劇場版 『七夜の願い星 ジラーチ』 2話 |
ほんとうは みんな さ なにかしらの“約束”を まもりたかっただけなんだ って いまなら 思えるよ -- side グリーン -- ぼくの幼馴染みの一人は馬鹿だ。 もう、どうしようもないくらいの馬鹿。 ぼくが物心ついたころにはあの人格は出来上がっていて、レッドはいつも馬鹿ばかりしてた。 はためにはどうしようもない変人でしかなかった。 そうさ。あいつは昔からとんでもない馬鹿なんだ。 それでまた無謀なことをしようとしている。 十年もだめだったことをあきらめず、ずっと追い続けてる夢見がちな馬鹿。 自分のことなんかこういうときそっちのけで。 馬鹿すぎてピカチュウにいつも説教をくらうような、考えなしの大馬鹿野郎。 本当に馬鹿。 「どう思うよユキナリ」 『そうじゃのぅ。まぁ、仕方ないと言えばそうなのかもしれんがな。 逆に―――』 「ユキナリ?」 『レッドをずっと見てきた“ボク”から言わせてもらうならば、レッドは馬鹿なんじゃなくて馬鹿を演じているのかなって思ったことがあるよ』 電話越しにみたオーキド・ユキナリの老いた姿が、ぼくには一瞬、十代の少年のように思えた。 それに時間の流れを感じて眉を寄せつつ、空に浮かぶ流星を見て苦い思いが湧き上がってきて感情のやり場に困って思わず舌打ちする。 そんなぼくに年上の従兄弟君は、困ったように苦笑を浮かべた。 ああ、しまった。 ユキナリを困らせてしまったか。 ただでさえ学会とかひっぱりだこで休む暇もなく、あげく研究所にいるポケモンたちの面倒も見ないといけないんだから。 レッドとかサトシとかの大量ポケモンたちをみてもらってるのに。 「ごめんユキナリ」 『はて。なんのことかの』 「ぼくは…‥時間が、流れていくことが悔しくてしょうがないよ」 年上の従兄弟ユキナリの榛色のぼくとは違うサラサラな髪が、いつから白くなったのだとか、もう覚えてはいない。 ぼくもレッドもまだ白髪なんてないのに。 そして千年彗星。 この地球に接近してくのは千年に一度。たったの七日間しかみえない。 ジラーチが起きている時間。 ぼくがレッドに勝てるはずもないのに、最後の七日目は必ずレッドより先回りしなくちゃいけない。 ――時間はもうあと六日しかないなんて。 焦りがぼくの思考を鈍らせ、この先どうすればいいかわからなくなってしまって、ついにはこうしてユキナリになきついてるんだ。 なんて時間は残酷な答えばかり要求するのだろう。 ただ一つのもののために、十年という時間を待ち続けているレッド。 先にいってしまって、気が付けば大人になってしまったユキナリ。 願いを叶えてくれるポケモンに願い事をかけるなら、千年に一度しかチャンスはなくて、あと六日後のその日にしか不可能。 どれも《時間》がものをいう。 時間。時間。時間。じかん・・・ ユキナリに電話しているこの間にもきっとジラーチは目覚めていて、レッドもなにかしら動いているんだろう。 あと六日しかない。 ぼくだってそれのために準備を進めないといけない。 たかが六日だなんて、時間は全然たらない。 それでもやりとげようと。 昨日の夜、あいつと怒鳴り合った後――決めたんだ。 『そうとう参っているようじゃのうグリーン。 時間がないのはわかるがそう焦るもんじゃない。急がば回れと言うじゃろうに』 「…だって‥レッドが」 だけどレッドとあんなに本気で喧嘩したのは、たぶんはじめてで。 いつも殴ったり怒鳴ったり、言い合いはしても。本気じゃなくて、それがぼくらのスタンスで。挨拶代りのやり取りのはずだったんだ。 だから心をどこへ持っていけばいいかわからなくなってしまって、ピジョットでとびたって街につくなり昔馴染みに、散々あいつの愚痴をわめきちらしていたんだ。 