SP プロローグ. 次から次へとなんなんだ!? |
「みゅぅ〜!!!!」 「ぢゅぅーーーー!!!!」 深い緑色をベースにしたしっかりとした幅の広いリボンにからまるように、細い赤と白の二本のリボンがまきついている。 そのクリスマスカラーのリボンが首を一周し、ピカチュウの背中側にふわりと大きめの蝶々むすびができあがっている。 トレーナーのセンスの良さがなければ、このクリスマスカラーのリボンをうまく組み合わせることは不可能だ。 そんな良いセンスをもったトレーナーがほどこしたであろうリボンをゆらし、激しいバトルを繰り広げるのは、一匹のピカチュウである。 相手をしているのは、淡い桃色の光をまとうエスパータイプの技を使うポケモン、ミュウだ。 「ぴっかぁ!!」 「ミュ!」 「ぢゅう!ビガヂュー!!!」 「ミュ!ミュミュミュゥ゛!」 バチバチと強力な電撃を放つピカチュウのせいで、ピカチュウの首元を品よく彩っていたリボンが若干こげてしまう。 しかしそれにも構わずピカチュウは、激情をその雷(イカヅチ)にのせて放つ。 それを相殺させるように、ミュウからは桃色の〔サイコキネシス〕がはなたれ、勢いよく二つの攻撃ぶつかりあって爆発が引き起こされた。 周囲にブワリと風が渦巻く。巻き込まれた土埃を舞い上がらせて、二匹の姿を一瞬覆い隠してしまう。 土埃が消えた後にはところどころに怪我をおいつつもドンと立っている二匹がいた。 戦意は喪失しておらず、むしろ上がっているらしく互いに激しく睨み合っている。 「ミュ」 「ちゃぁー!!ビカビカビカビァカァー!ピッカァッ!!!!」 ミュウが桃色のバリアを張りながら、なんらかのエネルギーを溜め始めた。 それにピカチュウが雷を身体にまとわせて駆け出し、たいあたりをかける様はまさに〔ボルテッカー〕そのものだ。 二匹とも眼を鋭くとがらせ牙をむいて技を繰り出している様は、そのかわいらしい容姿が愛玩動物としても名高いピカチュウやかわいい声を出すミュウとはまったく別の生き物としかいいようがない。 とてつもない火花を散らす二匹のポケモンの死闘は、もはや一時間は続いている。 双方ともにボロボロになりながらも、諦めることをしない。 諦めが悪いところも同じものが好きなのも、その伝説といわれるほどの強さも同等。 なんと悪質な共通点だろうか。 二人の人間の青年は、そんな二匹の戦いを見て冷や汗を流していた。 赤い帽子を目深までかぶった青年は、魂がどこかに吹き飛んだような「もうどうにでもなれ」とばかりに遠い目をしている。 「おい、レッド。そろそろとめろよ。そうじゃないとこのままこの辺一帯が焦土と化すぞ。いや、そのうち奴らの攻撃の余波で空間に穴が開いたりしてな。 そもそもあいつらお前の所有権をかけて戦ってるんだぜ。 僕のピチューまでたらしこんで手持ちに加えたのは何年前だ?ホント、なんとかしろよ。責任とれこのポケモンタラシやろう」 「……」 「こら、まて。肉体おいてにげんなっ!」 横に立つ淡い茶色の髪を逆立てている青年は、顔を正面の激しいバトルにむけたまま(余波から逃れるために目を離せないため)、 まるでそちらに目があるかのように、横にいた赤い青年をどこからかとりだしたハリセンではたく。 それによって、赤い青年の抜け出かけた魂は何とか呼び戻された。 「!?」 「器用だな。お前、今、たったまま死にかけてたぞ。ゴースの仲間になるつもりだったのか?現実逃避もほどほどにな」 「……」 「そんな目でこっちをみてもだめ。っていうか、泣きおとしでもしたいのかもしれないけど、気付いてないのかレッド。おまえ、目が潤むとかじゃなくて、死んだ魚のような胡乱な目をしてるぜ」 視線を合わせるのが怖くなるようなそんな目だ。 それに茶髪の青年もやはり直視できず、視線をグイっとそらした。 そして彼はそこでみてしまった。 180度そらした視線の先。 そこには罅のような白い線が一本、宙に浮かんでいる。 しかし線だったものが真中から裂け、それはいびつな裂け目となっていく。 そしてその空間の裂け目から―― 「なんかのぞいてるー!!!!!」 「…!」 黒と黄色でコーティングされた身体を持つ“何か”の、その赤い目玉がギョロリと動いた。 あまりのホラーな展開に、無表情だった赤い青年の顔さえ引きつり、茶髪の青年は腰が引けてとなりの赤い青年に抱き着いている。その目はもう完全に涙目だ。 「おまえのピカチュウとミュウのせいだぞ!!マジであいつら空間に穴開けやがった!しかも向こう側なにかいるし!!!なんとかしろよぉレッド!!」 「ミュウは、オレの…じゃ、ない」 「こういうときばっか即答かよ!ってかいまさらしゃべるんならもっと早くしゃべれよ!っていうか、僕がほしい答と全然違うんだけどぉ!?」 「……」 「このめんどくさがりやめ!」 漫才のような会話をしていると、空間の裂け目に“なにか”の手らしきものがかかり、パキリパキリと音を立ててそれは穴を広げていこうとする。 