10.君の誕生を祝う |
エマが死に、ハロルドがエマの文章をもとにゲームを作り、ハロルドの姪がゲームの中に取り込まれ生還し、ハロルドがゲームをCC社に持ち込んだ。 そしてハロルドは失踪。 狂っていく友人の姿に、友人たちのあいつぐ死に、オレはたえられなくなっていた。 -- side 夢主 -- 死ぬ前のエマも、失踪寸前のハロルドもそうとう病んでいたが、二人の親友を失ったオレも心を病んでいた と思う。 そんなオレを傍で見守り慰め勇気づけてくれた存在がいる。 オレ、その彼女とこのたび結婚しました〜。 メチャクソうれしいんですが!!! え。シリアスな出だしでびっくりしたって? いやぁ〜。あれはただ事実を時系列順に語っていただけだ。 さて、話を戻そう。 失踪したハロルドの券から説明すると、彼、 肉体捨てちゃったんだ。 なにをどうしたかというと、オレが前世の知識をもとに、魂を電気信号に変換する方法とか。いろいろ話したものを実現させてしまったのだ。 さすが天才。あんな超科学未来技術を実現させてしまうとは。 知識を知っていても。それを本当に成功できるかというと断定はできないものだ。 だからこそ、何度も何度も実験を繰り返し、成功へと導くのだ。 ハロルドは目の前のものをみて、ふるふると体を震わせるなり、落ちくぼんだ眼球をくわっ!とひろげて、画面を指さしながら言った。 「誰がお前の要素9割の子供を作れと言った!!!!!」 画面のなかで、いくつものウィンドウを展開しながらぷりぷりおこっている相棒に思わず笑ってしまう。 見た目は幽霊かなにかのように陰湿な雰囲気のヤバイ男のアバターなのに、姿を裏切るほどゲームのなかでも彼は元気なようだ。 オレにたいするツッコミなど、現実世界にいたとき以上にキレッキレッなほど。 むしろ現実世界と肉体なんてものから解放されたせいか、昔より元気過ぎて苦笑を禁じ得ない。 ハロルドは「fragment」をCC社にもちこんでからすぐに、現実世界と肉体を捨て、ゲームの世界がきちんと育つようにと電子生命へと姿を変えた。 オレならば元の現実世界に戻れるが、その方法を知らない彼はもう二度とこの現実世界に戻ることはない。 そんな覚悟のうえでの電子化だった。 彼は今、ネットに広がり始めた「fragment」もとい「The World」の調整をその"世界"の中から行うので忙しい。 アバターとはいうが、いまや"魂を持った生きたプログラム"となった彼は、ほんの数か月前まではそこそこ身だしなみも綺麗で頬もやせこけてはおらず、紳士的な姿をしていた。 最近、世界をさらに成長させるために「子」となるAIを作りはじめたことで、気持ち疲労困憊してしまったせいかアバターもくたびれきってしまったのだ。 『いやぁ〜。頑張ってAIに知能をたたき込んでいるうちに・・・うっかりやりすぎちゃって。そのままオレ色に染まちゃって』 「あほか!!お前色に染めたら〈世界〉になじめないものになってしまうではないか!!ああ、魂の計算からやり直しだ!!」 『だよね〜。AIに新しい魂を埋め込もうって思ったのがまずかったか。でも誰かの魂を引っこ抜いてAIにいれるのはよくないじゃん?』 「あたりまえだ!だから今こうして!!!ああぁぁ、どうするんだ。髪の色までお前の姿を映してしまって!しかももう目が覚めてるぞ!!」 『うーん。魂の計算が間違ったから、思考回路がほぼオレっぽいんだよなこの子。あ、じゃぁ、ちょこっとオレの成分をぬいて、普通のAIレベルの水準まで戻そうか。それならどうだ?』 「お前成分ってなんなんだ!そもそも子供は母親がいてそだつのだろう!!始めから知識だけあたえてどうするんだお前は!それでは成長は見込めないだろうが!究極のAIこそ世界の成長に必要なのに。すでに完成していては意味がないと何度言ったらわかるんだお前は」 『やだ。ハロルドがちゃんと父親してる。オレはすこぶる感動しているよ』 「その赤毛のAIはお前の子だがな。はぁ〜・・・こまったぞ。