2014.03.15 加筆修正


不思議お兄さんは何役者?
- ポケット モン スター -



SP 03. 緑は赤をよく知る
『』…有得  「」…ポケスペ





『なるほど、ね』

赤い帽子にトゲトゲ頭の少年は “れっど” と名乗った。
彼は【グリーン】そっくりの少年とぶつかり、そのときモンスターボールがすべて入れ替わってしまったのだという。

『だけど残念。この子は君のピカチュウじゃないよ。僕が卵から孵した子だ』
『ちゃぁ〜』
「そう、みたいだな」

あのあと【グリーン】と “れっど” は、落ち着いて話をしようと広場にやってきた。そのままベンチに座って、 “れっど” の勘違いの原因を聞いた。
やさしくなでる【グリーン】に「もっともっと」とばかりに甘えた声を出して気持ちよさそうに目を細めているるピカチュウをみて、 “れっど” は自分のピカチュウとは性格も違うと苦笑を浮かべて頭をはずかしそうにかいた。

 “れっど” のピカチュウの名は、 “ぴか” というらしい。
そしていまその “ぴか” を持っているのは、 “ぐりーん” 。


たしかに【グリーン】の側にいるピカチュウは、〔ピカ〕という名前である。

しかしこのピカチュウは【レッド】大好きの【レッド】バカであり、現在それにそっくりなのに違う “れっど” がきたことでふてくされている。
そのせいで、一瞬なりと自分の主がきたと思わせた “れっど” をこの短い間ですっかり嫌悪している。
視界に入れても完全にその存在を無視して【グリーン】にべったり甘えきっているピカチュウと “れっど” の視線が合えば「さっきはよくも期待させてくたな。なにさらしてくれてんじゃわれ」とばかりの凶悪な視線が向けられる。

 “れっど” のピカチュウもあまりなついているとは言い難いが、これはない。
【ピカ】が【グリーン】にむけるものと、 “れっど” にむける視線の温度差が激しすぎて、トレーナーたちは苦笑を禁じ得ない。

「よくよくみたら、あんたの方が目つきが柔らかいかな。にゅうわっての?そんな感じ。
それにあいつ、あと服のセンスがお兄さんとは違って微妙なんだよあいつ。紫のシャツばっか着ててさ。あとおれと同じぐらいの年だと思うんだよね。身長的にさ。
お兄さんは17ぐらいだろ?おれ、10歳」
『そんなところだな』

〔ときわたり〕の影響で、精神年齢だけはさらっと四十を超えている【グリーン】は、それを表面には出さずそれはもうニコニコとしていた。
そこにはこう書かれている。それ以上その話を振るなと。
ピカチュウは彼の笑顔の裏に書かれている感情を素早く理解し、「そりゃぁそうだろうな」とばかりに同情するような顔をしていたが、 “れっど” は気付いた様子もなく、彼に誘導されがママに促されるがまま “ぐりーん” との出会いからいままでのことを話していた。

『へぇ〜。 “こっち” でも赤と緑はライバルなのか。んん?僕、あいつのライバルだっけ?』
「なにぶつぶつ言ってるんですか?あ、そういえばお兄さん、なんて名前なんだ?」
『まだ名乗ってなかったっけ・・・っていうか、これって普通に名乗っていいのかなぁ。どう思う【ピカ】?』
『ぴかちゅう、ぴーか(やめることをすすめる。賢明じゃないよ)』

「ピカチュウが首を振るって…お兄さん、それほど変な名前なのか?それとも覚えられちゃまずい名前か立場とか?」

まさかロケット団!?と叫ばれ警戒されて、【グリーン】は有り得ないと叫び返す。

『やめろー!!僕をあんな非常軍団と一緒にしないでくれ!あいつらに目の敵にはされても仲間だなんて有り得ない! 僕は【グリーン】だ!目つきの悪いっていう君の知り合い君と同じ名前だから名乗りたくなかったんだ。ややこしいのは好きじゃないからね』

【グリーン】の世界ではロケット団は、七年も前に【レッド】により壊滅させられている。
そのリーダーは改心してトキワのジムリーダーとして、表の生活メインに張り切っている。
いまとなっては彼はカントーの最後の砦であり、最強と名高いジムリーダーとして活き活き、挑戦者を倒しているしまつだ。
倒してまくっているとはいえ、もちろんジムリーダーとは、トレーナーを育てる存在だ。
相手が勝てなくともバッチを渡すことはある。

しかしカントーチャンピョンへの挑戦権を得るためならば、話は別だ。
そしてこの件に関しても、元ロケット団の首領兼現トキワジムリーダーは関係してくる。

【グリーン】たちの世界では、チャンピョンへの挑戦権を得るのはとてつもなく難しい。
彼らの世界では、バッチをあつめただけではダメなのだ。
ジムリーダーと四天王全員に勝利し、さらに認められたものだけが進める道。それこそが【レッド】だ。
なかでもカントーチャンピョンへの挑戦権をかけたバトルとなると、【レッド】とすっかり打ち解けてしまったトキワのジムリーダーが挑戦者の前に恐るべき精鋭たちをひきつれて立ちはだかる。
トキワジムリーダー、四天王。彼らがいるから、カントーチャンピョンは七年も変わらず【レッド】のままだ。
まぁ、彼らがいなくともやたらとレベルの高い野生ポケモンの宝庫であるシロガネ山がさらに行く手を阻むのだが。


