02.幸せを生きる時間 |
ねぇ、きいて虎徹くん こんな話信じられないかもしれないけど 私ね 神様に会ったのよ やぁね もう そんな怖い顔をしないで 違うの そうじゃないの 私がもうじき死ぬっていうことじゃなくて うん 違うの 虎徹くんのお願い叶えてくれるって―― ふふ ねぇ虎徹くん 神様に何を頼んだのかしら? だって神様は 私にね 「もっと生きていい」って そう言ったのよ side 鏑木虎徹 .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ 俺の名前は、鏑木・T・虎徹。 家族は兄貴、母ちゃん、そして素敵な奥さん。 子供は双子で。身体があまり強くない嫁さんだから、同時にいっぺんに二人も得れたことはとても幸せなことだと思った。 生まれた子供は男の子と女の子の双子で、女の子を【楓(カエデ)】と男の子を【椛(モミジ)】と名づけた。 不思議なことに子供たちが生まれるよりも前、妻である友恵(ともえ)は不思議な夢を見たのだという。 その時期彼女は、体調を崩しがちで入退院を繰り返していた。 彼女のなかにはこどもがいるといわれたが、しかし体の弱かった友恵では子供は産めない、あるいは彼女の身体が持たないといわれていた。 そんな彼女がおきがけに「神様に何をお願いしたのかしら」と笑いながら俺に聞いてきた。 俺は一度だって神頼みに近所の神社にお参りに行っていたことを言ったことはないのに関わらずだ。 友恵に会いに来たという神様は、夢の中で彼女に青い指輪を手渡し消えたという。 本当に神様はいたのか、お祈りの効果があったのか。 こどもは無事にうまれた。母子ともに無事で、むしろ子どもを産んでからの方が友恵の体調は良くなったほどだ。 こどもは"ふたりとも"とても元気な子で、スクスク育っている。 そう、とてもめでたいことに、こどもたは予定では一人だったのに生まれたのは二人だったのだ。女の子と男の子の双子だ。 椛と名付けた男の子の方は、誰に似たのか緑の目をしていた。それ以外は俺に瓜二つだと母や兄にも言わせるほどに似ていた。 楓は、きっと母親似だろう。この子は将来美人になること間違いなしだ。 椛は目の色が違うこと、その手に青い指輪を握り締めて生まれてきたことから、夢の中の神様の加護を得て生まれたのだとされた。 友恵は神様からの贈り物よ。と、その指輪を幼い椛になくさないように言い聞かせてもたせた。 生まれたてではきっと理解などしていないだろうし誤って食べてしまうことを恐れ、物心がついたらそれを持たせればいいのではないかということになったが、 椛は本能で理解しているのか、名前のとおりの小さな紅葉のような手で、その指輪を始終大切そうに抱きしめていた。 赤ん坊の必死な姿に何度癒されたかはわからない。 いつか椛にはこう教えるのだ。 「その指輪を握って生まれてきたんだよ」と。「それはきっと神様からの贈り物なんだ」と――。 まぁ、成長した椛を見るからに、わざわざ告げる必要もなさそうだが。 それから間もなく、椛の方にNEXT能力があることが発覚した。 これに最初に気付いたのは友恵だった。 お乳をあげているときに、椛の身体が青く光り、小さな白い仔猫の姿になったらしい。全身が真っ白かと思いきや、猫の腰あたりに蝶に似た模様のようにそこだけが色が違う体毛があった。 仔猫は人間の赤ん坊とは違い、すでに自力で動けるようで元気にあちこちを飛び跳ねていた。 こちらの言葉も理解しているようで、口でやってはいけないことを告げるだけですぐに大人しくなった。 姿も自力で戻れるようで、友恵が病院にいる間で家族以外に猫の姿は目撃されていない。 これが“神様”とやらの加護の力かと、友恵と思わず顔を見合わせた。 「・・・NEXT能力って、たしか血がつながってると似たような能力が発現しやすいって聞いた気がしたけど。なんで猫?」 「そうねぇ。もしかして猫の神様だったのかしら?」 椛は、本当に“神様の加護”があったのだと思う。 楓が物心ついた頃には、椛はもう俺たちの言葉を理解していたように思う。いつもニコニコして、大人たちが忙しく面倒を見れないこともわかっているのだろう。 同じ日に生まれたおさない楓の面倒を、同じく幼い椛はよく見ていた。 気が付けば、文字の読み書きもできていた。 それをわかりやすく丁寧に楓に教えてさえいた。 