『まぁ、そうじゃなぁ。今回のことはお主には酷かもしれんな』 「っ!?」 『グリーン。 “あれ”はお前があの時側にいなかったから防げなかったわけではないんじゃ。どうせレッドのことだ。馬鹿と無謀と無茶が代名詞のあやつのことじゃ。お前がいても“ああなって”いただろうよ。お主が悔いてもしょうがないことじゃ。そもそもあいつ、気にしとらんしな。 それをどうにしかようとジラーチを探してるんじゃろ?』 「……」 『わしは口出しはせぬよ。 お主かレッド、どちらが願いを兼ねようともな。 じゃがのう。一つだけこんなわしでも言えることがある。 いいかグリーン。決して、時間を変えようとだけはしてはいかん。これだけは絶対だ』 「…わかってるさ。少しでも歪めた時点で報いが来るのは承知済みだよ」 『時間の流れとはなんと酷なものか。 ほれ、わしをみろ。気付けば、わしもすっかり白髪の爺じゃ。 進む先はわからないというのに、振り返った先には…こどもたちがおった。 さらにはわしが10歳のときに約束した未来の友人はようやく10歳になり、老いたわしがあの子の旅立ちを見送るはめとなった、――時が進んでおったのだと、あのときは、改めて思い知らされたもんじゃ』 「でも、守りたかったんだ」 『それはレッドも同じじゃろうて。 それでも今ならまだお主は間に合うから未来のために動くのじゃろう?あと六日もあるのじゃから』 「“も”か」 『そうじゃな。“しかない”ではなく“もある”じゃ』 ユキナリの言い回しに、しかめっつらだった顔の筋肉が緩むのがわかった。 画面越しのユキナリにもそれはわかったのか、向こうから穏やかなまなざしが向けられる。 それになんだか勇気づけられて、ぼくは大事な六日間を無駄にしてはいけないなと席を立つ覚悟をする。 「ありがとうユキナリ」 『ふぉっふぉっふぉ。朗報なんぞきたいしておらんからな』 だよな。そのとおりで。 なにせぼくがいままでレッドがらみで苦労しなかったことはないもんな。 ここにレッドとかサトシがいたら、全部あいつらトラブルホイホイどもに、いいところは全部もってかれそうだし。 ・・・。 ぼくの周りにはどうしてそんな非現実的なやつらばかっりなんだろう。 じゃぁ、きるねと受話器を置こうとして―― 『そうじゃった。言い忘れておったがグリーン』 「ん?」 まさに通話を斬るその寸前。 ユキナリから爆弾発言をいただいた。 ユキナリはそれはもうニッコリと笑って 『そっちに“サトシ”がいるからのー! しかもサトシと共に旅している子がジラーチのパートナーにえらばれたんじゃ。 ま、サトシに負けぬよう頑張ることじゃな』 ははははとそれはもう楽しそうなユキナリの笑い声を最後に、そうして電話は向こう側からきられ、画面はブラックアウトした。 ぼくの意識もブラックアウトしけたよ。 「はぁ!!!!???」 トラブルメーカーその2であるサトシがジラーチがいるこのファウンスきてる!? それもその旅仲間がジラーチのパートナーだって!? なんだそのふみまくりなフラグは! 間違いなくぼくやレッドに勝機はないじゃないか!!! ユキナリのやつ、初めからそれをわかってて・・・ それであの発言かよ!? くそー。やられた!! 相手の方が上手で手札隠してやっがた! 「なんてことだ」 元祖トラブルメーカーたるレッドはいないにしてもそれはないだろうと思わず、orzのポーズで地面にたおれこんだぼくは、打ちひしがれずにはいられなかった。 ぼくの願いを叶えてもらう隙なんてどこにもないじゃないか。 あと六日・・・ どうしよう!? アト ム イカ |