ロケット団はもうないのだ。
あのノリノリのジムリーダー以外には。その名残は、記録でしか残っていない。

ロケット団といわれ、【グリーン】が思い出すのは悪行の数々を行った彼ら。
そしてジムリーダーとしてノリノリで【レッド】と手を組んでトレーナーをつぶしまくってる男しか【グリーン】には浮かばなかった。

最強のジムリーダー サカキ。
かたや、最強にして伝説のトレーナー レッド。
“最強”と名のつく二人がタッグを組んだ己の世界。
怖すぎる現実である。
二人がトレーナーつぶしを始める前に自分はカントーを制覇していてよかったと思ったのは、きっと【グリーン】だけではないだろう。


そしてあの【サカキ】が動かしていた組織と同じ名前がここでもでた。
しかもそれが、【レッド】と同一存在であろうあの“レッド”からだ。

もうやだと、【グリーン】は額を抑えた。


その名が悪だと理解して逃げるのではなく警戒する時点で、こちらの “れっど” も自分の幼馴染と同じにおいがするのだ。

『お前もトラブルにいちいち首を突っ込むなよ』

そうして伝説ホイホイするんだ。
絶対そうだ。そうに違いない。

ここに彼が知る【レッド】がいたら、「自分から突っ込んでるんじゃない。向こうからくるんだ」とばかりにトラブルメーカーであることを拒否しただろう。
本人だって好きで巻き込まれているわけではない。成り行きである。
そして、それに巻き込まれる【ピカ】と【グリーン】はそのあとどうなるかも十分すぎるほど理解していた。

この世界の “れっど” も同じに違いない。
ならば、巻き込まれる前に逃げるが勝ちだと、視線だけで会話を終えた二人(一人と一匹)はそのまま無言で席を立ちあがる。

「ぐりーんさん?」
『僕らちょっと急いでるから!』
「ちょ!?なんでそんな逃げるように行くんですか!!おれなにもしてないですよ!?」
『する!いまじゃなくても絶対に!
僕はお前みたいなやつを知ってる!絶対おまえといると何かに巻き込まれて、そのまま大事に巻き込まれるんだ!!
僕はごめんだよ!!帰る!帰らせてもらう!!
玉ねぎや黒いのでいまは手いっぱいなんだ!桃色のストーカーに追いかけられる幼馴染も!!これ以上騒動はごめんだ!!』
『ぴっか、ちゅ!(そうだそうだ!)』
「えええええぇぇ!?おれそんなこと」
『するから言ってんだー!!そんでもってその手を離せ!なんで僕は引き止められてるんだぁ!!』
「あ、わりぃ。勢いで、つい」
『それが困るんだー!!』

逃げようとした【グリーン】だったが、彼が立ち上がった同時にひきとめるように “れっど” が彼の新緑色のジャケットをつかんだ。
上着を脱ぎ捨てようか悩んだが、お気に入りのジャケットだっため【グリーン】は舌打ちする。
彼の腕に抱かれていたピカチュウは【グリーン】の肩に登って、嫌そうな顔をして “れっど” を見下ろしている。
へたすると伝説をしのぐ彼の電撃が、 “れっど” を狙いかねない。
静電気の指向性さえあやつるであろう【ピカ】は、大事な自分のトレーナーである【グリーン】には被害を与えないで狙った獲物だけを的確に攻撃できる絶対の自信がる。

『ぴかちゅ、ぴ(痛い目を見たくなければ、今すぐ、その手を放しな)』
「あれ・・・なんかそっちの【ピカ】様。ちょっと怖い、ですよ」
『そう思うなら、その手を放したほうが賢明だと僕は思うよ』

バチリ!と一度【グリーン】の肩の上で静電気がはじける。
それに【グリーン】の服をつかんでいた “れっど” の顔が盛大にひきつり、顔には冷や汗がながれている。

『ぴぃーか(次は食らわせるよ)』

ピカチュウがニヤリという風に口恥を持ち上げた。
その上半身が飛び掛からんばかりに【グリーン】の肩口より乗り出している。
思わず “れっど” は「ひっ!」と息を飲み込み、あわててジャケットの裾から手を放す。

「すいません。もうとめません。ごめんなさい」


こうして別世界の “れっど” と【グリーン】の邂逅は、あっけなく幕を閉じたのだった。





――ただし。



『ジーザス!』
「あ、あはは・・・ど、どーも?」
『ぴ、ぴかちゅう(ありえない…)』

彼らの再会はあまりにも早かった。



ここはタマムシシティ。
ジムリーダー “えりか” のもとに訪れた赤い挑戦者を迎えたのは、緑色の大人びた青年だった。

側でクリスマスカラーの二本のリボンをつけたピカチュウが、大きく肩を落とした。
そんな彼に、事情を知らない “れっど” のピカチュウが困ったようにオロオロと自分のトレーナーと彼らを不思議そうに見ていた。








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