幼稚園になる頃には、すでに難しい単語を理解し、俺には到底理解できないような哲学書やらの分厚い本も読みほしていた。たまに面白そうに漫画を読んでケタケタ笑っているのも見たことがある。 四歳の頃には、知り合いがたまたま家に持ってきたクロスワードパズルをといてしまった。 それをみた知人が面白半分でIQテストをすれば、椛の知能指数は子供にあるべき領域を超えていた。 しかしそれとは対照的に、ある程度の年になるまでは、人らしい感覚が分からず、二足歩行がうまくできなかった。 人の感覚が分からない、人のことを考えることが苦手、成長速度が遅い。 だから、そういう病気なのだと・・・・ なぁ〜んて。そう思っていた時期が俺達にもあった。 歩くことも苦手――俺達はそう成長する椛をとめることができなかった。 理由はNEXT能力のせいだ。 椛は――――猫化してしまった。 体がそのまま猫になって戻れなくなった。と、いうわけではない。そこではなく“精神”が、だ。 猫の方が楽なのか、人らしい感覚やらを身に着けさせる前に、あの子は猫生活に順応してしまったのだ。 おかげでまっとうとはいいがたい価値観で、若干猫寄りで育ってしまった。 身体もそう。猫になじみすぎたせいか、身体がまだまだ赤ん坊だったせいか。 人間の姿では、まるで“動かし方も知識もわかっている”のに、それに体がついてこないかのようだった。歩くのもヨタヨタしていて、よく失敗しては転がっていた。 その都度、すぐに猫になろうとするので、さらに人から遠ざかってしまったのだ。 ――というよりは、最早猫になりすぎていて、ひととたまに感覚が違ってしまっているというのが正しい。 本当に!本当に!!!まともに人らしくするのが大変だった。 人並みまでも育てるの本当に苦労した!!! 「いってぇ!!ちょ!?なんでこんな所に辞書が・・・え?六法全書ってなにこれ?え?これ、椛のなの!?えぇ〜、だって横の楓なんかまだおしゃぶりしてんのに?えーっと、これも神様の加護…なの、か?」 「不思議な神様よねぇ。あ、椛!そこで爪とぎしちゃだめ!!」 椛にはまだまだ謎が多い。特定のひとにのみしか反応しないが、NEXT能力とは別の能力があるらしい。 本人いわく、まったくなんのことかわからないという。能力に気付いた友恵いわく、それはNEXT能力ではないという。実際に青い光が発現するわけではないので、たしかにNEXTとは違うのだろう。 それは俺にはいまいちわからない。友恵だけが感じ取っているものらしいのだが、椛に触れると心も体もとぽかぽかとするらしい。 子供体温のせいではないかと友恵にきいたのだが、それとは違うらしい。現に楓を抱き上げ散ると温かくはあっても“何かが流れてくる”ような感覚はないのだという。そう、椛のもう一つの能力は、まるで“命の力”が流れ込んでくるような感覚なのだという。 触れた場所から何か暖かいものが流れ込んできて、友恵はいつもより体調がよくなるという。 まさか癒しの能力か。触れた相手の生命力やら何やらの力を増幅する能力か。そう思ったのだが、それは彼女と椛の間でのみのやり取りだけらしい。 現に俺が触れようと、抱き上げようと、猫の姿の時に肉球をにぎにぎしようとも――特に何もなかった。触りすぎて逆に猫パンチを食らった。強烈だったとだけ告げておこう。 いろいろためしたところ、それは楓も母や兄や他の人も同じだった。なお、猫パンチを食らったのは俺だけらしい。なんで? 「あの力って何なんだろうな?」 「いいじゃないの虎徹くん。だって椛は神様から預かった子ですもの。何があっても不思議じゃないわ。 それにいるだけであったかい気持ちになれるなんてすてきじゃない? ふふ。まるで、ひだまりが人になったみたいね。 猫の姿の椛はとてもかわいいし、NEXTであっても。椛はきっとたくさん友達ができるわね」 「それもそうだな」 友恵の言うとおりで、徐々に成長していく子どもたちを見て、その言葉は真実味を帯びる。 このころは俺が子どものころに比べればずいぶんとNEXTの迫害はなくなったが、なくなったわけではない。 だけど椛の能力は心を和やかにさせる。 ただし周囲があまり椛が返信した姿だと気付いていないのは問題だが(苦笑) 猫の姿になる――そのNEXTのおかげで、椛は猫と会話ができるようだ。猫の友達も多いようだ。 それだけでなく人間の子供たちも集まってくる。 椛がいると猫とたむれることができるので、嫌われることもつまはじきにあうようなこともなく、むしろこどもたちでさえ椛をみればかけつけてくるほどだ。 