05.マサラの縁 |
-- side サトシのピカチュウ -- 「ぴぃーか」 「ピカチュウ!」 「ちゃ?」 バイトのお兄さんのピカチュウたちに誘われて、サトシから離れて遊んでた。 それで二匹と別れて思い背に戻ってみれば、サトシはもう帰ったって言われた。 ガーンってきた。 すれちがっちゃったみたい。 この街は変なにおいであふれてて、うまくにおいを追えない。 どうしよう。 どうしたらいいかな? あっち、かな? こっちかも? サトシはどこかな。 困っていたら、さっきのカザハナとハナビっていうピカチュウがやってきて声をかけてくれた。 「ピィーカピ!(どうしたの)」 『きみは』 『カザハナ!こっちはハナビ。主からの伝言をあずかってるんです』 『え?』 『サトシさんはジムに向かったそうですの』 『正確には、落ち込んだまま店を出たサトシさんをスケット隊なる人物がジムに入れるように交渉してくれるハコビになったらしいですからね』 『そう、なんだ。よかった』 じゃぁ、ジムにいけばあえるかな。 ぼくは嬉しくなってすぐにでもサトシを探しに行こうと思った。 ホッといきをつけば、カザハナとハナビが、「必ず」と会えることを約束してくれた。 『ああいう子はとても貴重ですの』 『きちょう。サトシが?』 『最近ではどんなへたくそなトレーナーでも、ぼくらポケモンをゲットできるボールがありますからねぇ。いらなくなったらすぐに別の強いポケモンと交換が可能じゃないですか。 だけどサトシくんは、どんなポケモンにも手を指しのばす。君たちの仲間となったヒトカゲのように。 その彼があなたがたを捨てるはずは決してありえないですよ』 『そうかな?』 『絶対に。 ぼくらは鼠科ですから、お恥ずかしいことに一族は増えすぎてしまい、別の研究所とか野生に返されちゃって。家族はバラバラ。 だからあなたのように自分を想ってくれるトレーナーと旅がしたいと思っていたんです。 ずっとそばにいてくれる主がほしかった。 だからこそわかるんです。サトシさんはいい子ですよ。きっと懐に入れたポケモンたちをだれよりも思ってくれる』 『だから、離れたくない。です。その気持ち、わかるですの』 『研究所?』 『オーキド研究所ですよ』 『マサラタウンの研究所で生まれて育った。です』 『あらためて。ひさしぶりです、9番目のおじさん。今更、こんな事実を言うのもずいぶん遅いといというか、なんだか改まると照れますが…』 聞き覚えのある単語に、思わずジムに向けていた足を止めた。 研究所。その言葉にびっくりした。 二人もマサラにいたなんて。 ぼくは、怪我をしてトキワの森で、オーキド博士に拾われたけど。 あの研究所は、研究って名前がつく割にはあたたかくて、なんだかなつかしい気分にさせられたのを覚えてる。 それってもしかして 『え?ぼく、おじさん?』 『そう、ですの』 『ぼくらはピカおじいちゃんの五代目の孫ですかねぇ。あれ?六代目?』 『カザハナ、三代目じゃぁ?』 『かも。 とりえあず、あなたが、ぼくらのとうさんの兄弟だってのは、博士からきいています』 それでなつかしにおいがしたんだ。 それじゃぁ、もしかするとぼくもマサラで生まれたのかな? 物心つくころにはもう一人だったんだけど。 ああ、でも。いまはサトシがいるけどね。 ひとりじゃないよ。 『うん。ひさしぶり』 『ハイ。こんにちわ』 『これからも、よろしくです』 サトシと旅をして、いろんな町で、いくたびにバイトしていて、もう何度も何度も会っているさん。 その彼のもとに新しく加わったという二匹のピカチュウ。 どうやらぼくと彼らの間には、目に見えない血のつながりがあったようだ。 さんがあんなひとだから、きっとこの先にもまた何度も会うことになるんだろう。 そう思って、ぼくにも家族がいたことがくすぐったくて、ほっぺの電気袋をたがいにこすれあわせて、パチパチ心地よい電気を感じつつ笑った。 『おじさんついてきてください。あなたの主のもとへ案内します』 『みつけて、あげて。サトシさん、きっと貴方が来るの待ってるですの』 『うん!』 チリチリンと柔らかい鈴の音が響く。 黒いリボンのピカチュウと、耳に花飾りをつけたピカチュウと一緒に、ぼくはかけだした。 なんだかさっきまでサトシがいなかった不安が吹っ飛んでしまった。 きっと彼らに導かれた先には、サトシがいるんだ。 それは間違いない。 さんにんでピカピカ歌いながらかけた。 なんだか虹のふもとには宝物があるっていうはなしみたいに、ぼくはワクワクする気持ちでカザハナとハナビをおいかけた。 『じゃぁね』 『また、ですの』 『うん。ありがとうカザハナ。ハナビ』 『偉大なるマサラのピカおじいちゃんがくれた縁に感謝を!!』 われらがピカチュウ一族に繁栄あれ! ピッ!ピカチュウ!とうれしそうに、手を振っさっていく二匹のピカチュウをみて、ぼくはなんだかうれしくてうれしくて仕方なかった。 ひさしぶりに、トキワの森の深い緑のにおいや、マサラの草原をゆらす風のサラサラという音を思い出した。 いまなら誰にも負けない。そう思えたんだ。 「ピカピー!!」 「ピカァ!」 彼らが『主』と名を呼べば、ふたりのマスターだろう人が振り返えり、両腕を広げて二匹を抱きとめる。 ふいに、そうしてピカチュウをだきしめる人が、赤いベストに赤い帽子をかぶったひとにみえた。 でもそれは一瞬で、実際は赤いのは帽子じゃなくてお兄さんの髪の毛で、黒いエプロンと白いシャツで統一された、どこにでも ぼくはどうやらよっぽどサトシに会いたいみたいだ。サトシをお兄さんに重ねてしまうなんて。 でも、あのひと、どこかで・・・。 あとで、といってもそれからすぐにまた、お兄さんと出会うことになるんだけど。それはまだぼくがしらないことで。 何度も会う。行く先々でバイトをしている不思議なひと。 でもね。そういみの“知ってる”とは違う、なんだか懐かしい知り合いに会えた様なそんなにおいだったんだ。 それは何度あっても変わらないまま――。 ねぇ、本当はお兄さんはだれなの。ぼくはあなたを知ってる? 【後日談】 『あなたは、ぼくを知っている?』 「いや。まったく知らないな。 だって考えてもみなよ。オレ、数年カントーからはなれてて、そのあいだにおまえ生まれたし。 サトシがお前を連れ歩くまであったことなんてないぞ」 『え・・・。 ぼくの勘違い?』 「いいにおいがしたんだっけ?それってさ、いつもオレが食べ物屋でバイトしてるから、なんかうまそうなにおいがしみこんでるんじゃないの?』 『そうなのかな。・・・・って!?ええ!!言葉通じてる!?』 「ああ、言ってなかったけ。オレ、ポケモンのことばりかいできるの」 『・・・そんなにんげんいるんだ。よのなかってひろいんだねぇ』 「ひろいぞぉ。世界をバイトにあけくれつつ旅しているオレでさえ、まだ知りえないものも多い。まぁ、だから旅してんだけどさ。 あ、そうだ。ポフィンたべるか? いま焼いたばっかでさ。こっちの地方にはない木の実で作ったからびっくりするぞ」 『あ、いただきます』 |