04.猫は修行で忙しい |
「あ、お帰り椛。飯できてるぜ」 『ただいま。うん。もらう』 「んで、今日はどこでなにしてきたんだ?泥だらけじゃないか」 『追いかけっこ』 「それ人間の子供とじゃないだろ」 『うーん。いや、一応?人間の子供だったよ』 「いちおうと疑問符つく時点でそれ人間か?」 『うん。オレによく似たネクスト能力を持った子供だったよ。追いかけっこした時は、お互い人間の姿じゃぁなかったが。 そういえば父さん、ちょっときいてくれ。まずはネクスト能力を完璧にするところからか、それとも体力をつけるために笹を飛び越えることから始めた方がいいのか。そもそも忍術ってのがオレにはよくわからねぇんだが・・・どうしたらいいとおもう?』 「んんん?なんだって?」 『あ、なんかオレに、弟子?ができたらしい』 side 夢主1 .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ 本日は晴天。シュテルンビルトはポカポカしていい陽気だ。 白い毛並みは祖母と双子の姉のおかげでつやつやで、首元には本日の楓とお揃いのリボン。 うっかり保健所の捕獲部隊につかまらないように、首には迷子札(ネックレス)をしっかりさげて。 さすがにこれだけ綺麗なニャンコなオレだ。ノラとはおもわれまい。 今日もしっぽをフリフリ。 ただいま、猫の姿でお出かけ中。 この散歩の後には、また父のもとに行く予定だ。 実は母が亡くなり父がまいっていたころの習慣で、いまだにオレはよく父に会いにきているのだ。 父は家族とも和解したし、食事をつくったり、掃除をしたり、徹底的に一人で生きるすべを父に叩き込んだのもう安心なのだが、オレは病弱で家で寝込んでいる設定なので、暇を持て余しては最近はよくシュテルンビルトを散策している。 ここシュテルンビルトは開拓されてできた都市なので、日本のように一軒家は実は少ない。 ましてや猫が好みそうな日本の縁側のような場所なんてどこにもない。 けれど猫というのはどこにでもいて、縄張り意識の強い彼らは、田舎の猫よりも狩りが下手だが、とても警戒心だけは強く人間よりも人間たちのことに詳しかった。 ここでも弱肉強食はかわらず、奴らに力で勝てば、人間以上に有能なその情報はオレのものになる。 どこによい獲物があるか。だれが弱いか、強いか。はたまた人間たちがこぼす噂、今この町で何が起きているか。 情報を制すものこそ覇者となりうる。 そこに種族は関係ない。 新鮮な情報こそが、万の兵に匹敵する。 その力が手に入る。これはなんて面白そうな戦いか。と思っていた。実はぶっちゃけて言うと、シュテルンビルトにやってきて数日の内に、すでにやらかしていた。警戒して喧嘩をふっかけてきたリ、こちらを弱者としてあなどり実力を見せつけるために挑んでくるやつらをすべて叩き潰してやったのだ。 もちろんすべてのしてやった。 喧嘩後の毛の手入れはいつもより格別だった。 あ、家族には秘密で。 そんな乱暴者なみうちなんて嫌だろうしな。 そう思っていたんだけど、日本人ポイ風習の民族というのはどこにでもいるらしい。 たまたま色んなビルの間を散歩していたら、懐かしいにおいイグサの香りに思わずそちらにむかえば、なんと完全な和式の部屋を発見した。 わぁ〜。畳だ!畳! 住人はどこにいるのだろう?ぜひ仲良くなって、中にいれてもらいたいものだ。 どこかな?どんなひとかな?そう思って窓からのぞいていれば――― 椛(!?・・・まじかよ) 本気で驚いた。 部屋の中にいたのは忍者だった。 服装はそこら辺にいる若者ってかんじでジーパンとTシャツだし、忍者装束ではなかったけど。 なぜここが忍者の家かわかったかというと、武器が彼の目の前に広げられていたためだ。 年はオレよりもうちょい上くらいだろう。 忍者だと思われる少年は、前世でいうならアレだーー地下都市吉原桃源郷の自警団「百華」ってとこにいた女たちが使っていたのと同じ忍具一式をひろげていた。 これはきっとこの少年は、彼女たちのように世を忍びよを守るために暮らしている、現代に息づく忍の末裔に違いない。 