その子はアウラにはほど遠い。 あと究極のAIが子の状態であるのなら、母親役のAIがいるな。世界に存在する意思とやらを魂の演算で取り出して、それをAIにくみこんでアウラの母親にする事は可能か?」 『ゲッ。ちょっと、あのおばさんをアウラの母親に?いや、まぁ世界に自然発生した意志だから、ポジション的には母親なんだろうけど・・・自我が強いぞあいつ』 「やってみるしかないだろう」 「世界の成長のためには、究極のAIが必要なのだから」 そんなこんなで。電子生命になってしまった友人と非公式で、プログラムを作り上げ、それをこっそりCC社が運営する「The World」に組み込もうと賀作しているオレとハロルドであった。 まぁ、上の会話からもわかるだろうが、幽霊というか魂だけの存在になってもハロルドは元気にやっているので安心してほしい。 + + + + + + + + + + 偶然でオレ要素でもう完成しちゃっていたAIの子は、その見事な赤い髪の色からリコリスと名前を付けた。 嫁に「みてみて!オレの子できちゃった!」とそのAIの子をタブレットごとみせつければ、オレの赤毛と画面の中のAIをみて「なるほど」と嫁は頷いた。え、冗談のつもりで「子供出来た」って言ったんだけど、納得しちゃったの。嫁ちゃん、それでいいの?いや、間違ってはいないけど。なにせこのAIはオレが作ったのだから。 タブレットの中では、小さな赤毛の女の子が白い布切れを羽織るだけで座っている。 画面の中からこっちをみているのか、ぼーっとしつつゆっくり瞬きを繰り返している。 なにもできないのは、まだ生まれたてで自我がないからだ。 そして嫁はしばらくの観察の後、腕をわきにそえて怒ったようにムッとして、言った。 「貴方の娘なら、じゃぁ、私の娘も同然ね。ところでいつまでその可愛い私の娘にこんな格好をさせているつもりなの?」 『へ?』 「AIでもあたなが作り出したなら、むこうの世界で五感があるんでしょう?お友達のハロルドさんもあるっていってたし」 『あ、ああ〜・・まぁそうかも』 「なら!もうちょっと気遣ってあげてよ!女の子よ」 そうして嫁監修のもと、AIには赤いワンピースとケープをプレゼントすることとなった。 いや、まだ骨格がようやくできたところで服まで考えてなかっただけです。変態ではありません! そう謝罪をしつつ、急遽リコリスに衣装を用意する。 嫁ちゃんおこだわりはすごく、風に広がった時の衣装のひらめきについて語られた。 いわく、女の子が欲しかった。子供が生まれたら着飾らせたい。とのこと。 そうこうしてできあがった赤いワンピースに、赤いケープをリコリスに着せる。 リコリスは始めキョトンとしていたが、画面越しに嫁が「それは貴方だけのものよ」と言ったら、とても嬉しそうに笑った。 笑った!はじめて笑ったぞ! 嬉しくなってタブレットをぐるぐる持ち上げて騒いでいたら、うるさいと嫁にたしなめられた。 だけどすぐに真顔になると、オヤバカしてる場合じゃなのでしょうと。 「その子は貴方たちによって"意図をもって"作られたんでしょう?なにか"役目"があるんじゃなくて?」 よくわかっている。さすがはオレの嫁である。 『正確には"役目を与えるはずだった"がただしい。オレが彼女のスペックを盛りすぎたせいで却下されたんだよハロルドに』 「もるなよ」 『嫁ちゃんがひどーい』 「やりすぎなのよあなた。っというか、人類に期待しすぎなのよあなた。不可能なことをできると信じて、頑張ってる人にその夢を押し付けちゃうの、悪いところよ」 お前はいつもどこをみている?遠い先を見過ぎていて、ついていけない。 一番初めに会った当初のハロルド・ヒューイックは、オレの会話が突拍子もなさ過ぎてついていけないと肩をすくめた。 幼馴染のエマ・ウィーラントは、オレの話を"夢物語り"だという前提で話を合わせつきあてくれた。 当時は話を聞いてくれるだけで嬉しかったし、やがてはハロルドもオレの話を聞いてくれるようにはなっていた。 