09.小休憩 |
-- side オレ -- 「なるとぉー、ちょっといい?」 「なんだってば?」 「"これ"なんだけど…」 「"これ"って…」 「そ。生クリーム……だったんだけどねぇ」 「母ちゃん!?またケーキとか作ろうとしたってば!?」 最近は下忍任務のないときは、家でゴロゴロしているか、サクラやサスケと修行をしているかのどっちかだ。 今日は外に遊びに行こうとしたら、母ちゃんに呼ばれ、そこでみた台所の様子に言葉がなくなった。 なんかものすごく黒い物体があった。 しかも焦げ臭いし、ウゴウゴと動いている。 どうやら母ちゃんは料理はできるが、菓子類はいっさいだめで…"また"なにかを作ろうとしたらしい。 そのなにかは、いつも奇怪な奇声を上げて走り回ったり、地面を溶かしたり、異臭を放ったりするので、いろんな意味で恐ろしい。 オレは生前から菓子類は作れたが、まっとうな料理はしたことがなかった。 だからこの謎の生物を生み出してしまう母ちゃんの変わりに、菓子担当はオレだったのだが…。 無謀にもまた菓子作りに挑戦してくれたらしい。 こげた謎の物体が、げへへへ言いながら、ギョロリとした目がこっちをみてるんですが!? もういっそのこと禁術書に指定してほしい"うずまきクシナによる生物創造"って。 とりあえずその日は、網を持って謎の生命体を追いかけて終わった。 え?生クリームの失敗作がどうなったかって? そんなもん…ふふふ。 「おーちゃん!これなんとかしてっ」 「あら、ナルトじゃないの。いいわよぉ。それにしてもいつも面白いものもって来るわねあなた」 実は【ちゃっかり里抜け】も、な〜んもしていない実験大好きな大蛇丸に駆除を頼んでいる。 だって"あれ"刺しても焼いても死なないんだもん。 切れば分裂するし。 火遁で燃やそうとしたら、気体化しちゃうし。 以前それで、あの怪しげな笑い声が里中に木霊して、木の葉中にバニラエッセンスの甘いにおいが数日間続いたことがあったぐらいだし!! 水をかければ体積増えるだけだし。 土に埋めても這い出てきちゃうし。 風遁をくらわせれば風の属性を持っちゃうし!! そんなわけで母ちゃんがなにかを生み出すたびに、密閉容器に入れて封印処理をして大蛇丸に渡している。 最近やたらと大蛇丸の館が甘いにおいであふれているのは…この際無視しよう。 ++++++++++ 大蛇丸の屋敷から戻る際、シカマルたちとであった。 甘味所にいく途中だったらしく、誘われたので嬉々として便乗させてもらった。 母ちゃんのあの惨劇を思い出しただけでバニラは勘弁してほしいと思ったけど、この里のほとんどは和文化なので味直しをすることにした。 「え?鈴取り合戦?」 甘味処で甘さ控えめの抹茶羊羹を食べていたら、シカマルに言われた言葉になんだっけそれと首をかしげる。 なんか聞いたことがあるような気もするけど、衝撃的な追いかけっこの後ではなかなか脳が働かない。 ほくほくと羊羹を食べながらさらにハテナを飛ばしていると、シカマルがうなずいた。 「おう。お前らどうしたかな〜って」 「さすがにナルトやでこりんじゃぁ、サスケ君の足手まといにしかならなかったでしょう」 「……鈴取り、合戦?」 「そうよ。私たちは楽勝だったけど。そっちはどうなの? ってか、どんなことさせられた?下忍の任務をやってるからには合格したんでしょ?」 「…もぐもぐもぐ。僕たちはシカマルの策で乗り切ったんだよ〜」 「鈴取り合戦…」 「「「そうだ(よ)」」」 そこでやっと思い出した。 あの時も今日のように衝撃な出来事があって…… オレ達、鈴取ってないじゃん。 しかもカカシ先生がきたとたんここの鬱憤を晴らすべく襲い掛かっちゃったし。 「…忘れてたってば」 「「「へ?」」」 「ちょっと巨大ゴキブリと出くわすぐらいの衝撃的事件があって、みんなそれどころじゃなかったんだってばよ」 しかもちょうどいいタイミングで担当上忍が数時間に及ぶ大遅刻をしてきたため、八つ当たりをかねて一斉攻撃を仕掛けた。 オマケでいうと、里を一瞬で滅ぼせるとされる九尾の力を少しつかってだ。 わけがわからないと呆然としているいの、シカ、ちょうの三人に、真実をいえないオレは苦笑してごまかした。 「…あ〜えっと。カカシ先生がものすげー遅刻して腹立ったからみんなで奇襲かけたんだってば。それで合格」 アハハと笑ってごまかしたら、一番最初に我に返ったのはいのだった。 「だ、だって相手は上忍でしょ!?ドベのあんたやサクラみたいな頭でっかちのでこりんは、サスケく〜んって騒いでただけじゃないの!?」 いのってば、心から認めた奴には結構ずけずけ言うんだよね。 でもごめんよいの。オレたちといて、サクラちゃんは…サクラちゃんは、変わってしまったんだよ。 「サクラちゃんってば凄かったってばよ!」 もう大活躍? オレとサスケを仲直りさせちゃうし。 ほら、演習場の樹が一本無残なことになっちゃったし。 「むしろ騒いでたのは…カカシ先生だったてばね」 第七班の初任務兼演習でおこったことを思い出して、オレはハハと気の抜けたような笑い声を上げた。 その視線はなぜか宙を彷徨い、視線はうつろで見事に魂が抜けた。 「うん。いろいろあったってばね〜。やっぱり人生は穏やかでないと…あぁ、お茶がうまい」 なんだか思い出すたびに、どうしようもなく達観してしまう。 他人事だったらいいのにと思いつつ、ズズと茶を飲んだら。 「お前はどこのジジイだ」 シカマルにつっこまれた。 なにかを察してくれたらしいチョウジが、オレの分の茶代をおごってくれると言ってくれた。 後日、サクラとサスケも三人に同じ質問をされたらしいが、彼らもまた遠くへ視線を彷徨わせた挙句「巨大なゴキブリがでたような衝撃」と答えたらしい。 照らし合わせたわけでもないがつい口に出てしまった回答に、言葉をそのまま信じ込んだアスマ班のトリオにより変なうわさが広まった。 ――木の葉には巨大なゴキブリがいるらしい。 それい以降、里をねらう忍の襲撃が減ったのは、いかがなものだろう? |