ひそかに家業を継いできたんだな!すばらしい。 そう思って、この日本風の部屋の主を観察していると、布やらいろいろ取り出した。どうやら道具の手入れをするようだ。 なんかクナイとか手裏剣とか忍者刀とか畳に広げて、それをニマニマみながらフキフキと手入れしていて。 いや、その手入れの仕方ダメだろ。 なんで刀を水拭きしようとしてるの?なんでクナイをサラダ油につけてるの? 思わず前世侍の世界にいたオレのお魂がダメだしをしました。 ンニャーン。 これはさすがに刀がかわいそうだと、窓をタシタシと猫の足でたたく。 さすがに爪でひっかくと自分の耳まで犠牲になるので、たたくにとどめたのだ。 とはいえ、前世のようなウン百年修行を積んだ脚力もない普通の仔猫なので、爪でかまいたちを起こしたり、牙で敵の首をかみ切ったりそういうのはできないので、どれだけ強くたたいてもこんな分厚いガラス窓が割れたりはしない。 「おや。ネコじゃぁないですか?どうしました?」 タシタシと窓をたたいているオレに気付いた忍者くんが、カラカラと窓を開けてくれる。 空いた隙間からするりと身体を滑り込まして入り込めば、慌てたように忍者くんが追いかけてくる。 む。爪とぎなんかしないぞ。 あ、そうか、土足はまずいな。そこの間違った水にぬれたタオルで足をフキフキ、ざっとみたときみつけた紙とペンをくわえて、ワタワタしている忍者くんの前にそれを置く。 くわえながら書くのは大変だったので、紙の上に仁王立ちして両手でペンをはさんで、刀の手入れの仕方を書く。 今のオレは猫だ。一見普通の猫でしかないオレがそんな芸当している時点でおかしいのだが、この忍者くんは、「おぉ!」とそれは目をキラキラさせてオレを手放しでほめた。 やめろ。そんな純粋な目で見るんじゃない。おかげで、オレが実は人間でただのNEXT能力で変身していると明かせなくなったではないか!!! なんでそこで忍術だと思った!? なんでそこで普通に認めちゃうの!?だって猫がペンをもって文字を書いてるんだよ!おかしいと思えよ!!! 「いえ!ぜひ師匠とよばせてください!!そうだ師匠!僕の変身術を見てもらえないでしょうか!実はいつも皆様に甘いといわれてしまって。でもどこが悪いかわからなくて」 ・・・・・・・・・・・その日、なぜか猫のオレに人間の弟子ができた。 結果からいうと、忍というよりただの日本オタクだった。 で、奴が言う忍術とは、術ではなくNEXT能力だった。 どうも日本の忍者アニメを見てていて自分もできないかと指をたてって「にんぽう!へんげのじゅつ!」と言いながら物まねをしたところ、そこではじめてNEXT能力が開花。そこからは独学で忍術を極めようとしていたらしい。 うん。これはもはや、「笑うしかねぇな」って状況だった。 まぁ、オレも似たようなものだ。笑うなんて真似はできなかった。 武具の手入れの仕方を教えたあと、目をキラキラ輝かせて弟子になったそいつはイワンと名乗った。 ひとまず弟子となったからには、徹底的に仕込むことにする。 まずは武具の手入れの仕方だ。 そのあとに変身。 変化の術を見てほしいと言うのでみていたら、身体が青くひかり俺によく似た猫っぽいものになった。 なんで“ぽい”かというと、猫にしては何かが変だったからだ。 顔はたしかに猫だ。オレによく似ている。その胴体や後ろ足はまんま猫なのだが。 そのシッポ、それはライオンだ。 その耳、それはウサギだ。 その前足、それは鶏だ。 あと普通の猫は頭から角は生えてません。 思わず「お前はキメラか!」と叫んでしまって「フシャー!」となってしまったのはしかたない。 「にゃ〜ん?〔え、猫がしゃべっ・・た?〕」 『に゛ゃ?にゃぁ〜ん〔あ゛ぁ?オレの言葉がわかっただと〕』 「!?〔ひぃ!?〕」 イワンが猫(仮)になって、オレの言葉が通じた。 そこで判明したのが、イワンは変身後であれば、同じく変身系NEXT能力者の言葉は理解できるということ。 つまり猫姿のオレの言葉を理解できるのだ。 とはいえ、生粋な猫言語がわかるわけではないらしい。 