それでもどこかでオレは"オレの理解者"をもとめていたようで、なんてことないように"オレを理解している"と言ってくれる嫁ちゃんには本当に感謝しかなかった。 「あなたの悪いところよ」なんて。それはすなわち"オレを理解している"からこその言葉だ。 オレの悪いところだろうが、それはしっかり"オレという存在を理解していなければ"言えない言葉。 彼女は理解しているからこそ"そういうことが言える"のだ。それがなんとうれしいことか。 『ありがとう』 「え。なによとつぜん」 『いつもオレを"見てくれて"嬉しいなーって、思ってね』 「あら、でももうあなた"だけ"を見てはいられないわ。だってこれからいそがしくなるもの。ねぇ、 "パパ"、"おねえちゃん"?」 『うん?』 パパ・・・は、まぁリコリス作ったのオレだし間違ってない。けど、いま、嫁はなんと言ってリコリスに笑いかけた? 「リコちゃん、もうすぐ"おねぇちゃん"になるのよ」 『は?』 そういって微笑む嫁は、嬉しそうにそっと自分のおなかを撫でた。 その表情は今までに見たことがないほどやさしいもので・・・。 『え。つまり?』 彼女は笑うだけ答えはせずただうなずいた。 ーーー数か月後。 2006年ある日の某所。 モニターのなかでそわそわと可憐な赤い少女が、あっちに行ったりこっちに行ったりと落ち着きがない。 画面の中をいっそのこと飾りつけでもしようかと、今度は画面の中でクリスマスツリーの飾りのようなものをもちだしてくるしまつ。 それに思わず苦笑を浮かべてしまう。 生前は転生するたびにどんどん人から遠ざかってしまったせいか、それともそばで冷静さをかいている少女 がいるせいか、思いのほか自分は落ち着いていられた。 あと、あれだ。なんとなく魂がしっかりしてる感じがするし、気配のようなものを感じられるから、けっこう平気なのかもしれない。 いや、少女や他のやつらがビビってるのはあれだろう・・・病室から聞こえてくるつらそうな声のせいかもしれない。 『リコリス、大丈夫だよ』 《で、でも!》 大丈夫。二人の魂はどちらもともしっかりしている。 ああ、ほら おぎゃぁー! 大きくて元気な鳴き声がこの世に生を告げる。 画面の中でリコリスがパァーっと笑顔をみせる。 ついで、病室の扉が開き、看護師が「二人とも元気ですよ!」と声をかけてくる。 《ママ大丈夫?!赤ちゃんは?》 『がんばったね嫁ちゃん。リコリスこれが君の弟だよ』 「ふふ。どうもあなた似みたいよ」 疲れ切った表情の、それでも幸せそうなやり切った感のある嫁ちゃんお腕の中には、赤い髪の生まれたばかりの男の子がいた。 『ほーら、パパとおねぇちゃんだよ』 タブレットをかかげて、まだ目も見えていない赤ん坊の前にリコリスを見せてやる。 《ふふ。赤ちゃんって本当に最初はぶさいくね》 『それは思う。でもかわいいっておもうから子供って本当に不思議』 三人で誕生を祝いながら笑っていれば、泣き疲れて眠っていた赤ん坊がむずりと動いた。 なんかしわくちゃのカデ、何か言いたげに口をモゴモゴさせて、開かない手をにぎにぎしてるのを見たらおかしくなってしまった。 「あんなに大変な思いをして生んだのに、この子ったらずいぶんのんきそうな顔ねー」 《ママ、死にそうな声出してたもんね》 『そういうもんさ』 それにしても転生前の世界で子供のような存在や子供はいたが、ほんとうにちのつながった子供は初めてかもしれない。 しわくちゃなのは、生まれたてのあかし。 まだまだかわいいというにはほど遠い生き物だけど、手を伸ばせば動きづらいちぢまった指で握り返そうとしてくる。 これが己とつながった新しい命だ。 よくきたな。 よくオレのもとに来てくれた。 よくぞ、オレと嫁ちゃんを親と選んでくれた。 お前の姉が、早く話したそうにしているぞ。 お前の母親が、今までにない顔をしている。 お前の父親がだれかわかるか? ああ、愛し子よ。 よくぞ生まれてくれた。 ようこそ。 『ようこそ、この"世界"へ!』 |