それがきっかけでもあった。 急激に思考がハッキリしてくる。 いままで悲しみで曇っていた視界が、とりはらわれていくようだ。 急速回転を始めた脳みそが「なんでいまなんだよ」と、意識のはっきりしてきた感覚をせめる。 このまま死んでもよいと思っていたのに。 死なせてほしいとさえおもっていたのに。 気が狂ったまま“誰かが殺してくれるのを待つ”ことは、もうできないのだと思い知った。 「お、ようやく視線が合ったな」 『なぁ、あんた。オレの手がほしいのなら、お前の持っている知識をすべてオレにくれないか?』 クリアになった思考が、オレが進むべき指針を導き出す。 死神ならば、魂の管理をしている存在だろう。 ならばこの手を取り死神となればこの世界の死者のすべてを管理する部署までたどりつけるんじゃないか?と結論を出した。 そうしたら、大切なあの人をさがせるかもしれない。 どうせこの世界にはいないことは分かり切っている。それでも少しでも希望が欲しかった。 いや、もう“こいつと出会ってしまった”から、“狂ってはいられない”とどこかで理解してしまったんだ。 ここはきっと“原作のある”世界。 きっとオレはいつか世界に切り捨てられる。 それまでは、“死にたくない”と、突然思ってしまったんだ。 世界というやつは矛盾していて、いらない存在がいてもすぐには消さないのだ。 中途半端にいかして、邪魔になったら捨てる。そんな世界を知っている。 オレを絶望させるのがよほど楽しいらしい。 そんなクソな世界の意志ごときで死んでられないとおもったのだ。 世界が望むシナリオというのにオレが邪魔なのなら、世界に対する嫌味として、生にしがみついてやろうじゃないか。 まぁ、この世界はすでに死者の世界だから「生」という表現が正しいのかはあやしいところだが。 意識があり、己の思考で物を考えられる期間を「生」とするなら、あながち間違ってはいないのだろう。 おい、きいてるか世界。これは宣戦布告だ。 ただただ世界や原作なんてものに無様に消されてなるものか!! だから目の前のやつの手をひっぱり、強く握りかえした。 死神の手に触れている間中、全身に痛みが走って余りの痛みに意識が持ってかれそうになる。 指が消滅しようが構わなかった。 『オレに力をくれ!世界の理さえも壊せるほどに!』 |