心も情報でできた世界で
- 攻 殻機動隊 -



03.心も情報でできた世界で






 タ



 か

   イ



『ようこそ素子』


だ れ ?
ナニか?

オマエハ ナンダ?

どこカで・・・
ドコかデ会ったコト、ガ?


『ああ、言い変えた方がいいか。おかえり、人が産み出しし、原始の海に』


――おまえはだれだ
――わたしは
――おれは
――ぼくは
――じぶんは・・・

――ジブン?


『ああ、きみ、あの子と随分混ざっちゃったようだね。共鳴度がハンパナイとは思ってたけど』


――アノコ?


『この電脳の海で自然に発生した意識。んーそうだな。君たち人の呼び名が確かあったはず。たしか――』


――ニ ン ギ ョ ウ ツ カ イ・・・ソウ ヨバレテイタ


『ああ、それそれ。オレは君たちをずっと見ていたものだ。草薙素子と呼ぶべきかな?それとも“人形遣い”?』


無限に広がり続ける電脳の渦の中で、ひとつのちっぽけな人間であったものが、“巨大な意思”と 、体も思考も記憶も何もかも共有させた。
草薙素子としての要素を残し、“人形遣い”であった存在は、電脳空間の中でプッカリと浮かんでいた。

素子の自我が壊されないように、電脳の海からオレは彼女となった存在を掬いとり、完全に電脳と分離する。

体に戻ればある程度制御ができるようになるだろう。
だがあまりに急に彼女と“人形遣い”は融合しすぎた。
このままでは草薙素子という存在などあっというまに、この電脳の海に溶け込んでしまう。
だから、いまは少しだけ電脳空間(オレ)もとい人の存在など消し去ってしまいそうな知識(電脳空間に存在するデータ)が 、彼女のもとに集おうとするのをとめる。
いうなれば、海からあふれんばかりの水が川に注ぎ込み、いま彼女の中を濁流となって流れているのだろう。その流れを水道の栓を閉めるようにきゅっと止めた。

それに仲間であるバトーという機械よりの人間が、彼女が帰ってくるのを待って、義体(ボディ)を用意しているのだ。
彼女が帰るのを待ちわびている者たちがいるのを知っているから、オレは君が現実に戻るための手をかそう。
残念ながら、君を"君"として元の世界に返すことはもうできないけれど、それでも"君"はまだ「草薙素子」ではいられるだろうから。

オレとしては、この電脳の海で生きる者がほしかったところだ。簡単に言うと、後継ぎがほしかったところだしちょうどいい。
まさに、これが縁だったのだろうと今ならわかる。

きっと現実で目覚めたとき、彼女は前以上にこの電脳世界を身近に感じるだろう。


『オレは・・そうだね。いうなればこの電脳の海そのもの。この電脳世界に新しい命を産み出した君たちに、ふたりに・・・頼みがあるんだ』





あんたは何者だと問われたそれに、電脳世界に身を隠していた妖精だと言えば、二人は笑ってくれただろうか。
いいや。そんな戯ごとなんてどうでもいいかな。

この知識という名の電脳の海の流れを"君という自我"が消えないよう、受け入れる抗体のようなものができるまでには、緩やかになるように変えるから。
オレのかわりになってよ。

この世で最も世界の深淵と始りに近づいた“人”と“機械から生まれた自我”であった君たちに。



世界をたくそう。



流れゆく世界をどう動かそうとするもよし。
人に、魂から肉体・・・万物というものの知識を流布するもあり。
それともみずからは流れに身を任せ、電脳の海で生まれ行く自立意識たちに任せるもよし。


『これからは君たちが選ぶんだ』


人も。機械も関係ない。
この混沌とした世界を。





オレは君たちのような存在が生まれるのを待っていた。

人であり、人でなし。機械であり、機械でない。プログラムであり、プログラムでない――“存在”を。

“オレ”という存在をなくせば、この膨大な電脳の海は思考性を失うだろう。
かわりにそれをささえるのが、君たち二人の役目。
あるいはこの海を産み出した“人間”の役目だ。



オレはそろそろマスターのところへいくよ。





だから――


カエロウ・・・。
帰るんだよ君たちは。

“自分”を失う前に、現世へ戻ろう―――モトコ。








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