「ひぃ〜!!!!!ミュウ!ピカやめろ!!僕たちをたすけてくれ!」 「……ヘルプ」 「もっとしゃべれよ!!」 「みゅ?」 「ぴ?…!!!!!」 茶髪の青年の叫びに、レッドという主人の権限をかけて戦っていた二匹は、正面からドン!と頭突きでもってぶつかりあった最中だったが、馴染みある声に一瞬争いをやめてそちらを振り返った。 そこで―― 「れっ〜び〜♪」 「「ちゃ!?」「みゅ!?」「…!?」「は?」」 穴の隙間からふわりと玉ねぎ頭の緑色ポケモンがとびだし、呆然としている彼らの前で踊るようにクルクルと宙に舞った。 セレビィはそのまま嬉しそうに 「びっ!」 ごぉぉぉーーーーーん ごぉぉぉーーーーーん 〔ときわたり〕の波紋を生み出した。 「「「「!?」」」」 〔ときわたり〕には、その場で激しい戦闘を繰り広げていたミュウとピカチュウも、無表情を通していた赤い青年も、表情豊かな茶髪の青年もいっせいに顔色を変えた。 『森の声が聞こえたら動いてはいけない』というけれど、そうも言っていられない。 このままでは間違いなくあの〔ときわたり〕に巻き込まれてしまう。 四人(二人と二匹)は、脱兎のごとく駆けだした。 〔ときわたり〕から逃れるために。 「ユキナリの二の舞になってたまるか―!!!!」 「ぴぃか!」 「みゅう!」 「…!」 っが、しかし―― 反転世界からなにかが抜けだしてきて、バサリと翼のはばたきとともに、かれらの頭上を大きな影がよぎった。 次の瞬間にはドシンと大きな音を立て、二人と二匹の前にギラティナがたちふさがった。 突然やってきた大きな振動に、四人は思わず足を止めるが、セレビィの〔ときわたり〕によって輝きだした森を目にすると、すぐに立ち上がろうとした。 しかしトレーナーふたりの服をギラティナがひきとめるようにくわえこみ、ポイっと、まだ衝撃によろめいていたピカチュウとミュウにむかってなげつけた。 「!!!」「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」「みゅっ!!」「ぴ〜か〜!?」 勢いのままに吹き飛ばされた二人の人間は、二匹のポケモンにぶつかり、そのままギラティナたちがあけた空間の裂け目までふきとばされてしまった。 たてあなのように重力が働く、空間の裂け目のなかで、彼らは落ちていた。 「ぴかぴ〜!!!」 「…………死んだ、ジブン」 「縁起でもないこと言うんじゃねぇよレッド!!」 「みゅみゅみゅみゅみゅ〜!!!!」 双方ともに緊張感を感じさせないが、なんでこうなったか皆目見当もつかず、それぞれ実は相当パニックになっていたりする。 エスパータイプとしてとべるはずのミュウまでおちている。 飛行タイプを持っているはずのトレーナーたちも、思いつきもしないのか、流れに身を任せるように落ちている。 ピカチュウはいわずもがな。 しかし落ちていくピカチュウをとっさに緑の青年がリボンをつかんで抱き寄せる。 ピカチュウが無事そうなことに安堵するも、赤い青年は動かない。 ミュウへ対しての愛情は誰にもない。 「おぼえてろ〜!!黒デカポケモン!このうらみはわすれない!!」 「…ギラティナ…あとで、さばく」 「みゅ!」 「ぴっがぁぁ!!」 レッドの言葉に他の者達にはない異常なまでの殺気を感じるが、やがて響いていた絶叫も、鳴り響いていた鐘の音色が最高潮に達し、緑の光が周囲にはじけたと同時に静けさが戻っていた。 ・・・・・・・・・――ィン。 森が光を放つのをやめたとき、そこには焼け焦げた林だけが、静寂の中に残されていた。 くすくすくす…。 空間の裂け目の消えた場所を、緑の小さなポケモンが、楽しそうに踊るように、とびさっていく。 そのあとを追うように、淡い光が輝き、戦闘によって傷つけられた森が元の姿を取り戻していった。 すこし進んだ森のなか、そこに〔ときわたり〕の波紋の名残が、一瞬森を輝かせたのを――気付くものはいなかった。 「びぃ〜〜!!!」 「あれ。セレビィじゃないか。ボクに会いに来てくれたのかい?」 「びぃ〜!」 「あ、ねぇセレビィ。レッドとグリーンをみなかった?」 「び。び」 「え、みてない?そうなの。 おかしいなぁ。この辺にいるって聞いてたんだけど」 森の入り口付近にて、何かを探すようにキョロキョロしていた茶色の髪の青年を見るなりセレビィが表情を緩めて破顔して飛び出していく。 その勢いのまま抱き着いたセレビィを旧知の友のように抱きとめ、ユキナリは笑う。 そんな彼に甘えるようにすりよるセレビィは、だれもみてないよ〜と首を横に振った。 「ま、いっか。ふたりのことだもん。そのうち帰ってくるよね」 「びぃ〜☆」 「セレビィ、おかしでも食べていく?」 「び!」 まってました!とばかりに頷いたセレビィは、そこが特等席だと言わんばかりに青年の頭にのると、楽しそうに鼻歌を歌いだし、 それにユキナリも笑い返した。 |