02.埋もれた紹介状 |
-- side 夢主1 -- 「おやおや。が言ってた子は随分体力があるようだね。 ボクなら、1メートルも昇れずに落ちるかなぁ」 「そうなったら私が兄さんを運ぶわ。 それにしてもエレベーターがあるのに気付かなかったのかしら、あの子」 「気付かなかったから、登ってきたんだろうね」 科学班でのんびりとケーキをつっついていたコム兄とリナリーが、教団の周囲を飛び回るゴーレムによって映し出された映像を見て、同じ仕草で首をかしげる。 オレはというと、イノセンスを発動してリナリーから《》を実体化して、コム兄の机の上に山積みになっている書類をあさっていた。 わざわざ実体化していたのは、冷蔵庫に入れておいたケーキを運んできたためだ。 ぶっちゃけそれだけのために、イノセンスを発動している。 決して、自分の兄弟たちがケーキに夢中で放置しているアレンの紹介状を探すためではない。 オレのイノセンスの使い方なんて、戦闘じゃない方が格段に多い。 戦闘で使えないんだからしょうがないじゃないか。 みんなからは無駄遣いだと言われたけど、咎落ちしなければよし。 そうやってイノセンスの無駄遣いして、ただいま実体化中。 転生人生のいつかでみた【D-Gray.man】という漫画のとおりであるなら、あの白いアレン・ウォーカーという少年は、クロス・マリアン元帥の弟子だったはず。 あいつの肩の上にいる金色のゴーレムがその証拠。 たしかその元帥から紹介書がすでに届いていて、ちゃっかりこの山の中にある――はず。 あとあと探す時間がもったいないので、オレはおぼろげな原作知識を頼りに、コム兄宛のクロス元帥の紹介状をさがしていた。 っが、しかし。 オレはコム兄の机から床やらを覆う書類の山を崩してしまい埋もれた。 たすけて〜と呼んでも返事がない。 半身たるリナリーにまで見向きもされない。 そうこうしているうちに、門番の怪奇光線によってAKUMAかそうでないかチェックされたアレンは、左額のペンタクルによって呪いつきであったため、門番が景気よく発した「アウト!」宣言が教団内に響き渡った。 そこからは怒涛の展開で、神田が瞬間移動のごとき速さで飛び出し、アレンが左腕のイノセンスを発動してエクソシストだと判明して、クロス・マリアンからの正体所の話とかがでてきた。 神田が刀のイノセンスをアレンにつきつけようとしたまさにそのときに、アレン自身が危機を回避するワードを告げた。 《待ってホント待って!僕はホントに敵じゃないんですって!!》 《中身をぶちまければわかることだ》 《ひー!!!く、クロス師匠から紹介状が送られているはずです!!》 《元帥から…?紹介状?》 《そ、そう紹介状・・・》 《コムイって人宛てに!》 兄さん。アウトですね。 みんなの白い視線が、コム兄にむかっていることだろう。 コム兄は何でもなかったかのように優雅にケーキで汚れた口周りを拭き、キッと表情を引き締め真面目な顔をすると―― 「そこのキミ!」 「はい?」 「ボクの机調べて!」 ビシ!とオレが埋もれている紙の山を指指した。 「あ、アレをっすか…」 研究員くんの引きつった顔が浮かぶようだ。 「コムイ室長……」 「コムイ兄さん…」 「あは。ボクも手伝うよ」 リナリーにもなんとも言い難い視線をもらい、コム兄も慌てて動き出す。 それでようやくオレの近くまで人がやってきてくれて 「たすけて〜」 紙山の下からこんにちは。 「「「「「ァッ!?」」」」 助けを訴えたオレに、ギョっとした皆さん。顔を青くしたリナリーが駆けつけてくれて、それからようやく発掘してもらって助けてもらうことができました。 「なんでそんなところに!?」 「もうってば。どうしてこんなところに埋まってるのよ。 それより大丈夫?」 「ありがとリナリー。ま、なんとか無事かな。まさかあそこで雪崩が起きるとは思わなかったよ。でもかわりにいいものみつけたよ」 「いいもの?」 「ハイ。これ」 オレは救助されるまでの間で、たまたま目の前に振ってきた紙のなかにあったものをコム兄にわたす。 それはあの紙の山から発掘したコム兄宛の元帥からの手紙だった。 気分はあれだ。 捨てる神あれば拾う神あり―――みたいな感じかな? 「とりあえず神田をだれかとめないとアレンくん。みためじゃなくてそのままもやしのごとく刻まれちゃうよ?」 「「「「「あ…」」」」」 みなさん忘れてたんですね。 可愛そうに。 門が開いても喧嘩をしている神田とアレン。 それを仲裁すべくリナリーが神田をとめて、アレンはコム兄について――まずはイノセンスの治療をしに。 ギュィーーーーン!!!!がががががががっがが!!!! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 治療師を・・・ 「ぎゃぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」 あ、うん。 アレンの悲鳴が聞こえるね。 相変わらずコム兄の治療は、むごい。 治療が終わった彼は、ヘブラスカのもとまでつれていかれ 【時の破壊者】となる予言を受けた。 大元帥たちの映像が浮かび、新しいエクソシストに「戦え」と告げる。 そうして彼は、教団の仲間として迎えられた。 ―――それから間もなく。 新たな幕開けと共に、事件が起きる。 リナリー。 オレの半身。 どうか無事で。 今の世では、戦う力もないオレは、はじまりのファンファーレがどこかでなったのを聞いているしかできなくて、歯がゆさに拳を握りしめた。 |