いや、そもそもあの変化をネコと称してよかったのか怪しいが。 仮にあれを猫と称すにはあまりにもひどすぎる。イメージが弱いせいか、はたまた変化の最中に違うことでも考えているのか、変化どころか変異とかしている。 いつだかの前世できいたはなし、変化の術はおのれのイメージが要だという。さすがに自分が知らないものに脳が対応できるはずもなく、変化もできないという論だ。 こういう変身は某ポケットにはいってしまうモンスターの●タモンしかり、黄色い忍者の食べ物系のN●RUTOでもいっていた。イメージが重要だ。と。 なので、せめてなりたいと思うものを具体的に思い浮かべる必要があるのではないかとそこを指摘してみた。 全体からやる必要はないように思う。まず猫であるなら手や足からゆっくりと始めてもいいのではないかと思う。人間のように尻尾がないものは、第5の感覚など慣れないのだから、まずは自分が持っている身体の一部から始めるのがよいだろう。 オレも前世で人間になじむまでけっこうかかったしな。しっぽないのにバランスとるとか、ひげがないのに距離をつかめとかきつかったし。 対象となるものをまずは隅々と観察し、そこから想像力を広げていく。 はじめは自分のイメージだけで形を整えるのは不可能だろう。だからなりたいと思う物体を目を閉じてでも忘れられないようにするぐらいの必要があるとみた。 なりたい姿を確固たるイメージで固め、猫であるなら毛の1本一本やしっぽの先まで自分が「そのなりたいもの」になったつもりになるべきだ。 それから想像力が弱すぎるんだと、イワンの変身訓練の手伝いをすることになった。 変身能力者には、とくに想像力が必要不可欠だ。それができてようやく能力をコントロールできるのだ。 とはいえ、オレがそれをいえたぎりではない。 なにせ自身も変身系能力者ではあるが、オレ自身は前世が猫なのでもはや考えたりイメージしたりせずそのまま猫になれる。 だがイワンは違う。一から学んでいる際中だ。 しかもイワンはオレのように変化への制限がない。それはキメラ化した先程の返信からも見て取れる。 数多のものに姿を変えることができる彼は、想像することと覚えることを学べばあっという間に能力をコントロールできるようになるだろう。使いこなせれば無機物にでもなれるそれは、使い方次第でだれよりも素晴らしい能力となること間違いなし。 『ニャー!〔そうと決まれば特訓あるのみ!いくぞイワン!!〕』 「ミャオーン!〔はい師匠!!〕 それからはまずイワンの目を鍛えるべく、洞察力をあげようとものをできるだけ観察するように指示をし、猫になりたいなら「オレ(本物)を見ろ!!」とひたすらに変化の訓練を重ねた。 そんなこんなで、猫なオレに人間の弟子ができました。 * * * * * 『そういえば、弟子と高級住宅街を爆走していたんだが』 「なぁ、だから弟子ってなに?」 『猫の弟子だ』 「ねこ・・・友達はできるだけ人間にもつくろうぜ。な?」 『情報をせいするためにはどんな奴でも縁を持っていて損はないだろ?』 「でも、猫・・・」 『なぁに所詮、ただの追いかけっこだ。より猫らしく振舞うためのな』 「いや、だから弟子って何よ椛ちゃん」 『そこでだ。弟子と鳥をおいかけていて、たまたま入りこんでしまった家でーー』 「猫とはいえ、お前は人間だ。不法侵入はダメだぞ」 『自分の子供だろう青年に対してNEXT能力使って記憶を改ざんしてるイボデカ親父がいたんだが、ヒーロー的にそういうのどう思う?子どもの虐待かなあれ?』 「は?」 『なんで記憶改善が分かったかって?』 「いや、そんなのきいてないけど?!」 『男がNEXT能力を発動させて青く光った後、少年のな、言動がその前と後で明らかに違うことを言っていておかしかったからだな』 『あ、安心してくれ。弟子もやつらにはオレも気づかれなかったし、そもそもオレは毒も術も能力ウィルスも効かないからな(ドヤ)』 「ねぇ、ちょっと待った。これなんの話?」 「・・・・・なぁ、椛。父ちゃん、どこからつっこめばいい?」 |