00.有り得ない事象の存在 |
「貴方はいったい“だれ”なんですか?」 その問いに、答えは返らない。 欄干に腰かけたままの《彼》は、青年の言葉を奪うように人差し指をたて口元にそれをそえてみせる。 そのしぐさひとつで、青年は息をすることさえ封じられる。 覗き込むようにこちらを見つけてきたその太陽に似た瞳を目にしたとたん、心臓がドクリと脈打ち体が射竦む。 言葉を発することも、“音”を紡ぐことさえできなくなる。 圧倒されるほどの“存在感”に、青年は自分の心臓さえワシ積みにされたような圧迫感を覚え、知らず知らずのうちに服の上から胸を抑え込む。 そのまま乾いたのどを潤すように唾をゴクリと唾嚥下する。 それでも渇きは癒えず。 青年が黙ったのを見届けると、《彼》はすっとその視線をそらす。 視線がそがれたことで、重圧が一気に消え、青年は胸の内にたまっていた重い空気を吐き出すように息をつく。 しばらくして青年が《彼》へ視線をむければ、《彼》はただ頭上で輝く太陽を見上げている。 その視線の先をおい、そして先程の《彼》の放つった“異様な力”の片鱗を思い出し――― 「・・・・・まさか!?いや!そんなはずはない!!だってあれは物語じゃ・・・ッ」 橋の上、その欄干に腰かけたままの《彼》の様子に、ついにあるひとつの“回答”に思い当った青年は、顔を一気に白くさせ「有り得ない!」とばかりに声をあげる。 それは《彼》を否定するものではなく。 ただつい先ほど、己が考え辿り着いた“解”に、現実的には不可能で、あってはならないことだという事実をのべているだけで・・・・ けれど青年の期待を裏切り、《彼》は―― 『それをいうなら“君たち”とて、“そう”だろう?』 ただ、静かに微笑んだ(わらった)。 |