「おーい!見ているかぁー友恵!!」 今は遠くにいる友恵にも聞こえるように声を張り上げる。 俺たちのこどもたちは大きくなったよ。 穏やかに。 あたたかく。 二人ともいい子で。 今日も公園でやんちゃにはしゃぎまくる子供たちを見やれば、ふいに楓が気づいて手を振ってくれる。 うん、イイコだ。 ふいに椛が何かに気付いたのかそちらにかけてしまう。 「そっちいっちゃだめ!あ、ちょっともみじー!」 『大丈夫だカエデちゃん!綺麗な蝶がいたんだ』 「もう!モミジったらすぐ動いてるものに反応するのやめてよ!だから迷子札が欠かせなくなるのよ!」 友恵もきっとこの様子を見ているだろうけど、遠くにいる彼女がこの光景を近くで見ることはできない。できるなら子供たちの一挙一動全ての成長を傍で見せてあげたかった。 みれないの仕方ない。 かわりに今日も子供たちの傍で、二人の成長の様子を見続ける。それが今俺の役目だ。 ほら、子供たちは元気百倍だ。 うちの子は元気で、イイコで。本当に神様のご加護のおかげだろう。 ただ、ひとつの問題をのぞけば。 それは、椛がおっさんくさくなったということである。 いや、実際に匂いがするとかじゃぁないからな!うちの可愛い息子がそんな加齢臭ダナンテ!あ、俺もまだ加齢臭しないからな!!そこ重要だからな!! 『綺麗なものを見たとき、人の心はワクワクしたりほっとしたり、幸せになれるらしい。 なら大好きな人に温かい気持ちをあげたいと思うものだろう?オレの大切な人の心を和ますために、一時蝶にその身を借りたんだ。長く閉じ込めるつもりはないさ』 そう。椛のやつ、一挙一動が悔しいことに男前なのである。 オッサンというか、大人っぽいというか、男らしいというか。 もはやただのイケメンである。 あ、いや違うか。イケショタである。 『オレ悪くないもん!』 「もみじずるい!すぐそうやって言い訳けする!」 「ふふ。椛も楓も元気ねぇ。 ありがとう二人も。とても綺麗で、お母さんもなんだかほっこりしちゃったわ」 子供たちが離れた場所で休んでいた友恵の傍へ駆け寄っていく。 今日は家族総出で近くの公園に足を延ばしていた。 ん?友恵ちゃんが死んだと思ったって?何言ってんだよ。 体はいまだに強くないから、太陽の下でははしゃぐ子供たちにはついていけなくて今日は日陰で休憩してるけど、友恵は健在。元気だよ。 え?俺のさっきまでの言い方だと、まるで天国にいる友恵に語り掛けてるみたいだって?やめろよそういう誤解招くようなの。 あーやだやだ。 その話はここまで! 今日は家族で遠足。せかっくの休日、俺は家族サービスに忙しいのだ。 話し戻すぞ。 蝶々を追いかけるなんてモミジからしたら当たり前のこと。下手すると猫じゃらしでもウズウズしている子だ。はぁ、俺の子どもたちは、今日も元気だ。 変身しなくても猫がじゃれあっているようで、うちの双子たちは相変わらず微笑ましい。 さぁ、俺も友恵のところにもど・・ 『そうだろう。笑ったときの母さんのように綺麗な蝶だった』 「お母さんが蝶?いいわねそれ。なら、お母さん、もっとおしゃれしないとね!」 「ならかえでにもー!おかあさん、わたしにもお化粧教えてよ!」 「もちろんいいわよ」 『二人そろったらそれは花にも負けない綺麗な蝶になりそうだな。オレも飛べたら、すぐに二人のところに飛んでいくから!虫カゴもったガキにつかまらないでね!』 「そうよ!なんたって私たちのお母さんだもん!綺麗でとうぜんよ!!」 「ふふ。でも椛が飛んでくるなら、私たちじゃなく椛がチョウチョみたいね」 『それもそうか。なら二人は花だな。オレはそれに吸い寄せられた蝶になろう。あと、全力で人間からは逃げる!』 「ひゅー!椛かっこいい!ちゃんと逃げて私たちのところに来てね」 『もちろん!』 なぁ、うちの息子、どこまでもキザなんだけど。 もう!もう・・・泣いていいかな? これもう俺の出番ないよね? むしろそういう褒め言葉は旦那である俺が言うべきセリフじゃぁ。 つか、旦那はお前か!?って突っ込みたいぐらい、それぐらい様になってるんだけど。 というか今の子供のセリフでいいの?あれがランドセルも背負ってない子供のはくセリフでいいのか!? 俺の威厳は? ねぇ・・・友恵ちゃん。椛みたいにカッコいいことなんて俺には言えないけど。お願い!俺のこと捨てないでね!!!! |